人生の半分近くがインフレだった門倉さん、つい最近までデフレしか知らず、いきなりインフレと向き合うことになった兒玉さん。背景の異なるお二人をお招きし25歳年の差トークを展開。
エコノミスト・門倉貴史さんプロフィール

元HKT48・兒玉遥さんプロフィール

この50年間、日本経済はどう動いていた?
トウシル:人生の途中でいきなり「消費税」が発生した門倉さん、生まれた時から「消費税があって当たり前」だった兒玉さん。お二人が経験してきた経済環境はかなり違います。本日はその視点の差から、令和のインフレはどんな意味を持つのか、どう付き合っていけばいいかを探っていきたいと思います!
門倉さん:よろしくお願いします!
兒玉さん:よろしくお願いします!
トウシル:まずはお二人の人生と、その間に起こった出来事を振り返りながら、日本の経済がどう動いてきたかを整理してみたいと思います。門倉さんがお生まれになって、兒玉さんが誕生するまでの1971年~1995年の約25年間の日本経済を振り返ってみましょう。

トウシル:門倉さんのご誕生は1971年。マクドナルド日本初上陸、日清のカップヌードル発売と「同期」ですね。
兒玉さん:けっこう最近のことなんですね。私はもっと昔からある商品だと思っていました!
門倉さん:そうなんですよ。僕は生まれたばかりだったので記憶はないんだけど、調べてみたら、日本上陸当初、マクドナルドのハンバーガーの価格は80円、チーズバーガーが100円、ビッグマックが200円だったそうです。
兒玉さん:えっ、ビッグマックが200円?! 安いですね!
門倉さん:今じゃ2倍以上になっちゃいましたよね(笑)。カップヌードルも発売当時は100円でしたが、徐々に値上がりしています。
トウシル:カップヌードルの、2025年5月時点の平均価格は、187円ですね。
兒玉さん:これもほとんど倍ですね…。でも、最近急に倍に値上げしたわけじゃないんですよね?
門倉さん:はい。徐々に段階を踏んで値上がりしていますね。この1970~1980年代って、実はけっこういい時代で、景気は決して悪くなかったんです。ただし、基本的にずっとインフレ基調だったことも確かです。
兒玉さん:そうなんですか? 景気はいいけどインフレ状態が続いてたって…なんかぴんと来ないです…。
門倉さん:一瞬「物価高で庶民の生活は苦しくなっているはずでは?」って思いますよね。でも、企業が元気でたくさん商品を発売して、それがどんどん売れて…という状態なら、お給料など入ってくるお金も潤沢なので、景気がいいか悪いか、っていうと、「いい」んですよ。
実はざっくり50年を先に振り返ると、1998年を除いてはインフレが基調で、デフレになったのってけっこう最近なんです。兒玉さんはデフレ時代しか知らないから、今の令和のインフレが「急に来た!」と思ってるのかもしれないけど、経済って、基本、インフレ基調が正しいんですよ。
兒玉さん:えー! そうなんですね! 確かに私はずっとデフレで、最近いきなり物価がぐんぐん上がってビックリしてるんですが、インフレなのが正常なんだ…ビックリ…。
トウシル:兒玉さんのご誕生は1996年。
門倉さん:はい。高校生でしたから、ダイレクトにお小遣いに響きました。

兒玉さん:そうか! 消費税ってもう「あって当然」とばかり思ってました…。ない時代があったということもピンときてなかった…。
門倉さん:消費税導入に関しては、国民がめちゃめちゃ反対してたんですが、かなり強硬に押し切られて決まってしまったんですよ。導入を決めたのはDAIGOさんのおじいちゃんの、竹下登首相です。
兒玉さん:この頃、消費税は日本以外の国でも導入されていたんですか?
門倉さん:欧州では「付加価値税」という名称で、すでに導入されてましたね。米国は「小売売上税」という名称で、税率が州によって異なっていました。
兒玉さん:なるほど…。日本の消費税導入は、比較的遅かったんですね…。
1996~2000年代、兒玉さん誕生後の日本経済は?

門倉さん:1980年代までは、インフレが続いていたけれど景気自体は良かったんですが、ここで景気が一変します。バブル崩壊です。
兒玉さん:バブル崩壊は知識としては知ってますが、やっぱりまだ身近な事柄じゃないです(笑)。バブル崩壊っていったい何だったんですか?
門倉さん:株式や不動産の価格が実際の価値以上に高騰して、経済的に「過熱状態」にあったんです。そこへ、日本銀行(日銀)が過熱した経済を抑えるために金利を引き上げたり、不動産を購入するときの融資額の上限を設けるなどして調整に入りました。
これによって、株式や不動産の価格が急激に下がったのが「バブル崩壊」です。多額の負債を持ちこたえられず、大手の証券会社や金融機関がいきなり破綻したり、大企業でも大規模なリストラが行われたりして、これまでの景気の良さが一転し、不況に陥ったんですよ。

兒玉さん:うーん…。消費者としても、ゴージャスだったはずの生活が、突然壊れちゃったわけですね。
門倉さん:そうそう。バブル当時はもうイケイケで、銀座ではタクシーを止める際に1万円札を振って止めたりとかなり異常な状態でしたね(笑)。
兒玉さん:すごい! めっちゃバブリーだ!!
門倉さん:今思うとやっぱりどこか異常ですよね。ただ、バブル崩壊の後遺症はやっぱりすごくて、日本経済はこの後30年、痛手をずっと引きずることになります。短期的には景気がよくなる時もあったんですが、中長期的には停滞期で「失われた30年」と呼ばれました。
本格的に悪くなったのは1997年の「アジア通貨危機」以降。東南アジアの通貨がすごく暴落してしまい、日本も打撃を受けたんですよ。
トウシル:その前年にやっと兒玉さんが誕生です(笑)。
兒玉さん:はい! やっと!(笑)。私が生まれたのって、そんな景気が悪い時代だったんですね…。

門倉さん:バブルの後遺症を引きずったまま、企業の経営破綻などが相次いだため、日本企業のテコ入れをするために、日本銀行(日銀)が短期金利をほぼゼロにしました。さらに、政府が公的資金を大手の金融機関に注入して、金融機関の経営を守ったんです。
当時、私は金融系シンクタンクに勤務していたんですが、金融機関に注入された「公的資金」ってつまりは「税金」なので、みんなの税金で助けてもらった銀行員の給料が高いままだと、やっぱり感じ悪いでしょう? せっかく給与水準が高い金融機関に勤めていたのに。お給料が上がらなくなったのを覚えています(苦笑)。
兒玉さん:お給料が上がらないのは痛いですね…。
トウシル:その後も、ライブドアショック、リーマンショックと、いわゆる「〇〇ショック」が続きました。
兒玉さん:リーマンショックの時、私は小学生でしたけれど、大きなニュースになっていたので覚えています。
門倉さん:リーマン・ブラザーズという米国の大手証券会社が突然、経営破綻したんです。世界経済の中心だった米国株が大暴落し、日本もあおりを食らって経済が落ち込みました。そこで、企業の経営をテコ入れするために、日銀が再びゼロ金利に戻したんですよ。
兒玉さん:この、ちょいちょい出てくる「ゼロ金利」とか「ゼロ金利解除」って何ですか? 金利がゼロになったり、解除されたりしてるみたいだけど、誰がどんな意図で設定を変えてるんですか?

門倉さん:金利の水準を誘導しているのは日銀です。お金を発行している銀行ですね。国債の発行なども行っていて、つまりは日本国内に出回っているお金の量を調整し、国の財政運営を支えています。物価の安定もミッションの一つで、物価が上昇しすぎないように、企業や個人が投資や消費行動を円滑に行えるように、金利政策を決めて実行しています。
兒玉さん:物価ってコントロールできるんですね…。
門倉さん:難しいですけどね(笑)。この時代は、物価が持続的に下がる「デフレ」が続いていました。そこで景気を刺激するために、つまりみんながもっとモノを買ったりお金を借りたりできるように、日銀が金利をどんどん下げていったんですよ。
金利を下げるとお金を借りる時に金利負担がなくなってくるので、企業も一般の人ももっとお金をたくさん使うようになるだろうという意図ですね。

兒玉さん:最近よく聞く言葉です!
門倉さん:はい。ただ、金利ってゼロまでしか下げられないので、ゼロまで下げたのが「ゼロ金利政策」、少し景気が戻ってきたので金利を上げたのが「ゼロ金利解除」ということです。
兒玉さん:景気が悪いときに、良くするために「ゼロ金利」になるんですね。
門倉さん:そのはずなんですが、このところ日本はずっと景気が悪いので、ゼロ金利がずっと続いている状態ですね。
日本のインフレ率と金利政策

2011~2025年までの直近経済!コロナショックで全てが変わった?

トウシル:2010年代を見ていきましょう。兒玉さんがHKT48のオーディションに合格して、人生これから!という時期に差し掛かりました。

兒玉さん:この頃はけっこう景気がよかった記憶があるんですが、実際はどうだったんですか? 年表の中に出てくる「アベノミクス政策」はニュースでも取り上げられていたので記憶にあります。
門倉さん:やっといい話が出てきましたね(笑)。アベノミクス政策とは、安倍晋三政権の、景気をよくするための政治主導の取り組みです。「金融と財政の両面から景気を支えていきましょう」という取り組みで、日銀と政府が一緒になって「異次元の金融緩和」という取り組みをやったんです。
デフレと低成長から脱却することを目的に、国債の大量買い入れやマイナス金利政策などを実施して、とにかくお金をどんどん市場に出していこう、という政策が取られました。ただ、低迷を脱却しようともがいている間に…。
兒玉さん:コロナショック…ですね。
門倉さん:はい。新型コロナウイルス感染症が世界的に広がって、世界的に景気がガクーンと落ちてしまいました。

兒玉さん:私は女優業に転身したばかりで、頑張ろうと思った矢先にコロナがきたので舞台やイベントなど活動が制限されて、本当に先が見えない不安感でいっぱいでした。この先どうなるんだろうって…。
私が投資を始めたのもコロナショックがきっかけなんです。今ある貯金を少しでも増やしていきたい、と思って、投資の本を読んだり、YouTubeを見たりして勉強を始めた、私にとって転機になった出来事です。
門倉さん:正しい判断ですね!
兒玉さん:怖がってるだけじゃ何も動かないって思って…。でも投資を始めて本当に正解でした。
トウシル:コロナショックは、これまでの〇〇ショックとは違い、経済だけでなく生命レベルの危機を感じる出来事でした。回復までも時間がかかり、日本経済が全般的に弱ってしまった時期でもありますね。
兒玉さん:物価がぐんぐん上がってデフレ時代からインフレ時代が急に始まったのは、コロナショック以降かな、という実感があるんですが、今のインフレってやっぱりコロナショックが引き金だったんでしょうか?
門倉さん:それもありますが、昨今の物価上昇の一番の原因は、2022年のロシアのウクライナ軍事侵攻ですね。コロナ禍では消費が全般的に控えめになって物価は落ち着いた推移になっていました。ところが、ワクチンが普及して行動制限が解除されると経済が正常化して物価の上昇圧力が強まってきました。さらに2022年以降…。

兒玉さん:ああ! 本当ですね、全然違う!
門倉さん:そうです。これが令和のインフレの起点です。
ロシアがウクライナに軍事侵攻した後、世界の主要国がロシアに経済制裁をするようになり、ロシアがこれに対して報復措置をとるなどして、ロシア産の物資が世界市場に出回らなくなってきたんです。
ロシアって、天然ガスとか原油の産出国で、それ以外にも小麦やトウモロコシなどの穀物の生産国でもあるので、これらが市場に出回らなくなると、需給のバランスが崩れて価格が上がります。生産コストが上昇することで物価全体が押し上げられる「コストプッシュインフレ」が今のインフレですね。
日本は、原油や穀物などをほとんど海外からの輸入に頼っているんですが、円安で輸入する時の値段が大きく上がってしまったのも、物価の上昇に追い打ちになりました。
兒玉さん:なるほど…。じゃあ日本だけじゃなくて世界中でインフレが進んでるということですね。

門倉さん:はい。ただ、このインフレは、紛争が原因で歓迎できないんだけれど、あるべき状態に戻りつつあると考えてもいいのかもしれません。長期目線で経済の動きを見ているとやっぱり「デフレの期間」ってほとんどないんですよ。
古いところで、1929年に世界大恐慌になった時に、一時デフレになったこともありましたが、それ以外はずっとインフレなんですよね。日本も1880年ごろ、一回デフレになった時があるんですけど、これもそんな長い期間じゃなくてインフレに戻っています。
兒玉さん:デフレって、経済で見るとある意味、イレギュラーな状態なんですね。私の両親世代は「預金=正義」という意識がすごい強いのを感じていたんですが、この年表を見て、銀行にお金を預けたら利息がもらえる状態でずっと人生を過ごしてきたんだなと思うと、なかなかその意識が捨てられなくても仕方ないことなのかなとも思います。
トウシル:門倉さん、兒玉さんお二人の人生と、経済50年史を重ねて、振り返ってみました。令和のインフレの正体と、その意義が見えてきたように思います! 後半では、お二人のお金意識調査を比較して、インフレ時の金銭感覚のコントロール方法や、インフレとのうまい付き合い方などを具体的に掘り下げていきたいと思います!
▼ 『エコノミスト・門倉貴史さん×元HKT48・兒玉遥さん「1万円あったら何に使う?」お金意識が分かる5問に二人が回答!』へ続く

(トウシル編集チーム)