中国共産党の重要会議「四中全会」が10月20日、北京で開幕しました。主なテーマは、「第15次5カ年計画」(2026~2030年)の中身です。

低迷する中国経済を回復させる「起爆剤」は出てくるのでしょうか。最新の経済統計も踏まえつつ、解説していきます。


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著者の加藤 嘉一が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 中国の重要会議「四中全会」開幕、景気回復の起爆剤になるか? 」


「四中全会」が開幕。「第15次5カ年計画」を審議

 1億人以上の党員を抱える世界最大の政党・中国共産党の重要政治会議「第20期中央委員会第四回全体会議(四中全会)」は10月20~23日までの4日間の日程で行われます。習近平総書記を筆頭に、7人の中央政治局常務委員、24人の委員(常務委員含む)、200人強の中央委員が出席する中国の政治における最高レベルの会議です。


 中国という巨大国家がどこに向かうのか、そしてどのように向かうのかといった方向性に関わる大きなテーマを扱う場、それが中央委員会の全体会議なのです。


 高市新内閣が発足したばかりである日本の政局も重大な局面にありますが、お隣・中国の政局もまたクリティカルな局面にあり、国際関係や世界経済への影響が注目されます。


 今回の四中全会の主なテーマは「第15次5カ年計画」を審議することにあります。中国は建国(1949年)から間もない1953~1957年、当時のソ連の計画経済に倣って工業化や農業の集団化を推し進めることを主眼に置いた「第1次5カ年計画」を実施しました。


 1978年12月に行われた第11期三中全会で、国家戦略の重点が従来の階級闘争から経済建設に移されました。それを受けて、改革開放が進められる過程で、社会主義は堅持しつつ、「計画経済」ではなく「市場経済」がうたわれ、実行されるようになっていきました。


 計画経済は掲げられなくなったとはいえ、ソ連時代、計画経済時代に起源を持つ「5カ年計画」は現在に至るまで続いているという経緯は押さえておく必要があるでしょう。中国という国は、5年を一つの単位・期間として、その時代に即した経済発展を促すための「大計画」を策定し、それに基づいて政策が実行されます。


 このような歴史的経緯を受けて、今回審議、策定される「第15次5カ年計画」は2026~2030年を期間としています。これからの約5年間、中国がどのように経済発展を実現していくかという重大なテーマの一端、場合によってはその全貌が明らかになることでしょう。


 習近平政権が近年大々的に主張する「中国式現代化」「新たな質の生産力」「全国統一市場」といったキーワードが前面に打ち出されるものと思われます。中国共産党指導部として、中長期的な経済発展のために注力していきたい産業・分野も一定程度可視化されるものと予測します。


 詳細は四中全会の閉幕日に発表される予定のコミュニケ(声明)を参照しつつ、後日レビューしたいと思います。


7-9月期の経済成長率は4.8%増で鈍化。主要統計は軒並み悪化

 四中全会が開幕した10月20日、中国国家統計局が7-9月期の主要統計結果を発表しました。国内総生産(GDP)実質成長率は前年同期比4.8%増で、以下の図表で整理した通り、1-3月期、4-6月期と比べて伸び率が鈍化しました。


2025年7-9月期 2025年4-6月期 2025年1-3月期 2024年1-12月期 4.8% 5.2% 5.4% 5.0% 中国国家統計局の発表を基に筆者作成。数字は前年同期比

 1-9月期は5.2%増なので、2025年の年間目標である「5.0%前後」の達成はある程度問題ないと言えますが、楽観視もできません。経済成長を巡る中身・内訳を見てみると、次のようになります。


  1-9月期 1-6月期 1-3月期 工業生産 6.2% 6.4% 6.5% 小売売上 4.5% 5.0% 4.6% 固定資産投資 ▲0.5% 2.8% 4.2% 不動産開発投資 ▲13.9% ▲11.2% ▲9.9% 不動産を除いた固定資産投資 3.0% 5.3% 6.0% 貿易(輸出/輸入) 4.0%(7.1%/▲0.2%) 2.9%(7.2%/▲2.7%) 1.3%(6.9%/▲6.0%) 失業率(調査ベース、農村部除く) 5.2% 5.2% 5.3% 消費者物価指数(CPI) ▲0.1% ▲0.1% ▲0.1% 生産者物価指数(PPI) ▲2.8% ▲2.8% ▲2.3% 中国国家統計局の発表を基に筆者作成。▲はマイナス。数字は前年同期比

 工業生産、小売売上、固定資産投資など主要統計が軒並み悪化している景気動向が見て取れます。特に注目すべきは投資で、今年に入ってからも低迷が懸念されてきましたが、1-9月期にはついにマイナス成長となりました。不動産開発投資は13.9%減まで下落、不動産不況は脱却どころか、一層悪化の様相を呈しています。


 物価関連の消費者物価指数(CPI)、PPIも依然としてマイナス成長が続いており、経済がデフレ基調で推移する現状が見て取れます。


四中全会は景気回復に向けた起爆剤となるか?

 景気が低迷する中で迎えた四中全会―――


 昨今の中国における政治経済情勢を一言で表すとこのようになるでしょう。今後の焦点は、第15次5カ年計画を審議する四中全会が、足元低迷・減速する景気を下支えする役割を果たすのかという点です。


 以前も本連載で扱いましたが、過去数カ月、中国株が比較的好調(10月22日午前時点で上海総合指数が3,900ポイント前後で推移)な背景として、特に海外投資家の「四中全会」への期待値が作用していたと思われます。


 向こう5年間の経済政策を審議するこの会議で、市場関係者が歓迎するような経済政策(例えば、市場原理の重視)や、特定の産業・分野への注力(例えば、人工知能)が打ち出されることで、中国の経済政策・情勢が以前に比べてポジティブに回っていくのではないかという観測が一定程度存在してきたと言えます。


 このような流れを受けて、四中全会が景気低迷の起爆剤になるか否かというテーマを、二つの視点から考えてみます。


 一つ目は、今回の四中全会は、あくまでも5カ年計画という中長期的な経済戦略を審議する場であり、足元の景気を刺激・支援するための短期的、ミクロ的な政策を打ち出す場ではないという点です。従って、四中全会自体が、直接的に景気回復につながるという希望的観測を抱くことには慎重であるべきだと思います。


 二つ目は、とはいえ、今後5年間に向けて経済戦略の方向性や枠組みを示す四中全会を経て、海外投資家や市場関係者が納得、歓迎できる政策、スタンス、文言などが打ち出されれば、「習近平氏は経済を重視している」「中国政府は市場の原理をよく理解している」といった反応や評価が広まります。


 結果として、低迷する足元の景気が回復したり、株価(特定の銘柄を含めて)がさらに上がったりする局面を後押しする可能性はあります。


 総じて、「(1)中国がこれからの5年、どこへどのように向かうのか」という中長期的、マクロな視点に加えて、「(2)それらが足元の景気動向、短期的な経済情勢にどのような影響を与えるのか」という二つの視点・軸足を持ちつつ、中国情勢を見つめ、皆さん自身の投資活動に生かしていくのがよろしいのではないでしょうか。


(加藤 嘉一)

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