投資において「損切り」は重要ではあるものの、多くの投資家が後回しにしがちな判断の一つである。いつか株価が戻るのではないかという期待は、時に資産を大きく減らす原因となる。

「損切り」は失敗の証明ではなく、資金を守り、より良い機会に資本を振り向けることである。


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「損切り」は資金を守り、より良い機会に資本を振り向ける前向きな投資行動

 著名投資家ウォーレン・バフェット率いる投資会社 バークシャー・ハサウェイ(BRK.B) が15日、米証券取引委員会(SEC)に2025年6月末時点の上場株ポートフォリを報告するフォーム13Fを開示した。


 保有していた T-モバイル・US(TMUS) の株式を全て手放す一方、米住宅建設の DRホートン(DHI) 、米鉄鋼最大手 ニューコア(NUE) 、 ユナイテッドヘルス・グループ(UNH) を含む5銘柄を新たに取得した。保有する上場銘柄数は37と3カ月前から4銘柄増加した。


 5月にバークシャーが提出したフォーム13F(2025年3月末時点のポジション)には特記事項として、「機密扱いとしている一つまたは複数の保有銘柄をこの公開フォーム13Fから除外している」ことが記されていた。


 6月末時点でバークシャーが保有しているユナイテッドヘルス株は約15億ドル相当(約504万株)、ニューコア株は約8億ドル相当(約661万株)、DRホートン株は約2億ドル(約149万株)だった。


DRホートン(週足)


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(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

 ユナイテッドヘルスは米国の主要指数であるダウ工業株30種平均を構成する1社である。公的医療保険の不正疑惑や業績悪化などにより、株価は年初から4割ほど下落している。昨年12月には保険部門の最高経営責任者(CEO)がニューヨーク市内で射殺されたほか、今年5月には司法省の調査を受けているなどの悪材料が続いた。


 バークシャーによる株式取得は短期的に株価が反転する材料となっている。直近の株価収益率(PER)は13倍程度、配当利回りは約3%だ。


ユナイテッドヘルス(週足)


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(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

 ニューコアは「配当貴族銘柄」の一つで、1973年以降、50年余りにわたり連続増配を行っている。今回、新たに取得された5銘柄を見ると、保険や鉄鋼、住宅関連といった従来型の安定した事業を営む企業への投資が中心で、長期的な価値上昇を見込んだ、いわゆる「バフェットらしい逆張り」投資だとの指摘もある。


ニューコア(週足)


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(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

バークシャー・ハサウェイの2025年6月末時点の保有銘柄と3月末時点の保有銘柄


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出所:フォーム13Fより石原順作成

 一方、保有上場株としてバークシャーの最大投資先である アップル(AAPL) 株については、保有株式数を3月末比で7%減らした。株数にして2,000万株を削減、6月末時点の保有高は2億8,000万株だった。アップル株の売却は3四半期ぶりとなる。


アップル(週足)


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(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

バークシャー・ハサウェイの2025年6月末時点(上)と3月末時点(下)の保有銘柄上位10社


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バークシャー・ハザウェイの2025年6月末時点の保有銘柄上位10社

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出所:フォーム13Fより石原順作成

 バークシャーは今月2日に2025年第2四半期決算を発表した。「キャッシュフロー計算書」によると、株式の取得額が39億900万ドルだったのに対し、売却額は69億1,500万ドルと、30億600万ドルの売り越しだった。保有株数を増やす一方で、残高全体については11四半期連続の売り越しとなった。


バークシャーの株式売買動向:11四半期連続の売り越し


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出所:フォーム13Fより石原順作成

 また、この四半期に保有する クラフト・ハインツ(KHC) 株の減損処理を行った。バークシャーは2013年にブラジル系のファンド、3Gキャピタルと組み、旧ハインツを買収し、非公開化した。


 その後、ハインツが2015年に旧クラフト・フーズと合併する際にも主導的な役割を担った。ハインツは主力商品のケチャップで高いブランド力を持っており、当時、 コカ・コーラ(KO) と同様に、景気変動の影響を受けにくい消費財ブランドでバフェット好みだといわれていた。


 日本経済新聞の8月5日の記事「バフェット氏『損切り』のなぜ 継承準備か大勝負へ布石か」は、バフェットが2019年に米メディアに対し、合併の相乗効果を見誤り「ハインツにカネを払いすぎた」と吐露したことを取り上げた。


 一方で、今回の大型減損を経て保有株を全て手放すとの観測が上がっていると報じた。

年末のCEO退任が近づく中、失敗事例を損切りし、懸案事項に片を付けているという。


 バフェットは、一般的なバリュー投資家としてのイメージとは異なり、実際には買った銘柄の3分の2を5年以内に売却するなど、「短期(短気)」投資家としての側面もある。


 投資において「損切り」は重要ではあるものの、多くの投資家が後回しにしがちな判断の一つである。いつか株価が戻るのではないかという期待は、時に資産を大きく減らす原因となる。「損切り」は失敗の証明ではなく、資金を守り、より良い機会に資本を振り向けることである。バフェットはこれまで航空会社の株式や IBM(IBM) を大幅な損失で手放したことがある。


現金は困難な時期を乗り切るための戦略的な資産

 6月末時点のバークシャー・ハサウェイの現金同等物に米短期債の保有額を合わせた広義の手元資金は3,440億ドルだった。3カ月前に比べて1%減ったものの、一年前に比べると2割以上多い水準だ。前述の通り、株式の売り越し傾向を継続させる中、手元資金は高水準に積み上がっている。


バフェットの現金残高とNYダウの推移


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出所:各種データから石原順作成

 その内訳を確認してみよう。手元資金のうち、約70%に相当する2,436億ドルが米短期債で保有されている。前の四半期に比べて2割近く減少(625億ドル減少)している。前の四半期は全体の約88%に相当する3,055億ドルが米短期債で保有されていた。


 直近の米短期債の利回りは4%台の前半だ。バークシャーが保有している短期債が3カ月物なのか6カ月物なのか詳細は不明であるが、単純に4%の利回りだと仮定すると、保有する短期債から年間、約97億ドルの金利収入が入ることになる。1ドル=147円で換算すると1兆4,288億円である。


 インベストピアの8月6日の記事「Why Warren Buffett's Berkshire Hathaway Now Owns More Treasury Bills Than the Federal Reserve(なぜウォーレン・バフェットのバークシャー・ハサウェイは、FRBよりも多くの国庫証券を保有しているのか)」によると、米連邦準備制度理事会(FRB)の短期国債保有額は2025年7月時点で1,950億ドルということだ。


 バークシャーはFRBが保有するよりも多くの短期債を一民間企業として保有している。


バークシャーが保有する現金残高の内訳


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出所:フォーム13Fより石原順作成

 一方、現預金残高については、前四半期は421億ドル(全体の約12%)だったのに対し、6月末時点で約1,004億ドルと2.4倍に拡大している。バフェットの膨大なキャッシュポジションは、「適切な機会が訪れるまで流動性を維持する」という長年の戦略を部分的に反映しているといえる。


 その中でも短期債の保有を減らし、現預金を2倍余りに拡大している。また、同時にバークシャーが短期債市場を大きく左右し得るだけの存在になっていることを指摘しておきたい。


 次期CEOとなるグレッグ・アベルは、5月に開かれたバークシャーの年次株主総会において株主から巨額の現金ポジションについて質問され、「(多額の現金は)戦略的な資産であり、これによって困難な時期を乗り切り、誰にも依存せずにいられる」と答えている。


 バークシャーの株価は5月に高値をつけたのち、直近は調整局面入りしている。しかし、金融市場の不確実性、不透明感が高まるような場面があれば、このバークシャーの手元資金は再評価されることになるだろう。


バークシャー・ハサウェイB株(週足)


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(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

 バフェットは、「バリュー投資の父」と呼ばれる経済学者のベンジャミン・グレアムからコロンビア大学で教えを受けた。このためバフェットは師に倣い、一般的には割安株を長期に保有する「バリュー投資家」であると考えられている。


 投資に関するバフェットの名言は数多く伝えられているが、二つのシンプルなゴールデンルールがある。それは「第1ルール、損しないこと。第2ルール、第1ルールを忘れるな」である。


 今回の新規投資は、「他人が貪欲なときは恐れ、他人が恐れているときは貪欲になれ」というバフェット流投資を一部実践しているということになる。オマハの賢人は次のチャンスを見つけたときに、大きな買い物をし、資本を迅速に投下するためのオプションを持っている。


 いつの時代もそうであるように、行き過ぎた株価の戻りは起こるものだ。そのような混乱が起きたとき、バフェットには現金を利用する準備が整っている。


 史上最高の投機家と呼ばれたジェシー・リバモアは、「株取引には、楽に金がもうかるといった印象があり、人を魅了するが、愚かで安易な考えから相場に手を出せば、簡単に全てを失ってしまう。無知の対極にある知識は、大きな力となる。無知を警戒せよ。

学習、研究をしっかり行うこと。遊び半分ではなく、本腰を入れて取り組まなければならない」と語った。


 相場を事業として続けていくには「防御」が必要となる。相場は「もうけたい、当てたい、勝ちたい」という欲望のゲームとして始まるが、お金がなくなったらゲームオーバーとなる。すなわち、資産管理(asset management)のゲームとして終了する。


8月20日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」

 8月20日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」は、荒地潤さん(楽天証券FX・CFD事業部)をゲストにお招きして、「ドル安かドル高か?ジャクソンホール後の為替市場」「長期金利と日銀の市場介入」「ベッセント発言の背景とドル安誘導」というテーマで話をしてみました。ぜひ、ご覧ください。


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  ラジオNIKKEIの番組ホームページ から出演者の資料がダウンロードできるので、投資の参考にしていただきたい。


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8月20日:楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー 画像

8月20日:楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー


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