ヤクルト本社は乳酸菌飲料の世界最大手です。1960年代から海外進出を果たして事業を拡大。

「Yakult1000」のヒットもあり、2024年までの10年間で利益は倍増しました。今後も高収益継続が見込まれる中で、株価は過去実績対比、同業他社対比で割安感があり、投資判断を「買い推奨」とします。


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著者の西 勇太郎が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 ヤクルト本社を買い推奨!海外展開拡大・ヒット商品販売で利益が10年で倍増 」


1960年代から海外に進出し、海外売上高比率は約50%に達する

 先週の記事ではビール企業を取り上げましたが、今回は乳製品大手のヤクルト本社を取り上げたいと思います。


2025年10月9日: 米ビール大手モルソン・クアーズを買い推奨!直近通期に営業最高益計上もPBR1倍割れ(西勇太郎)


  ヤクルト本社(2267 東京) (株価2,358.5円、時価総額7,830億円:10月10日終値)は、1935年に医師であった代田稔氏が福岡県で設立した代田保護菌研究所が前身です。


    代田氏は自らが発見した乳酸菌 シロタ株によって腸内環境を改善し、人々の健康維持実現に寄与するため、「ヤクルト」の製造販売を開始。1955年には株式会社ヤクルト本社を設立し、1963年にヤクルトレディ制度を導入して訪問販売を開始しました。


 1964年の台湾進出を皮切りに1968年にブラジル、1969年に香港、1971年にタイ、1978年にフィリピンと海外展開を拡大し、訪問販売モデルを導入しました。1980年代にはメキシコ、1990年代にはインドネシア、オーストラリア、米国、ベルギー、オランダ、2000年代以降はインド、ベトナム、中国と、グローバル化を着実に進めていきました。


    現在の展開国数は40以上で、海外売上高比率が連結売上高の約半分に達しています。この点、売上高の大半が日本国内市場に依拠している国内同業の 明治ホールディングス(2269 東京) 、 雪印メグミルク(2270 東京) 、 森永乳業(2264 東京) とは大きく異なっています。


 2025年10月14日には、「ヤクルト」ブランドが「2024年に世界で最も売れた乳酸・乳酸菌飲料」としてギネス世界記録に認定されたことが発表されました。


 ヤクルト本社がここまでの海外展開を実現できた背景には、(1)乳酸菌シロタ株という独自技術を武器に信頼性の高い製品を提供できたこと、(2)現地の女性をヤクルトレディとして雇用し、家庭や職場に直接届けることで地域密着型の販売網を構築したこと(特にアジアや南米では、人との接点を重視する文化にマッチ)、(3)現地生産・現地販売の地産地消モデルを実現することでコストを抑えるとともに地元の雇用を生み出して社会的信頼を獲得したこと、などの要因があります。


 2021年には日本国内にて乳酸菌 シロタ株をヤクルト史上最多の1,000億個含有する「Yakult1000」の全国販売を開始しました。ヤクルト本社としては初めての機能性表示食品で、「一時的な精神的ストレスがかかる状況でのストレスを緩和」することと、「睡眠の質を高める」ことを機能として掲げ、100mlで店頭価格150~160円で販売しました。


    この商品についてSNSやテレビで「よく眠れる」「ストレスが減った」と口コミが拡散し、一時は品薄状態が続き、入手困難になるほどの大ヒットとなり、収益にも大きく貢献しました。2024年以降はブームのピークアウトにより販売本数が減少傾向にありますが、ヤクルト本社の収益レベルが一段押し上げられた状態は続いています。


10年間で利益倍増も株価は方向感無く推移

 ヤクルト本社の2015年3月期の売上高は3,680億円でしたが2025年3月期には4,997億円と1.4倍に増加しました。2010年代にはアジア・オセアニア地域、2020年代日本と米州が売上増加のけん引役となっている状況です。


 当期純利益は売上高の増加率を上回る増加を示しており、2015年3月期の251億円から2024年3月期には510億円へと倍増しました。2025年3月期は原材料費や物流コストの上昇によって前年比減益となりましたが、高水準を維持している状況です。


<ヤクルト本社の当期純利益推移(2014年以降)>


ヤクルト本社を買い推奨!海外展開拡大・ヒット商品販売で利益が10年で倍増(西勇太郎)
※2025年は会社計画値出所:ヤクルト本社資料などより楽天証券経済研究所が作成

 他方、株価についてはYakult1000が全国発売した2021年から2022年にかけて一時的に上昇する局面はあったものの、過去10年の推移でみると2,000円から5,000円という広いレンジでの方向感のない推移となっており、当期純利益増加トレンドを無視している形になっています。


<ヤクルト本社の株価推移(2014年以降)>


ヤクルト本社を買い推奨!海外展開拡大・ヒット商品販売で利益が10年で倍増(西勇太郎)
※2025年は直近値出所:ヤクルト本社資料などより楽天証券経済研究所が作成

PBRが過去平均水準に回復すれば株価は5,000円

 過去10年間の変化で見ると、売上高が1.4倍に増加したのに対して売上総利益は1.5倍、営業利益は1.6倍、当期純利益率は1.8倍と増加ペースが売上高を上回っており、利益率上昇を伴いながらの事業拡大が実現できたことが分かります。


    株主資本蓄積も順調に進んで1.8倍に達している中、時価総額はむしろ10年前から4割程度も減少しています。結果的に株価純資産倍率(PBR)は4.3倍から1.5倍へと大きく低下しており、割安感が出ています。

この割安感が解消され、PBRが過去10年間の平均水準である2.7倍にまで上昇した場合には、株価は5,000円となります。


<ヤクルト本社の業績推移(2014年度と2024年度)>


ヤクルト本社を買い推奨!海外展開拡大・ヒット商品販売で利益が10年で倍増(西勇太郎)
出所:ヤクルト本社の資料などより楽天証券経済研究所が作成

 ちなみに地域別では、日本と米州が利益率の上昇に大きく貢献しました。日本ではYakult1000のブームによって営業利益率は6%から15%へと大きく上昇。米州ではカリフォルニア州やジョージア州に工場を設立して現地生産を開始したことによって生産コストが低下し、営業利益率は23%から28%へと上昇しました。


 なお米州で営業利益率の絶対水準が高いのは、2007年の全米店頭市場での本格販売開始時から「プロバイオティクス」「乳酸菌 シロタ株」などの健康効果を明確に伝える広告を展開する「プレミアム健康飲料」としてのブランド戦略が成功したため、高単価製品として市場に受け入れられているためです。


 日本と米州で利益率が上昇した一方で、アジア・オセアニアでは26%から8%へと利益率が大きく低下しました。これは、工場の新設・増設が相次いで減価償却費が増加したことや新興国市場でのブランド認知拡大のために広告宣伝費や販促費が増加したことによるものです。


<ヤクルト本社のセグメント別業績推移(2014年度と2024年度)>


ヤクルト本社を買い推奨!海外展開拡大・ヒット商品販売で利益が10年で倍増(西勇太郎)
出所:ヤクルト本社の資料などより楽天証券経済研究所が作成

 2026年3月期の会社予想は減収減益となっていますが、これは国内におけるYakult1000ブームのピークアウトや為替影響によるものです。いずれにしても株主資本の蓄積は着実に進むことが見込まれているため、株価水準がこのまま変わらなければ、2026年3月期にはPBRは1.2と一層割安な水準になってしまう計算になります。


<ヤクルト本社の業績予想>


ヤクルト本社を買い推奨!海外展開拡大・ヒット商品販売で利益が10年で倍増(西勇太郎)
出所:ヤクルト本社、FactSetの資料などより楽天証券経済研究所が作成

乳業・乳製品同業他社比でPBRに割安感があり、解消されれば株価は3,100円

 ヤクルト本社の比較対象に適する乳業・乳製品の上場同業他社には仏ダノン(BN パリ)、中国の インナーモンゴリア・イリ・インダストリアル・グループ(600887 上海) 、中国の チャイナ・モンニュウ・デイリー(02319 香港) 、明治HD(2269 東京)、雪印メグミルク(2270 東京)、森永乳業(2264 東京)、中国の ブライト・デイリー・アンド・フード(600597 上海) 、中国の ワンワン・チャイナ(00151 香港) などがあります。


 これらの企業について、自己資本利益率(ROE)を横軸、PBRを縦軸とした散布図を作成すると、おおむね比例関係にあることが分かります。その中で、ヤクルト本社については大きく割安方向にずれており、この点から、株価に割安感があるといえます。この割安感が解消された場合のヤクルト本社のPBR(下図の青破線に乗る水準)は1.7であり、相当する株価は3,100円です。


<主な乳業・乳製品企業のROEとPBRの関係>


ヤクルト本社を買い推奨!海外展開拡大・ヒット商品販売で利益が10年で倍増(西勇太郎)
出所:各社資料などより楽天証券経済研究所が作成

<主な乳業・乳製品企業10社のROEとPBR>


ヤクルト本社を買い推奨!海外展開拡大・ヒット商品販売で利益が10年で倍増(西勇太郎)
出所:各社資料などより楽天証券経済研究所が作成

 また、これらの企業の予想配当利回りを比較すると、ヤクルト本社は2.7%の利回り(一株当たり配当66円で計算)となっておりおおむね同業他社平均に近い水準です。また、2025年3月期については自社株買いも行っており、総還元率は同業他社比で相対的に高いものでした。


<主な乳業・乳製品企業10社の配当および総還元利回り>


ヤクルト本社を買い推奨!海外展開拡大・ヒット商品販売で利益が10年で倍増(西勇太郎)
出所:各社資料などより楽天証券経済研究所が作成

 ここまで述べさせていただいた通り、ヤクルト本社は今後も高水準収益継続が見込まれる中で、株価は過去実績比、同業他社比で割安感があるため、投資判断を「買い推奨」といたします。


ライバルのダノンとのROEの違いは財務レバレッジの違いに起因

 乳業・乳製品業の同業他社の中でも乳酸菌製品を主力事業にしている企業はヤクルト本社とダノンです。そのダノンはヤクルト本社よりも高いROEとPBRを誇るため、ダノンとの比較を通じてヤクルト本社のさらなるROE向上・PBR上昇の可能性を考えてみたいと思います。


 ヤクルト本社とダノン直近通期業績を比較すると、売上高や利益水準の規模において、ダノンはヤクルト本社の7~9倍程度と大きく異なります。


 株主資本5倍に対して時価総額8倍と、株主資本の違い以上に時価総額の違いが大きくなっており、PBRの違い(ヤクルト本社は1.5倍でダノンは2.4倍)に表れています。そのPBRの違いは、先の比例関係の図から読み取れるように、ROEの違いが大きな要因となっていると考えられます。


<ヤクルト本社とダノンの直近通期業績比較>


ヤクルト本社を買い推奨!海外展開拡大・ヒット商品販売で利益が10年で倍増(西勇太郎)
出所:ヤクルト本社、ダノンの資料などより楽天証券経済研究所が作成

 ROEを分析する際に、


ROE(当期純利益÷株主資本) = 当期純利益率(当期純利益÷売上高) × 総資産回転率(売上高÷総資産) × 財務レバレッジ(総資産÷株主資本)


の3要素に分解する手法(デュポン分析)を使用するのが一般的です。このやり方でROEを分解した結果を上の表の緑色の部分に示していますが、ヤクルト本社とダノンのROEの違いはおおむね財務レバレッジの違いから来ていることが分かります。


ヤクルト本社の財務レバレッジが他社に比べて低い

 ヤクルト本社の財務レバレッジが1.5倍とダノンの2.6倍に比べて低いということは総資産に占める株主資本の割合が高いということですので、財務健全性が高くて良いという判断もあるかもしれません。


 他方で、資本を効率的に活用して収益を上げていくという観点では、財務健全性が高すぎるのも良くないという判断もありえます。この財務レバレッジの相場観を知るために他社とも比較してみると以下の通りとなります。


<主な産乳業・乳製品企業10社の主要指標>


ヤクルト本社を買い推奨!海外展開拡大・ヒット商品販売で利益が10年で倍増(西勇太郎)
出所:各社資料などより楽天証券経済研究所が作成

 主要10社の財務レバレッジ平均は2.4となっており、ダノンの財務レバレッジが平均水準である一方、ヤクルト本社の財務レバレッジが他社比で低い状況にあることが分かります。


ヤクルト本社は7,000億円以上の使用可能資金を潜在的に有する

 仮に、ヤクルト本社の財務レバレッジを平均水準の2.4倍まで高めるとすると、下表の通りとなって、7,826億円を使用可能資金として確保でき、新たな設備投資や買収や合併(M&A)、株主還元に用いることが可能な計算となります。


<ヤクルト本社の使用可能資金試算(財務レバレッジを2.4倍に高めるケース)>


ヤクルト本社を買い推奨!海外展開拡大・ヒット商品販売で利益が10年で倍増(西勇太郎)
出所:ヤクルト本社の資料などより楽天証券経済研究所が作成

 実際ヤクルト本社はこの潜在的な資金調達力を背景に海外にて積極的に工場を譲受し、植物性ヨーグルトなど新領域の製造拠点としました。今後もヤクルト本社はこのような機会を狙っていくと考えられます。潤沢な資金調達力を活用した事業拡大が実現し、その結果財務レバレッジが2.4倍まで高まった場合には、ROEが約60%上昇し、株価も約60%もしくはそれ以上上昇する可能性があります。


(西 勇太郎)

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