オルカンやS&P500などのインデックスファンドはいわゆる外貨建て資産です。円高局面では目減りしてしまうとよく言われますが、実はインフレ対策として外貨建て資産はとても有効な資産と言えます。

今回は短期的なインフレ対策としての外貨建て資産についてご説明します。


オールカントリー・S&P500など、実はインフレに有効な「外...の画像はこちら >>

インフレになるとお金の価値が下がる

 最近はモノやサービスの値段が上がるインフレが当たり前になっています。そもそもインフレとは何でしょうか、まずはインフレの基本を確認しておきましょう。


 次のように、現金1万円でラーメンを何杯食べることができるかという例で考えてみましょう。ラーメンが1杯500円の場合は20杯食べることができます。


モノの値段が上昇すると、お金の価値は低下(インフレ)
オールカントリー・S&P500など、実はインフレに有効な「外貨建て資産」!
モノの値段が上昇すると、お金の価値は低下(インフレ)

 ここでラーメンの価格が1杯1,000円と2倍に値上がりすると、同じ1万円でもラーメンは10杯しか食べられなくなります。別の言い方をすると、1万円の持つ購買力、すなわちモノやサービスに交換する能力が低下してしまうのです。お金の価値が低下してしまうとも言えます。


円安になるとモノの値段が上昇する

 2017年ごろから2021年ごろまでは1ドル=110円程度(ここでは米ドル、以下同様)の水準で推移していましたが、2022年ごろから大幅に円安となり、直近では1ドル=150円台です。日本はエネルギーや食料品などを輸入に頼っているため、このように円安になると日本国内でのさまざまなモノやサービスの価格が上昇します。


 例えば、小麦、大豆など食べ物の原材料は輸入に依存しているものが多いですし、原油や天然ガスなどのエネルギー資源も輸入しているため、ガソリンや電気代なども上昇します。また、スマホやパソコン、海外のブランド品なども国内価格は上昇する傾向があります。


 さらに、ガソリン代などが上昇すれば国内での配送・物流コストが上昇することになり、結果的にさまざまなモノの値段が上昇する形になります。


 もちろん家賃や住宅ローンの返済額、水道料金、国内産の農産物など、為替レートの影響を受けない、もしくは受けづらい支出もあります。

しかし、生活費全体を見ると、円安によって値段が上昇する傾向が高いと言えるのではないでしょうか。


短期的なインフレ対策として外貨建て資産の保有が有効

 このような円安によって引き起こされるインフレには、外貨建て資産の保有が有効です。具体的な例で考えてみましょう。


 例えば、金融資産1,000万円を持っているとして、全てを円建てで保有している場合と、半分の500万円を円で、残りの500万円相当を米ドル(1ドル=150円として3.33万ドル)で保有している場合に、購買力がどのように変化するか考えてみましょう。


全て円建てで保有する場合と、半分を米ドルで保有する場合
オールカントリー・S&P500など、実はインフレに有効な「外貨建て資産」!
全て円建てで保有する場合と、半分を米ドルで保有する場合

 ここではスマホを何台分購入できるかという視点で、購買力を考えていきます。スマホはドル建てで価格が決められており、1台400ドルと仮定します。1ドル=150円の場合、スマホは日本円で6万円です。1,000万円を保有していれば6万円のスマホは166台購入できます(小数点以下は切り捨て)。


 ここで1ドル=150円から180円に円安が進んだ場合を考えてみます。この時、スマホの価格が400ドルのままであれば円建てでは7.2万円となります。つまり、1,000万円持っている場合は138台しか購入できなくなります。


円建て元本は保障されるが、購買力は為替の影響を受けやすい
オールカントリー・S&P500など、実はインフレに有効な「外貨建て資産」!
円建て元本は保障されるが、購買力は為替の影響を受けやすい

 一方、1ドル=150円から120円の円高になった場合、スマホ価格は4.8万円となりますから、1,000万円では208台購入できるようになります。


 次に、資産のうち半分を米ドルで保有している場合を考えてみましょう。

先ほどと同様、1ドル=150円から180円へと円安になると、スマホの価格は7.2万円です。


 ただし、この場合は資産の半分をドルで保有しているため、保有している3.33万ドルは約600万円(=3.33万ドル×180円)となり、資産全体の円建て評価額は1,100万円となります。そうなると1台7.2万円のスマホは152台購入できます。


円建て元本は保障されないが、購買力は為替の影響を受けにくい
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円建て元本は保障されないが、購買力は為替の影響を受けにくい

 一方、1ドル=120円へ円高が進んだ場合にはスマホ価格は4.8万円となりますが、保有しているドル建て資産も減少することになり、資産全体の円建て評価額は900万円となります。この場合、1台4.8万円のスマホは187台購入できます。


 保有している資産の円建て評価額を見ると、半分をドル建てで保有している場合は為替レートによって900万円(円高の場合)から1,100万円(円安の場合)とブレますが、スマホで計算した購買力は187台から152台までの変化にとどまります。


 一方、全てを円建てで保有していた場合、為替レートによらず円建て評価額は1,000万円ですが、スマホ換算購買力は208台から138台へと大きくブレてしまいます。


 為替レートによらず、円建ての金額が安定している方がなんとなく安心するかもしれませんが、購買力の安定度という意味ではドル建て資産を組み入れておく方が安定するのです。


 この例ではスマホを例に購買力を計算していますが、実際には冒頭でご説明したように、食料品、ガソリン、電気代など、さまざまな生活費は為替レートの影響を受けやすいと言えます。資産全体をモノやサービスにどれほど交換していけるかという購買力が安定していることが、生活していく上では重要ではないでしょうか。


外貨建て資産、円高は危険か?(資産形成期の場合)

 先ほどはスマホ換算で購買力を計算してみましたが、次にもう少し現実的な家計の収支や資産残高の例で考えていきましょう。


 次の図の左側は資産形成期の家計をイメージして、年間の手取り収入500万円、支出が400万円で、家計収支は100万円の黒字という例です。資産は500万円を円建て資産、残り500万円を外貨建て(米ドル)資産で保有しています。


外貨建て資産、円高は危険か?(資産形成期の場合)
オールカントリー・S&P500など、実はインフレに有効な「外貨建て資産」!
外貨建て資産、円高は危険か?(資産形成期の場合)

 支出400万円のうち、3割の120万円が為替レートに連動する支出だと仮定し、円安になると上昇、円高になると低下する支出と仮定します。


 この場合、スマホの例と同様に考えると、1ドル=150円から180円へと円安になった場合、為替レートに連動する支出120万円が144万円へと2割増加しますので、家計の支出は総額424万円となり、黒字額は100万円から76万円へ減少します。


 しかし、資産の半分を外貨建て資産で保有していますので、家計収支へのネガティブな影響は資産残高へのポジティブな影響が一定程度相殺する形になります。支出が増えて赤字になったら、円安により増加した資産を売却して使えばよいと思いますが、この例では円安になっても家計収支は黒字であり、その必要はありません。


 円高になった場合は家計収支と資産残高への影響が逆になります。1ドル=150円から120円の円高になると、為替レートに連動する支出は2割減少、支出総額は376万円となり黒字額は100万円から124万円へと増加します。


 一方、円安になると外貨建て資産の円建て評価額は減少するため、含み損になったりして嫌な気持ちになるかもしれません。しかし、家計の黒字幅は拡大していますので、生活していく上で困ることはないはずです。


 ここで大切なのは、資産残高の増減のみで家計への影響を見るのではなく、家計収支の変化も合わせて総合的に考えていくことです。円高になると外貨建て資産は目減りしてしまうため、そこに注目してしまいがちですが、家計収支は改善していますので家計として困る可能性は低いと言えます。


外貨建て資産、円高は危険か?(資産活用期の場合)

 最後に年金生活に入っている資産活用期の例でご説明します。資産形成期の場合と同様ですが、次の図のように、手取り収入が年間240万円、支出が300万円で、家計収支としては60万円の赤字、つまり60万円ずつ取り崩している状況とします。


外貨建て資産、円高は危険か?(資産活用期の場合)
オールカントリー・S&P500など、実はインフレに有効な「外貨建て資産」!
外貨建て資産、円高は危険か?(資産活用期の場合)

 ここで支出300万円のうち、4割の120万円が為替レートに連動する支出とします。また、資産は総額2,000万円で、そのうち6割を外貨建て資産、残り4割を円建て資産で保有しているものとします。


 つまり、当初は2,000万円の資産を持ち、年間の取り崩しが60万円ですから、単純計算で資産寿命は33.3年分(=2,000万円÷年間60万円)と考えることができます。


 ここで円安になると支出が324万円へ増加するため家計収支は84万円の赤字へと悪化します。しかし、外貨建て資産の評価額が増加するため、資産寿命の短命化は一定程度相殺され26.6年(=2,240万円÷年間84万円)になります(全て円建ての場合は23.8年)。


 一方、円高になると、支出が276万円へ減少するため家計収支は36万円の赤字へと改善します。この時、外貨建て資産は円建て換算では2割目減りしてしまいますが、家計収支の赤字幅が縮小しているため、資産寿命は48.8年(=1,760万円÷年間36万円)へと長寿化します(全て円建ての場合は55.5年)。


 スマホの例で計算した購買力シミュレーションと同様に、一定程度を外貨建て資産で保有することによって、円建て資産のみで保有している場合と比較して、資産寿命のブレ幅を小さくすることができるのです。


 資産残高だけに注目してしまうと、円高の場合は円建て評価額の減少となりますが、その際には家計収支が改善していることが期待されるため、資産寿命はむしろ長寿化していることもあるのです。


 外貨建て資産は円高に弱いと言われますが、家計全体への影響を総合的に考えていくことがとても大切だと考えています。


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