国内外のプラチナ価格が急上昇しています。国内の小売価格はおよそ45年ぶりに過去最高値を更新。

国内の先物価格は史上最高値、海外の先物価格は12年ぶりの高水準です。本記事では、この急上昇の背景と積立投資におけるプラチナの魅力について解説します。


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短期視点では急反発、長期視点では低迷中

 以下のグラフの通り、プラチナ価格は短期視点で急反発しています。この短期視点の反発の要因は、三つあると考えられます。


図:ドル建てプラチナ、金(ゴールド)価格推移(月足終値) 単位:ドル/トロイオンス
最高値更新のプラチナは積立投資で真価を発揮する
出所:世界銀行のデータより筆者作成

 一つ目は、貴金属の最主要銘柄である金(ゴールド)の価格が歴史的な水準で高止まりしている点です。二つ目は、米国の利下げ観測が強まったり、関税交渉における楽観論が浮上したりして、主要国の景気回復期待が高まり、産業用の需要の割合が高いプラチナの需要が増加する観測が浮上している点です。


 三つ目は、2015年9月にフォルクスワーゲン問題が発覚した際に「急減する」といわれていた自動車排ガス浄化装置向けのプラチナ需要の回復や、主要な鉱山生産国での生産量の減少により、需給バランスが引き締まりやすくなっている点です。


図:プラチナ市場を取り巻く環境(2025年)
最高値更新のプラチナは積立投資で真価を発揮する
出所:筆者作成

 とはいえ、長期視点で見ると、別の見方ができます。フォルクスワーゲン問題発覚以降、プラチナ相場は低迷を強いられてきました。その結果、足元の急反発を考慮しても、現在の水準は金(ゴールド)の5分の2程度、そしてプラチナ自身の高値(2008年5月)の10分の7程度です。


 長期視点では、プラチナには金(ゴールド)に対する割安感、プラチナ自身の高値に対する割安感があると言えます。短期視点では「高い」と報じられているものの、長期視点では真逆の顔を持っていると言えるでしょう。


用語解説


  • プラチナの需要:全需要のおよそ67.5%が産業用(自動車排ガス浄化装置向け37.8%+その他産業用29.7%)。
    宝飾用は24.0%、投資用は8.5%(2024年、WPICのデータより)
  • 自動車排ガス浄化装置:プラチナなどが持つ触媒作用を利用し、エンジンから排出される排気ガスに含まれている有害物質を水や二酸化炭素、比較的毒性の少ない物質に変える装置。内燃機関(エンジン)と消音機(マフラー)の間に設置される。
  • 触媒作用:一定の条件下で自分の性質を変えずに相手の性質を変える作用。

フォルクスワーゲン問題の呪縛から解放

 以下の図は、フォルクスワーゲン問題の発覚を機に、多くの市場関係者や投資家の間で急減すると言われた、プラチナの自動車排ガス浄化装置向けの需要の推移です。


図:プラチナの自動車排ガス浄化装置向け需要の推移 単位:千オンス
最高値更新のプラチナは積立投資で真価を発揮する
出所:Johnson Mattheyのデータを基に筆者作成

 フォルクスワーゲン問題は、2015年9月に米国の環境保護局が、同社が違法な装置を使い、不正に排ガスの浄化装置のテストをくぐり抜けていたことを同局が公表したのです。


 これにより、多くの市場関係者や投資家の間で、同社が手掛けるディーゼル車の信用が低下しました。そして、同車種の自動車排ガス浄化装置に多く使われている「プラチナの需要が急減する」「だからプラチナはもうだめだ」「もうプラチナ価格は上がらない」といったことがまことしやかに語られ始めました。


 確かに2018年から2019年にかけて、やや減少したことを確認できますが、ささやかれていたような大規模なものではありませんでした。


 新型コロナショックが発生した2020年は他のコモディティ(国際商品)と同様に、大きく需要が減少したものの、その後は急回復し、足元の水準は同問題が発覚した2015年とほぼ同じ水準です。プラチナはもうすでに、フォルクスワーゲン問題の呪縛から解放されていると言えます。


 急減が起きなかった理由の一つに、エンジンを有する自動車1台当たりの排ガス浄化装置向けの貴金属需要が増加したことが挙げられます。


 フォルクスワーゲン問題発覚とほぼ時を同じくして、世界で脱炭素の動きが拡大していました。このころから、主要国で排ガス規制の強化が始まりました。

そして、排ガス規制の強化は、エンジンや排ガス浄化装置の性能を向上させる必要性を高めます。


 筆者の推計では、以下のグラフの通り、2000年代、自動車1台当たりに使われる同需要向けの貴金属は3.6グラム程度でした。それが足元では4.8グラム程度に増加しています。


図:内燃機関を有する自動車1台あたりの排ガス浄化装置向け貴金属需要(筆者推計 世界合計) 単位:グラム/台
最高値更新のプラチナは積立投資で真価を発揮する
出所:Johnson Matthey、国際自動車工業連合会(OICA)のデータを基に筆者推計

 一部では、脱炭素の動きが拡大することで、世界で電気自動車(EV)が普及し、内燃機関を有する自動車の数は急減するといわれていました。このことにより、プラチナの同需要が減少する、との思惑がありました。


 しかし、脱炭素の動きが広まっても、プラチナの同需要は回復・増加しています。脱炭素の推進が、プラチナの同需要を増加させる要因となったことに、注目しなければなりません。


「脱炭素」はプラチナ需要を増加させる

 以下の図は、小型車の排ガス規制の動向と見通しを示しています。主要国では、排ガス規制が強化されており、今後もこの流れが続くことが見込まれています。


 世界で最も排ガス規制が厳しいといわれている欧州では、2026年の11月にさらに規制が強化される見込みです。ほぼ同じタイミングで、米国でも規制が一段、強化される見込みです。


 2028年には韓国の一部、中国の主要部および広域でも、規制強化が見込まれています。インドネシアやタイにおいては、かつて欧州で行われていた規制をなぞるように、強化が見込まれています。


図:小型車の排出ガス規制の動向と見通し(2025年5月時点)
最高値更新のプラチナは積立投資で真価を発揮する
出所:Johnson Mattheyの資料を基に筆者作成

 世界の主要国における排ガス規制強化の流れは、今後も続くことが見込まれ、これが先述の自動車1台当たりの自動車排ガス浄化装置向けの貴金属需要の増加を後押しする可能性があります。


 また以下の図は、新車生産における動力源の比率の見通しです。ワールド・プラチナ・インベストメント・カウンシル(WPIC)の資料によると、2025年ごろ以降、新車生産におけるガソリン車とディーゼル車は大きく減少し、EVとハイブリッド車およびプラグインハイブリッド車が大きく増加することが見込まれています。


 近年、特に欧米で進んでいる「ハイブリッドシフト」が今後も進むことが織り込まれていると考えられます。


 脱炭素が世界で叫ばれ始めた2010年代は、世界の主要国は新車販売においてEVを中心にすると述べていました。


 しかし、バッテリーや半導体などの部品の調達が難しくなっていることや、エンジンを主軸とする従来の自動車産業の再興を目指す動きが目立ち始めたことなどにより、EV一辺倒の方針を修正し、エンジンと電気モーターの両方を持つハイブリッド車やプラグインハイブリッド車の生産・普及が見込まれています。


図:新車生産における動力源比見通し(イメージ)
最高値更新のプラチナは積立投資で真価を発揮する
出所:WPICの資料を基に筆者作成

 脱炭素の考え方が完全に否定されない限り、主要国における排ガス規制強化やハイブリッドシフトの流れが長期視点で続く可能性があります。こうしたことは、プラチナの自動車排ガス浄化装置向けの需要を長期視点で高止まりさせる要因になり得ます。


長期積み立てとプラチナは好相性

 ここまで、プラチナは長期視点で価格が割安で、脱炭素の流れを受けて需要が増加する可能性があると述べました。長期視点の需要増加は、長期視点の価格反発の要因になり得ます。長期視点で価格が割安で、長期視点で価格反発が起き得るプラチナは、「積立投資」と相性が良いと考えられます。


 以下は、2015年11月から約10年間、金(ゴールド)とプラチナで積立投資をした結果です。

条件は、月々の積立金額が1万円、手数料は買付時に1.65%(税込)、分配・配当金はなしとします。


図:金(ゴールド)とプラチナの積立投資の結果(2015年11月から約10年間)
最高値更新のプラチナは積立投資で真価を発揮する
出所:楽天証券のデータを基に筆者作成

 左上の「価格推移」のとおり、2015年11月以降、金(ゴールド)は長期視点で上昇、プラチナは長期視点で低迷を強いられ、2025年の春以降、短期視点で反発しています。また、このおよそ10年間、それぞれで積立投資をしたところ、右上の図のとおり、プラチナの「累積保有数量」は金(ゴールド)を大きく上回りました(金(ゴールド)の1.6倍)。


 こうした価格推移と累積保有数量を用いて計算した「資産の増加分(累積の資産額-累積の投資金)」は、2024年末比で、プラチナが4.5倍にもなりました。金(ゴールド)は2.1倍にとどまりました。


 長期視点で価格低迷を強いられてきたプラチナにおいては、価格が安い分、効率よく保有数量を増やすことができました。その結果、保有数量は金(ゴールド)よりも多くなり、短期的な価格反発時に、資産の増加分が急激に増えたのです。


 以下は、金(ゴールド)の価格を2万1,000円、プラチナの価格を8,000円とし、5年間、横ばい、その後の5年間で段階的に5,000円、上昇した場合のシミュレーションです。積み立ての条件は、さきほどと同様です。


図:金(ゴールド)とプラチナの積み立てシミュレーション(2025年11月から約10年間)
最高値更新のプラチナは積立投資で真価を発揮する
出所:筆者作成

 プラチナの「累積保有数量」は金(ゴールド)を大きく上回りました(金(ゴールド)の2.5倍)。その結果、足元のプラチナの「資産の増加分」は、金(ゴールド)の2.8倍になりました。最終的な価格が金(ゴールド)の半値でも、金(ゴールド)を上回る大きな利益を出すことができたのです。


 冒頭で述べたとおり、国内外のプラチナ価格が短期視点で急上昇しています。確かに、耳目を引く値動きではありますが、現在の水準は金(ゴールド)の5分の2程度、そしてプラチナ自身の高値(2008年5月)の10分の7程度です。


 プラチナには金(ゴールド)に対する割安感、自分自身の高値に対する割安感があります。そして同時に、脱炭素の流れを受けて、長期視点の需要増加・価格反発が起きる可能性を秘めています。


「今安い、長期で上昇しそう」という特徴を持つプラチナは、「積立投資」向きであると言えます。プラチナは短期売買ではなく、長期積立投資で本領を発揮すると、筆者は考えています。


(吉田 哲)

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