キャッシュ・フロー計算書には、「営業」「投資」「財務」の三つのキャッシュ・フローが記載されています。それぞれの意味を知ることで、投資しようとしている企業のキャッシュ・フローの状態を把握することができます。
キャッシュ・フロー計算書の仕組みはこうなっている
前回の「キャッシュの流れで企業の実力が分かる:キャッシュ・フロー読み方講座Vol.1」に続き、今回は、キャッシュ・フロー計算書の仕組みについてお話ししていきます。
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キャッシュの流れで企業の実力が分かる:キャッシュ・フロー読み方講座Vol.1
通常、キャッシュ・フロー計算書は「*税引前当期純利益」をスタートし、そこからキャッシュ・フローに影響を与える金額をその要素ごとに加算・減算して3種類のキャッシュ・フローを算出します。
そして最終的にその年のキャッシュの増減を計算します。
税引前当期純利益とは…法人税などの税金を支払う前の企業の利益。経常利益と特別損益を考慮した重要な指標
計算式:税引前当期純利益=経常利益+特別利益-特別損失 営業、投資、財務キャッシュ・フローの凡例 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 営業キャッシュ・フロー 350億円 ▲90億円 620億円 170億円 500億円 投資キャッシュ・フロー ▲100億円 ▲150億円 ▲300億円 ▲150億円 ▲200億円 財務キャッシュ・フロー 250億円 ▲90億円 190億円 260億円 320億円 現金および現金同等物の期末残高 310億円 ▲120億円 500億円 120億円 480億円 ※各種資料などを基にトウシル編集部が凡例を作成
3種類のキャッシュ・フローとは「営業」「投資」「財務」で、それぞれ意味するところが異なります。
それ以外に、連結会社の範囲の変動に伴うキャッシュ・フローの調整額や、為替レートの変動に伴う換算差額といったものも集計されますが、そこまでは意識しなくても良いと思います。
まずは3種類のキャッシュ・フローの意味を知ることが重要です。
「営業活動」によるキャッシュ・フロー
営業活動によるキャッシュ・フロー(「営業キャッシュ・フロー」)は、通常の事業活動、言い換えれば本業により獲得した、もしくは流出したキャッシュの金額を表しています。
ざっくり言えば、損益計算書でいうところの「営業利益」のキャッシュ・フロー版です。
損益計算書で営業利益がマイナスだとかなり厳しい状況であるのと同様、営業キャッシュ・フローがマイナスだと、本業でキャッシュを獲得できているどころか逆に流出してしまっているという状態で、好ましくありません。
ですから営業キャッシュ・フローは営業利益と同様でプラスが望ましく、その額が大きければ大きいほど良い、ということになります。
リース会社など恒常的に営業キャッシュ・フローがマイナスになるケースは別ですが、営業キャッシュ・フローのマイナスが2年以上続くようであればかなり警戒した方がよいと感じます。
「投資活動」によるキャッシュ・フロー
二つ目の、投資活動によるキャッシュ・フロー(「投資キャッシュ・フロー」)は、将来の企業成長のために必要な投資、例えば固定資産取得などの設備投資や、企業の合併・買収(M&A)など、企業買収のために生じた資金があればマイナス、逆に固定資産の売却や投資有価証券の売却などがあればプラスとなります。
通常、企業は将来のために恒常的に投資を行いますから、投資キャッシュ・フローはマイナスになるのが通例です。
もし営業キャッシュ・フローに比して投資キャッシュ・フローが極めて小さかったり、投資キャッシュ・フローがプラスだったりした場合は、キャッシュ・フロー計算書の項目を確認するなどして、その理由を確認すべきです。
「財務活動」によるキャッシュ・フロー
三つ目の財務活動によるキャッシュ・フロー(「財務キャッシュ・フロー」)は、借り入れや増資などの財務活動にまつわるキャッシュ・フローを表します。
例えば新規借入をした場合は、その分キャッシュが社内に入ってきますからプラスになり、逆に借入返済をすればキャッシュが流出しますのでマイナスとなります。
また、新株発行により増資をすれば、その分キャッシュが入るのでプラスになりますし、配当金を支払えばキャッシュが出ていきますのでマイナスとなります。
財務キャッシュ・フローはプラスにもマイナスにもなり得ますが、一般的には新規借入よりも借入返済の方が大きく、財務キャッシュ・フローがマイナスである方が、財務は健全化の方向に向かっているので望ましいといわれます。
しかし成長が著しい場合は、逆に積極的な借り入れにより設備投資などに注力し、企業をより伸ばした結果、財務キャッシュ・フローがプラスになるケースもあります。企業ごとの置かれた状況によって異なってくる、というのが実態です。
キャッシュそのものの増減と、それぞれのキャッシュ・フローのプラスマイナスを意識
上記をまとめると、次のようになります。
- 営業キャッシュ・フロー:プラスが望ましい
- 投資キャッシュ・フロー:マイナスであるのが通常。プラスの場合は理由を精査
- 財務キャッシュ・フロー:マイナスが望ましいとされるが企業実態により異なる
さきほどの凡例の直近2年の動きを見て解説しましょう。
営業、投資、財務キャッシュ・フローの凡例を解説 2024年3月期 2025年3月期 解説 営業キャッシュ・フロー
(本業の経営状態) 170億円 500億円 本業は前年度より大幅に成長 投資キャッシュ・フロー
(設備投資などの投資) ▲150億円 ▲200億円 設備投資などの金額を増やしている 財務キャッシュ・フロー
(借り入れや返済) 260億円 320億円 設備投資のためなどの借り入れを増やしている 現金および現金同等物の期末残高
(実質のキャッシュ残額) 120億円 480億円 実質、企業の中に残っている現金同等物は増えている ※各種資料などを基にトウシル編集部が凡例を作成
その上で、トータルで企業のキャッシュが増えたかどうかは、キャッシュ・フロー計算書末尾の「現金および現金同等物の増減額」で確認することができます。
もし営業キャッシュ・フローがプラス、投資キャッシュ・フローがマイナスと望ましい状態であっても、財務キャッシュ・フローより投資キャッシュ・フローが大きくマイナスとなっていて、キャッシュそのものも大きく減少しているようであれば、不足する資金を今後どのように手当てしていくのか、という問題が生じます。
最終的には各キャッシュ・フローのプラスorマイナスを確認するとともに、キャッシュそのものが増加して、キャッシュ・フロー計算書の最終行の「現金および現金同等物の期末残高」が十分な金額を確保しており、財務面で健全かどうかを注目するようにしましょう。
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(足立 武志)