ゴールドの価格急騰に遅れて、低迷が続いてきたプラチナもようやく上昇を始めました。その背景には法定通貨の価値低下があります。

日米欧の中央銀行が法定通貨の発行量を増やし、市場に供給し続けることで、法定通貨の信用低下が止まりません。そこから代替通貨を探す動きが広がり、ゴールド・プラチナの価格を押し上げていると考えています。


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金(ゴールド)とプラチナ、どちらの方が高い?

 金(ゴールド)とプラチナ、どちらの方が高いでしょうか? 2025年10月8日時点で、国内の1グラム当たりの地金価格は、ゴールドが2万1,632円、プラチナが8,998円です。ゴールド価格はプラチナ価格の約2.4倍まで上昇しています。


 ところで、よくある会員プランなどでランク分けされる、プラチナ会員、ゴールド会員といったら、どちらが格上でしょう? 通常は、プラチナ会員の方が格上です。なぜならば、長年にわたり、プラチナ価格はゴールド価格を上回って推移してきたからです。


 ところが、その常識が今、通用しなくなってきています。10年前(2015年)にゴールド価格はプラチナ価格を完全に逆転しました。その後、価格差は年々広がっています。


<プラチナ・ゴールドNY先物価格(期近、月次推移):1988年1月~2025年10月(7日まで)>
ゴールド・プラチナ急騰!ポートフォリオに法定通貨以外の「輝き」を検討(窪田真之)
出所:ブルームバーグ、QUICKより楽天証券経済研究所が作成

 上のチャートは、プラチナとゴールドの1986年以降の価格推移を示しています。1トロイオンス(約31グラム)当たりのドル建て先物価格(期近)で示されています。このチャートから分かるとおり、プラチナ価格が長期低迷する中、ゴールド価格が大きく上昇しています。


 低迷が続いてきたプラチナ価格ですが、今年に入ってから、やっと遅れて急騰を始めています。

ゴールドとの価格差が開き過ぎたことから、相対的に割安なプラチナを見直す動きが出ていると思われます。


法定通貨の価値低下が、代替通貨ゴールドの価値を高めてきた

 ゴールド価格(ドル建て)は、過去25年で約14倍に上昇しました。プラチナ価格は過去25年で約4倍に上昇していますが、ゴールドの上昇率にかないません。まず、ゴールド急騰の要因を説明しましょう。


 さまざまな要因が影響していますが、一番重要な要因をひとことで言うと、「中央銀行が発行する法定通貨の信頼低下に伴って、代替通貨として値上がりしてきた」とまとめられます。


 ゴールドには、そもそも三つの利用価値があります。


【1】代替通貨としての価値
【2】宝飾品としての価値
【3】産業用途としての価値


 ゴールド固有の最も重要な価値は、【1】代替通貨としての価値です。次に重要なのが、【2】宝飾品としての価値です。【3】産業用途としての価値は、歯科材料などが例に挙げられますが、用途も割合もかなり限定的です。


 2008年のリーマンショック以降、日米欧の中央銀行は、こぞって大規模な金融緩和を行いました。通貨発行量をどんどん拡大する「量的緩和」を実施しました。中央銀行がお金を刷りまくって空からばらまけば景気が良くなるという「ヘリコプターマネー」理論を唱える学者まで現れる始末です。


 2020年にコロナショックが起こると、日米欧主要国は「何でもあり」の経済対策を始めました。

各国の中央銀行が未曾有(みぞう)の金融緩和を進める中、大型の財政出動が行われました。コロナ対策として、事実上のヘリコプターマネーが実現しました。


 政府および中央銀行が、このように通貨の信用を下げる行動を強めた結果、マネー市場では中央銀行が発行する「法定通貨」を持つインセンティブが低下しました。法定通貨がどんどん増やされてばらまかれる中、行き場のないマネーが市場にあふれました。そうした中で、代替通貨を探す動きが強まっています。


 代替通貨を求めるマネーの一部は、暗号資産(仮想通貨)であるビットコインに向かいました。そこで、ビットコインの急騰が起こりました。


 代替通貨を探すマネーの大部分は、通貨の元祖、ゴールドに向かいました。ゴールド見直しの最も象徴的な動きが、各国の中央銀行が、外貨準備の一環として、ゴールドを買い始めたことです。1990年代以降、各国の中央銀行は、金利を生まないゴールドの保有をやめ、売却しました。ところが、今、逆にゴールドを買い増しするようになってきています。


 日本はまだ、法定通貨の価値をおとしめる金融緩和が続いています。

自民党の新総裁に決まった高市早苗氏の下、財政・金融の大盤振る舞いが続けば、さらに代替通貨ゴールドの価値を高めることになるでしょう。


通貨の歴史

 ゴールドを「代替通貨」と呼びましたが、実は、貨幣の流通が始まったばかりの古代から近世において、ゴールドは代替通貨ではなく、通貨そのものでした。人類に最も長く、最も信頼して使われてきた通貨がゴールドでした。


 金貨が、最も信用のある通貨でした。興亡を繰り返す不安定な国家や政府が発行する通貨よりも、はるかに高い信用がありました。


 貨幣経済が急拡大した近現代に至っても、通貨発行主体に信用がない間は、ゴールドに交換できる通貨、兌換(だかん)紙幣だけが信頼を得ていました。ただし、兌換紙幣だけに頼っていると、ゴールドの流通量に通貨の発行量が制約されます。それでは、世界的に急拡大する貨幣経済に、通貨の発行が追いつかなくなります。


 そこで、ゴールドと交換されない不換紙幣が発行されるようになり、その発行がどんどん拡大していきました。


 世界の中央銀行の信用が高まった現代、通貨にゴールドの裏づけは必要ないと考えられるようになりました。中央銀行が紙幣を刷りまくり金利を下げても、世界中の人々が何の疑いもなく、中央銀行の発行する通貨を信用し、喜んで受け取るようになりました。


 ゴールドを上昇させているのは、こうした中央銀行の行動への疑念だと思います。中央銀行が、自ら発行する通貨や、中央銀行そのものの信用を低下させる政策を採り続ける限り、今後もゴールドが代替通貨として買われる流れは変わらないと思います。


長い低迷を終え、プラチナ価格も急騰

 代替通貨ゴールドの急騰が続く中、2024年までプラチナの価格は低迷していました。今年に入って、ようやく相対的な割安さが見直されて、プラチナ価格も急騰しています。


 プラチナの価値も、ゴールドと同様に三つあります。


【1】代替通貨としての価値
【2】宝飾品としての価値
【3】産業用途としての価値


 ゴールドとの大きな違いは、プラチナは通貨として使われてきた歴史がほとんどなく、【1】代替通貨としての買い需要が限られることです。外貨準備の一環として、各国の中央銀行がプラチナを大量に保有することはありません。この違いが、近年の値動きの差に表れています。


 一方、プラチナには、【2】宝飾品、【3】産業用としての需要はあります。産業用途では、ディーゼル車やガソリン車の排ガス浄化装置向けの需要が大きいですが、近年、ディーゼル車向けの需要が伸びないこと、パラジウムなどの代替金属がプラチナ需要の伸び悩みにつながりました。


 ただし、ゴールド急騰によって、プラチナとの価格差が大きく広がったことで、ようやく相対的に割安なプラチナ見直しの動きが出てきました。プラチナにも代替通貨としての一定の需要はあると考えられます。


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2020年12年15日: プラチナと金の価格逆転なぜ?割安なプラチナ価格に上昇あるか


(窪田 真之)

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