近年、金(ゴールド)に投資をする人が増えています。どんなきっかけで金(ゴールド)投資を始められたのかを伺うと、しばしば「株と逆相関だから」という返答を頂きます。

「逆相関」は重要なテーマですが、それだけではありません。逆相関以外のテーマにも関心を寄せることで、金(ゴールド)の大きな魅力を実感することができます。


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金(ゴールド)市場で伝統的材料と非伝統的材料が両立

 以下は、筆者が提唱する金(ゴールド)市場に関わる七つのテーマです。これらのテーマをまんべんなく意識することで、金(ゴールド)を、短期売買にも長期の資産形成にも、上手に用いることができます。


図:金(ゴールド)の国際相場に関わる七つのテーマ
金(ゴールド)投資の常識を疑え:「株とは逆相関」の真偽に迫る
出所:筆者作成

 七つのテーマは、短中期、中長期、超長期の三つの時間軸に分けられます。有事(伝統的)、代替資産、代替通貨の三つは短中期、宝飾需要、中央銀行、鉱山会社の三つは中長期、有事(非伝統的)は超長期に分類できます。


 金(ゴールド)は、戦争や金融危機など、目に見える分かりやすい恐怖である有事(伝統的)が発生した際に、資金の逃避先として注目されたり、株価が急落しているときに代替資産として注目されたり、ドルが急落しているときに代替通貨として注目されたりします。


 これらはいずれも、金(ゴールド)が、伝統的に世界の金融システムの一部に組み込まれていることを示唆するものです。金融システムが先行して発達した先進国が深く関わる「伝統的材料」と呼ぶことができます。


 また、中国やインドなどの新興国の個人が2000年序盤から中盤にかけて金(ゴールド)に対して旺盛な需要を示したり、中央銀行が世界全体の変化を見越すように全体として2010年ごろから現在まで金(ゴールド)の保有高を増やし続けていたり、しばしば鉱山会社が金(ゴールド)価格の上昇を見込んで売りヘッジ(値下がりに対する保険の意味)を解消したりしています。


 さらには、2010年ごろ以降、自由度・民主度を示す自由民主主義指数(スウェーデンのV-Dem研究所公表)の世界平均が急に低下し始めたり、非西側の超大国である中国の米国債保有残高が急に減少し始めたりするなど、世界の分断深化やドル覇権崩壊への懸念が強まっています。


 これらの多くは、新興国の台頭が何らかのきっかけとなり、2000年ごろ以降に発生した比較的新しい世界的な変化です。巨大な影響力を持つようになった新興国が深く関わる「非伝統的材料」と呼ぶことができます。


 下のグラフの通り、金(ゴールド)相場に対し、伝統的材料は短中期の上下、非伝統的材料は中長期の上下および超長期の底値切り上げという影響を及ぼしていると、考えられます。


図:海外金(ゴールド)現物価格と国内地金大手小売価格の推移
金(ゴールド)投資の常識を疑え:「株とは逆相関」の真偽に迫る
出所:LBMAおよび国内地金大手のデータを基に筆者作成

伝統が織りなす短期視点の株高・金(ゴールド)高

 伝統的材料による値動きの例を確認します。主要国の財務大臣が一堂に会する年に一度の会合「ジャクソンホール会合」で、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が講演を行った時間帯前後の値動きです。2025年は8月22日の夜(日本時間)でした。


 米国では、2023年の年末ごろから利下げ(金利の誘導目標の引き下げ)の議論が始まりました。足元、各種市場が2025年の残りの三回の会合(米連邦公開市場委員会:FOMC)で、利下げを期待していることは、金利先物市場で算出された利下げ確率が高水準を維持していることからうかがえます。


 利下げは、個人や企業の資金調達を容易にする景気回復策、という側面を持っています。このため、ジャクソンホール会合内での講演でパウエル議長が利下げを肯定する発言をすることが期待されていました。


 実際にパウエル氏は、雇用情勢が悪化してリスクが高まる場合、「政策の方向性の調整が正当化される可能性がある」という趣旨の発言をし、今後、雇用関連の統計を見つつ、利下げを進める可能性を示唆しました。そして下のグラフのとおり、パウエル氏の発言を好感し、米国の主要株価指数の一つであるS&P500種指数は急上昇しました。


図:パウエル議長の講演時間前後の金(ゴールド)とS&P500の動き
金(ゴールド)投資の常識を疑え:「株とは逆相関」の真偽に迫る
出所:マーケット・スピードIIより筆者作成

 金(ゴールド)相場もS&P500とほぼ同じタイミングで、ほぼ同じ程度の上昇を演じました。だいぶ昔、「株と金(ゴールド)は逆相関」といわれた時期がありましたが、現代の金(ゴールド)相場は必ずしもそうとは言い切れないことが分かります。


 今回発生した「株高・金(ゴールド)高」は、以下の図で示した経路をたどって起きたと考えられます。

各種市場が利下げを大いに期待する環境で、パウエル議長がそれを示唆したことで、市場のムードは利下げに傾きました。


 これを受け、ドル指数(複数の主要国通貨に対する米ドルの強弱を示す指標)が大きく下落し、この大幅なドル安が、金利が付かない金(ゴールド)のデメリットを低下させたり、米ドルに対する金(ゴールド)の価値が向上する観測を浮上させたりしました。


 同時に、世界全体における米ドルの信認低下・価値希薄化懸念が生じ、金(ゴールド)の代替通貨としての存在感を高めました。


図:FRBの利上げ時・利下げ時の国内外の金(ゴールド)相場への影響
金(ゴールド)投資の常識を疑え:「株とは逆相関」の真偽に迫る
出所:筆者作成

 株価指数が急上昇し、代替資産をきっかけとした下落圧力がかかる中、利下げ示唆をきっかけとした強い上昇圧力がその下落圧力を相殺し、金(ゴールド)価格は上昇しました。


 また、円建て金(ゴールド)相場は、世界標準のドル建て金(ゴールド)相場の上昇を受けて上昇圧力がかかる中、ドル安と同時に発生した円高が下落圧力をもたらし、これらが相殺されてほぼ横ばいでした。


 現代の金(ゴールド)相場は、短期的に見れば、伝統的材料がもたらす複数の上下の圧力が連続的に相殺され動いていると言えます。一つの材料のみで動いていない、上下の圧力が混在している、それらの圧力が連続的に相殺されていることが、この例から分かります。


非伝統が呼び起こす長期視点の株高・金(ゴールド)高

 非伝統的材料による値動きの例を確認します。以下のグラフは、1990年から足元までの、長期視点のS&P500と金(ゴールド)相場の推移を示しています。長期視点で見れば、「株高・金(ゴールド)高」です。


 もし逆相関なのであれば、S&P500が急騰すればするほど、金(ゴールド)は急落しなければなりません。実際は、そのような急落は起きていません。


図:S&P500と金(ゴールド)相場の推移
金(ゴールド)投資の常識を疑え:「株とは逆相関」の真偽に迫る
出所:世界銀行、ブルームバーグ、Investing.comのデータを基に筆者作成

 2000年ごろ以降の、長期視点の「株高・金(ゴールド)高」は、以下の図で説明できます。

2000年ごろからリーマンショック発生(2008年)ごろまで、中国やインド、中東諸国といった新興国の個人の金(ゴールド)買いが膨らみました。


 宝飾需要自体は伝統的な需要の一つですが、目立って需要が増えたことを考慮すると、比較的新しいテーマ(非伝統的材料)と考えることができます。


 2010年ごろ以降は、景気悪化や価格(購入時の単価)が高騰したことで買いにくくなったことを受け、新興国の個人による宝飾需要は鳴りを潜めました。しかし、中央銀行が全体として買い越しに転じたことや、世界の分断深化やドル覇権の崩壊懸念などが目立ち、有事(非伝統的)が目立ち始めたことが長期視点の上昇圧力をかけ始めました。


 もちろん、株価が同時に上昇していたため、代替資産をきっかけとした下落圧力が断続的に発生していました。しかし、非伝統的材料が、そうした下落圧力を相殺して余りある上昇圧力を提供し続けてきました。だから、長期視点で「株高・金(ゴールド)高」が起き得たのです。


図:2000年ごろ以降のドル建て金(ゴールド)相場を巡る環境
金(ゴールド)投資の常識を疑え:「株とは逆相関」の真偽に迫る
出所:筆者作成

 短期的の順相関の箇所で述べた、一つの材料のみで動いていない、上下の圧力が混在している、それらの圧力が連続的に相殺されていることは、長期視点の値動きにも当てはまります。


非伝統の台頭を示す二つのデータに注目

 以下は、非伝統的材料の一つである「中央銀行」、および「有事(非伝統的)」に関わるデータです。以下の通り、2010年以降、中央銀行の金(ゴールド)の買い越し量(購入量-売却量)は、全体としてプラスを維持しています。特に2022年以降は過去最高水準が続いています。


 ワールド・ゴールド・カウンシルの資料によれば、先進国の中央銀行は金(ゴールド)を「歴史的地位」を有する資産と見なし、保有する外貨準備高の一部に金(ゴールド)を含めることを前向きに考えていることがうかがえます。


 また、新興国の中央銀行は、危機発生時のパフォーマンス、インフレへの対応、制裁時の対応、などを目的として同準備高に金(ゴールド)を組み入れていることがうかがえます。


図:中央銀行による金(ゴールド)買い越し量の推移 単位:トン
金(ゴールド)投資の常識を疑え:「株とは逆相関」の真偽に迫る
出所:ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)の資料を基に筆者作成

 同じ中央銀行でも、先進国と新興国とで一部、保有する動機に差があれども、金(ゴールド)を重視する姿勢に変わりはありません。世界全体の分断深化や新興国の米国離れ・ドル覇権の崩壊懸念などが、こうした流れを加速させていると考えられます。


 世界分断の深化やドル覇権崩壊懸念は、超長期のテーマである「有事(非伝統的)」に関わる重要な要素です。以下のグラフは、2010年ごろ以降、自由民主主義指数(世界平均)が低下し、世界規模の分断が深まり始めたこと、新興国の超大国である中国の米国債保有残高が減少し、新興国の米国離れやドル覇権崩壊懸念が浮上し始めたことを示しています。


 以前のレポート「【徹底比較】金、プラチナ、銀、銅…それぞれの魅力は?」で述べたとおり、世界規模の分断は長期化する可能性があります。つまりそれは、世界分断が拍車をかける「中央銀行」の金(ゴールド)買いや、中国の米国債保有残高の減少が、今後も長期視点で継続する可能性があることを示唆しています。


▼以前のレポート

【徹底比較】金、プラチナ、銀、銅…それぞれの魅力は?


図:自由民主主義指数(世界平均)と中国の米国債保有残高
金(ゴールド)投資の常識を疑え:「株とは逆相関」の真偽に迫る
出所:米国財務省およびV-Dem研究所のデータを基に筆者作成

短期売買は伝統、長期資産形成は非伝統で

 先ほどの「伝統が織りなす短期視点の株高・金(ゴールド)高」の箇所で述べたとおり、FRBの金融政策は金(ゴールド)相場に、大変に大きな影響を与えます。以下は短期視点の、株と金(ゴールド)の値動きの関係を示しています。


 短期視点の株と金(ゴールド)の関係が、逆相関になりやすいか順相関になりやすいかは、各種市場の最も大きな関心事が、景気動向か(FRBの)金融政策かで決定すると言えそうです。材料の頂点が金融政策であれば、伝統的材料が上下の圧力を発生させ、それらが相殺され、その結果、短期的な「株高・金(ゴールド)高」が発生する可能性が高くなるでしょう。


 2010年ごろから、中央銀行が大規模な緩和策を講じると、株式市場が大いに上昇する場面が散見されています。逆に、引き締め策を講じると悲観的ムードが漂います。それほどまでに、緩和的な金融政策は、株式市場にとって重要なのです。

それ故、2010年ごろから、金融政策が材料の頂点に君臨し続けているのです。こうした状態は今後も継続すると筆者は考えています。


図:株と金(ゴールド)の値動きの関係
金(ゴールド)投資の常識を疑え:「株とは逆相関」の真偽に迫る
出所:筆者作成

 また、以下は伝統的材料、および非伝統的材料がなじむと考えられる、金(ゴールド)の売買戦略および投資商品を示しています。


 短中期的な時間軸の材料である伝統的材料に着目した取引では、機動的な売買が可能な金(ゴールド)関連の個別株・上場投資信託(ETF)(どちらも短期売買が前提)、先物、差金決済取引(CFD)がなじみます。


 中長期・超長期的な時間軸の材料である非伝統的材料に着目した取引では、積み立ての設定ができる投資信託や純金積立、楽天証券のサービスである「かぶツミ®」や「米株積立」を用いた金(ゴールド)関連の個別株・ETFがなじむと考えられます。


図:金(ゴールド)関連の投資商品および戦略・材料
金(ゴールド)投資の常識を疑え:「株とは逆相関」の真偽に迫る
出所:筆者作成

 本レポートでは、近年の金(ゴールド)市場において、「株との逆相関」が起きていない例を確認しました。逆相関は「分かりやすい」ため、耳目を集めるキーワードになり得ますが、近年は、必ずしも金(ゴールド)と株の動きは逆相関とは言えません。


 一つの材料のみで動いていない、上下の圧力が混在している、それらの圧力が連続的に相殺されていることは、短期視点でも長期視点でも、金(ゴールド)相場の動きを説明する際に大いに役立ちます。


 分かりやすさにとらわれず、冷静な判断ができるようになると、金(ゴールド)投資の面白さが倍増するのではないかと、筆者は考えています。


[参考] 貴金属関連の具体的な投資商品例

長期:


純金積立(当社ではクレジットカード決済で購入可能)

純金積立・スポット購入


投資信託(当社ではクレジットカード決済、楽天ポイントで購入可能。以下はNISA成長投資枠対応)

三菱UFJ 純金ファンド
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ゴールド・ファンド(為替ヘッジあり)


中期:


関連ETF(NISA対応)

SPDRゴールド・シェア(1326)
NF金価格連動型上場投資信託(1328)
純金上場信託(金の果実)(1540)
NN金先物ダブルブルETN(2036)
NN金先物ベアETN(2037)
SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)
ヴァンエック・金鉱株ETF(GDX)


短期:


商品先物

国内商品先物
海外商品先物


CFD

金(ゴールド)、プラチナ、銀、パラジウム


(吉田 哲)

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