東京証券取引所は、先週から今週にかけて、金(ゴールド)やプラチナを含むいくつかの貴金属関連の上場投資信託(ETF)について、「市場価格が基準価額と乖離(かいり)している」として、投資家に注意を促しました。本記事では、その意味合いや気を付けるべきポイントについて解説します。
※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の吉田 哲が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 東証が注意喚起:金(ゴールド)ETFの市場価格と基準価額の乖離とは? 」
東京証券取引所、注意喚起を行う
東京証券取引所は10月17日(金)、 「純金上場信託(現物国内保管型)」(証券コード1540) 、および 「純プラチナ上場信託(現物国内保管型)」(証券コード1541) において、市場価格が基準価額と比較して高い状態で推移する傾向が継続していることについて、注意喚起をしました。
また、東京証券取引所は10月20日(月)に、 WisdomTree貴金属バスケット上場投資信託(コード1676) について、同日取得した外国の主たる金融商品取引所における直近の値段を円換算した値が、前日に設定した基準値段と大幅に乖離したことを受け、同日の基準値段を変更したことなどを告知しました。
市場価格と基準価額について
「金の果実」の愛称で知られる「純金上場信託(現物国内保管型)」(証券コード1540)について、同ETFを管理する三菱UFJ信託銀行が公表している資料とデータを用い、市場価格と基準価額、その乖離について述べます。
以下は、上場投資信託(1540)に関わるさまざまな価格です。
図:上場投資信託(1540)に関わるさまざまな価格
今回の注意喚起は、投資家が取引所で売買する受益権1口当たりの「市場価格」が、1口当たりの純資産額に当たる基準価額に比べて高い状態で推移する傾向が継続しているために行われました。
以下のとおり、平時は乖離率が低い状態を維持していますが、直近では5%を超える日が続いています(10月20日時点で16.2%)。
図:上場投資信託(1540)における基準価額と取引価格の乖離率(2025年10月20日まで)
実際の市場価格と基準価額の推移は、以下のとおりです。9月11日ごろから、市場価格が基準価額を上回る傾向が目立ち始めたことが分かります。2024年4月にも同様の傾向が目立ったタイミングがありましたが、同月内に乖離は見られなくなりました。
図:上場投資信託(1540)の基準価額と市場価格
乖離が生じる二つの要因
こうした市場価格が基準価額を上回る乖離は、(1)市場が過熱感を帯びて買い注文が殺到すること、(2)基準価額の元となる純資産を増やす追加の「設定」が一時的に追いつかなくなること、などの事象が目立つと発生しやすくなります。
(1)市場が過熱感を帯びて買い注文が殺到すること
先ほどの図、上場投資信託(1540)に関わるさまざまな価格、で示したとおり、市場価格は市場(東証)の需給などで決まります。市場が過熱感を帯びて買い注文が殺到すると、大きな上昇が発生し、その結果、市場価格が基準価額を上回る乖離が生じ得ます。
例えば、10月20日(月)の市場価格は2万2,525円でした。この価格はおよそ0.937グラム当たりの価格です。この数量は、現在の受益権の1口当たりの貴金属の質量(同ETFの信託契約に基づく、信託報酬や信託費用を考慮した現在の質量)です。
一方、基準価額の算出に用いられる、大阪の先物価格の理論値である指標価格は、同日時点で2万0,682円でした。この指標価格は1グラム当たりです。
10月20日の市場価格を1グラムに直すと、およそ2万4,041円です。これは同日の指標価格よりも3,000円以上高い価格です。市場はこの差額が許容される程、過熱感を帯びていると言えます。
(2)基準価額の元となる純資産を増やす追加の「設定」が一時的に追いつかなくなること
純資産総額については以下のとおりです。純資産総額は市場の変動を考慮した、同ETFの資産の総額です(この値をその時の口数で除した値が基準価額です)。
図:上場投資信託(1540)の純資産総額 単位:十億円
10月20日時点の純資産総額はおよそ1兆2,000億円でした。この値は半年前のおよそ2倍です。
新型コロナショックの発生や、米国の利下げ政策の推進、ウクライナや中東情勢の悪化など、世界の中心であるドル建て金(ゴールド)価格を大きく押し上げるきっかけとなった材料、そして記録的な円安進行を踏まえながら、指標価格の上昇を反映しつつ、純資産総額は大きく増加してきました。
以下は、同ETFの口数の推移です。同ETFは、口数の追加(追加設定。純資産総額の増加要因となる)が行われながら運営されている様子がうかがえます。報道では、同ETFを管理する金融機関は今後も追加設定を継続するとしています。
図:上場投資信託(1540)の口数 単位:百万口
現在発生している乖離について、「追加設定が追いついていない、だから既存のETFの価格が急騰している」という趣旨の指摘を目にします。
近年、中央銀行の金(ゴールド)保有量が大きく増加するなど、世界の金(ゴールド)の需給が引き締まりやすくなっています。こうしたことも、追加設定のための現物調達が滞る遠因になり得ます。
とはいえ、今のところ、(1)で述べた市場の過熱感による影響は大変に大きいと考えられます。それだけ日本の投資家の「金(ゴールド)を保有したいという気持ち」が強いのだと思います。
市場価格が基準価額を上回る乖離が生じている状態においては、投資家の購入価格が想定よりも高くなってしまいます。乖離が縮小するまでの間、同ETFの売買の際は、十分にご注意いただく必要があります。
乖離を確認する手段と対策
乖離の状況については、楽天証券のツール「マーケットスピード II 」で簡単に、その目安を確認することができます。以下のように「指数化チャート」の機能で、銘柄1に国内株式の1540を、銘柄2に先物OPの金(中心限月)を設定します。
銘柄2に設定する先物価格は、同ETFの指標価格を計算する際に用いられる価格の一部です。以下の図の場合、緑色が上場投資信託(1540)、オレンジ色が大阪の金先物(中心限月)です。
図:上場投資信託(1540)と大阪の金先物(中心限月)の指数化チャート
「冷静な金(ゴールド)買い」は、市場の行き過ぎた過熱感を鎮静化させ、市場価格と基準価額の乖離をなくす手段になり得ます。
以前のレポート「金(ゴールド)価格、ついに4,000ドルと2万円の大台に到達」で述べている「七つのテーマ」も感覚に頼らない、冷静な金(ゴールド)投資には役立つでしょう。ぜひご参照ください。
▼以前のレポート
金(ゴールド)価格、ついに4,000ドルと2万円の大台に到達
引き続き、筆者もできるだけ冷静な情報発信を続けてまいります。
(吉田 哲)

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