AIをテーマとする相場は、超グロース銘柄がけん引する「速い潮流の上の荒波」と心得て臨もう。バブルと言わないまでも、フロス(小さな泡)めいた事例が見られる。

破裂に巻き込まれると、ダメージは小さくない。潮目リスクに備える上で、自身の投資の操縦術が「大型船」「中型船」「小型モーターボート」のどれなのか、イメージしてほしい。


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※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の田中 泰輔が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 田中泰輔のマネーは語る:【米国株】AI相場クラッシュ講座 」


サマリー

●AI相場は、バブルの様相を含む荒波であることを、まず心して臨むべき
●著名投資家バフェット氏は、小回りできない大型船のように、現金比率を高めて潮目に備えている
●筆者は、荒波を楽しむ小型モーターボートを操縦する視座で、潮目リスクの回避を心掛けている


現金比率を高めるバフェット氏

 世界的に著名な投資家ウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイ社は、投資資産に占める現金(現預金と米短期国債)比率を一時25%以上と、近年の最高水準に引き上げています。


 彼らは、割安な優良株への投資を是としています。ここ数年の人工知能(AI)をテーマとする超グロース相場は、基本的に割高に推移しがちです。彼らの投資スタンスには沿わないため、AI相場には一定の距離を置いていることがうかがわれます。


 さらにAI銘柄とのリバランス(変化した保有資産の比率を調整すること)で、他の一般銘柄も相場は堅調でした。こうして、彼らの投資尺度からすると新たに買える銘柄を見いだすことが困難になっていきました。


 投資の達人とされる同社が、保有する株式の比率を下げ、現金比率を高めていることを、AI相場の先行き警戒の代表例であるかのような見方をされることもあります。そうした解説記事を見聞きして、「AI相場は大丈夫か?」と気になる読者もいるでしょう。


新パラダイム相場

 AIは人類にとって新しい時代をもたらす大テーマと言えます。その相場は、「超」のつくグロース銘柄がけん引するだけに、将来生み出される巨大な価値を織り込んで、夢、あるいは貪欲のバブルを膨らませやすいことは否定できません。


 かつて、2000年前後になりますが、ITバブル、ドットコムバブルと呼ばれる大相場がありました(図1)。インターネットの広がりで、新しい時代が開けるとの期待が暴走しました。「ネット」や「ドットコム」といった言葉が社名に付くだけで、投資マネーが殺到し、相場を祭り上げました。ナスダック総合指数の全体ベースで、予想株価収益率(PER)は3桁倍に高伸しました。


図1:ナスダック指数 1995~2005年
米国株 AI相場のクラッシュに備えるレッスン
出所:Bloomberg

 以下の図2は、このITバブル相場の進行と反落の過程を教訓として整理されたパターンを、記憶をたどってまとめたものです。図1と照らし合わせてみてください。相場の上昇に弾みがつくと、上がれば上がるほど、新技術で新たなパラダイムの時代が到来したという考え方が強化され、信念や信仰めいたものになっていきます。


図2:新パラダイム相場の展開イメージ
米国株 AI相場のクラッシュに備えるレッスン
出所:各種資料より田中泰輔リサーチ作成

 速く高い相場は、投資家の貪欲さをあおり、大量のマネーの流入を招き、さらに相場を高めることで、その信念を信じ難いほど強化し陶酔状態を招きます。しかし、速く高い相場で積み上がった過大なロング・ポジションは、売り逃げの潜在的圧力でもあります。


 この圧力が実際に現れると、相場は急落し、投資家は恐怖に襲われ、買い控えとさらにパニック的な売り急ぎで、過剰な下落にもなります。この相場急落を追認し、夢破れて新パラダイムの信仰が崩壊すると、その後の相場は新技術が生み出す価値について、より現実的な適正価値評価に基づくものになるというパターンです。


AI相場はバブルか

 筆者は現時点で、昨今のAI相場がバブルだと考えて、先行きを悲観しているわけではありません。バブルかどうかを事前には判定できません。もしバブルだとしても、それがいつどのように破裂するかを予測することは基本的に不可能とされます。


 AI半導体の盟主エヌビディア社の株価推移(図3)を、図2と照らし合わせると、一方的にバブリーに舞い上がっているようには見えません。同社の業績見通しと株価の関係は、2024年後半以降には決算発表の度に見直され、将来の夢と現実のすり合わせがなされてきたように判断しています。


図3:エヌビディア株価はバブルか
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出所:Bloomberg

 エヌビディアの予想PERは、高い時で50倍付近、今年3~4月の相場の自律調整がトランプ関税ショックで一段の深みにはまった時には20倍割れにもなりました。5~8月の堅調相場を経て40倍前後と、夢から現実へ次第に収束していく過程にも見えます。


 もっとも、株式相場全体がバブルでなくても、超グロース銘柄がけん引する相場は、それ相応に割高にはなるものです。そして、バブルほどではなくても、AI関連業種・銘柄の中には、「フロス(小さな泡)」程度の膨張をうかがわせ、警戒を要する相場が散見されます。


 一例として、AIソフトウエア銘柄の旗手として注目されるパランティア・テクノロジーズは、予想PERが200倍を超えています(図4)。政府の軍事部門からの受注で独壇場であり、投資マネーが集中しやすくなっています。


図4:パランティアの株価と予想PER
米国株 AI相場のクラッシュに備えるレッスン
出所:Bloomberg

 もちろん、同社のAIソフトウエアの独自性からすると、今後の成長性から、まだまだ相場上昇余地があるのかもしれません(筆者はそれを評価する術を持っていません)。ただ、あまりに速く高い相場は、大なり小なりフロスを生んで、調整反落を招くものです。


AIバブルをにらんだ戦術

 筆者は、独自の相場リズムの解析モデルをベースに、こうした急伸銘柄のフロスの程度を評価し、怪しい相場には一時的にせよ近づかない(ポジションを持っていれば、減らすか解消する)戦術を採用しています。予想が不可能とされるバブルの破裂があるなら、こうしたフロスへの慎重なアプローチが「転ばぬ先の杖」になり得ると考えています。


 重要なことは、AI相場は超グロース相場であり、ハシゴ外しのような相場の滑落に折々見舞われる可能性を踏まえた対応が必要です。もっとも、誰もが筆者のように、相場に対して敏感にアンテナを張って、機動的に対処すべきということではありません。


 筆者は、いわば相場の波を巧みに生かしながら、操縦を楽しむ小型モーターボートのような短期の視点で相場解説しています。中期的には、数カ月から1年程度にどう対処するかを、相場サイクルのロジックでガイドしていますが、これは大きなうねりを中型船で乗りこなすイメージです。


 冒頭に紹介したバフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイ社は、大型船のような存在であり、急な方向転換はできません。それだけに、割安な優良銘柄への投資という自らの操縦スタンスを堅持して、安全な航路を進むための備えを徹底しているということです。


 皆さんもぜひ、相場の潮流を外さないようにしっかり乗る大型船然とした中長期投資か、景気・金利サイクルに忠実な中型船よろしく中期投資か、あるいは、短期の波を楽しむ小型モーターボートのような機敏な短期投資か、自身の乗船タイプ、投資スタイルをイメージしてみてください。


 AI相場は荒波ゆえに魅力的と言えますが、操縦のロジックを持たないまま、推進力のない小型ボートで揺られるばかりでは、翻弄(ほんろう)されるだけでしょう。筆者としても、「転ばぬ先の杖」としてのガイドを継続しますので、ご活用ください。


*本稿は個別銘柄を推奨するものではありません、投資はご自身の判断と責任において行ってください。


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(田中泰輔)

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