日本CPIとジャクソンホール会議が8月22日に開催されます。レンジ相場のドル/円は円高に動くのか。

ほかにも雇用統計への懸念や米露会談の交渉の行方など、ドル/円に影響を与える要因に注目していきます。


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8月22日:日本CPIとジャクソンホール会議。円高に動くか?

 先週、注目されていた米国の7月物価指標、消費者物価指数(CPI)と卸売物価指数(PPI)がまちまちな結果となったことから相場は動きづらくなりました。


 12日発表の米7月CPIは、前年比+2.7%と前月と同じで、前月比+0.3%も予想ほど上昇しませんでした。一方でコアCPIは前年比+3.1%と予想を上回りましたが、トランプ関税の影響は懸念していたほど消費者に転嫁していないと市場は捉えたため次回9月の利下げ観測が強まり、148円台前半から147円台半ばまで円高にいきました。


 13日にはベッセント米財務長官の日米金融政策に関する発言(米連邦準備制度理事会(FRB)は1.5~1.75%の利下げ余地、日本銀行は利上げの遅れを指摘)によって147円台前半まで円高にいきました。


 しかし、14日発表の米7月PPIが前月も予想も上回る、3年ぶりの大幅上昇となったことから米金利が上昇し、年内の大幅な利下げ期待が後退したため、ドル/円は148円手前まで円安にいきました


 ところが、15日発表の日本の4-6月期国内総生産(GDP)実質年率速報値が+1.0%と予想(+0.4%)以上の伸びとなったため、日銀の利上げ期待が高まり、147円近辺まで円高にいきました。


 このように、日米中央銀行が注視していたトランプ関税の不確実性も後退しつつある中で、まちまちな結果となった米国CPIとPPI、日本のポジティブサプライズのGDPなどのドル高、ドル安、あるいは円安、円高の両サイドの要因が出たためドル/円は動きづらい相場となったようです。


 ドル/円は147円台を中心に146円台半ばから148円台半ばのレンジで推移しており、22日のジャクソンホール会議でのパウエル議長の講演待ちとなっている状況です。それまでは、まだしばらくこのレンジは続きそうです。


 22日には、日本の7月CPIも発表予定(午前8時30分)なので注目です。日本のCPIは低下予想(3.0%、6月は3.3%)となっていますが、4-6月期GDP(1.0%)が予想を上回る結果となったため、CPIが大きく低下しなければ、日銀の経済・物価の見通し(2025年度GDP0.6%、CPI2.7%)に沿っていることから利上げ期待が高まり、円高に動く可能性があります。


 そしてその日の午後11時(日本時間)にジャクソンホール会議でパウエル議長の講演が予定されています。ジャクソンホール会議でのFRB議長の発言は、その後の金融政策の方向を示唆する内容が多いため、毎年注目されています。


 昨年は8月23日のジャクソンホール会議で、「利下げの時が来た(Time Has Come for Fed to Cut Interest Rates)」と発言し、9月利下げを示唆したため、円高に動きました。


 今年は外堀を相当埋められているパウエル議長が、9月利下げや0.50%の大幅利下げを示唆するような発言をするかどうかが注目されていますが、パウエル議長は政権に対しては忖度(そんたく)しないと予想されます。


 一方で、現実には7月分の雇用統計で労働市場の悪化が示されたことから、「雇用の最大化」に軸足を移し、政策変更を急がない姿勢を修正することも予想されます。市場は利下げ示唆がなくても姿勢修正で9月利下げを期待し、ドル安は起こる可能性があります。


 ただ、22日を通過しても146円を下回らなければ、9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)までレンジを抜け切れない展開になる可能性もありそうです。


 パウエル議長は7月のFOMCで、9月の利下げについてはデータ次第と述べ、雇用や物価の経済指標の動向を重視する考えを強調しましたが、米CPIのデータ収集への懸念や米雇用統計の事業所調査の回収率懸念も話題になっていることから、パウエル議長もかなり政策判断に悩むことが予想されます。


 これらの懸念とは以下の背景ですが、これらのことを留意してジャクソンホール会議でのパウエル議長の講演に臨む必要がありそうです。パウエル議長は9月発表の雇用、物価データを確認するまでは慎重姿勢を維持する可能性もあるからです。


揺れる米雇用統計、大幅下方修正の背景

 7月CPIは予想ほどトランプ関税の影響を受けていないと市場は解釈しましたが、CPIのデータ収集については、予算と人員削減で一部地域でのCPI項目のデータ収集が部分的に停止され、統計の内容に対する懸念が高まっているとのことです。


 また、雇用統計調査は3カ月かけて回収しますが、その回収率は速報値段階で70%程度、改定値段階で90%程度、確報値段階で100%の回答率とのことです。

しかし、最近では速報値段階での回収率が調査人員の削減などにより60%を下回ることが繰り返されているとのことです。


 米7月雇用統計の非農業部門雇用者数が+7.3万人と予想10~11万人を下回り、さらに過去2カ月分が▲25.8万人と大幅下方修正となったことは予想外の出来事でしたが、大幅な下方修正の背景にはこのような事情があるようです。


 トランプ大統領は、この雇用統計の結果を受けて労働省の労働統計局長の解任を命じました。そして以前から労働統計局の雇用統計の収集方法を批判してきたE・J・アントニー氏を労働統計局長に指名しました。


 アントニー氏は、毎月の雇用統計発表を停止し、データ収集の問題が是正されるまで四半期ベースに切り替えることを提案しましたが、毎月発表される数字の振れが大きくなり、それによって金融市場が揺さぶられることを考えると、同氏の主張には一理あるようです。


 労働統計局の雇用統計の事業所調査は、非農業部門(Non Farm)約12万社の給与明細(Payroll)でのサンプル調査で集計されるとのことですが、民間調査会社ADP社の雇用統計は全米約50万社、約2,400万人の給与データを基に、非農業部門雇用者数の先行指標として、雇用統計の2営業日前に公表されています。


 ADP社の2025年1-7月の月平均は+8.38万人となっており、7月に大幅に下方修正された後の非農業部門雇用者数の平均+8.50万人に近い数字となっています。ADP雇用統計もよく振れる数字ですが、今後は平均値として参考にするとよいのかもしれません。


 8月15日の米露首脳会談(日本時間16日未明)は、15日ということもあり、かなり注目していましたがプーチン大統領の思惑通りに進んだとの見方が多いようです。欧州への不満に対するプーチン大統領のガス抜きという見方もありますが、しかし、その後異例の早さでホワイトハウスに集結した欧州各国の対応には驚きました。


 ロシアの再侵略を防ぐ「安全の保証」や領土問題で各国の認識と思惑にはズレがあり、今後の交渉の難航が予想されますが、米国が「安全の保証」に関与すると明言したのはかなりの前進です。


 欧州各国も評価しており、この機に一気に停戦もしくは和平合意にもっていきたい思いは同じだと思われます。


 ロシア・ウクライナ首脳会談が2週間後に調整されているとのことですが、ノーベル平和賞を熱望しているトランプ大統領が、もうひと踏ん張りするのかどうか注目したいと思います。合意に至れば、ユーロ買い、ユーロ/円上昇(円安)、ドル/円も円安につられる可能性がありそうです。


(ハッサク)

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