お亡くなりになった方がNISA口座で保有している株は、相続人のNISA口座には引き継げない。そのため「生前に売却すべき」「いったん売却して通常の口座で再購入」などの事前処理が必要か?という声も聞かれる。

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亡くなった方がNISA口座で保有していた株は相続人のNISA口座へ引き継げない!

 相続時のルールとして、亡くなった方(被相続人)がNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)口座で保有していた株は、相続人のNISA口座に引き継ぐことはできません。相続人の通常の口座(一般口座か特定口座)に移管することになります。


 このことから、例えば親御さまがNISA口座で持っている株を、生前に売却した方がよいのか、もしくはいったん売却して通常の口座で買い直した方が良いのか、という悩みを聞くことがあります。


 結論としては、「何かをしてもしなくても、基本的には変わらない」ということになるのですが、なぜそうなるのかを、数値例を交えて説明していきたいと思います。


 なお、説明を分かりやすくするための前提条件として、生前に売却した時の株価と、売却せず相続した時の相続税評価額は同一の価格であるとします。


事例1:多額の含み益が生じている場合

 例えば次のようなケースです。


〇親御さんがNISA口座で保有している株の取得価額:200万円
〇その株の現在の株価で計算した評価額:1,200万円(1,000万円の含み益)


株式のまま受け取る場合

 もしこの株を親御さん(被相続人)が生前に売却せず、そのまま相続人が相続した場合、相続財産に加算される株式の価額は1,200万円です。


 そしてNISA口座で保有していた株を相続する場合、相続人は取得価額を引き継がず、相続発生時の価格で引き継ぐことになります。つまり、相続人の取得価額は200万円ではなく1,200万円となります。所得税の観点からは、相続発生により、被相続人が保有していた間の含み益は無税で実現したことになります。


売却し現金化して受け取る場合

 では、この株を被相続人が生前に売却して現金化した状態で相続を迎えた場合はどうでしょうか?


 生前にNISA口座で生じた含み益は無税で実現する点は上記と同様です。また、現金が1,200万円残りますが、これも上記のNISA口座内での株の評価額1,200万円と同額なので、税金面での違いはありません。


 また、この株を被相続人が生前にいったん売却し、通常の口座で買い直した後に相続が発生した場合も影響は同じです。


 相続財産に加算される株式の評価額は1,200万円となります。

相続人が特定口座もしくは一般口座で相続した株の取得価額も1,200万円です。


事例2:多額の含み損が生じている場合

 例えば次のようなケースです。


〇親御さんがNISA口座で保有している株の取得価額:600万円
〇その株の現在の株価で計算した評価額:100万円(500万円の含み損)


株式のまま受け取る場合

 もしこの株を親御さま(被相続人)が生前に売却せず、そのまま相続人が相続した場合、相続財産に加算される株式の価額は100万円です。


 NISA口座で保有していた株を相続する場合、相続人は取得価額を引き継がず、相続発生時の価格で引き継ぐことになりますから、相続人の取得価額は600万円ではなく100万円となります。所得税の観点からは、相続発生により、被相続人が保有していた間の含み損が切り捨てられたことになります。


 従って、相続人がこの株を保有し続けた結果、被相続人の取得価額である600万円まで株価が回復したところで売却すると、「600万円-600万円=利益ゼロ」とはならず、600万円-100万円=利益500万円となり、その20.315%である100万円強の税金が生じることとなります。


売却し現金化して受け取る場合

 では、この株を被相続人が生前に売却して現金化した状態で相続を迎えた場合はどうでしょうか?


 生前にNISA口座で生じた含み損は切り捨てられてしまう点は上記と同様です。現金が100万円残りますが、これも上記のNISA口座内での株の評価額100万円と同額なので、税金面での違いはありません。


 この株を被相続人が生前にいったん売却し、通常の口座で買い直した後に相続が発生した場合も影響は同じです。


 相続財産に加算される株式の評価額は100万円となります。相続人が特定口座もしくは一般口座で相続した株の取得価額も100万円です。


影響があるケースは?

 もし影響があるとすれば、生前にNISA口座で所有していた株を売却した後に通常の口座で買い直し、その後相続発生時までに、株価が大きく上昇もしくは下落した場合です。


株価が上昇した場合

 生前に売却後に買い直し、相続発生時までに株価が大きく上昇した場合は、買い直し後の含み益の分は、「取得価額の引継ぎ」という形で相続人に移転しますから、その後、相続人が売却した時に、含み益の分だけ所得税などの課税が生じます。つまりこの場合は、NISA口座で保有を続けたまま売却しない方が良かったことになります。


株価が下落した場合

 生前、売却後に買い直し、相続発生時までに株価が大きく下落した場合は、買い直し後の含み損は「取得価額の引継ぎ」という形で相続人に移転します。その後相続人が売却して損失を実現しただけでは税務上何も生じませんが、当該相続人が実現損につき、自身の株取引などで得た利益と相殺できる場合は、相続人に所得税などの節税効果が見込まれます。


 ただし、生前に買い直した後の株価推移を予想するのは、至難の業です。税金対策として、NISA口座で保有している株を生前に売却することを無理に実行する必要は感じない、というのが筆者としての結論です。


(足立 武志)

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