3カ月にわたってさまざまな角度から論じてきた米日AI相場のキナ臭さを、今回は「心理現象」と捉えて検証する。11月第1~2週の米日AI株の急落をバブル相場の破裂とする声もあった。

しかし、ここまでは相場フロス(小粒の泡)の自律調整にとどまっており、第3週以降はエヌビディア好決算によるアク抜けも期待できそうだ。


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著者の田中 泰輔が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 【米日株アップデート】AIバブル・破裂を読む心理学 」


サマリー

●不確実性の下の相場変動は、心理現象として捉えられる部分が大きい。その観点から…
●11月第1、2週の米AI株下落は、バブル破裂というより、まだ通常の自律反落の範囲内
●エヌビディアの決算を経る第3週以降は、一定のアク抜け感を想定
●しかし、年末相場には11月下落の波紋が残り、個別銘柄に加え、分散効果のあるETFで勝機を探索


相場上昇の心理学

 筆者は日頃から相場変動を波動の力学として説明しています。速く高まった相場は、それに見合って反落の力学を生み出します。


 相場のトレンドが上向きと広く認識される時、値動きはその予想トレンドに沿って行儀よく進むのではなく、より速く上伸しがちです。相場上昇を予想させる情報が確実な段階であれば、その情報はすでに相場に反映されているはずです。つまり、投資の判断は先行き不透明な段階で下すことになります。


 不確実性下の投資家は、合理的な判断を下すだけの材料を持たないため、想像による思惑を巡らせます。その思惑は、時間的な切迫感や損益リスクからのストレスで、心理的なゆがみを避けられません。


 相場の上昇材料6割と下落材料が4割と認識し、買う判断をすると、その判断自体が情勢判断を偏らせます。不確実性を克服する心理的努力を経て購入した投資ポジションをホールドする間、売り材料は無視したり、織り込み済みなどと買い材料のように曲解したりする偏向(認知的不協和)が現れます。


 他の投資家も不確実性の下におり、ポジションの先行保有で強化された思惑を聞かされると、逆らい難く、同調しがちになります。同調的な買いが広がると、実際に相場は上がり、相場が上がること自体が、思惑の正しさを証明したという確信を強めることになります。


 相場が上がれば上がるほど、認知的不協和、同調、相場自体による思惑の証明という心理の偏向が進みます。さらに、早い段階で相場に参加した投資家ほど含み益が増大することで、自身の洞察力に自信を強め、リスク判断が甘くなり、さらに買い増すなど、上昇相場の強化が進みます。


 相場が勢いよく上昇し、投資家がもうかり続けるときに、下げ材料を強調するような人は、相場センスがない、理解が足りないなどと言われかねません。勝てば官軍なのです。


相場反落の心理学

 しかし、未参入の投資家からすると、上昇トレンドの見立てをはるかに速く進行し、高くなった相場に乗ることにちゅうちょが出てきます。こうして相場の上昇ペースが鈍化する時、強気一辺倒だった先行参加組はいつでも売り抜けられるという目線になり、潜在的な売り圧力を顕在化させやすくなります。


 いざ相場が下がり始めると、遅れて参加した投資家は、ポジションの購入コストが高いため、売り逃げを急ぎます。それを見て、先行組にも売り急ぎが出てきます。しかし、新規の買い手が細っている状況は、売り逃げようとする出口が狭まっていることを意味します。


 加速的な上昇相場の反転時は、狭い出口に大量の売り手が殺到することで、「上がり百日、下げ三日」という格言のように、非常に速いペースで下落するのが通常です。そして、相場が下がると、それを追認して、4割の下げ材料が今更ながらに論じられるようになります。


 AI相場はバブルかという問題について、相場が勢いよく上昇している間は、バブルであるはずがないという論調が優勢です。しかし、いざ急落すると、AI分野の過剰投資、それを賄う高債務、採算性への懸念が、したり顔で語られるようになります。


 このように、市場の専門家が発する情報も大半は後講釈です。しかし、そのことを批判しても無益なことです。投資家としての肝は、そもそも相場の情報は、相場を追認するものであり、相場波動が上と下に一巡してようやく強気・弱気解釈のバランスが取れるというメカニズムを理解し、逆手に取るくらいのクールな判断力を養うことに尽きます。


「AIはバブルか?」という問題

 相場の波動は、短期、中期、長期、それらの中間も含めて、あらゆる時間軸に存在する階層構造(フラクタル)になっています。それぞれの波動には、それに応じた思惑的上昇とその反落のプロセスがあり、バブルやフロスの要素があるものです。


 筆者は、相場波動の分類として、短期になるほど行動学、心理学、テクニカルな現象として、長期になるほどファンダメンタルズに基づく現象として捉えます。


 そして、トレンド線(例えば移動平均線)を基準にして、通常のリズムとして説明可能な範囲の上昇と反落であれば、「自律調整」として捉えます。


 中長期になると、金融緩和や好景気に沿った相場上昇の後、金利上昇や景気悪化によって相場が方向転換するのを、ファンダメンタルズの変化に伴う「下降サイクル」として捉えます。


 相場の典型的なバブルは、このファンダメンタルズに基づく相場上昇に、時代を画期するような大テーマが出現し、通常のファンダメンタルズ、中長期トレンドを超越した相場上昇が持続するケースです。


 しかし、テーマ性があり、今までとは違う時代に入っているなどと相場追認情報が優勢になるため、たとえバブルの中にいても、今はバブルだと判断はできないのが通常です。バブルかどうか分からないのに、それがいつ破裂するかの判断は下しようがありません。


 急速に進む相場に乗らないわけにもいかない、しかし、速く高い相場に乗るのは怖い。こうした状況の中で、上昇相場を追認する強気情報にあおられ続けます。こうして極端に高まった相場が暴落して初めて、あれはバブルだったと振り返られるのです。


どうする、どう読む

 筆者は、過去2年半のAI相場の速さ、特に2025年4月からの急上昇を経て、8月ごろから銘柄ごとの値動きが神経質に跛行(はこう)する相場リズムの変調、それでいて、AI相場をあおる好ニュース、好解釈が連続する状況を観察し、バブルとは言わないまでも、フロスが多発していると、トウシルの場で注意喚起してきました。


 バブルかどうか、いつ破裂するかの明言は不可能でも、あおられた相場の速さ、高さのキナ臭さに対するポジショニングやリスク管理など技術的な対応方法はあるのです。その上で、バブルかどうかの判断は、相場の下げ方を見ながら判断することになります。


 AIという時代を画期するテーマ性があり、投資家が場面であおられているのは確かです。しかし、過剰投資と危惧されつつも、需要見通しを伴っていることも確かです。


 また、景気、金利の先行きについては、好悪両サイドのシナリオの一方を決め打ちするのは困難な段階にあります。高まった相場が、その先行き不透明さを嫌がることによる相場下落はあるにしても、バブル破裂のような深刻な事態を招くファンダメンタルズの証拠は、まだ見当たりません。


 従って、バブルではなく、相場のあちこちにあるフロスの破裂の連鎖という判断を、トウシルでもご案内してきました。要は、自律調整の範囲とする見立てを基本に、相場の観察を続けています。


 この見方に沿って、11月第1週、第2週の下落と小反発は自律調整の途中として様子見すると、X(旧Twitter)などに記しました。エヌビディアの決算がある第3週以降は、首尾よくアク抜け感が出れば、12月へ短期的に持ち直す展開をイメージしています。


 ただし、相場の急落は心理的現象であり、底値近くでは明暗の変転が容易に起こります。急落後の含み損ポジションも大きくなっていることから、相場には神経質なもたつきが残るとみています。下げ幅が大きかったAIコア銘柄や、需要見通しが明確にできないAIソフト銘柄ほど、下落からの波紋が残りやすいとみています。


 よほどの好ニュースが連続して、投資家の信認を得る展開でなければ、年末へ上昇相場がカラッと持続するようには見えません。現時点では、年末相場に向けてAIの個別銘柄の選別は難しいため、より広範な株価インデックス、銘柄間跛行を分散できる上場投資信託(ETF)で、復調リズムとその勝機を慎重に計算しています。


*本稿は個別銘柄を推奨するものではありません、投資はご自身の判断と責任において行ってください。


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(田中泰輔)

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