20世紀に世界を席巻したソニー。21世紀に入ってからは収益低迷が続きましたが、「総合エンタメ企業」として復活し、再成長を始めました。

このたび、金融事業のソニーフィナンシャルグループを切り離す「パーシャルスピンオフ」を断行します。ビジネス転換の取り組みを評価して、同社の「買い」判断を継続します。


ソニーグループ「買い」判断継続:金融事業を手放す理由は?(窪...の画像はこちら >>

ソニーFG(8729) 再上場

 9月29日 ソニーグループ(6758) の子会社であった ソニーフィナンシャルグループ(8729) (以下ソニーFGと表記)が再上場【注】します。


【注】ソニーFG再上場
 ソニーFGは、2007年10月から2020年8月まで、東京証券取引所に上場していました。親会社ソニーグループと子会社ソニーFGが両方上場する「親子上場」でした。ところが、親会社ソニーグループが子会社ソニーFGに対してTOBを実施して完全子会社(100%子会社)にしたため、ソニーFGは2020年9月に上場廃止となりました。


 そのソニーFGが2025年9月29日、東証プライム市場に再上場します。今度は親子上場ではありません。ソニーFGをパーシャルスピンオフした上で、再上場します。


 ソニーグループは今般、ソニーFGをパーシャルスピンオフ【注】します。完全子会社であったソニーFGの株式を20%未満だけ保有し続け、残り80%超を切り離します。


【注】パーシャルスピンオフ
 スピンオフとは、自社事業の一部を切り出して、別会社として独立させることを言います。上場させると同時に、完全に資本関係を切り離すのがスピンオフです。

それに対して、一部出資を残しながら切り離していくのがパーシャルスピンオフです。


 ソニーグループの株を9月30日(火)時点で1株保有していると、ソニーFG株1株が割り当てられます。9月30日時点でソニーグループの株主になるためには、9月26日(金)までに同社株を買う必要がありました。従って、9月30日(火)時点の株主は、すでに確定しています。楽天証券口座でソニーグループを保有している方は、すでにソニーFG株の割り当て残高が表示されています。


ソニーグループの構造改革を高く評価

 構造改革によって、総合エンターテインメント企業として成長するビジネスモデルを確立したソニーグループの「買い」判断を継続します。


【1】金融事業切り離しでROE上昇が見込める


 ソニーグループの金融事業は、ソニーの利益が不安定であった1990~2015年にかけて、同社の収益を支えた重要事業でした。その間に、ソニーはエレクトロニクス事業を中心とする「製造業」からゲーム、音楽、映画などで稼ぐ「総合エンターテインメント企業」に転換して成長するビジネスモデルを確立しました。


 ここからさらに総合エンターテインメント企業として成長し、さらに自己資本利益率(ROE)を高めていく上で、金融事業は切り離した方が良いという判断から、ソニーFGをパーシャルスピンオフすることになりました。株主価値に配慮したすばらしい構造改革として評価できます。


【2】20世紀から21世紀にかけてのビジネス転換に成功


 私は、ソニーグループが自社ビジネスモデルを完全に転換して、20世紀も21世紀も世界で成長する力を獲得した経営力を高く評価しています。


 20世紀は、人類がモノの豊かさを求めて努力した時代でした。少しでも良いモノを開発して安く大量生産する製造業が成長しました。

ソニーグループは、その競争を勝ち抜き、1980年代にはエレクトロニクス産業で世界のトップレベルに上り詰めました。


 ところが、21世紀は製造業で稼げない時代となりました。代わって、情報通信・サービス、インターネット、AI産業が成長する時代となりました。有形資産ではなく、無形資産で稼ぐ企業が増えました。


 ソニーグループは試行錯誤を繰り返しながら、21世紀になっても成長するビジネスモデルを創り上げました。


 最初に大きな成功を収めたのがゲーム事業でした。任天堂とともに、ソニーがゲームでは世界の双璧となりました。ゲーム事業には、世界中から参入が相次ぎました。マイクロソフトやグーグルも、任天堂・ソニーの牙城を崩そうと参入しましたが、成功しませんでした。


 ゲームはソニーグループの成長の中核を支える事業となりました。さらに、音楽・映画など無形資産で稼ぐビジネスモデルを強化しました。私は、21世紀にソニーグループがさらに飛躍すると予想しています。


 一方、まだ不安定な製造業を抱えていることには不安があります。半導体事業(画像センサー)は安定的に稼ぎ続ける力があるとみていますが、テレビやケータイ端末などの先行きに不安があります。特に、中国で製造して米国へ輸出しているエレクトロ製品には懸念があります。


ソニーグループの株価推移

 ソニーの長期株価推移を見ると、構造改革で復活してきた同社の歴史が分かります。


<ソニーグループの株価および連結純利益の推移:1990年1月~2025年9月(26日)>


ソニーグループ「買い」判断継続:金融事業を手放す理由は?(窪田真之)
出所:ソニーグループ有価証券報告書・QUICKなどから作成

 1990年代以降、ソニーはビジネスモデルを大きく変えました。製造業を縮小して、ゲーム、音楽、映画をグローバル展開する総合エンターテインメント企業として復活し、成長しました。


<ソニーグループの事業セグメント別利益:2025年3月期>


ソニーグループ「買い」判断継続:金融事業を手放す理由は?(窪田真之)
出所:同社有価証券報告書より作成

 20世紀には中核事業であったテレビ・音響機器などの製造業は、今はかなり縮小しました。ゲーム、音楽、映画を展開する総合エンターテインメント企業として、グローバルに高い競争力を持って成長しつつあります。製造業としては唯一、半導体(画像センサー)で高い収益を上げています。


 見事な事業転換を果たしたわけですが、最初からはっきり道筋が見えていたわけではありません。ハード(製造業)重視かソフト(ゲームなど)重視か、社内で何度も議論し、ハード重視へ戻る局面もありました。長い議論を経て、手探りで変わってきましたが、結果的に時代の変化に適応して、見事に美しい成長企業として復活しました。

その経営力に敬服します。


 これから、さまざまな無形資産・無形コンテンツが世界で成長していく時代になると思います。ゲーム、音楽、映画という無形資産・無形コンテンツの製作・販売で確固たる地位を築いたソニーの成長が続くことが予想されます。


 日本はアニメで世界をリードしています。音楽、芸術、スポーツなど新しい分野で、日本の若い世代が世界で活躍するようになってきました。生成AIによって言語の壁が低くなる時代となることもあり、日本が生みだす文学作品も世界で評価される時代になると思います。


 こうした新しい流れをとらえ、ソニーが総合エンターテインメント企業として、世界で成長を続けることを期待したいと思います。


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(窪田 真之)

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