中国で四中全会が閉幕しました。「第15次5カ年計画」に向けては、科学技術の「自立自強」や「内需拡大」といった方針が打ち出されました。

雇用や物価対策、および「給料未払い」問題への対応など国民生活に寄り添う政策も打ち出されました。四中全会を経て、中国の景気はどこに向かうのでしょうか。


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著者の加藤 嘉一が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 四中全会閉幕:科学技術で「自立自強」、景気回復と株価上昇に期待 」


中国で四中全会が閉幕

 10月20日から23日までの4日間の日程で行われた重要会議「四中全会」が閉幕しました。2026年から2030年の「第15次5カ年計画」が主な議題だった今回の会議ですが、これから5年間、中国がどこへ、どのように向かって行くかを予測する上で、示唆に富む情報が一定程度含まれていました。


 本稿では以下、「四中全会」で打ち出された今後の経済成長を巡る方針や政策を取り上げ、現時点での私の分析を加えていきます。ぜひ、マクロ的な視点を持ちながら、読んでいただければ幸いです。


「第15次5カ年計画」(2026~2030)に向けた目標と産業別の方針

「四中全会」が閉幕した日、コミュニケ(公報)と呼ばれる声明が発表され、会議で審議された内容が一部公開されました。


第15次5カ年期の主要目標 「高い質の発展」分野で顕著な成果を上げる 科学技術における「自立自強」の大幅な向上 改革を巡る「新たな突破」 社会文明の「明確な進歩」 生活水準の「継続的向上」 美しい中国の建設で「新たな進展」 「国家安全保障体制」の強化

 今回の四中全会で打ち出された経済政策目標の特徴は、「従来の政策との連続性」だったと私は分析しています。要するに、見る側を驚かせるような目新しい政策は基本的に見られなかったということです。それよりも、習近平政権がこれまで継続的に打ち出してきた方針や目標を再確認することで、中国の経済政策や情勢を巡る「予測性」を高めようとしたのでしょう。


 先週のレポートでも扱ったように、景気が持続的に低迷する中、中国共産党が政策の根幹に掲げるのが「安定性」、すなわち、雇用、物価、為替などのさまざまな側面で、とにかく安定感を第一に据え、安全運転で運営していこうという思惑が作用しているのです。


▼先週のレポート

中国の重要会議「四中全会」開幕、景気回復の起爆剤になるか?


 そんな中で、私が注目したのは、科学技術の分野で「自立自強」を「大幅に向上」させようという記述です。背景には、米国との戦略的競争やトランプ政権による政策が内包する不確実性があるのでしょう。


 中国は近年、科学技術の分野における基礎研究や人材育成を「国産型」で推進する傾向が強くなっています。人工知能(AI)はその典型で、1丁目1番地です。科学と技術の力で経済を持続的に発展させることで、総合的な国力が初めて抜本的に向上していくという考えが根底にあると考えられます。


「国家安全保障体制」の強化という主張も重要で、日本を含めた外国企業が中国市場と付き合う上で示唆的です。習近平政権がこれまで貫徹してきた「国家安全」という要素が、「経済活動」の中で主要な位置と重要な比重を占めるという特徴を改めて示した形と言えます。


 今回の四中全会では「発展と安全の統一」という概念が提起されましたが、ただ経済が発展し、市場が盛り上がるだけではダメだということです。そこには安全が死守され、秩序が保持されなければなりません。そして、安全を乱す経済行為に対しては断固メスを入れていく。それが新時代における「中国的法治」なのだと私は解釈しています。


 次に、重点分野別に提起された方針も見ていくことにしましょう。


分野 方針 産業政策 実体経済を基盤。製造強国、品質強国、宇宙強国、交通強国、サイバー強国建設を推進。新興産業・未来産業を育成。インフラ体系を整備 科学技術 自主性に基づいたイノベーションを強化。教育、科学、人材を一体的に推進。「デジタル中国」を深化 内需拡大 消費と投資の好循環を形成。「全国統一市場」の障壁を除去 市場経済体制 生産要素を巡る市場化改革とマクロ経済統治の効率化 対外開放 制度的開放の拡大。「一帯一路」を高い質で推進 農村振興 農業強国建設を加速。農村の生活条件を近代化 地方の発展 地域戦略の統合・調整を強化。国土空間を最適化 文化の発展 社会主義文化の繁栄を推進。文化産業と文明の国際発信力を強化 グリーン経済への転換 カーボンピークとカーボンニュートラルを推進 国民生活の保障 教育、雇用、医療、住宅、社会保障を強化。共同富裕を推進 国家安全 「総体的国家安全観」を徹底。
安全能力の近代化を推進 国防と軍隊 建軍100年目標を実現し、軍事近代化を加速

 広範囲な産業別分野で方針が掲げられています。ただ、こちらも目新しい政策は基本的に見当たらず、従来の方針との連続性が意識されているように見受けられます。イノベーション、制度的開放、一帯一路、共同富裕、グリーン経済、そして国家安全などは習近平政権が新時代における「成長と改革」の観点から、継続的に掲げてきた方針であり、政策だと言えます。


「内需拡大」も重要なポイントです。これは中国が長年提起しているものの、実践がなかなか成果に結びついていない分野です。


 米国との関係を含め、対外通商関係が不透明感を漂わせる中、14億というマーケットを最大限に生かすという観点から、「投資と消費の好循環」を通じて内需を拡大していく、その過程で「全国統一市場」を形成していくというのは野心的な目標に聞こえます。「統一市場」が何を意味するのかに関しては、これから状況を見ていく必要があるでしょう。


 四中全会コミュニケが「内需拡大」に関して次のように補足的な説明をしている点も特筆に値します。


「強大な国内市場を建設し、新たな発展の状況の構築を加速させる。内需拡大という戦略的基点を堅持し、国民生活に資する消費を促進することを堅持し、モノへの投資とヒトへの投資を緊密に結合させる。新たな需要で新たな供給を促し、新たな供給で新たな需要を創造すること。消費と投資を促し、供給と需要を好循環させる」


 消費と投資という両支柱が、今後の中国経済にどう資していくのか、注目されます。


 そして、重要なキーワードの一つが「強国」です。大国ではなく、強国としていることに意味があります。製造業、農業、宇宙、交通網、サイバー空間といった分野で世界最強を目指すと言っているに等しいです。


 中国が「強国化」していくという前提で、私たちなりに「大国」との違いは何なのだろうという好奇心を持って、中国の一挙手一投足を見つめると、興味深い結論が導き出せるかもしれません。


足元の景気浮揚策についても言及。内容はかなり現実的?

 四中全会では、これからの5年という中長期的計画だけでなく、昨今の情勢や目標についても一定程度の審議がなされました。以下、取り上げられた経済・社会関連の政策を紹介します。


  • 雇用、企業、市場、期待値を安定させること
  • 経済のファンダメンタルズを安定させ、経済が回復、改善する勢いを促すこと
  • マクロ政策を継続、強化していくこと
  • 企業支援政策を実践すること
  • 消費を促すプロジェクト・行動を深い次元で実施すること
  • 地方政府債務リスクを穏便に解消すること
  • 人民の就業を促す措置を取ること
  • 重点的群衆の就業を安定させること
  • 給料未払いを撲滅すること
  • 自然災害からの修復を着実に行い、被災者が暖かい冬を送れるようにすること
  • 安全な生産、安定の保護、管理監督を徹底し、重大特大な事故の発生を断じて防ぐこと
  • 食品や製薬の安全とサプライチェーンの管理監督を強化すること
  • 矛盾や紛争の除去、社会全体の治安監督の強化、法に基づいた違法犯罪行為を撲滅

 内容が多岐にわたっているのが見て取れます。経済社会を回していく上で、複眼的視点で政策を管理しなければならないということでしょう。これらの政策を俯瞰(ふかん)した上で、短期的に打ち出される経済政策を解読していきます。


 何といっても、経済の低迷感や不透明感への懸念が高まる中、とにかく「安全運転」で政策運営しようという点が印象的です。消費が経済成長のカギを握るという点も中長期的方針としての「内需拡大」に通じるものがあります。


 財政出動や金融緩和を含めたマクロ政策は継続しつつ、強化していくとのことですが、これから年末にかけて、どのような景気支援策が打ち出されるのか見ていく必要があるでしょう。


 就業や生活に困っている企業や国民を支援するという社会の「弱者」に寄り添う視点が明確に打ち出されている点も興味深いです。「給料未払いの撲滅」というのは、四中全会のテーマとしてはいささか小さすぎる感じもしますが、国民経済・生活という意味ではこれこそが切実な問題です。


 裏を返せば、多くの国民が、「給料が支払われない」という苦境に直面しているということを示しています。災害や突発事件、食の安全問題などが引き金となり、社会の治安が悪化し、国民の不満が高まることを政権側が警戒し、何らかの対策を打とうとしている点も昨今の中国経済社会を巡る特徴だと思います。


 最後に、四中全会を通じて、5カ年計画の枠組みと方向性、および景気回復に向けた政策が提起されましたが、これらが株式市場にどう影響していくのかに着目しましょう。


 例として、上海総合指数を見てみると、四中全会を経て、株価は上昇傾向にあります(10月29日正午に4,000ポイントを突破)。


 科学技術における「自立自強」という目標の核心に据えられるAI産業・企業の動向、そして米国との関税交渉や首脳会談など、五月雨式に続く関連動向が、盛り上がりが期待される中国株式市場、および海を越えて日本や米国のマーケット事情にどのような作用を及ぼすのか。比較的長い目で見ていく必要があると思っています。


(加藤 嘉一)

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