最近、「思考停止で金(ゴールド)」という言葉を見聞きするようになりました。あれこれ考えず、とりあえず金(ゴールド)を買おうという意味合いで使われているようです。

今回はこの「思考停止で金(ゴールド)」の是非について、筆者の考えを述べます。


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※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の吉田 哲が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 「思考停止で金(ゴールド)買い」は良策なのか? 」


「有事の金」「逆相関」も思考停止の一種

 以下のグラフは、国内大手地金商の金(ゴールド)小売価格の推移を示しています。このおよそ四半世紀、上昇し続けています。特に2020年以降の上昇のスピードには目を見張るものがあります。


図:国内大手地金商の金(ゴールド)小売価格(税込)の推移(1973年1月5日~2025年11月14日) 円/グラム


「思考停止で金(ゴールド)買い」は良策なのか?
出所:国内地金大手のデータを基に筆者作成

 以下のグラフは、同じ大手地金商の金(ゴールド)小売価格(税込)の年間平均の前年比を示しています。2001年から2025年までの25年分(2025年は11月14日まで)を振り返ると、上昇した年が22回、下落した年が3回でした。


図:国内地金大手の金(ゴールド)小売価格(税込)年間平均の前年比


「思考停止で金(ゴールド)買い」は良策なのか?
出所:国内地金大手のデータを基に筆者作成

 上昇した22回の上昇率の平均は+14.3%、最大は+41.2%、下落した3回の下落率はマイナス1.6%、最大はマイナス3.7%でした。この四半世紀、消費税の増税などを考慮したとしても、上昇し続けてきたといえます。


 こうして振り返ると、「この四半世紀はいつ買っても価格がほぼ上昇した」→「買い時を考える必要がなかった」→「思考停止でよかった」、と連想できそうです。


 また、グラフ内では、1970年代に「有事の金」「インフレ時は金」と称されたように、有事やインフレが強まった時に金(ゴールド)価格が急上昇したことや、1990年代に「株と金は逆相関」と言われたように、株が高い時に金(ゴールド)価格が下落したことも確認できます。


 1970年代から1990年代まで、「有事の金」「インフレ時は金」「株と金は逆相関」のいずれかを用いれば、金(ゴールド)相場の分析ができたことがうかがえます。つまり、それ以上のことを考える必要がない「思考停止」の状態でも分析できたことを意味します。


 金(ゴールド)相場には、過去にも現在にも、それぞれ別の意味の思考停止が存在しているといえそうです。


「思考停止」は「適切に使うもの」に

 ここからは、「思考停止」という言葉について考えます。諸資料を参考に以下の図を作成しました。


図:「思考停止」の意味の変遷


「思考停止で金(ゴールド)買い」は良策なのか?
出所:各種情報源より筆者作成

「思考停止」は1960年代から1990年代にかけて、心理や教育などの特定の学術分野において、自分で考えず外部の価値観や常識に依存する状態、あるいは固定観念にとらわれて検証しようとしない思考態度という意味で使われたとされています。


 2000年代に入り、インターネットの普及が始まると、インターネットの掲示板などで相手の意見を軽めに否定するための言葉として使用されるようになりました。


 そして、2010年代に入り、スマートフォンの普及に伴い、SNSの利用が拡大すると、社会問題に関する意見の可視化とともに、「浅い議論」「単純化された主張」を批判する言葉として使われ始めました。


 同時に、SNS上では「思考停止」という言葉が、「それは常識だ」「みんなやっている」「反対している人は勉強不足」「前例がない」「科学的に正しい」といった、特定の立場の人が都合よく使う言葉の背後に存在する場面が見られるようになりました。


 こうした言葉は、用いるだけで、しばしば議論の流れを大きく変えることができ、必要な議論を止める作用さえあるため、「魔法の言葉」などと言われることがあります。


 そして近年、「思考停止」はさらなる変革を遂げ、「条件付きで肯定する意味」を持つ場面が出てきました。


 心理や認知の分野において、膨大な情報に常に全力で向き合うことができない人間の脳にとって、思考停止は悪ではなく、脳の省エネ機能という見方が広まるようになりました。ルール化により、ある程度思考を停止した状態でも運営される状態をつくる試みも、拡大しました。

これらは広い意味で「思考停止を肯定する」考え方だといえます。


 また、熟慮の余地を残す、過度な自己反省の遮断、などの意味においても「思考停止」は肯定されます。さらには、情報過多時代における身を守るため、全てを考えない、意図して情報と距離を置くなどの、思考停止の意味を含む戦略が注目され始めています。


 中には、常に説明責任を求める文化、過度の自己最適化への対抗策や、自嘲や脱力の意味を持つジョークとして「思考停止」が役立つ場面もあります。こうして考えると、近年の「思考停止」は、「適切に使うもの」という側面を持っているといえます。


「思考停止」を「思考固定」と捉える

 そもそも投資は、「感覚」や「ノリ」で行う活動ではありません。取引画面に多数の専門用語が並んでいることから分かるとおり、知識を要する活動です。投資家の資産の額が場合によっては瞬時に増減する活動、関連する法令が多岐にわたる厳格な活動ともいえます。


 さらには、短期売買なのか長期資産形成なのか、それらの同時進行なのか、投資家はある程度、事前に「投資の目的」を明確にする必要があります。投資資金の額や想定される期間、リスクの大きさなどを想定するためです。


 また、投資活動が一般化した日本において、近年、金融庁は各種金融事業者に「フィデューシャリー・デューティー」を呼び掛けています。これは、金融事業者が原則を踏まえて何が顧客のためになるかを真剣に考え、横並びに陥ることなく、より良い金融商品・サービスの提供を競い合うよう促していくことを目指す、「顧客本位の業務運営」のことです。


 現在の日本において、投資家のほか、投資活動の手段を提供する金融機関および、それを監督する当局、いずれも、思考を働かせながら投資活動に関わっています。

よって、投資活動において、「思考停止」は望まれないといえます。時代が変化すれば、考慮しなければならない事柄も変化します。その意味でも「思考停止」はなじみません。


 ですが、あえて「適切に使うもの」という意味の「思考停止」を現代の金(ゴールド)投資に導入するとすれば、以下が有効であると、筆者は考えています。「目的・手段・材料の時間軸を合わせる」という思考で停止・固定する、という考え方です。


図:現代版、金(ゴールド)投資における「思考停止・固定」のさせ方


「思考停止で金(ゴールド)買い」は良策なのか?
出所:筆者作成

 目的(短期売買、長期資産形成)にも、手段(純金積立、投資信託、商品先物など)にも、材料(有事(伝統的)、代替資産、中央銀行など)にも、『時間軸』が存在します。その時間軸を合わせて金(ゴールド)投資を行うことが有効です。


 以下の図は、金(ゴールド)関連の投資目的・手段・材料(イメージ)です。目的が短期売買であれば、手段は短期を前提とした個別株・上場投資信託(ETF)、あるいは商品先物・CFDがなじみます。その際に注目する材料は短期視点の材料(伝統的材料)です。


図:金(ゴールド)関連の投資目的・手段・材料(イメージ)


「思考停止で金(ゴールド)買い」は良策なのか?
出所:筆者作成

 目的が長期資産形成であれば、手段は長期を前提とした個別株・ETF、あるいは投資信託、純金積立がなじみます。その際に注目する材料は長期視点の材料(非伝統的材料)です。

「目的・手段・材料の時間軸を合わせる」という思考で停止・固定することで、投資を開始した後に自己矛盾が生じることを大幅に軽減することが期待できます。


 短期売買を目的としているのに、長期視点の材料の一つである中央銀行に注目したり、長期資産形成を目的としているのに、短期視点の材料の一つである「有事(伝統的)」に注目したりすると、実際の値動きと材料が及ぼす影響度の感覚が合わなくなります。


 短期売買を目的としているのに、純金積立で積み立て設定をしたり、長期資産形成を目的としているのに、商品先物で売買したりすることも、自己矛盾の原因になります。自己矛盾は投資効率を下げる大きな要因になり得ます。こうした自己矛盾を避けるためにも、思考を「目的・手段・材料の時間軸を合わせる」という状態で停止・固定することが必要です。


思考固定のポイント「材料の時間軸」

 以下は、材料の時間軸に関するイメージ図です。2010年ごろ以降、短期視点では、「有事(伝統的)」「代替資産」「代替通貨」の三つの材料が絶えず、上下どちらかの圧力を同時にかけています。これにより、短期的な価格の上下が生じています。


図:ドル建て金(ゴールド)価格の推移イメージ


「思考停止で金(ゴールド)買い」は良策なのか?
出所:筆者作成

 長期視点では、「中央銀行」「有事(非伝統的)」の二つが、上昇圧力をかけています。これらによる上昇圧力が「土台」となり、長期的な価格上昇が続いています。


 以下の通り、ドル建て金(ゴールド)に関わる材料は、七つに分けることができます(2025年)。円建て金(ゴールド)については、八つ目として「ドル円」を加えます。


図:ドル建て金(ゴールド)に関わる七つの材料(2025年)


「思考停止で金(ゴールド)買い」は良策なのか?
出所:筆者作成

 こうした「材料の時間軸」は、「目的・手段・材料の時間軸を合わせる」ために欠かせない考え方です。


 最近、しばしば見聞きする「思考停止で金(ゴールド)」は、「考えなくてよい」「考えずに買う」という意味合いで使われているケースが多いように感じます。


 しかし、本レポートで述べたとおり、時代の流れが「思考停止」の意味を変え、現在は「適切に使うもの」という意味を持つようになりました。


 そして、この「適切に使うもの」という観点から導き出された「目的・手段・材料の時間軸を合わせる」という考え方は、金(ゴールド)投資に臨むための最低限の思考(最低限、固定すべき思考)であると、筆者は考えます。


[参考]貴金属関連の具体的な投資商品例

長期:


純金積立(当社ではクレジットカード決済で購入可能)

純金積立・スポット購入


投資信託(当社ではクレジットカード決済、楽天ポイントで購入可能。以下はNISA成長投資枠対応)

三菱UFJ 純金ファンド
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ゴールド・ファンド(為替ヘッジあり)


中期:


関連ETF(NISA対応)

SPDRゴールド・シェア(1326)
NF金価格連動型上場投資信託(1328)
純金上場信託(金の果実)(1540)
NN金先物ダブルブルETN(2036)
NN金先物ベアETN(2037)
GXゴールド(425A)
SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)
ヴァンエック・金鉱株ETF(GDX)


短期:


商品先物

国内商品先物
海外商品先物


CFD

金(ゴールド)、プラチナ、銀、パラジウム


(吉田 哲)

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