8月19日(火曜)のドル/円相場の終値は、前日比0.20円「円高」の147.68円。1日のレンジ幅は0.67円だった。

ジャクソンホール会議を控え、相場はポジション調整が主体の動きとなり、ドル/円は147円台後半で小動きとなった。


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今日のレンジ予測

[本日のドル/円]上値メドは148.40下値メドは147.10円

米経済:世界に対するトランプ関税が10%、対中関税が50%と仮定した場合、米国経済はゼロ成長に
米インフレ:25%関税上昇分を100%転嫁した場合、米国のインフレ率は3.5%上昇
米中貿易戦争:迂回(うかい)輸出を防ぐために米国が中国以外の国に関税の壁を作る
日本銀行:政策金利の最終目標は1.0%
原油価格:米シェール業者が生産中止を検討。原油安で採算合わず


前日の市況

 8月19日(火曜)のドル/円相場の終値は、前日比0.20円「円高」の147.68円。1日のレンジ幅は0.67円だった。パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長にとっては、今回で最後となるジャクソンホール会議の講演を控え、相場はポジション調整が主体の動きとなり、ドル/円は147円台後半で小動きとなった。


 FRBを去ることが確実となったパウエル議長は、今更トランプ政権におもねる必要はない。早期利下げを否定するタカ派的発言が出ることを警戒して、19日のNY株式市場ではハイテク株が急落した。


 投資家が高リスク資産から一時避難する傾向を強める中で、豪ドルも売られる展開なった。豪ドルはリスクオン通貨と見なされているため、株式市場の下落に影響を受けやすい。ただこの動きは、積み上がっていたポジションを減らす動きであって、ヘッジファンドはまだコアの豪ドルロングを維持している模様だ。


リスクオフ!パウエルFRB議長の発言を警戒して豪ドルが急落
出所:MarketSpeed FXより、楽天証券作成

 パウエルFRB議長は利下げに慎重だが、次期FRB議長の有力候補となっているウォラー理事を筆頭にFRB内部のメンバーの一部からは早期利下げを支持する発言がでている。ベッセント財務長官も、政策金利の水準について「1.5%から1.75%低くあるべきだ」と述べ、FRBに利下げ圧力をかけた。


 マーケットはすでに9月の利下げ確率を「100%以上」織り込んでいる。100%以上とは、0.25%より大幅な0.5%の利下げもあり得るということだ。


 FRBは1年前の2024年9月会合で、雇用市場悪化のデータを理由に0.5%の「大幅」利下げをした。しかし、これは政策ミスだったとのちに厳しく批判されている。実際の雇用市場は堅調なままで、しかも勇み足の利下げでインフレを退治するチャンスを逃してしまったからだ。


 FRBが9月に利下げした場合、FRBが政治に忖度(そんたく)したと見なされないように、その正当性を説明できるかどうかは不確実である。マーケットが疑問を抱いたままならば、中期的なドルに対する信頼を貶めることになるだろう。


2025年 主要指標終値

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今日の為替ウォーキング Do You Believe In Love

今日の一言

どうせダメだろうと決めつけることなく、他人と比較せず、やるべきことに心を集中させる


Do You Believe In Love

 その国の経済がうまくいくかどうかは、中央銀行の政策にかかっているといっても良いだろう。新型コロナが流行したときにFRBが世界に先駆けて緊急利下げを実施したおかげで、米国経済はいち早く立ち直ることができた。しかし、その代償として深刻を極めるインフレに見舞われることになった。


 FRBは現在、利下げを巡って二つの政策アプローチの間で揺れ動いている。伝統的にFRBは、 金融政策を決定するにあたって、「フォワード・ルッキング(Forward Looking、先読み)」型アプローチをとってきた。


 これは、過去の経済データを基に将来の経済状況を予測して、政策を事前に調整する方法である。例えば、インフレ率や失業率、経済成長率などが今後どう変化するかを予測し、それに基づいて金利の引き上げや引き下げを判断するのだ。


 そして、将来の政策方針を「フォワード・ガイダンス(Forward Guidance、政策ガイダンス)」という形で前もって発信することで、FRBは市場の期待を形成する、あるいは経済の方向づけをするなど、柔軟かつ機動的な政策を行うことを可能にした。このアプローチは、中央銀行の先読みが正しいことが大前提になっている。


 新型コロナ流行後に猛烈なインフレが米国を襲ったとき、FRBは、「インフレは一過性で終わる」というフォワード・ルッキングの過信によって、利上げを1年近くも拒否し続けた。


 ところがFRBの先読みに反してインフレの暴走は止まらず、最終的には急で険しく大幅な利上げに追い込まれることになった。これを契機として、中央銀行が経済の「予知能力」を持っているという神話は脆くも崩れ去ったのだ。


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 この痛恨の政策ミスの結果、FRBは政策運営を「フォワード・ルッキング」から現在「データ依存(Data Dependent)」型アプローチへ切り替えることにした。予言であるフォワード・ガイダンスも廃止された。


「データ依存」とは、経済が実際に悪化してから対応する方法で、「フォワード・ルッキング」が先回り的アプローチだとするならば、こちらは事後的なアプローチといえる。「データ依存」型アプローチでは、利下げや利上げは、明確なデータがそろうまで見送られることが多い。


 中央銀行の主観が入り込む余地は狭まる半面、経済が悪化した後に対応することになるので、迅速性には欠ける。


 7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)会合では、6月雇用統計などのデータが堅調だったため、「データ依存」型アプローチによって、利下げは見送りの判断になった。しかし、7月雇用統計で明らかになった減速には対応が間に合わなかった。

もし「フォワード・ルッキング」型アプローチを使っていれば、利下げを決断していたかもしれない。


 FOMCで「利下げ」か「据え置き」かで、参加者の見解が分かれた背景には、政治的雑音はともかくとして、「フォワード・ルッキング」と「データ依存型」のアプローチの違いが主な理由だと推察される。


(荒地 潤)

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