「鬼門の8月」はやはり陰線引け。史上最高値を更新したものの失速した。
8月のビットコインは予想通りの「一文新値」

米国の利上げ再開観測でBTC失速
8月のビットコイン(BTC)相場は、7月の史上最高値12.3万ドルを更新するも12.4万ドルでピークアウト。いわゆる「一文新値」(株価などの評価額が過去の高値をほんの少しだけ上回る状況)を付けた後、月初の安値11.2万ドルを割り込み、ダブルトップが完成。ピークから14%の調整を経て10.7万ドルまで下落した。
8月のBTC相場は、7月末の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、今後の利下げについての示唆がなかったことを失望材料とし、軟調にスタート。月初の雇用統計で前2カ月分が大幅に下方修正され、さらにその数字を受けても、ウィリアムズNY連邦準備銀行総裁が「雇用は堅調」と強弁し、利下げを否定したことを嫌気して一時11.2万ドルを割り込んだ。
しかし、非農業部門雇用者数(NFP)の3カ月平均が3.5万人と非常に低調だったことを受け、市場では9月利下げ観測が急浮上。消費者物価指数(CPI)も利下げを否定する内容ではなかったと好感され、BTCは史上最高値を更新した。
ところが、続く生産者物価指数(PPI)が強めに出たことで9月利下げ観測に黄色信号が点灯し、米連邦準備制度理事会(FRB)高官からも利下げに後ろ向きな発言が相次いだことからBTCは失速。その結果、7月の史上最高値12.3万ドルをわずかに更新する12.4万ドルでピークアウト。いわゆる「鬼より怖い」とされる「一文新値」の形となり、BTCは失速していった。
月初の安値11.2万ドル近辺で下げ渋る中、アトランタ連銀主催のジャクソンホール会議でパウエルFRB議長が「雇用の下振れリスクが高まっている」として「政策スタンスの調整が正当化される可能性がある」と発言。
しかし、12.4万ドルからの半値戻しで上値を重くした後、大口のBTC買い・イーサリアム(ETH)売りの影響もあったとみられ、11.2万ドルを割り込むとダブルトップが完成。10.7万ドル台に失速している。
S&P500とのダイバージェンス(逆行現象)
BTC/USDとS&P500
4月の相互関税発表後の不透明感でBTCが7万ドル台に失速した後、通商交渉の進展に歩調を合わせて順調に回復し、8月に最後の1ピースとなる利下げ再開観測で史上最高値を更新した。この様子は、BTCがS&P500種指数とほぼ同調してきたことに表れている。
ところがジャクソンホール会議以降、利下げ再開が濃厚となり、S&P500が再び史上最高値を更新し始めたのに対し、BTCはついていけていない。これは何があったのだろうか?
利下げ再開への道
その前に、9月利下げ再開に向けての経緯を少しおさらいしよう。
FRBは「選挙への影響を避けるため、直前の利下げを避けるべき」とのトランプ陣営の批判に反し、昨年(2024年)9月に0.5%の利下げ、11月と12月にも0.25%の利下げを行ったが、トランプ政権発足後の1月以降、利下げを見送った。これが大統領の不評を買い、利払い費を削減したい政権側から再三の利下げ圧力をかけられていた。
7月FOMC直前には、トランプ大統領とパウエルFRB議長が、首都ワシントンのFRB本部の改修工事の現場を視察。7月FOMCで9月利下げに向けたリップサービス程度は出る、との見方が出回っていた。しかし議長のコメントはゼロ回答で、さらに直後に雇用が急速に悪化していることが判明した。
多くのアナリストや一部高官はこれを受けて利下げ再開やむなしとスタンスを変え始めたが、ウィリアムズNY連銀総裁やカンザスシティ連銀のシュミット総裁あたりは、「移民の減少により労働力人口が減少しているため、このレベルでも雇用は堅調だ」と主張。ジャクソンホール会議でもパウエル議長が同様のロジックを繰り出すのではと懸念された。
ところが、ジャクソンホール会議でパウエル議長は雇用の悪化を認め、これを受けてか強硬姿勢だったウィリアムズ総裁も議長に続いた。

一方で、来年1月退任予定だったクグラーFRB理事が前倒しで退任。住宅ローン不正疑惑が浮上したクックFRB理事を解任する、とトランプ大統領がSNSで発言。
同理事は法廷闘争に持ち込むなど、政権の多数派工作やFRBの対立は深刻化しているが、9月利下げは既定路線となっている。これから出てくる雇用統計とCPIで利下げを否定するような極端な数字が出ない限り、覆ることはなさそうだ。
そうした流れを受け、ジャクソンホール会議後にS&P500は連日の史上最高値を更新。9月に入り金(ゴールド)も史上最高値を更新した。ところがBTCはついていけていない。大口のBTC売り・ETH買いが出回ったとの情報もあり、確かにETHは2021年に付けた史上最高値を更新した。ただETHもその後失速しており、このフローだけでは説明できない。
#2カ月、2回、2割…BTC特有の調整タイミング
BTC/JPY
この背景にはBTC相場のクセが影響していると考える。BTCは半減期による供給要因で、4年サイクルを描く傾向があり、そのピークの2カ月前から、2回、2割前後の調整が観測されている。2017年12月、2021年4月、2021年11月いずれにも当てはまる。
この荒っぽい値動きはBTCの特徴で、ピークアウトする時は誰もどこがピークか分からず、一方で市場参加者のほとんどが含み益を抱え、売り時を探っている状況になる。そして相場が少し下がり始めると、ここがピークと判断して売りが殺到するのだと考えている。ピークのダマシが何回か訪れるイメージだ。
しかし、そこまで上がってきたのにはそれだけの買いがあるわけで、結局、押し目買いに押され、全戻しする。そうしたサイクルを2回ほど繰り返すうちに「BTCはどうせ上がる」と下落リスクを過小評価するようになり、本当のピークを迎えるのだと考える。
本当のピークは、何か大きな売りにぶつかった時ではなく、全員が上を見て買い終わった時に迎えるもの。言い換えると、過熱が熱狂となり、陶酔に至った時にピークアウトするのがセオリーだ。
実際、そのような、熱狂から陶酔に至るような兆候が見られ始めた。前回の記事では、「ストラテジー(旧マイクロストラテジー)やメタプラネットの成功を見て、外部資金を調達してBTCを購入するBitcoin Treasury Companyと呼ばれる動きがアルトコインにも拡大している」と紹介した。
▼前回の記事
ビットコイン、12.3万ドルで史上最高値更新!鬼門の8月は「助走期間」?
当初はETHやソラナ(SOL)、トロン(TRX)といったメジャーな銘柄だったが、最近では15億ドルを調達して、トランプファミリーが発行するWLFIトークンに投資する企業まで出てきた。
また、金額的に、第2四半期に1,000億円以上を調達して暗号資産に投資する企業がいくつも登場して驚いたが、8月には先月もご紹介した、ETHに投資するビットマイン・イマージョン・テクノロジーズ(Bitmine Immersion Technologies)が調達予定を200億ドル追加。
日本企業のメタプラネットも、決算説明資料で資本戦略として2027年までに3兆円の資金調達が必要とし、9月1日の臨時株主総会で、約1,300億円の海外投資家向け時価発行増資と5,550億円の優先株発行を議決するなど、兆円単位の資金調達計画も珍しくなくなってきた。
こうした動きは過熱から熱狂に移行する、言い換えると市場参加者がBTC市場の下落リスクを過小評価し始めた動きだと考える。今後数カ月はこうした資金が市場に流入し相場を押し上げるだろうが、この規模の資金調達がいつまでも続くとは考えにくい。
9月の見通し:年末高に向けていよいよ離陸?
テクニカル
BTC/USD(日足)
鬼より怖い「一文新値」かつダブルトップが完成し、短期的には調整方向へ。下降チャネルを形成し、ここで切り返しそうにも見えるが、もう少し調整する可能性もある。ただし、前述の通り、この調整はピーク前の通過儀礼とみている。
アノマリー
BTC月別騰落率
8月は陰線引け。これで過去15年で5勝10敗と最弱記録を更新した。この15年間で価格10万倍以上になったBTC市場で、これだけパフォーマンスが悪いというのはよほど相性が悪いのだろう。9月も弱いが8月ほどではない。
しかし、これには事情があって、9月初めは8月同様非常に弱く、8月31日の引けから9月7日の引けまでのパフォーマンスは、過去8年で7回下落している。一方で9月後半は徐々に回復し、準最強の10月につながっていく。
9月見通し
9月のBTC相場はこの調整局面から反発し、再び史上最高値を更新する展開を予想する。8月は最弱の月ながら一時は史上最高値を更新し、足元の調整もピークに向けた通過儀礼とみている。トレジャリー企業の動きも過熱感を増してきた。
S&P500は連日の史上最高値を更新し、金(ゴールド)も史上最高値を更新した。大きく見れば米ドルの減価に備える動きが加速し始めており、いよいよピークに向けた加速が始まりそうだ。飛行機で言えば離陸に向けて滑走路の端で順番待ちをしているイメージか。

沖縄行きの飛行機に乗り遅れそうになりました。
わが家はよく空港に車で向かいます。帰りの便を安い深夜便にして、4人分の差額で駐車料金をペイする作戦です。この日も小学5年生の長男を夏期講習からピックアップして、羽田空港の駐車場に出発時間の2時間前に並びました。
しかし、しばらく列が進んだところで「ここから2時間待ち」という看板を目にしてぼうぜんとします。空港の駐車場は混んでいても出入りがあるので、バッファーを1時間見れば何とかなるというのは甘い考えでした。
小職はハンドルを握りながら助手席の家内がスマホで代替策を探しますが、どうも要領を得ません。すると長男が小職のスマホで裏技をいろいろと探して、何とか国際ターミナル近くのショッピングモールの駐車場の空きを見つけ出し、急遽そちらに向かいました。
それでも車を駐められたのが出発の50分前、モールの乗り場でタクシーを捕まえたのが40分前、カウンターに何とか30分前に滑り込み、20分前の締め切りぎりぎりに保安検査場を通過しました。さすがデジタルネイティブ世代、ネットばかり見て全然勉強しない長男に助けられた格好です。
ところで米国では暗号資産投資層に変化が見られていると聞きます。従来は30~40代が中心だったのが、20代が増えてきたそうです。何となく暗号資産は値動きも激しく、仕組みも難しそうな印象もありますが、デジタルネイティブ世代にとっては株や投信より親しみやすく、初めての投資が暗号資産という人が増えているようです。
成績だけを見ていると長男の将来が心配になりますが、暗号資産業界の将来は安泰かもしれません。
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(松田 康生)