先週はトランプ関税引き下げの材料出尽くし感や、主力半導体企業・東京エレクトロンの業績下方修正が日本株の足を引っ張りました。米国株も1日(金)の7月雇用統計の悪化で急落。

今週、雇用統計ショックを克服できるかは日米企業の決算発表の結果次第でしょう。


雇用統計ショックを克服できるか!円安トレンドの復活に期待の画像はこちら >>

雇用統計ショックで週初めは急落も!好調な企業決算連発でトランプ関税の懸念再発を克服できるか?

 今週の株式市場は、8月1日(金)発表の米国7月雇用統計が予想外のネガティブな結果になったことによる株価の急落に注意が必要です。


 米国の7月の非農業部門新規雇用者数は予想の10.4万人増を下回る前月比7.3万人増にとどまり、失業率は4.2%に上昇しました。


 それ以上に驚きだったのは5月、6月の雇用者数の伸びが合計26万人近くも下方修正され、ここ3カ月の平均がわずか3.5万人の増加にとどまったこと。


 これは2020年のコロナ禍後では最悪で、いよいよトランプ関税の悪影響で米国雇用市場の悪化が始まったことが鮮明になりました。


 機関投資家が運用指針にする米国S&P500種指数は1日(金)に前日比1.60%も急落。週間でも前週末比2.36%の下落となりました。


 低調な雇用統計を受け、米国トランプ大統領は「私の評判を落とすために不正に操作された」と労働省統計局長の解任を命令するなど火に油を注ぐような発言を行っています。


 米国の雇用市場悪化という実体経済へのダメージはいったん影響が出始めるとなかなか歯止めがきかず、今後、より深刻化する恐れもあるだけに株価下落が長引くかもしれません。


 トランプ大統領が自らの停戦要求にもかかわらずウクライナ攻撃を継続しているロシアに対して、原子力潜水艦2隻を配備すると表明したことも1日(金)の米国市場の下落要因でした。


 一方、先週の日本市場では7月31日(木)、半導体製造装置の主力株である 東京エレクトロン(8035) が2026年3月期の通期営業利益を従来計画の7,270億円から前期比で減益となる5,700億円に下方修正して翌8月1日(金)にストップ安。


 週間でも19.9%安と東証プライム市場の週間下落率ワースト2位になりました。


 この「東京エレクトロン・ショック」を受け、4月以降に急上昇してきた半導体株が幅広く売られました。


 29日(火)に人工知能(AI)向け半導体検査装置の販売拡大で2026年3月期の業績を上方修正した アドバンテスト(6857) ですら前週末比11.1%安となりました。


 大型の半導体株の寄与度が高い日経平均株価(225種)は前週末比656円(1.6%)安の4万0,799円まで下落しました。


 8月1日(金)夜の米国雇用統計の悪化を受けて日経平均先物(期近)の価格は4万円の大台を割り込み、為替市場でも1ドル=150円70銭台から1ドル=147円30銭まで1日で3円40銭近く円高が進んでいるため、週明け4日(月)の日本株も大幅に下落しそうです。


 ただ、米国雇用統計の悪化で米国の中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)が9月17日(水)終了の米連邦公開市場委員会(FOMC)で早期利下げに踏み切る観測が高まったことは株価の下支え役になりそうです。


 今週は米国で5日(火)にトランプ関税の影響度が分かる6月貿易収支や全米供給管理協会(ISM)の7月非製造業景況指数が発表になります。


 5日には建機メーカーの キャタピラー(CAT) や半導体メーカーの アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD) 、6日(水)には ウォルト・ディズニー(DIS) 、 マクドナルド(MCD) などの2025年4-6月期決算も発表されます。


 日本でも2025年4-6月期決算がピークを迎え、4日(月)に 三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306) 、5日(火)には防衛関連の主力株・ 三菱重工業(7011) 、6日(水)にはトランプ関税の悪影響を受ける自動車メーカーの ホンダ(本田技研工業:7267) 、7日(木)には トヨタ自動車(7203) などが決算発表。


 トランプ関税の影響で業績を下方修正した輸出企業の株価が急落した先週の流れが今週も続きそうです。


 8日(金)には「石破茂首相下ろし」の機運が高まる中、自民党の両院議員総会も開催されます。


 参議院選挙大敗の責任をとって石破首相が辞任を表明した場合、株価が大きく乱高下する可能性もありそうです。


 週明け4日(月)の日経平均は681円安の4万0,118円の続落で始まり、一時は900円安を超える4万円割れになりました。終値は前営業日比508円安の4万0,290円となりました。


先週:トランプ関税に対する楽観論後退!半導体株は不振もAIデータセンター株は絶好調!

 先週は米国のトランプ大統領が欧州連合(EU)に対する関税率を30%から15%に引き下げると発表したことから、本連載では「EU関税引き下げで世界株高加速?」という見出しをつけました。


 しかし、逆にEU関税引き下げによる材料出尽くし感や株価の短期的な過熱感への警戒から、日米ともに株価指数は下落しました。


「EUの次」と期待されていた先週の中国との通商交渉では合意が成立せず、8月12日(火)に期限を迎える最大145%の対中国への関税発動の90日間停止措置の再延長について協議が行われているだけだったことも相場の足を引っ張りました。


 30日(水)発表の米国の2025年4-6月期の実質国内総生産(GDP)は前期比年率換算で3.0%の増加となりましたが、これはトランプ関税後に輸入が急減したことでGDPのプラス要因になる純輸出(輸出から輸入を引いたもの)が大きなプラスだったからです。


 GDPの3分の2を占める個人消費は前期比年率1.4%増と低い伸びにとどまりました。


 米国では巨大IT企業の決算発表も相次ぎました。


 AIによる広告システムの効率化で2025年4-6月期売上高と7-9月期の売上高見通しが市場予想を上回ったフェイスブックの親会社 メタ・プラットフォームズ(META) は前週末比5.24%高でした。


 クラウド事業が絶好調で、AI向けデータセンターの拡張に2025年7-9月期だけで300億ドル(約4.5兆円)を投資すると発表した マイクロソフト(MSFT) は2.02%高でした。


 しかし、クラウド事業の増収率がマイクロソフトなど他社に比べて見劣りした アマゾン・ドット・コム(AMZN) は7.21%も下落しました。


 一方、29日(火)に光通信製品メーカーの米国 コーニング(GLW) が2025年4-6月期の好決算を発表して前週末比12.1%高となるなど、AIデータセンター向け光通信関連株は値上がりしました。


 日本でも光ファイバー関連の フジクラ(5803) が16.2%高、 古河電気工業(5801) が10.1%高となり、両社が属する非鉄金属セクターが週間の業種別上昇率の首位になるなど、利益確定売りに押された半導体株と明暗を分けました。


 フジクラ、古河電気工業は今週8月7日(木)に決算発表を行うので要注目です。


 また、31日(木)に金融政策決定会合を終えた日本銀行が4会合連続の政策金利据え置きを決め、トランプ関税の不確実性を根拠に金融引き締めに消極的なハト派色を鮮明にしたことで、日本の長期金利の指標となる10年国債の利回りは先々週の1.60%台から1.49%台まで低下しました。


 借入金が多いため金利低下が業績にとって追い風となる不動産、建設セクターが週間の業種別上昇率でも上位に入るなど、銀行セクターなど金融株を除く内需株は堅調そのものでした。


今週:トランプ関税がいよいよ実体経済悪化や米国離れにつながる!?円安トレンド復活に期待!

 今週はトランプ関税に対する過度の楽観論がさらに後退し、7月雇用統計の悪化に象徴されるような米国の雇用市場や実体経済の減速に対する懸念が高まりそうです。


 日本、EU、韓国などの関税率が15%に引き下げられたといっても依然高水準で、米国を含む世界中の貿易活動にとって重い負担になるでしょう。


 また、カナダは35%、ブラジルは50%、スイスは39%と関税率が逆に引き上げられるなど、トランプ大統領が自らの「政治的要求」を受け入れない国々に対して懲罰的な関税を乱発していることも気がかりです。


 7日(木)から25%関税が発動されるインドに対しても、トランプ大統領は、インドがロシア産原油の輸入を続けた場合、ペナルティーとして大幅な2次関税を課すとけん制しています。


 しかし、インドは今後もロシア産原油の輸入を継続する方針だと報じられています。


 またトランプ政権は、中国製品を念頭に、第三国を経由して米国に迂回(うかい)輸出された製品に40%の追加関税を課すと発表しています。


 過激すぎるトランプ大統領の要求に公然と歯向かう国が続出し、米国抜きの貿易圏を志向する動きが世界各国に広がった場合、米国経済が長期的に衰退に向かう可能性も否定できないでしょう。


 とはいえ、トランプ大統領が米国株や米国債の金利も意識して、米国売りが加速しない程度に過激な関税や政治的要求を出したり引っ込めたりしているのも確かです。


 今後もトランプ大統領が米国第一主義の政策で他国に負担を押し付けつつ、米国の好景気を持続させ、史上最高値圏にある米国株をさらに上昇させることができるかに注目しましょう。


 一方、先週31日(木)の金融政策決定会合後に日銀は経済と物価の見通しを示した「展望レポート」を発表。


 2025年度の実質GDPの伸び率を0.6%に上方修正し、物価見通しもこれまでの2.2%から2.7%に引き上げました。


 にもかかわらず、会合終了後の記者会見で植田和男日銀総裁は利上げを急がないハト派的姿勢に終始し、為替に関しても「物価見通しにただちに影響するとはみていない」と述べました。


 この発言をきっかけに先週の為替市場では一時、1ドル=150円91銭まで円安が進行しました。


 1日(金)の米国7月雇用統計が悪化したことで1ドル=147円30銭台まで円高方向に戻していますが、今週、日本株高につながりやすい円安トレンドが復活するかどうかも注目です。


(トウシル編集チーム)

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