10月4日、与党の主軸を担う自民党の新総裁に高市早苗氏が選出されました。今後の首相指名選挙などにもよりますが、日本初の女性首相となる見通しです。

高市氏は就任会見で、物価高対策を重視することを改めて強調しました。「責任ある積極財政」による目先の物価高対策も重要ですが、それと同じくらい、長期視点の物価高対策も重要です。


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著者の吉田 哲が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 高市新総裁に期待される「長期視点の物価高対策」とは? 」


個人投資家の皆さんもSNSのマイナス面を実感

 今年7月から10月にかけて、筆者は会場型セミナーで登壇する機会に恵まれました。東京(六本木、新宿、大手町)と大阪で、たくさんの個人投資家の皆さんの前で講演をしたり、ブースで直接お話をしたりしました。


 高騰が続く金(ゴールド)価格は今後どうなりそうか、金(ゴールド)をポートフォリオに組み込む際のアイデアとしてどのようなものが挙げられるか、プラチナや銀などの他の貴金属の価格動向はどうなりそうか、といった多岐にわたるご質問をいただきました。


 お一人お一人が大変に熱心に資産形成に取り組んでおられること、金(ゴールド)やその他のコモディティ(国際商品)価格の動向に強い関心を寄せられていることが伝わってきて、心が熱くなりました。


 講演後にブースに来ていただいた方から多く寄せられた、共通の感想があります。筆者が講演で扱った「SNSが社会に与えているマイナスの影響」についてです。東京、大阪、ともにこの件について「同感です」「共感しました」という感想を複数いただきました。


図:SNS、インターネット、AIが普及したことで目立ち始めた問題点(一例)


高市新総裁に期待される「長期視点の物価高対策」とは?
出所:筆者作成

 一連の講演の前に、実は、筆者の頭の中である「賭け」をしていました。

金(ゴールド)の価格上昇を説明したり、今後を展望したりする際、金(ゴールド)のオーソドックスな需給の話を扱うか、思い切ってSNSの拡大を起点とした世界分断のシナリオを扱うか、という選択をし、後者に賭けたのでした。


 現場の個人投資家の皆さまの反応を見る限り、「賭けは当たった」と感じています。講演では、上記の「SNS、インターネット、AIが普及したことで目立ち始めた問題点(一例)」を、筆者の身の回りの実例を用いながら説明しました(一部加筆)。


 そして、以下の「2010年ごろに変化が生じた世界情勢の急変を示す四つのデータ」を用い、SNSなどの新技術が拡大し始めたタイミングが「2010年ごろ」だったことや、SNSとの関連について議論がなされている、ネガティブ思考の拡大と子供たちの学力低下が始まったタイミングもまた、2010年ごろだったことを説明しました。


図:2010年ごろに変化が生じた世界情勢の急変を示す四つのデータ


高市新総裁に期待される「長期視点の物価高対策」とは?
2010年ごろに変化が生じた世界情勢の急変を示す四つのデータ

「SNSが社会に与えているマイナスの影響」については、筆者が会話をさせていただいた限りですが、個人投資家の皆さまだけではなく、金融関連の専門家やメディアの方々も、半分以上の方が肯定されていると感じています。


 SNSは人類にとってなくてはならない、大変に便利で素晴らしいツールです。このことは、筆者がお話をさせていただいた皆さんが認識していることでしょう。ただ、そこに一部、マイナス面が存在しているのです。


世界の民主主義後退も「2010年ごろ」だった

 一連の講演では、「SNSが社会に与えているマイナスの影響」について筆者の考えを述べた後、以下のデータを示しました。多数の側面から民主主義の状態を数値化する取り組みをしているスウェーデンのV-dem研究所が公表している「自由民主主義指数」です。


 同指数は、法整備、裁判制度、言論の自由など、民主主義に関わる多数の情報を数値化したもので、0と1の間で決定し、1に接近すればするほど自由で民主的な度合いが高いことを、0に接近すればするほど、その国が自由で民主的な度合いが低いことを意味します。


図:世界の自由民主主義指数(人口加重平均)


高市新総裁に期待される「長期視点の物価高対策」とは?
出所:V-dem研究所のデータをもとに筆者作成

 同指数の世界平均の推移を確認すると、第2次世界大戦や冷戦のさなかに大きく低下したことが分かります。逆に、第2次世界大戦後や冷戦後は世界が団結する方向に向かったことにより大きく上昇しました。


 団結する方向に向かう中で、考えが異なる人の存在を認識したり、その人と言葉を交わしたり、議論を深めて妥協点を見つけたりしながら、時間をかけてその人の存在を受け入れてみんなで前進するムードが高まっていきました。自由民主主義指数の上昇は、こうしたムードの高まりを可視化したものであると言えます。


 湧き上がる感情を抑えたり、行間や無音状態からにじみ出る感覚を得たり、相手の答えを忍耐強く待ったり、窮地に陥っている人を積極的に助けたりする場面がいくつもあり、その果てに、民主主義が醸成されていったといえます。裏を返せば、こうした場面がなければ、民主主義は醸成し得ないでしょう。


 しかしこうした期間も長くは続きませんでした。2010年ごろから、同指数の世界平均は低下し始めました。第2次世界大戦や冷戦時を大きく上回るスピードで低下しています。世界を覆う戦争のムードが強くなくても急低下しています。


 冒頭の「SNSが社会に与えているマイナスの影響」が関わっていると筆者はみています。SNSのマイナス面が世界に拡大し、世界各地で欲望や感情が暴走していると考えられます。こうした状態にあって、感情を抑えたり、間を感じたり、待ったり、積極的に助けたりする機会は損なわれ、民主主義が後退し始めたと考えられます。


図:自由民主主義指数(2024年)


高市新総裁に期待される「長期視点の物価高対策」とは?
出所:V-dem研究所のデータをもとに筆者作成

 直近のデータである2024年の同指数の状況を確認すると、上の図のように、すでに世界は自由度・民主度が高い国とそうでない国とに、明確に分かれてしまっていることが分かります。

人口のシェアを見れば、より「世界分断」の深刻さが実感できます。


世界分断と投資マネーが価格を「底上げ」

 あの「2010年ごろ」から、SNSのマイナス面が目立ったことが一因で、自由民主主義指数の世界平均の低下が示す通り、世界の民主主義は後退局面に入ったといえます。


 以下のとおり、SNSと同じ意味で、思考を奪うことがあるAIやキャンセルカルチャー(理想とされることから離れている人を一方的に批判すること)の温床になり得るDEI(多様性・公平性・包括性)やESG(環境・社会・ガバナンス)などのマイナス面もまた、民主主義後退の一因といえます。


図:2010年ごろ以降の世界分断と高インフレ(長期視点)の背景


高市新総裁に期待される「長期視点の物価高対策」とは?
出所:筆者作成

 民主主義の後退は、民主主義を良いと考えている西側諸国とそうでないと考えている非西側諸国との間の分断が深まるきっかけとなり得ます。民主主義が後退すればするほど、西側と非西側の間の分断は深まることになります。


 こうした世界の分断が深まることで、非西側の資源を持っている国々は、自国の資源の安全保障や、価格水準の高値維持、西側諸国に対する影響力の維持・増大などを企図し、「資源の武器利用(出し渋り)」を加速させるきっかけを得ます。


 現在、ロシアが西側諸国に対する穀物やエネルギーの輸出量を減らしたり、中国が自国のレアアースの輸出に制限をかけたり、石油輸出国機構(OPEC)プラス(石油輸出国機構に一部の非加盟国を加えた産油国のグループ)が原油の減産を実施したりしていますが、いずれも資源の武器利用の意図が見え隠れしています。


 こうした動きと同時進行するように、リーマンショック直後の2009年に本格的に始まり、その後も断続的に経済回復を図るために行われた大規模な金融緩和によって膨大な投機マネーが生じ、同マネーが株式、通貨、債券、コモディティ(国際商品)などの市場を縦横無尽に行き交うようになりました。


 以下の通り、エネルギー(左上)、農産物(右上)、穀物(左下)、貴金属(右下)といった各分野の主要なコモディティ(国際商品)の価格は、2010年ごろ以降「底上げ」状態にあります。


図:主要なコモディティの価格推移


高市新総裁に期待される「長期視点の物価高対策」とは?
出所:世界銀行のデータをもとに筆者作成

 SNSなどのマイナス面をきっかけとした非西側による資源の武器利用、および投機マネーの膨張が、2010年ごろ以降、長きにわたり続いているコモディティ(国際商品)相場の底上げの一因といえます。


各種小売価格決定過程の「川上」に注目

 こうしたコモディティ(国際商品)価格の長期視点の「底上げ」は、われわれが対峙(たいじ)している「長期視点のインフレ(物価高)」の主因だといえます。


 以下の図の通り、日本における各種小売価格の多くは、卸売価格の影響を受けています。その卸売価格は輸入価格の影響を受け、その輸入価格は為替相場と国際価格の影響を受けています。


図:各種小売価格が決まるまでの流れ


高市新総裁に期待される「長期視点の物価高対策」とは?
出所:筆者作成

 先述のとおり、SNSなどのマイナス面の拡大や、投機マネーの膨張の影響を受け、コモディティ(国際商品)価格は長期視点の底上げ状態にあり、その底上げが、長期視点のインフレ(物価高)の要因になっていると考えられます。


 10月4日に行われた自民党総裁選で、高市早苗氏が自民党の第29代総裁に選出されました。月内にも臨時国会で第104代首相に指名される見通しです。その高市氏は4日の総裁の就任会見で、物価高対策を重視することを改めて強調しました。


 同氏は「責任ある積極財政」と述べているとおり、個人や企業の税金や諸コストを軽減すべく、これらの一部を政府が負担する見通しです。例えば、日本国内のガソリンの小売価格を下げるため、暫定税率(25.1円/リットル)を廃止することを検討するとのことですが、この策は以下の(1)の短期的な策の一つである減税にあたります。


図:ガソリン小売価格を下げる方法(短期・中期・長期)


高市新総裁に期待される「長期視点の物価高対策」とは?
出所:筆者作成

 たしかに、減税によって小売価格を下げることは物価高対策として有効です。しかしそれは、日本国内で対症療法的に行われる策に過ぎないことに留意が必要です。


 以前のレポートで述べたとおり、足元のガソリンの小売価格のおよそ3割が、原油の輸入単価であると考えられます。つまり、ガソリンの小売価格は、為替の影響を受けた輸入価格、その上流の国際価格の影響を強く受けているのです。


2025年7月29日: ガソリンの小売価格を下げる方法は?減税や給付だけではない


 ガソリンだけではなく、さまざまな小売価格を本格的に下げていくためには、その「川上」に位置する国際価格や輸入価格に影響を与える為替相場に対して、影響力を行使していかなければなりません。


 これが本来望まれる「物価高対策」だと、筆者は考えています。こうした川上側への対策を講じないまま、国内で対症療法を続けたとしても「財源」の問題から抜け切れず、物価高対策以外の策を講じることが難しくなってしまいます。


高市氏は真の物価高対策に着手できるか?

 ここで述べている為替相場は、ドル円相場のことです。以下の通り、1ドルあたり140円を超える極端ともいえる円安局面では、もともとのドバイ原油(ドル建て)に比べて、日本の原油輸入単価は割高になってしまいます。


 この点より高市氏は、同130円台に円安を落ち着かせる策を講じることができれば、原油の「輸入価格」を低下させることができそうです。130円台まで円安が落ち着けば、原油だけでなく、さまざまな農産物や金属など他の品目の輸入価格を下落させることができるでしょう。


図:日本の原油輸入単価・ドバイ原油(2000年を100)およびドル円相場


高市新総裁に期待される「長期視点の物価高対策」とは?
出所:財務省、世界銀行などのデータより筆者作成

 輸入価格のさらに川上側にある「国際価格」について述べます。以下のグラフのとおり、足元の原油の国際価格は、長期視点で見ると、大変に高い水準であることが分かります。ウクライナ戦争が勃発した2022年に比べて安いものの、1990年後半の水準に比べれば約5倍です。


図:ドバイ原油(名目・実質)価格(年足) 単位:ドル/バレル


高市新総裁に期待される「長期視点の物価高対策」とは?
出所:世界銀行のデータより筆者作成

 高市氏は、外交手腕を発揮することで、約5倍に達した原油相場に影響力を行使することができるかもしれません。先ほどの図「2010年ごろ以降の世界分断と高インフレ(長期視点)の背景」で示したとおり、世界分断をきっかけとした資源国による資源の武器利用が横行している可能性があります。


 こうした資源の武器利用を止めてもらうように、外交で働きかけを行うべきです。原油でいえば、OPECプラスに原油の減産を止めてもらうよう、働きかけることです。同図で示したとおり、原油の減産の一因に、西側・非西側の分断があり、その分断の一因にESGがきっかけで生じた「キャンセルカルチャー」が挙げられると、筆者はみています。


 一時期よりはその声は小さくなりましたが、ESGがきっかけで生じた「石油は悪だ」という石油に対する一方的な批判は、産油国の態度を先鋭化させ、減産(資源の武器利用)に向かわせた可能性があります。

こうした状態を緩和する策を講じ、外交に反映させることで、産油国の態度が緩和し、やがて減産が鎮静化する道が見えると、考えられます。


 ESGを積極的に進めてきた日本にとって、この策は大変にハードルが高いと思われます。しかし、原油価格を下げるだけでなく、世界の分断を直すことにもつながる、意義深い策であると思います。


 こうした策に、高市氏が打って出るか、これから約2年間(自民党総裁の残りの任期分)、見守っていきたいと思います。


[参考]コモディティ全般関連の投資商品例

投資信託

SMTAMコモディティ・オープン (NISA成長投資枠活用可)
ダイワ/「RICI(R)」コモディティ・ファンド
iシェアーズ コモディティ インデックス・ファンド
eMAXISプラス コモディティ インデックス
DWSコモディティ戦略ファンド(年1回決算型)Aコース(為替ヘッジあり)
DWSコモディティ戦略ファンド(年1回決算型)Bコース(為替ヘッジなし)


海外ETF/ETN

Direxion オースピス・ブロード・コモディティ戦略 ETF(COM)
iPathブルームバーグ・コモディティ指数トータルリターンETN(DJP)
ファーストトラスト グローバル タクティカル コモディティ戦略ファンド(FTGC)


(吉田 哲)

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