8月前半、金(ゴールド)相場は、歴史的高値を更新しました。その様子を見て「有事で上昇した」と考えた人は、少なくなかったかもしれません。

しかし、現代の金(ゴールド)相場は、もっと壮大な理由で動いています。これらの点を含め、金(ゴールド)投資に直接的に役立つ一歩踏み込んだ情報を、お伝えします。


金(ゴールド)が最高値を更新:長期視点で買い場継続の画像はこちら >>

金(ゴールド)、一時、最高値更新

 ニューヨーク金先物(中心限月)は、8月8日のアジア時間に1トロイオンス(約31.1グラム)当たり3,530ドルを超え、歴史的高値を更新しました。国内外の金(ゴールド)の現物価格も、以下の通り、長期視点の高値水準に到達しました。


図:海外金(ゴールド)現物価格と国内地金大手小売価格の推移(1975年1月7日~2025年8月15日)
金(ゴールド)が最高値を更新:長期視点で買い場継続
出所:LBMAおよび国内地金大手のデータを基に筆者作成

 歴史的高値を更新した後は、利益確定の売りが膨らんだこと、米国の関税引き上げをきっかけとした悲観論が後退して主要な株価指数が急反発したこと、トランプ米大統領とプーチン露大統領が会談を行いウクライナ情勢が鎮静化に向けて前進するとの思惑が広がったことなどがきっかけとなり、やや反落しました。


 こうした短期的な高値更新・反落に、米国の金(ゴールド)の輸入関税を巡る報道が関わっていたとの見方もあります。8日に英フィナンシャル・タイムズが同税の引き上げを示唆しました。


 これを受け、米国国内で金(ゴールド)のモノ不足が発生する懸念が広がり、相場に上昇圧力がかかりました。しかし、11日にトランプ氏が「関税を課さない」と述べたことで、モノ不足の懸念が後退して上昇圧力が弱まりました。


 金(ゴールド)相場は、やや反落したとはいえ、長期視点ではまだまだ高水準を維持しています。さまざまな材料がもたらす上下の圧力を受けながら、金(ゴールド)相場は動いているのです。


「悪魔の選択」「禁じられた投資」の意味

 金融業界の一部では、戦争などの不安を強くかき立てる有事は、金(ゴールド)を買うきっかけになると認識されています。いわゆる「有事の金買い」です。1970年代後半に中東で複数の有事が発生した際に、金(ゴールド)相場が高騰したことが「有事の金買い」のシナリオの根拠になっています。


 一方で、有事の金買いは「悪魔の選択」との指摘もあります。日本の金(ゴールド)の第一人者(大変に著名な方です)は、「あくまで、資産運用の主役は株式であり、金(ゴールド)は脇役」「有事に金(ゴールド)を大量買いすることは悪魔の選択」という趣旨のコメントをされています。


 ポイントは「脇役」「大量買い」だと思われます。金(ゴールド)に投資をするのであれば、有事を報じるニュースをきっかけに一度に大量に買うのではなく、あくまで脇役であることに留意しつつ、普段から少量ずつ買い続けていることが望ましい、と指摘されているのだと筆者は受け止めています。


 その意味で、筆者はこの指摘に賛成の立場です。有事を報じるニュースに盲目的になりやすい人々をいさめる、鋭い指摘だと感じます。なぜ、多くの人は、有事発生時に盲目的になりやすいのでしょうか。それは、有事が「分かりやすい恐怖」だからです。


 恐怖は危機を回避したいという欲求を大きくします。分かりやすさは迅速な決定を促します。そこに、1970年代後半の有事多発・金(ゴールド)相場高騰という実例が加われば、「有事の金(ゴールド)の大量買い」が起きやすくなることは、ごく自然なことです。


図:金(ゴールド)投資を巡る悪魔の選択と冷静な投資
金(ゴールド)が最高値を更新:長期視点で買い場継続
出所:日本の金の第一人者のコメントを参考に筆者作成

 ただ、「盲目的」であることは、大いに注意すべきことです。

投資は投資家の判断で行われ、それによって生じた結果は(利益も損失も)、投資家が受け入れるためです。投資の世界にいる金融関係者も投資家も、できるだけ深い思考が必要なのです。盲目的な状態でのさまざまな活動は、できるだけ避けるべきであると、筆者は考えています。


「盲目的に、有事発生時に、金(ゴールド)を大量に買う行為」は、悪魔の選択だと言えます。語気を強め、誤解を恐れず言葉にすれば、そうした行為は、禁じられた投資、「金投資」ならぬ「禁投資」とさえ、言えるのかもしれません。


 金(ゴールド)投資をそうした投資にしないための簡単な方法があります。筆者が提唱する「七つのテーマ」に準じることです。この「七つのテーマ」に準じることで、現代の金(ゴールド)市場の仕組みを簡単に理解できます。


 さらに、そこで得られた知識は、純金積立や投資信託、関連上場投資信託(ETF)・個別株、商品先物、商品差金決済取引(CFD)などの買い方を選択する際の大きな助けにもなります。「七つのテーマ」への理解を深めるために、まずは一つ、問いを立ててみましょう。


3,500ドル台到達は有事だけで起きていない

「3,500ドル台到達は有事だけで起きたのか?」という問いです。冒頭の図のとおり、3,500ドル台に到達するまでの一連の上昇トレンドは、2000年ごろに始まりました。この道中、細かい上下は発生しましたが、大まかには、25年という長い歳月をかけて、3,000ドルもの上昇を演じたと言えます。


 では、25年間、有事が続いたのでしょうか。少なくとも、戦車や戦闘機が頻繁に往来するような、目に見える分かりやすい世界全体に強い不安を振りまく有事は、散発的な発生にとどまり、継続していたとは言えませんでした。


 確かに、米同時多発テロ(2001年)やイラク戦争(2003年)、アラブの春(2011年ごろ)、ウクライナ戦争(2022年)、中東情勢の悪化(2023年)などは発生しましたが、世界全体に強い不安が及んだ状態は、長続きしませんでした。


図:海外金(ゴールド)現物価格の推移(2000年1月5日~2025年8月15日)単位:ドル/トロイオンス
金(ゴールド)が最高値を更新:長期視点で買い場継続
出所:LBMAのデータを基に筆者作成

 また、米湾岸への大規模なハリケーン襲来(2005年)、リーマンショック(2008年)、新型コロナのパンデミック化(2020年)などの広義の有事も発生しましたが、世界全体に強い不安が及んだ状態は、長続きしませんでした。


 世界中の株価指数がしばしばショック級の下落に見舞われることもまた、広義の有事に含まれるという考え方もあります。実際にはそのようなショックも散発的であり、世界全体に強い不安が及んだ状態は、長続きしませんでした。


 つまり全体的に、世界全体に強い不安を及ぼす有事がこの25年間続いたという事実はないと言えます。それゆえ、有事だけで金(ゴールド)相場が3,000ドルを超える上昇を演じた事実もないと言えます。つまり「3,500ドル台到達は有事だけで起きたのか?」という問いへの答えは、「No」です。


 2000年ごろ以降、大規模で分かりやすい有事が長期化しにくくなっている背景には、平和を望む動きが強くなったことや、社会の体制が高度化し、かつ幅広い分野で技術革新が起きたことによって、多方面で有事の影響を軽減する仕組みができたことなどが、挙げられます。


 こうした動きは、有事がもたらす不安を小さくしたり、不安を見えにくくしたり、不安を期待でかき消す動きを強めたり、不安を意に介さない(意識的に遠ざける)人を増やしたりしていると、考えられます。


「3,500ドル台到達は有事だけで起きたのか?」という問いを通じて見えてくることは、現代の金(ゴールド)相場は一つの材料だけで動いていない、ということです。

有事だけに注目した金(ゴールド)投資は、実態の一部しか把握しない、ある意味、「悪魔の選択(≒禁投資)」だと言えるでしょう。


「七つのテーマ」市場環境を簡単に体系化

 筆者は、現代の金相場の動向を説明するため、「七つのテーマ」を提唱しています。七つのテーマは、短中期、中長期、超長期の三つの時間軸で構成されています。


 短中期のテーマは、伝統的有事(戦争やテロなど)、代替資産(株の代わり)、代替通貨(ドルの代わり)の三つ、中長期は新興国の宝飾需要、中央銀行の金(ゴールド)保有、鉱山会社の動向の三つ、超長期は非伝統的有事です。


 2000年代前半は、ドル安傾向が目立ち、代替通貨をきっかけとした金(ゴールド)相場への上昇圧力が強い状態でした。また、新興国の宝飾需要が旺盛でした。金(ゴールド)のETFが登場し、さまざまな投資家が金(ゴールド)にアクセスできるようになったタイミングでもありました。


 これらは、先ほどの図「海外金(ゴールド)現物価格の推移」の(1)で示した、目立った有事がなくても金価格が上昇したことの背景です。


 2010年ごろ以降は、大規模な金融緩和によって法定通貨の価値が希薄化する懸念が高まったことを嫌気し、多くの中央銀行が金(ゴールド)の保有量を増加させたり、世界全体として民主主義が後退し、世界分断が目立ち始めたりしたタイミングでした。これらは、先ほどの図の(2)と(3)で示した、目立った有事がなくても金(ゴールド)価格が上昇したことの背景です。


 こうしたことを考えても、25年間で3,000ドルの上昇を演じた金(ゴールド)相場が、いかに有事だけで上昇していないかが分かります。


図:金(ゴールド)の国際相場に関わる七つのテーマ(2025年8月時点)
金(ゴールド)が最高値を更新:長期視点で買い場継続
出所:筆者作成

 また、七つのテーマと投資商品との関係については、次の通りです。伝統的有事や代替資産、代替通貨に注目して金(ゴールド)投資を行う場合、おのずとその取引は短中期の時間軸を想定することになります。


 この場合、投資商品は金(ゴールド)関連のETF・個別株(短期売買を前提とする)、商品先物や商品CFDといった、機動的な売買ができる商品がなじみやすくなります。


 中央銀行や非伝統的有事に注目して金(ゴールド)投資を行う場合、おのずとその取引は中長期あるいは超長期の時間軸を想定することになります。この場合、投資商品は金(ゴールド)関連のETF・個別株(長期投資を前提とする)、投資信託、純金積立といった、長期投資を行う仕組みがある商品がなじみやすくなります。


 例えば、数年から数十年におよぶ場合がある長期的なプロジェクトである資産形成に金(ゴールド)を用いる場合は、後者に当てはまります。


金の長期上昇トレンドは止まらないだろう

 伝統的有事と非伝統的有事の違いを示します。伝統的有事は、見えやすい、分かりやすい、思考低下の温床という特性があり、「金(ゴールド)は安全資産」「有事の金(ゴールド)買い」というキーワードの根拠でもある、短中期視点のテーマの一つです。


図:伝統的有事と非伝統的有事の例
金(ゴールド)が最高値を更新:長期視点で買い場継続
出所:筆者作成

 物理的な衝突を伴う大規模な戦争・テロ、大規模な金融危機、大規模な自然災害、パンデミックなどがそれに当たります。近年の具体例に、中東情勢不安定化、トランプ関税がもたらす不安、などが挙げられます。


 非伝統的有事は、見えにくい、分かりにくい、否定される場合があるという特性があり、長期視点の金(ゴールド)価格の上昇トレンドを支える、超長期視点のテーマです。


 新しい技術がもたらす「脅威」、新しい考え方がもたらす「混乱」、社会の変革がもたらす「不安」、世界分断がもたらす「混沌(こんとん)」などが同有事を強めています。近年の具体例に、自由民主主義指数の低下、新興国の米国債保有高の減少、などが挙げられます。


 トランプ氏は、さまざまな種類の伝統的有事を同時に振りまいたり、民主主義の後退や世界分断に拍車をかけて非伝統的有事を強めたりしています。時間軸の長短を問わず、かつ複数の有事を同時に提供しているとみられることから、同氏の存在は、有事のデパート、有事製造機、などと言えるかもしれません。


図:海外金(ゴールド)現物価格と国内地金大手小売価格の推移(1975年1月7日~2025年8月15日)
金(ゴールド)が最高値を更新:長期視点で買い場継続
出所:LBMAおよび国内地金大手のデータを基に筆者作成

 筆者は、金(ゴールド)相場は今後、短期的に上下を繰り返しながら、長期視点では上昇トレンドを継続すると考えています。


 中長期のテーマである中央銀行の金(ゴールド)保有、超長期のテーマである非伝統的有事が、今後も上昇圧力をかけ続けると考えているためです。(中央銀行の動向については、以前の「「中央銀行」というクジラとともに金(ゴールド)長期投資」をご参照ください)


▼あわせて読みたい

「中央銀行」というクジラとともに金(ゴールド)長期投資


 仮に、伝統的有事が後退したり、株価指数やドルが上昇したりして、金(ゴールド)相場が下落したとしても、その下落は短期的なものにとどまると、考えています。


 本レポート全体を通じて述べたかったことは、有事以外のテーマに注目するからこそ、金(ゴールド)相場の長期視点のシナリオを描くことができる、ということです。


 金(ゴールド)という、美しく壮大な投資対象への投資を、みすみす、悪魔の選択(≒禁投資)としないためにも、七つのテーマを軸に、投資商品を使い分けていくことが肝要です。


[参考] 貴金属関連の具体的な投資商品例

長期:


純金積立(当社ではクレジットカード決済で購入可能)

純金積立・スポット購入


投資信託(当社ではクレジットカード決済、楽天ポイントで購入可能。以下はNISA成長投資枠対応)

三菱UFJ 純金ファンド
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ゴールド・ファンド(為替ヘッジあり)


中期:


関連ETF(NISA対応)

SPDRゴールド・シェア(1326)
NF金価格連動型上場投資信託(1328)
純金上場信託(金の果実)(1540)
NN金先物ダブルブルETN(2036)
NN金先物ベアETN(2037)
SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)
ヴァンエック・金鉱株ETF(GDX)


短期:


商品先物

国内商品先物
海外商品先物


CFD

金(ゴールド)、プラチナ、銀、パラジウム


(吉田 哲)

編集部おすすめ