7月20日に行われた参議院議員選挙では、物価高対策が大きなテーマとなりました。こうした中、暫定税率の廃止によってガソリンの小売価格を大幅に下げることを目指す政党に関心が集まりました。
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著者の吉田 哲が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 ガソリンの小売価格を下げる方法は?減税や給付だけではない 」
ガソリン暫定税率の動向に注目集まる
以下のグラフは、レギュラーガソリンの小売価格(全国平均・税込)の推移を示しています。足元、2000年以降の最高水準で推移しています。
図:レギュラーガソリン小売価格(全国平均・税込) 単位:円/リットル

グラフ左の赤い網掛けの部分では、7月の参議院議員選挙の際に話題になった「ガソリンの暫定税率」が一時的に失効した形跡を確認することができます。2008年4月のおよそ一カ月間、25.1円の同税率が失効してガソリン税が53.8円から28.7円になりました。
以下は2025年7月時点のガソリン小売価格(補助なし・あり)の推定値です。燃料油価格激変緩和対策事業の一環として、2025年5月から段階的にはじまった定額引下げ、6月からはじまった予防的な激変緩和措置により、全体としておよそ11.0円安くなっています(184.5円→173.5円)。
図:2025年7月のガソリン小売価格 補助なし・あり(筆者推定) 単位:円/リットル

7月の参議院議員選挙の結果を受けて再び議論が加速し始めた「ガソリンの暫定税率の廃止」が現実になった場合、補助金なしの額から25.1円、差し引かれることになります。
日本では、あの手この手で、ガソリン小売価格を下げる策が検討・実施されています。
時間軸別、ガソリン価格を下落させる方法
日本のように多くの資源を輸入する国における「小売価格」は、以下のような経路を通じて決定している場合がほとんどです。
図:各種小売価格が決まるまでの流れ

国内のさまざまな政策・税制などは、確かに小売価格に影響を及ぼすことができます。まさに今、政府が石油業者に補助金を付与したり、ガソリンの暫定税率の廃止を検討したりしている分野です。ただし、これらは川下の話であり、短期的な対症療法に過ぎません。
以下の通り、中期や長期視点の、ガソリン小売価格を下げるための方法があります。これらは川中や川上側の手法でもあるため、長い時間、安定的にガソリン小売価格を下げる効果が期待できます。
ここでは「(3)コスト削減」は、石油業者やガソリンに関わる業者の諸コストを減少させることを指しています。精製コストや人件費、脱炭素関連費用などがコストの中心だと考えられます。これらの見直しもまた、ガソリンの小売価格を下げるきっかけになり得ます。
また、「(4)金融政策」は、ドル円相場に強く影響し得る日本銀行の政策を指しています。輸入物価を押し上げている要因の一つである円安を是正することで、原油の輸入単価、ひいては、ガソリンの小売価格を下げるきっかけになり得ます。
図:ガソリン小売価格を下げる方法(短期、中期、長期)

さらに、「(5)外交」もまた、ガソリンの小売価格を下げるきっかけになり得ます。
足元、国内で目立っている「(1)減税」と「(2)補助」だけでは、ガソリン小売価格を十分に下げることはできない(下げ幅・期間、ともに)と考えられます。これらに、財源がなくなれば続けることができなくなる、ガソリンの原材料である原油に直接的に関わっていない、などの特徴があるためです。
中期視点の鍵を握る石油業者と日本銀行
中期的なガソリン小売価格の下落に貢献し得る「(3)コスト削減」と、「(4)金融政策」について、関連する情報を確認します。
以下は、「(3)コスト削減」に関連する、補助金や諸税を差し引いた素のガソリン小売価格、日本の原油輸入単価、それらから計算した石油業者のコストの推移です(いずれも筆者推定)。
図:ガソリン小売価格(補助金・諸税抜)、日本の原油輸入単価および石油業者コスト(推定) 単位:円/リットル

2010年代半ば以降、石油業者のコスト(推定)が増加していることが分かります。先述のとおり、精製コストや人件費、脱炭素関連費用などが増加していると考えられます。燃料油価格激変緩和対策事業における定額引き下げ、予防的な激変緩和措置は、こうしたコストを軽減する措置です。過去に行われた抑制措置も同様でした。
ガソリン小売価格のおよそ2割を構成しているとみられる同コストの動向を決めるのは業者自身です。補助に頼らない持続的な経済活動が目立てば、ガソリン小売価格を中期視点で押し下げる要因になるかもしれません。
また、以下は「(4)金融政策」に関連する、日本の原油輸入単価、ドバイ原油、およびドル円相場の推移です。
平時は、日本の原油輸入単価とドバイ原油の価格推移において、大きな乖離(かいり)が発生するケースは少ないですが、ドル円相場が極端な水準に至った場合、乖離が大きくなります。
図:日本の原油輸入単価・ドバイ原油(2000年を100)およびドル円相場

2012年前後の1ドル=90円を上回る極端な円高進行時、日本の原油輸入単価はドバイ原油に比べて大きく下振れしました。逆に足元、1ドル=140円を下回る極端な円安進行時、日本の原油輸入単価はドバイ原油に比べて大きく上振れしています。輸入物価を押し上げる一因である「円安」もまた、足元のガソリン小売価格を押し上げているといえます。
そして、日本においてこの円安を是正し得る策を検討・実施できるのは日本銀行です。現在検討されている「利上げ」は、円安を是正し、ひいてはガソリン小売価格を中期視点で押し下げる一手になるかもしれません。
原油相場の水準感「長期視点で高い」
以下は、ドバイ原油の長期視点の価格推移です。足元、名目価格および物価動向を加味した実質価格はともに、2000年ごろに比べて約5倍の水準で推移しています。
図:ドバイ原油(名目・実質)価格(月足) 単位:ドル/バレル

また、以下はドバイ原油と同様、世界の原油相場の指標の一つであるウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)原油※先物の価格推移です。
※WTI原油:米国の西テキサス地域で産出されるガソリンなどを比較的多く抽出できる原油。West Texas Intermediate。
このおよそ2年間、80ドルを挟んだプラスマイナス15から20ドルの範囲で推移していることが分かります。80ドルは、長期視点の高値水準です。こうした水準でレンジ相場が続いているため、原油相場が長期視点で高止まりしているといえます。
レンジ相場は、上昇圧力と下落圧力に挟まれた状態が続くことによって発生します。WTI原油相場においては、このおよそ2年間、基本的に上下の圧力にはさまれ、特に95ドル付近まで上昇すると下落圧力がより強くなり、60ドルや65ドル付近まで下落すると上昇圧力がより強くなる状態が続いている、といえます。
確かに原油相場は、ウクライナ戦争が勃発した(2022年2月)直後の高値からは下落しました。とはいえ下落は続かず、このおよそ2年間、長期視点で高止まりしています。こうした長期視点の高止まりが、ガソリン小売価格高騰という社会問題の根本原因であるといえます。
図:NY原油先物(期近)日次平均 単位:ドル/バレル

長期視点の鍵は「日本政府の外交手腕」
ガソリン小売価格高騰という社会問題の根本原因を除去するために日本ができることは、「(5)外交」だと筆者は考えています。
減税をしたり補助金を出したりして短期的にガソリン小売価格を下げたとしても、コストを削減したり利上げをしたりして中期的に同価格を下げたとしても、根本解決にはなりません。
いずれも、ガソリンの原材料である原油の価格に影響を及ぼすことができないためです。外交は日本が原油の価格動向に影響できる活動です。だからこそ、根本解決につながる期待があります。
先述のとおり、産油国が関わる紛争・戦争を解決に導く外交活動や、産油国が躍起になって行っている「原油の減産(人為的な生産削減)」の根本原因ともいえる「世界分断」を修復する外交活動は、長期視点の安定的な原油安のきっかけになります。
以下の通り、特に最近は、中東での紛争やウクライナ・ロシアの戦争が鎮静化する期待が強くなると、原油相場への下落圧力が強まります。日本が関連する国々に働きかけることができる分野です。
図:足元の原油相場を取り巻く環境(2025年4月以降)

また、産油国が原油の減産を行っていることも、長期視点で原油価格が高止まりしている一因になっています。減産は原油相場を高止まりさせる意図だけでなく、世界で分断が深まっている時に、資源を持つ非西側が資源を持たない西側に対して影響力を大きくする意図も見え隠れしています。
減産活動という「資源の武器利用」の手を緩めてもらうために日本ができることは、資源の武器利用の一因である世界分断および、その一因である民主主義の後退を修復するための働きかけをすることです。
日本にとってこうした外交活動は、難易度が高いかもしれません。しかし、外交活動は、数少ない原油相場の動向に関わることができる機会です。ガソリンの小売価格を下げるためには、バラマキでもない、間接的な策でもない、外交努力が求められていると、考えます。
図:2010年ごろ以降の世界分断と高インフレ(長期視点)の背景

[参考]エネルギー関連の投資商品(例)
国内ETF・ETN(NISA成長投資枠活用可)
NNドバイ原油先物ブル(2038)
NF原油インデックス連動型上場(1699)
WTI原油価格連動型上場投信(1671)
NNドバイ原油先物ベア(2039)
外国株式(NISA成長投資枠活用可)
エクソン・モービル(XOM)
シェブロン(CVX)
オクシデンタル・ペトロリアム(OXY)
海外ETF(NISA成長投資枠活用可)
iシェアーズ グローバル・エネルギー ETF(IXC)
エネルギー・セレクト・セクター SPDR ファンド(XLE)
投資信託(NISA成長投資枠活用可)
シェール関連株オープン
海外先物
WTI原油(ミニあり)
CFD
WTI原油・ブレント原油・天然ガス
(吉田 哲)