インフレは、私たちの幸福度やマネープランに大きな影響を与えます。物価上昇の時代にどう備え、資産を守り増やすのか。

実質利回りの考え方や積立額の工夫など、未来のお金を守るためのヒントを紹介します。


インフレ下でマネープランはどう変わる?「老後2000万円」で...の画像はこちら >>

インフレは私たちの幸福度を下げる?

 インフレが私たちの幸福度、いわゆる「ウェルビーイング」を押し下げる関係にあることは、海外のレポートなどでも指摘されています。


 まず、物価が上昇すると日常生活品や余暇のコストが上昇します。このコスト上昇分に見合う賃上げがあれば問題ありませんが、そうでない場合は消費を控えたり、安い商品で代替したりする必要があります。何らかの我慢を強いられたり、今まで維持できていた生活水準を引き下げることになるので、結果として生活満足度や幸福度は低下することになります。


 今まで維持できていた生活水準を引き下げることになるので、結果として幸福度の低下につながります。しかし、今までの日本では長らくこうした感覚がありませんでした。なぜなら、物価はほとんど上昇しないまま何年も過ぎたからです。


 インフレの時代を生きる私たちは「ウェルビーイング(持続的な幸福感)」を意識し、消費スタイルやマネープランニングを根本から切り替えていく必要があります。


インフレになるとマネープランはどうなる?

 インフレの影響は日々の消費生活にとどまりません。未来の資金計画、つまりマネープランニングにも影響を及ぼしてきます。なぜなら、将来必要となる資金もインフレの影響を受けるからです。


 例えば、物価上昇の影響はすでに不動産価格に表れており、住宅取得コストの上昇につながっています。今後も上昇が続き、また将来的に住宅ローン金利の上昇が顕在化すれば、住宅の購入費用はより高まるでしょう。


「老後に2,000万円」とよくいわれますが、これもまた現在の物価水準に基づき「老後に月5万~6万円のゆとりある生活を送るには、数十年のセカンドライフで2,000万円ほどかかる」としたものです。物価上昇は加味されていません。


 もし現在より未来の物価のほうが高いのであれば、老後への備えも金額ベースで上方修正が必要です。私はこれを「老後に4,000万円に備えよ」と言っていますが、若い世代にとってはあながちフィクションではないかもしれません。


 実際に計算してみましょう。月5万円の不足額が33年分で1,980万円ですが、毎年物価が前年比で2%上昇した場合33年後には毎月の不足額が月9.6万円までアップします(ちなみに、もし年3%の物価上昇が続けば月13.3万円までアップ)。単純計算で9.6万円を33年分とすると、なんと「老後に3,800万円」が必要になります。


 物価上昇が影響するのは、老後の準備だけではありません。住宅購入費用や教育費も上昇傾向にありますし、中期的な将来を見据えたマネープランについても「予算が上がる(額面として多めに備える)」意識が必要でしょう。


積み立てについては「積立額もインフレ」させる

 将来の必要となる資金がインフレによって増えていくことへの対策として、まず有効なのは「毎月の積立額もインフレ」させることです。


 もし給与が5%上がったなら、それに併せて積立額も5%引き上げる、というイメージです。元本を増額すれば、その分将来の積立額も増えることになります。


 仮に20年の運用期間で、月1万円の積立額を一切変更しなかった場合、年5%の運用成績だとすれば、20年後には資産が411万円になります。

この毎月の積立額を、賃上げに併せて毎年4%ずつ増額していったとしたら、20年後の資産は574万円まで伸びます。運用成績が同じ年5%であっても、積立額の引き上げが効いてくるわけです。


「物価も相当上がっているんだから、積立額を増やす余裕はないよ!」と思われるかもしれませんが、元本の積み増しが、将来の資金ニーズに向けて最終積立額をアップさせる最もシンプルな方法であることは間違いありません。


 ところで、この「積立額増額」は、自分で手続きするほかありません。なぜなら、給与の定率で自動的に拠出額を増やすような仕組みは日本にはないからです(会社の制度、企業型の確定拠出年金などでは自動増額される設計もありますが、これは会社が出すお金です)。


 NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)の積立額、あるいはiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)の掛金額などは、自分でアクセスし、引き上げを行う必要があります。毎年数百円ずつ細かく上げることはしないとしても、1,000円単位で引き上げられそうな時には、積極的に積立額の増額をしておきたいところです。


運用では「実質」利回りを常にみよう

 物価上昇時代においては、運用によって「実質」的にどれだけ資産を増やしていけたかを意識する必要があります。これも難しい問題です。


 先ほどの試算で「賃上げ年4%、運用年5%」と仮置きして計算をしましたが、賃上げが4%ある時代には、物価が年2~4%程度上昇があると考えられます。正直、この運用成績では物価をわずかに上回った程度にすぎません。


 デフレ時のリスク資産運用で「5%増やした」「10%増やした」という時、資産価値も同じ割合増えたと考えていました。運用は、パワフルに資産の価値を増大させてくれていました。


 しかし、物価が上昇するインフレ下では、その分を割り引いて考えなければなりません。海外の高成長の見込める投資対象に資産を集中させ、期待リターンを高めることで実質的な利回りをも引き上げる戦略は考えられますが、リスクを高める恐れもあります。


 国の年金運用機関である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、名目賃金上昇率をどれだけ上回れるか(スプレッド)を運用方針の基準としていますが、「名目賃金上昇率+1.9%」を目標としています。実質的な資産価値の伸びは1.9%しかないということです(賃金上昇率と物価上昇率がおおむね重なるとして)。


 インフレ時代がスタートしたということは、運用に対する過度の依存が難しいと考える必要があります。やはり積立額のさらなる増額を考える必要がありそうです。


まとめ:インフレが続いても未来の安心を減らさないために運用を

 インフレ時代のお金のウェルビーイングについて、特にマネープランに影響するヒントを紹介しました。


 これからの資産運用は、シビアな時代に変化していくことは間違いありません。運用において、名目上の運用利回りで高い数字を確保できる可能性がありますが、実質的には低く考えておかなければならないからです。


 しかし、現在および将来のウェルビーイングをできるだけ下げないために、資産運用の力が必要になることは変わらないでしょう。


 運用計画を含めたマネープランニング、ライフプランニングを行い、未来の資金計画を考えておくことは、未来のお金の不安を縮小するには有効です。ウェルビーイングの大敵は「現在と未来のお金の不安」ですから、計画がしっかりしている人ほど幸福度も高まってきます。


 ウェルビーイングを高めるために、上手に資産運用に取り組んでいきましょう。


(山崎 俊輔)

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