私が26歳で投資顧問会社の日本株ファンドマネジャー兼アナリストとなった時、最初の担当は半導体産業でした。以降さまざまな業種を調査してきましたが、半導体業界については常に考え続けてきました。
半導体産業は成長産業だが、好不況の波が大きい
半導体産業は、グローバルな成長産業です。ただし、安定成長する産業ではありません。「シリコン・サイクル」といわれる「ブームと不況」を繰り返しながら、成長しています。だから、半導体関連株への投資は面白く、かつ難しいのです。
半導体関連株への投資を考えるとき、以下三つのポイントを知っていた方が良いと思います。
【1】半導体産業は成長産業
【2】好不況の波が大きい(「シリコン・サイクル」といわれる)
【3】半導体関連株はシリコン・サイクルを1年近く先取りして動く傾向がある
それでは、一つずつ説明します。
【1】半導体産業は成長産業
半導体産業は、成長産業です。IT革命→インターネット革命→生成人工知能(AI)革命と呼び名は変わり続けていて、人類の情報処理技術は急ピッチで進化を遂げていますが、そのインフラ構築に不可欠な基幹部品が「半導体」なので、その需要は拡大し続けています。
半導体の能力は、幾何級数的に拡大しています。半導体回路の線幅は、どんどん縮小して、最先端では2ナノ(1ナノメートル=10億分の1メートル)を切る開発競争となっています。日本の国策半導体企業ラピダスが、世界に先駆けて2ナノ半導体の試作品を作り上げたことで注目されています。
半導体は、線幅の縮小だけでなく集積化による能力拡大も進んできました。半導体素子から集積回路(IC)、画像処理装置(GPU)と進化しています。エヌビディアの最新GPU(ブラックウェル)は、スーパーコンピューター並みの高い能力があります。これからも需要拡大に伴い、最先端の半導体は進化を続けると考えられます。
【2】好不況の波が大きい
半導体産業は、1980年代以降、ブームと不況を繰り返してきました。まずは以下、1998年以降のシリコン・サイクルをご覧ください。
世界半導体出荷金額(3カ月移動平均):1998年1月~2025年5月

ご覧いただくと分かる通り、世界の半導体産業は右肩上がりの成長産業です。ただし、シリコン・サイクルといわれるブームと不況の大きな波をつくる産業でもあります。
誰もが強気で半導体は絶好調がいつまでも続くと思っているときに突然ピークアウトし、半導体不況が始まります。もう、半導体産業は永遠に復活しないと思われる半導体不況の大底から、突然、急回復が始まります。
この特色ゆえ、半導体関連株は、長期的には大きく上昇しているものの、短期的には急落することもあり、激しく乱高下します。
【3】半導体関連株はシリコン・サイクルを1年近く先取りして動く傾向がある
半導体関連株は不思議なことに、1年近く、シリコン・サイクルを先取りして動く傾向があります。
逆に、半導体不況のさなかに半導体関連株が急騰を始めることもあります。半導体は成長産業なので、半導体不況で下がっているうちに買っておこうと考える投資家が多いためだと思います。
過去の半導体関連株の値動きを検証
それでは、このようなシリコン・サイクルを反映しながら、半導体株がどう動いているか、見てみましょう。以下、2012年以降の日本の半導体株価指数と日経平均株価の動きをご覧ください。
半導体株価指数と日経平均の動き:2012年1月~2025年7月(25日)

ご覧いただくと分かる通り、半導体不況が始まる前、まだ半導体ブームが続いているさなかに、半導体関連株は急落していることが分かります。後から振り返ると、不況を先取りしたことになります。
実際に半導体不況が始まると、もう半導体株は底打ちして急騰し始めていることが分かります。次のブームを見込んで、不況のうちに半導体株を買い始める投資家がいます。
それでは2018~2023年までのシリコン・サイクルと半導体関連株の動きを振り返ります。
【1】ブームの中で半導体関連株が急落した2018年
2018年の初めには、空前の半導体ブームが続いていました。ところが、半導体関連株は、急落しました。2018年の後半に入ると、活況が続いていたフラッシュメモリ(データセンターやスマートフォンの記憶媒体に使われる半導体)やDRAM(一時的なデータ保存に使われる半導体)の需給が緩み、市況が下落し始めました。
さらに、米中ハイテク戦争の影響を受けて、中国での需要鈍化が鮮明になりました。2019年から半導体不況に入りました。日本の半導体関連株は、不況を1年余り先取りして2018年初めから急落していました。
【2】半導体不況の中で関連株が急騰した2019年
2019年になり半導体不況が始まると、株価は逆に急騰を始めました。次のブームを織り込む動きが始まっていました。2020年後半から半導体ブームとなり、半導体関連株は一段高となりました。
【3】半導体ブームの中で関連株が急落した2022年
2022年はまだブームが続いていましたが、メモリ市況が下落するなどブーム終焉(しゅうえん)を思わせる事象が現れていました。次の不況を織り込んで、株価は急落しました。
【4】半導体不況の中で関連株が上昇し始めている2023年
2022年後半から半導体不況が始まりましたが、半導体関連株はすでに上昇を始めています。2024年からのブーム復活を先取りした動きと考えることができます。生成AIの利用が世界で急拡大したことを受けて、AI半導体がブームをけん引しました。AI半導体以外の半導体は不振が続きました。
【5】2024年から半導体株が急落、2025年4月以降は急反発
2023年中は半導体関連株は急騰しましたが2024年に入ると、一転して急落し始めました。これは何を表しているのでしょうか?
過去の経験則だと、2025年から半導体不況が始まるのかと思ってしまいます。実際にはそうなっていません。AI半導体を中心に2025年も順調な成長が続いています。半導体関連株は4月まで下落が続きましたが、その後一転して急反発しています。
半導体関連株を買って良い?
半導体は成長産業です。AI半導体以外は不振が続いてきましたが、2025年にかけてブームが復活する可能性もあり、半導体関連株を少しずつ買っていって良いと考えています。
ただし、ひとくくりに半導体といっても種類が増え、シリコン・サイクルという一つの循環に収まらなくなってきています。半導体といっても、AI半導体とそれ以外で二極化しています。AI半導体は順調に成長が続いていますが、それ以外の半導体は不振が続いています。シリコン・サイクルがやや分かりにくくなっています。
一つはっきりしていることは、生成AIの成長に伴って半導体市場は波打ちながらも成長率が高まる局面にあることです。2025年にかけて、半導体ブームが復活する可能性を考えて、半導体関連株は競争力の高い銘柄を選別して、少しずつ投資を再開していって良いと考えています。
最後に、成長産業である半導体産業で、なぜシリコン・サイクルが起こるのか解説します。
なぜ、シリコン・サイクルが起こるか?
半導体産業は成長産業なのに、なぜ不況とブームを繰り返すのでしょうか? 原因を一言で言えば、「過剰投資」です。
最先端の半導体を他社よりも早く量産しようと多くのメーカーが競って投資し、一斉に量産に成功するとき、一時的に供給過剰が起こって半導体価格が急落し、半導体不況が起こります。それでも、長期的に需要は増え続けるので、いずれまた半導体ブームになります。
ところが、その次世代の半導体の量産競争を巡って過剰投資があると、いずれ次の半導体不況が起こります。その繰り返しが、シリコン・サイクルです。それを、かつて半導体産業の中核を占めていた「半導体メモリ」を例にとって説明します。
1980年代の半導体の用途は、PC向けがほとんどでした。PCの頭脳となるCPU(MPU)と、データを記憶保持するDRAMやフラッシュメモリという半導体メモリが重要な役割を果たしていました。
CPUでは米国のインテルが圧倒的に強く、独壇場でしたが、半導体メモリでは、東芝、日立、NECなど日本メーカーが激しい競争を繰り広げていました。その激しい競争が、シリコン・サイクルをつくりました。
CPUもDRAMも、3~4年ごとに世代交代してきました。新世代になるたびに、PCの性能が拡大し、新たな需要を掘り起こしてきました。
DRAMは、世代交代するたびに、能力が4倍に拡大していきました。世代交代するたびに、トップメーカーが入れ替わることもありました。各社がトップメーカーになろうとして競争するために、供給不足と供給過剰を繰り返すことになりました。
新世代DRAMは、開発当初、旧世代品の4倍以上の値段が付きます。どのメーカーも、価格の高いDRAMを他社よりも早く量産したいと思いますが、技術的に難しく、歩留まり(良品比率)がなかなか上がりません。
1社が量産に成功すると、その会社は値段の高いDRAMを大量に生産して、莫大(ばくだい)な利益を上げます。そのうち他社も歩留まりが上がり始めます。そうなると、新世代DRAMの価格は急速に下がり始めます。量産に遅れた会社は、価格が大幅に下がってからの販売になるので、開発にかかったコストをほとんど回収できなくなります。
このように世代交代を繰り返すたびに、どの企業がトップになるかを巡って熾烈な競争が行われます。各社が新世代でトップになろうとして過剰な投資を行います。各社の歩留まりが低いうちは、半導体の価格が高いのでブームが続きますが、各社の歩留まりが一斉に上昇したときに半導体は供給過剰となり、価格が急落します。そこで、半導体産業は不況に転落します。
以上が、1980年代のシリコン・サイクルの仕組みです。今は、半導体の種類も用途も格段に広がり、半導体メモリは、半導体産業の中心ではなくなりました。
好不況の波がない、安定成長する半導体分野も増え、かつてほど激しい山谷はなくなりました。そうした環境変化を受けて、「半導体スーパーサイクル説」(半導体産業はもはや不況に陥ることなく永続的に成長していく産業になった、という説)が時々出てきます。
それでもシリコン・サイクルはなくなりません。今でも、最先端の半導体で、供給不足と供給過剰の波は、どうしても起こります。
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(窪田 真之)