米FOMCは市場予想通り0.25%の利下げを決定。しかし、米国市場は方向感に乏しい初期反応を見せました。
背景に「物価高の再燃」と「雇用の減速」による「迷い」が挙げられますが、当面はAIブームを支えに株高基調が続きそうです。では、そこに死角はないのか? 割高感やテクニカル分析を含めて米国株の行方を探ります。
※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の土信田雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 FOMC通過後の米国市場。「迷い」の先に待つ株価の行方は? 」
FOMCを通過した米国市場の初期反応
今週は日米金融政策イベントの行方が注目されていましたが、そのうちの一つである米連邦公開市場委員会(FOMC)が16日(火)から17日(水)にかけて開催されました。
その結果は0.25%の利下げが決定されたほか、米連邦準備制度理事会(FRB)メンバーによる金利見通しの分布を示したドット・チャートでも、2025年内にあと2回の利下げが見込まれているなど、おおよそ市場が予想していた通りの内容となりました。
<図1>米FRB政策金利見通しドット・チャートの変化

これを受けた17日(水)米国市場の動きを見ると、株式市場ではダウ工業株30種平均が上昇する一方で、S&P500種指数とナスダック総合指数が小幅に下落、債券市場では10年債をはじめとする各種債券の利回りが上昇、為替市場でもFOMCの結果発表直後は円高になったものの、すぐに円安方向にかじを切るなど、まちまちとなりました。
初期反応としては無難にイベントを通過した印象になっていますが、少し意地悪な見方をすれば、イベント通過の「アク抜け感」で積極的に上値をトライするわけでもなく、かといって「材料出尽くし感」で売りが加速することもなかったため、相場の流れが大きく変化することのない、「中途半端な動き」だったという見方もできます。
荒い値動きが示す「迷い」
実際に、株価が上昇したNYダウの値動きを見ても、利下げが発表された直後に大きく上昇しましたが、その後のパウエルFRB議長の記者会見が始まるとマイナスに沈む場面があり、取引終了にかけて再び値を戻すという展開となりました。
<図2>2025年9月17日の米NYダウ(1分足)チャート

上の図2は17日(水)のNYダウの1分足チャートですが、FOMCの結果が公表された午前3時(現地時間14時)や、パウエルFRB議長の記者会見が始まった午前3時半あたりの時間帯の株価が乱高下しており、値動きが荒くなっていたことが分かります。
<図3>2025年9月17日の米10年債利回り(1分足)チャート

同じく、1分足チャートで米10年債利回りの推移をチェックしても、利下げ発表直後に3.98%まで利回りが急低下しましたが、すぐさま切り返して、前日よりも高い4.087%まで利回りが上昇していったことが確認できます。
このように、FOMCの結果自体は想定通りであったとはいえ、金融市場の評価はイマイチ定まっていない様子が感じとれます。
こうした米国の株式・債券市場が荒い動きを見せた背景には、現在の米国経済が「物価高の再燃」と「雇用の減速」が同時に懸念されているという異例の状況下で、迷いが生じていることが挙げられます。
景況感とインフレの動向
通常であれば、雇用が悪化すれば景気も減速し、需要が減少することで物価も下がっていくというストーリーに沿う形で、株式市場は「利下げトレンドが継続していく」ということで、いわゆる金融相場、その先の業績相場が主導する株高シナリオを描くことができます。
ただ、現在は、雇用関連の経済指標で軟調なものが増える一方で、景気自体は堅調を保っているほか、物価の下落ペースも鈍くなっています。さらに、米関税政策の影響という特殊要因も加わって、インフレが再燃してしまう可能性は低くはないと思われます。
<図4>FRB公表の見通し状況(Summary of Economic Projections, September 17, 2025)

今回の利下げ決定と同時に公表されたFRBの資料でも、2025年と2026年の国内総生産(GDP)成長率や物価上昇の見通しがともに上方修正され、失業率も高止まりしていることなどを踏まえると、利下げトレンドに伴う金融相場のさらなる進展に期待するのは現時点では難しいと思われ、引き続き経済指標などで、米国の労働市場や景気、物価の動向を確認しながら今後の金融政策の行方を探って行くことになります。
ちなみに、今回のFOMCより、新たにFRB理事となったスティーブン・ミラン氏が参加しています。
ミラン氏はトランプ米大統領が望む大幅利下げをFRBの内部から働きかける役割を期待されて就任したとみられ、今回のFOMCで0.25%の利下げに唯一の反対票を投じて0.5%の利下げを主張したほか、図1のドット・チャートでも、ポツンと低金利のところに位置しているのがミラン氏と思われます。
また、前回のFOMCで利下げを支持して金利据え置きの方針に反対票を投じたウォラー氏とボウマン氏は、今回0.25%の利下げに賛成しています。市場の一部では、両名がミラン氏とともに利下げ幅の拡大を主張し、FRB内での利下げ推進派と慎重派の勢力図が変化するのではという見方もありましたが、結果的にミラン氏が孤立する格好となり、FRBの良心と信頼が保たれたことは安心材料になったと思われます。
ただし、今後も米トランプ政権によるFRBの批判や介入が強まる状況となった場合には、FRBの政策判断の信ぴょう性が揺らぐリスクもくすぶっているため、景況感の動向とともに注意しておく必要があります。
それでも株高基調は続く?
これまで見てきたように、今回のFOMCについては、「今後の利下げ姿勢は示されたものの、積極性についてはあまり強くはない」というのが、最初の評価といえそうです。
利下げへの積極性が後退した分、相場を押し上げる材料としては機能しなくなるかもしれませんが、株価が下落した際には相場を支える材料としてはまだ役割を果たしていくことになりそうです。
また、AIをテーマにした物色なども継続中であるほか、FRBが抱えている悩み(物価高の再燃と雇用の減速が同時に懸念されている状況)が表面化しない間は足元の株高基調は続くと思われます。
<図5>米S&P500(月足)と長期PER(CAPEレシオ)の推移(2025年9月17日時点)

とはいえ、以前のレポートでも指摘した通り、米国株には割高感があります。上の図5は月足のS&P500と長期の株価収益率(PER)を示す「CAPEレシオ」の推移を示していますが、17日(水)時点のCAPEレシオは37.12倍とかなり割高になっているため、割高感を修正する動きが出た場合には注意が必要です。
<図6>米S&P500(週足)の線形回帰トレンドとMACDの動き(2025年9月17日時点)

また、上の図6はS&P500の週足チャートに2023年あたまを基準にした線形回帰トレンドと、下段にMACDの推移を示しています。
S&P500は4月11日週に底打ちしてから上昇トレンドを描き、現在の株価はプラス1σ(シグマ)を目指す動きとなっています。マイナス2σを下回る株価位置から目立った調整もなく、順調に上昇してきたわけですが、下段のMACDがシグナルを上抜けるクロスが出現してから18週が経過しています。
図5のチャートを過去にさかのぼると、株価がマイナス2σ割れから上昇トレンドを描いた場面が2023年11月にもありました。この時はプラス1σでいったん天井をつけたほか、同じくMACDがシグナルを上抜けるクロスが出現してから21週経過したところで株価の調整が始まっています。
相場は必ずしも同じパターンを繰り返すわけではありませんが、いったんの株価調整がそろそろ訪れるかもしれないことは想定しておいた方が良く、短期の投資スタイルでないのであれば、上値を追っていくよりも、株価調整後の下値からの反発をねらう買いのスタンスが基本戦略になると思われます。
(土信田 雅之)