米国のトランプ大統領と中国の習近平国家主席が10月30日、韓国で約6年ぶりの米中首脳会談を行いました。両首脳は、追加関税やレアアース、フェンタニルや船舶手数料といった分野で合意に至りました。

今後の注目点は、トランプ氏の来春訪中、そして首脳会談で話題に上がらなかった台湾問題の行方です。


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「 米中首脳会談を深堀り:トランプ・習近平の「歩み寄り」と台湾問題の行方 」


米中首脳会談が韓国で開催。トランプ、習近平両氏が「個人的関係」を演出

 トランプ大統領と習近平国家主席が10月30日、韓国で首脳会談を実施しました。同時通訳付きで約1時間40分の会談でした。31日に同じく韓国で行われた日中首脳会談が同時通訳付きで約30分であったことを考えれば、「100分」という時間は短くないように映ります。


 一方、両国間に横たわるさまざまな問題や地域・地球規模の課題を議論し、合意形成を図る米中会談としては、いささか短すぎたという感じも現場では漂っていたようです。


 トランプ氏と習近平氏が、アジア太平洋経済協力会議(APEC)という国際会議・多国間外交の場に出席するために第三国を訪問するという多忙なスケジュールの中では、100分という時間を捻出するのが限界だったのでしょう。


 それでも、世界二大国である米中の首脳が、第2次トランプ政権発足以降、初めて面と向かって会談した意義は、世界経済にとっても非常に大きいとみられます。両首脳は互いを「長年の友人」として扱い、敬意を示していました。


 習近平氏は、「われわれの国情は異なるため、常に同じ見解を持つわけではない。世界の二大経済大国が時に摩擦を生じるのはごく自然なこと」としつつ、それでも「対話は対抗よりもいい」と言えば、トランプ氏も「米中関係は常に良好だし、これからもっとよくなるだろう」と応じ、米中関係を前向きに推し進めていく方向性を確認しました。


 会談終了後は、和やかに立ち話をしながら会場を離れ、最後は固い握手をし、「近い将来における再会」を約束しているように見受けられました。


 トランプ氏は習近平氏を見送るようなおもてなしを見せていましたが、その光景からは、やはり超大国・米国にとって、中国との関係はおろそかにできないものであり、極めて慎重に管理すべき「アキレス腱」なのだという現実を突きつけているようでした。


 首脳会談の直前、10月27日には王毅(ワン・イー)外相とルビオ国務長官が電話会談をしましたが、王毅氏は「習近平主席とトランプ大統領はいずれも世界レベルのリーダーである。長期的に往来し、相互に尊重する二人はすでに、米中関係にとって最も貴重な戦略的資産となっている」と述べていました。


 この発言から、中国側も、習近平氏とトランプ氏という両リーダー間の個人的友好と信頼関係の醸成を通じて米中関係の方向性を定め、さらに改善、前進させていく用意があるのだと私は分析しています。


 また、首脳会談直前の10月25~26日、マレーシアのクアラルンプールで5回目となる米中協議が行われ、追加関税率やレアアース問題などを含め、両国間で懸案となってきた通商問題を巡って突っ込んだ議論がなされました。そこには、韓国での首脳会談に向けた「事前準備」「雰囲気醸成」「最終調整」という目的が含まれていたと考えられます。


米中いったん「休戦」:追加関税、レアアース、フェンタニル、農産物、船舶手数料…

 ここからは、米中首脳会談を通じて、具体的にどのような合意がなされたのかを見ていきましょう。中国側は、以下を「クアラルンプール協議での成果」という名目で、首脳会談の終了を受けて発表しました。


  • 両国は11月10日に期限を迎えていた24%分の追加関税実施をさらに延期
  • 中国側がフェンタニル問題で協力するという前提で、米国側が同問題に懲罰的に課していた10%分の関税を撤廃
  • 米国側が9月29日に発表した輸出規制の適用範囲を拡大する「関連事業体ルール」(注:いわゆる「50%ルール」。従来のエンティティー・リスト(EL)や軍事エンドユーザーリスト(MEUリスト)に掲載されている事業体だけでなく、これらリスト掲載事業体が50%以上所有する事業体も規制対象となった)を1年間停止
  • 中国側が10月9日に発表したレアアース関連品目における一連の輸出規制措置の発動を1年間停止
  • 米国側が中国の海事、物流、造船業に対する「301条調査」措置を1年間停止し、中国側もそれを受けて対米報復措置を同期間停止

 また、トランプ氏が「米国の農家は喜ぶだろう」と勝ち誇ったように、中国側が大豆など農産物を大量購入することを約束しました。

中国側はこれを「農産物貿易の拡大」という穏当な表現で発表しています。


 互いに、自分たちのほうが歩み寄った、譲歩したと受け取られたくないという思いが強かったようで、米国側には対中関係における「優位性」を、中国側には対米関係における「対等性」を前面に打ち出す姿勢がにじみ出ていました。


 その後、米ホワイトハウスが公表した米中合意を巡るファクトシートでは、トランプ政権として、レアアース、フェンタニル、農産物といった分野における成果がアピールされていました。中国側の発表と比べてかなり詳細な内容が記されていました。


 例えば、中国側が取るべき措置として、最も注目されたレアアースの輸出規制に関しては、


「中国は、2025年10月9日に発表した希土類および関連分野に関する包括的な新しい輸出規制の世界的な実施を停止。また、希土類、ガリウム、ゲルマニウム、アンチモン、黒鉛の輸出に有効な一般許可を発行。この一般許可は2025年4月および2022年10月に中国が課した規制の事実上の撤廃を意味する」という断固対応を求める記述です。


 フェンタニルに関しても、「中国は、米国へのフェンタニル流入を終わらせるための重大な措置を講じる。具体的には、特定の指定化学品の北米への出荷を停止し、その他の特定の化学品の世界全体への輸出を厳格に管理する」。大豆の購入拡大に関しては、「中国は、2025年の最後の2カ月間に少なくとも1,200万トンの米国産大豆を購入し、さらに2026年、2027年、2028年に少なくとも2,500万トンの米国産大豆を購入する」といった具合です。


 一方、米国側が取るべき措置としては、上記にもあるように、中国側が発表した内容以上のものはありませんでした。トランプ氏としては「取るものは取った」「米国側のほうが多くの収穫を得た」「中国側こそがこちらの要望を飲み、歩み寄ってきた」といった「成果」をアピールすることで、アジアを舞台にした対中経済外交で「勝利宣言」をしたかったのでしょう。


 これからサンクスギビングやクリスマスを迎える米国の国内経済、および来年行われる中間選挙をにらんだアプローチだとみられます。


 今年に入ってから5回に上るハイレベル協議を続けてきた米中が、初となる首脳会談を通じて関係の安定と改善を打ち出し、立場の違いや摩擦を適切に管理していくと共同で表明した事実は重く、マーケットもおおむねポジティブに受け止めていることでしょう。


 仮に追加関税やレアアースなどを巡り、合意ではなく、協議が破綻し、トランプ氏と習近平氏が喧嘩別れするようなことがあったならば、市場は大荒れの事態を呈していた可能性も大いにあります。その意味で、「米中攻防のマーケットへの示唆」という点ではひとまず安堵(あんど)感が広がるかもしれません。


 ただ、油断は禁物です。前述したように、米中は共にそれぞれの利益や思惑から今回の「合意事項」をそれぞれの言葉と表現で発表しており、そこには若干の誤差が存在している点も否めません。


 中国側も、仮に米国側が合意事項を着実に履行しなければ、合意を破棄し、報復措置に出ることをほのめかしています。われわれも、米中関係は一つの突発事件を引き金に、対立がいつでも再燃する可能性があるという前提で情勢を注視すべきです。


今後の展望:トランプ訪中と台湾問題の行方

 今後の見通しに関して、今回の首脳会談を受けて私が注目するポイントを2点取り上げておきたいと思います。


 一つ目は、トランプ大統領による訪中です。首脳会談では、トランプ氏は訪中に意欲を見せ、来年4月に訪中する予定だと語りました。それが中国への公式訪問になれば、米中首脳外交が国際関係や世界経済にもたらすインパクトは今回の会談どころではないでしょう。


 来春の「トランプ訪中」は2026年における一大外交行事の筆頭候補になり得ます。同時に、トランプ氏は習近平氏の訪米も招待しています。特筆すべきは、来年、APECが中国、G20が米国で開催されます。これらの多国間外交を含め、米中首脳が何回顔を合わせ、その流れの中で何を語り、何を詰めていくのかに注目したいところです。


 二つ目は、台湾問題の行方です。今回の首脳会談で台湾問題が議題に上がらなかった点は非常に重要です。両国は、「今はそのタイミングではない」「少なくとも今回の首脳会談で台湾問題を取り上げるのは適切ではない」と考えていたとみられます。


 首脳会談から間もなくして受けたCBSテレビによるインタビューにおいて、トランプ大統領は、中国が台湾に軍事侵攻した場合の米軍の対応について、「中国の習近平国家主席がよく理解している」とコメントしました。中国側の反応や出方を探るための「餌まき」、あるいは中国側をけん制、抑止するための「駆け引き」としての意味合いもあったと現時点では解釈できます。


 2026年に向けて、「米中関係と台湾問題」という極めて重大なテーマに私たちは辛抱強く付き合っていくべきですし、その過程で、今回個人的関係の充実ぶりをアピールしたトランプ氏と習近平氏の二人が、どのような読み合い、やり取りを展開していくのかに注目すべきです。


 なぜなら、それは日本を取り巻く地政学的情勢を根底から覆す可能性のある「世紀のイシュー」だからです。


(加藤 嘉一)

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