先週末の日経平均は史上最高値を更新し、市場は活況を呈しています。相場格言に従えば「新値は買い」ですが、急騰よる短期的な過熱感も否めません。

移動平均線乖離率やMACDのテクニカル指標から短期調整の可能性を探るほか、市場心理の「時間軸の変化」という新たな視点から、今後の相場展開と有効な投資スタンスを考察します。


日本株に過熱感。上値追いはリスク?調整局面の買いが有効の画像はこちら >>

※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の土信田 雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 【テクニカル分析】今週の株式市場 それでも「新値は買い」?目先の調整警戒と、時間軸の変化<チャートで振り返る先週の株式市場と今週の見通し> 」


最高値を更新してきた先週の日本株、「新値は買い」だけど…

 先週末8月15日(金)の日経平均株価は4万3,378円で取引を終えました。


 前週末終値(4万1,820円)からは1,558円高と大きく上昇しただけでなく、2024年7月11日の取引時間中につけた高値(4万2,426円)も上回り、史上最高値を更新してきました。


 相場格言には、「新値は買い」もしくは「新値には黙ってついていけ」というのがあります。これは、「これまでの高値を更新できるということは、それだけの相場の勢いや買い材料が存在しているはず」というのがその考え方の背景にあります。


 この格言通りであれば、まだまだ株価は上昇していけるということになります。その一方で、ここ2週間の日経平均の上昇幅が2,578円とかなり大きく、急ピッチで上昇してきただけに、ココから先の上値を追っていくのは、正直不安でもあります。


<図1>日経平均(日足)と移動平均線乖離率(25日)(2025年8月15日時点)
日本株に過熱感。上値追いはリスク?調整局面の買いが有効
出所:MARKETSPEEDII

 実際に、上の図1を見ても分かる通り、6月以降の日経平均は、25日移動平均線との「乖離」と「修正」を繰り返しながら上昇トレンドを描いていることが確認できます。


 こうした値動きは日経平均だけでなく、東証株価指数(TOPIX)も同様です。


<図2>TOPIX(日足)と移動平均線乖離率(25日)(2025年8月15日時点)
日本株に過熱感。上値追いはリスク?調整局面の買いが有効
出所:MARKETSPEEDII

 また、図1と図2ともに、下段に表示されている「移動平均線乖離率」に注目すると、概ね株価と25日移動平均線との乖離率がプラス5%を上回る頃から、株価調整が意識されやすくなる傾向が見受けられます。


 先週末15日(金)時点の25日移動平均線乖離率は、日経平均がプラス6.04%、TOPIXはプラス6.03%です。このまましばらく上昇トレンドが継続するにしても、目先については、25日移動平均線までの調整があってもおかしくはない状況であると思われます。


週足チャートでは上昇基調続くも勢いは鈍化する見込み

 続いて、週足チャートでも足元の日経平均の強さについて状況を整理してみます。


<図3>日経平均(週足)の線形回帰トレンドとMACD(2025年8月15日時点)
日本株に過熱感。上値追いはリスク?調整局面の買いが有効
出所:MARKETSPEEDII

 上の図3は、前回のレポートでも紹介した、日経平均の週足チャートに2023年1月6日週を起点とした線形回帰トレンドを描いたものです。


▼前回のレポート
2025年8月12日: 日本株、最高値更新の先は?株価調整を狙うか、押し目買いか


 全体的に右肩上がりの上昇トレンドが続く中、先週の株価は中心線から上放れて、強気ゾーンに足を踏み入れ、プラス1σ(シグマ)を目指す動きとなりました。このまま、今週のうちにプラス1σに届くのであれば、先週末15日(金)時点の状況では、4万3,954円までの上値余地があります。


 反対に、下落していった場合でも、株価が中心線より上をキープしている限り、相場の強気ムードが続くことになります。ちなみに、現時点の中心線は4万1,596円です。


 また、図の下段にはMACDを表示しています。先週末15日(金)時点のMACDの値は1,128円とシグナルともに上昇している最中ですが、現在の値は過去のピーク時の値よりも低く、まだまだ上昇していけるように見えます。


 ちなみに、過去線形回帰トレンドのプラス1σまで上昇した2023年6月の時のMACDのピークは1,447円、プラス2σまで上昇した2024年3月の時は2,129円までMACDの値が上昇しています。


 その一方、MACDとシグナルの差分を棒グラフで示したヒストグラムを見ると、先週末15日(金)時点で570円となっています。こちらも過去のピークの状況を見ると、2024年3月1日週(557円)、2023年6月16日週(532円)となっています。


 過去と比べると足元の上昇ピッチがやや早くなっているため、余程のムードの強さや買い材料がないと、現在の上昇の勢いを保つのは難しそうです。


今週のイベントスケジュールから見た相場見通し

 もちろん、相場の買い意欲を継続できれば、目先の株価がさらに上値を追っていく展開は十分に有り得ます。


 ただし、今週のスケジュールを確認すると、日米ともに重要な経済指標の発表が比較的少ないです。また、日経平均やTOPIXが最高値を更新するなど、先週の強い動きの反動もあります。


 こうした材料出尽くし感などによって、今週の相場地合いは様子見や売りに押されやすくなることが想定されます。


 そんな中、米国では「ジャクソンホール会議(米カンザスシティ地区連邦準備銀行が主催する経済シンポジウム)」が21日(木)から23日(土)にかけて開催されます。


 その期間中の22日(金)に行われるパウエル米FRB議長の講演が、今後の金融政策の行方を占う上で注目を集めそうです。


 市場ではすでに9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利下げ実施がほぼ確実視されているだけに、利下げの有無よりも、今後の利下げペースや米景気に対するFRBの認識などがポイントなってくると思われます。


 また、 ウォルマート(WMT) や ホーム・デポ(HD) 、 ロウズ・カンパニーズ(LOW) 、 ターゲット(TGT) といった米小売関連企業の決算も予定されており、これらの決算を通じて米国の消費動向や関税による価格への影響などの温度感を探ることになりそうです。


先週の買い材料に見られる「時間軸の変化」

 最後に、先週までの株価を押し上げた、「買い材料」についても整理したいと思います。


 主なものとしては、米国の関税政策に対する過度な警戒感が後退したことや、米国の利下げ期待が高まったこと、米テック株の買い戻しの動きや物色の広がりが出始めたこと、そして、国内の決算発表がピークを迎える中、米関税の企業業績に与える影響が限定的にとどまりそう、という見通しが優勢になったことなどが挙げられます


 また、週末15日(金)に公表された国内4-6月期国内総生産(GDP)も追い風となりました。名目GDPが上振れし、前期(1-3月期)のマイナス成長も修正され、結果的に5四半期連続のプラス成長となったことで、国内景気に対する楽観が広がりました。


 とりわけ、この日は中国で鉱工業生産や小売売上高など7月分の経済指標が公表され、こちらはともに前年比で伸びが減速し、予想を下回る結果となりました。

日本と対照的な結果になったことも、外国人投資家の行動に影響を与えた面がありそうです。


 さらに、市場の一部からは、日経新聞の記事(『日経平均最高値、鬼笑う「来期見れば買える」の勝算 コロナ株高と相似』(8月15日付スクランブル))にもあるように、来期(2026年度)の企業業績の回復を見据えて株を買えるのではという見方も浮上してきています。


 このように、「不安の後退」から「景気への自信」、「先行きの業績期待」へと、買い材料に対する市場の受け止め方が変化したことで、日経平均の値動きも買い戻しから買い騰がりに向かっていったと思われます。


 相場は将来を見据えながら動いていきますが、「どこまでの未来を見ていくか?」という時間軸は、その時々の状況によって変化していきます。


 株価が急上昇する前の相場は、米トランプ政権の関税政策などに対する不透明感が根強く、見据えていた将来の時間軸がかなり短かったといえます。それを踏まえると、来期の企業業績にも視点が向かうようになってきた先週の相場は、相場に対する時間軸を長くする投資家が現れ始めたことになります。


 この流れが今後も加速できれば、日本株はさらに一段高していけることになります。しかし、8月から実施された米相互関税「上乗せ分」の影響がこれから出てくることなどを考慮すると、「やっぱり、ちょっと先走り過ぎ」となるかもしれません。


 そのため、中長期の目線で上値を追っていくのはまだリスクが高く、株価の調整局面で買いを入れるスタンスがまだしばらく有効になりそうです。


(土信田 雅之)

編集部おすすめ