楽天証券経済研究所・資産づくりディレクターの山口佳子が「トランプ口座」を解説。2025年以降生まれの子供に政府から1,000ドルが支給され、S&P500などで自動運用される米国の新制度です。

日本の「こども支援NISA」にも通じる、早期資産形成の重要性や金融リテラシー向上など、次世代の資産づくりのヒントが満載です。


生まれた瞬間からS&P500で自動運用!「トランプ口座」から...の画像はこちら >>

 皆さま、こんにちは! 楽天証券経済研究所・資産づくりディレクターの山口です。


 このたび、初めての記事をお届けできることを大変光栄に思います。皆さまの未来の資産形成に役立つ、質の高い情報を提供できるよう、精いっぱい努めてまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。


 さて、今回は私が最近注目しているトピック、米国で新たに法制化された「トランプ口座」について、掘り下げていきたいと思います。後半では、日本で議論が進んでいる「こども支援NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)」を含む、日本の子育て支援策への示唆についても解説していきます。


米国の新制度「トランプ口座」の全貌

 2025年7月4日、米国では「一つの大きな美しい法案」(The One Big Beautiful Bill Act)が成立し、その中に「トランプ口座」と名付けられた制度が盛り込まれました。この制度は、2025年から2028年の間に生まれた子供たち一人あたりに、政府から1,000ドル(約14万5千円 ※1ドル=145円で試算)が自動的に入金され、S&P500種指数などのインデックスファンドで運用されるという、意欲的な取り組みです。


 この制度の概要を具体的に見ていきましょう。


トランプ口座の主な特徴

  • 対象者:2025年1月1日から2028年12月31日までに米国で生まれた、有効な社会保障番号を持つ全ての子供。
  • 政府からの初期拠出:一回限り1,000ドル(約14万5千円)が、対象となる子供の口座に自動的に拠出される。初回の拠出は2026年以降。
  • 拠出の限度額:親や親族は、子供のトランプ口座に年間最大5,000ドル(インフレに応じて調整)を追加できる。
  • 運用方法:口座内の資金は、低手数料で分散されたS&P500などの米国株式インデックスファンドなどで自動的に運用が開始される。
  • 引き出し制限と税制優遇:原則として18歳までは口座からの資金の引き出しはできないが、その間、運用益に対する課税が繰り延べられる。
  • 資金の使途:18歳以降、「高等教育費用」「初めての住宅購入」「スタートアップの起業」などの目的で、段階的に資金を引き出せる。

 なお、上記のような「適格目的」のための引き出しには優遇税制が適用されますが、非適格な引き出しは罰則扱いとなり、通常の所得として課税される見込みです。本制度はまだ実施されていないため、今後発表されてくる詳細なルールや運用内容は注視したいところです。


社会的影響と経済界からの期待

 この制度の創設は、金融業界にとっては新たな顧客層の開拓につながり、米国経済全体にとっては、長期的な視点での国内市場への資金流入が期待されることから、経済界は歓迎ムードにあります。


 米企業のトップらが参加した6月9日の創設案発表イベントで、デル・テクノロジーズのマイケル・デルCEOは、「数十年にわたる研究により、子供たちに早期に経済的なスタートを切らせることは、彼らの長期的な成功に深い影響を与えることが示されている」と述べ、ゴールドマン・サックス・グループのデービッド・ソロモンCEOも「幼児期からの投資は広範な利益をもたらす。わが国経済の活力は、若者が長期投資の力を理解することにかかっている」とコメントしています。


 トランプ大統領自身も、「トランプ口座はキッズ世代に繁栄への道をもたらすだろう」と発言しており、この制度が、子供世代だけでなく、その親世代であるミレニアル世代、そして祖父母世代からの幅広い支持獲得を目指していることが伺えます。


日本の「こども支援NISA」への重要な示唆

 さて、ここからは私の見解をお話ししていきたいと思います。この「トランプ口座」は、日本で現在議論が進んでいる「こども支援NISA」を含む、子育て支援政策を考える上で、非常に示唆に富んでいます。


 私「資産づくりディレクター」が注目するのは以下の三つのポイントです。


1.「自動的にスタートする」長期資産形成の仕組み

 トランプ口座の最も画期的な点は、政府からの拠出金1,000ドルが自動的に、かつS&P500などのインデックスで運用される点にあります。日本では、児童手当やこども商品券などの給付制度はあるものの、それらを直接的に長期資産形成に結びつける発想は、まだ普及していません。


 本制度で政府からの1,000ドルを受け取れて、かつ対象商品が限定されていれば、「投資は難しそう」「何から始めたらいいか分からない」といった、多くの方が抱える資産形成への心理的・実務的ハードルを大きく下げることが可能です。


 これにより、資産形成の機会格差を減らし、早期からの複利効果を最大限に享受する機会を国民全体に提供するための、強力な一歩となり得ると考えられます。


2.財源効率の新たな視点:少額の初期投資が大きな未来を創る

 さらにこの制度は、財源の効率性という点でも大変注目すべき制度です。


 例えば、仮に大学進学支援として一律50万円を給付する政策と比較してみましょう。トランプ口座のように、幼少期に10万円といった少額の初期資金を給付し、それを20年近くにわたって長期的に資産形成させることができれば、複利の効果によって最終的に同等かそれ以上の金額を子供が手にする可能性があります(S&P500は直近20年で約5.4倍の実績)。


 この場合、政府が初期に負担する予算は大幅に少なく済むため、長期的に見れば財源としてはむしろ軽く済むという考え方もできるのです。限られた財源の中で最大限の効果を追求したい日本の少子化対策や子育て支援策において、少額の初期投資で複利効果を活用し大きなリターンを目指すこのアプローチは、大いに参考に値するモデルと言えるでしょう。


3.家庭で育む金融リテラシーの促進

 副次的な効果として、生まれてすぐに口座が開設され、資金が投資信託で運用されることで、家庭における金融に関する対話が増えることが期待されます。これは、子供たちが長期的な複利効果を肌で実感する機会となり、幼少期からの金融リテラシー向上に大きく貢献すると考えられます。


 デル・テクノロジーズやゴールドマン・サックス・グループのCEOのコメントにもあるように、より早い段階から子供名義で資産形成を始める仕組みは、将来の経済的自立を促進するための重要な教育の機会を提供してくれるでしょう。


 また、自動的に子供の資産形成がスタートすることで、親自身が自分の資産形成を考える、例えば日本であれば、NISAを始めるきっかけになる可能性もあります。


まとめ:結局「可能な限り早く始める」ことが最も重要

 トランプ口座は、政府からの初期拠出や税制優遇によって、連邦政府に多額のコストが発生すると試算されています。日本で同様の制度を導入する場合、財源確保は依然として大きな課題となることは間違いありません。


 しかしながら、この「トランプ口座」は、子供たちの将来の経済的自立を支援するという点で、非常に意欲的で示唆に富んだ試みです。そして最も重要なのは、「可能な限り早く資産形成を始めることがいかに重要か」を、米国では政府や企業など社会全体が理解しているということです。


 日本では、このような自動的に運用が開始される仕組みなどは整備されていませんが、皆さま自分自身が行動を起こし、早期に資産形成を始めることは可能です。

自分の未来や、またお子さまの未来に向け、まずは「早期に始める」「長く続ける」をぜひ検討してみてはいかがでしょうか?


 私山口は、「資産づくりディレクター」として、これからも皆さまが安心して未来を描けるよう、資産形成に関する有益な情報を提供し、皆さまに寄り添いながらサポートしてまいります。


 最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。


(山口 佳子)

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