人生100年時代と言われている現代。65歳でリタイアすると仮定すれば、その後35年分の余裕資金をつくらなければなりません。
「人生100年時代」といわれるが日本人の寿命は伸び悩み?
「人生100年時代」という言葉は、今や私たちにとってなじみのものとなりました。以前は「人生90年は意識してマネープランを」と語りかけても、「いやいや、ないない」という反応でしたが、最近では100年の人生を想像する人が増えました。
実際に、65歳に達した男性の平均余命が約20年、女性は約25年となっています。これは、それぞれ85歳、90歳まで生きることが現実的であることを意味します。さらに、この平均余命は、おおむね2人に1人がまだ元気でいられる年齢に近いとされており、これに5年を加えると4人に1人が元気な年齢となります。
つまり、男性はだいたい90歳、女性は95歳まで生きる人が「4人に1人」いるということになります。これは、割と多いという印象を持たれるのではないでしょうか。
現在の統計的には、このくらいの長寿は十分にあり得るとされています。さらに、平均寿命がまだ数歳くらいは延びると予測されているので、「人生100年時代は、より現実的な可能性が高い」ということになります。
しかし、ここ数年は日本人の平均寿命は伸び悩んでいます。7月に公表されたばかりの最新データでは、男性の平均寿命は変わらず、女性は0.01歳下がっていました。
では、「これからは寿命が延びないので人生100年時代のことは考えなくていいか」というのは早計です。いくつかのブレイクスルーが起きれば、医療技術の進展が実現し、予想外の長寿につながるかもしれません。
例えば、がんの死亡率は、1990年代以降は低下傾向にあるとされますが、さらに下がるかもしれません。日本人の三大死因の一つといわれる心疾患も高齢化の影響を除くと死亡率には低下傾向が見られています。
未来の変化を思えば、やはり短い老後より長い老後を意識したマネープランが必要といえそうです。
セカンドライフは「前半」と「後半」で支出の性格は変わってくる
日本では現在、65歳が標準的リタイア年齢とされています。公的年金の受給開始年齢も、今のところ引き上げ計画はありません。
65歳でリタイアした後、公的年金だけでは不足する部分を自分のお金で埋めるとき、一般的には「月5万円×25~30年」と一律に計算をします。この計算に基づくと、必要な老後資金は「1,500~1,800万円」となります。これが、いわゆる「老後に2,000万円」のロジックです。
しかし、現実の老後を考えるなら、セカンドライフの「前半」と「後半」は支出の性格が変わってくることも考えてみたいところです。
セカンドライフの前半は、アクティブに活動することを前提にしてみると、少し多めの予算が欲しいところです。
セカンドライフの後半はアクティビティに関する出費が減るかもしれません。その一方で、介護や高度医療にかかる費用が増加する可能性もでてきます。
老後のマネープランを「前半」と「後半」に分けて考えてみる
「老後に2,000万円」のレポートが「月5~6万円不足×25~30年の老後=約2,000万円」という概算を載せたわけですが、よく考えてみると、老後の前半後半の考慮はされていません。
総務省の家計調査報告(2024年)をチェックしてみたところ、年金生活をしている夫婦世帯(二人以上の世帯のうち65歳以上の無職世帯)の家計支出は、年齢とともに変化しています。60歳台後半では月35.3万円ですが、70歳台前半は月30.4万円、75歳以上になると月27.3万円と段階的に減少しています。全体の平均は月29.2万円ですから、老後の「前半」と「後半」では支出が違うわけです。
例えば「前半は月7~8万円」「後半は月3~5万円」くらいがセカンドライフのマネープランとしては適切かもしれません。
これも個人差が大きいことなので何歳で区切るかは難しいテーマですが、前半後半に傾斜配分しておくことは検討の余地があると思います。
最近では、日本老年学会などが75歳からが老後だと提言していますので、ここでは老後を「前半(75歳まで)」「後半(75歳以降)」とに分けて考えます。
仮に、前半(10年間)は年100万円、後半(10年間)が年50万円ほどを取り崩すとします。この計算では、合計で1,500万円となり、いわゆる「老後に2,000万円」の範囲内でやりくりができる上、セカンドライフ前半の予算を月8万円くらいまで増やすことができます。
一律に予算を割り振った後、体調を崩したり、発病で動けなくなったりした場合、心残りが生まれるかもしれません。しかし、「最初の10年は、行きたいところに行って、やりたいことはだいたいやったな」と思えば、その後は自宅を中心としたシンプルライフへの切り替えも、人生の満足度として高いパフォーマンスとなりそうです。
老後の後半は、公的年金だけで日常生活がやりくりできる、というなら取り崩すお金は介護や医療の負担だけで済むということもあります。それぞれの家庭の状況を踏まえて、いろいろ考えてみてください。
アクティブな「老後の前半」でたくさんの幸せと思い出のためにお金を使っておこう
今回は、なんとか「老後に2,000万円」を確保してリタイアした方の「前半」「後半」での予算配分を例としていますが、あなたがもし資産運用にチャレンジし、それなりの資産形成に成功したのであれば、予算をもっと多くすることも可能です。ぜひセカンドライフの前半でお金を使うことを考えてみてください。
もちろん、運用を続けながら取り崩しをしていくのもいいでしょう。うまくいけば、ほとんどお金を減らさずに消費に回すこともできると思います。
ベストセラー「ダイ・ウィズ・ゼロ」では、人生で一番大切な仕事は思い出づくりだとしています。お金は使い切って、それこそ残高ゼロ円で最期を迎えよう、というわけですが、リタイアした直後の元気で自由な10~15年こそ、この言葉を噛みしめてみたいものです(実際には残高ゼロ円で死ぬことは難しいので忠実に実行しなくてもいいでしょう)。
65歳リタイアの時代、まだまだリタイア後にたくさんの時間があります。幸せと思い出をたくさん携えて有意義な時間としたいもの。
(山崎 俊輔)