2025年11月、ブラジル北部のベレンで開催された国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)では、米国のトランプ大統領の不参加や新たなCO2削減目標の提出遅延など、各国の足並みがそろわない現状が露呈しました。地球温暖化対策が難航する中、この課題に対処するための最良の方法について考察します。


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著者の吉田 哲が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 COP30で露呈した溝:地球温暖化を食い止める最良の対策は? 」


気温上昇とCO2排出量増加は1950年代から

 以下は、産業革命前を基準とした世界の平均気温の推移です。2015年12月に行われた国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第21回締約国会議(COP21)で採択され、2016年11月に発効した国際的な気候変動対策の枠組み「パリ協定(Paris Agreement)」が世界中で知られるようになって以降、特に注目されるようになりました。


図:産業革命前を基準とした世界平均気温の推移 単位:度
COP30で露呈した溝:地球温暖化を食い止める最良の対策は?
出所:コペルニクス気候変動サービスなどのデータを基に筆者作成

 同協定は、世界の平均気温の上昇幅を産業革命前(1850年から1900年ごろ)に比べ、長期視点でプラス2度に抑えることを世界共通の目標としています。努力目標として、プラス1.5度に抑えることも掲げています。


 上のグラフのとおり、足元、産業革命前を基準とした世界平均気温は、すでにプラス1.5度に達しています。1950年代に始まった気温の上昇傾向が今後も続けば、同協定で掲げた目標であるプラス2度も上回る懸念があります。


 さまざまな科学的な研究・検証を経て、地球温暖化の進展は人類が経済活動の中で排出した二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスが原因であるとされています。確かに、以下のグラフの通り、気温の上昇が目立ち始めた1950年代に、二酸化炭素の排出量の増加が目立ち始めたことが分かります。


図:世界の二酸化炭素排出量(国・地域別)(土地利用による吸収・放出を除く) 単位:十億トン
COP30で露呈した溝:地球温暖化を食い止める最良の対策は?
出所:Our World in Dataのデータをもとに筆者作成

 1950年代は、国際連合の設立(1945年)を機に、第2次世界大戦後の混乱期から徐々に世界各地で経済発展の芽が出始めた時期です。この時期に「欧州・ユーラシア」「北米」の二酸化炭素の排出が増加し始めました。

経済発展のため、石炭や石油、天然ガスなどの化石燃料を大量に消費し始めたためです。


 1990年代、日本や韓国、東南アジア諸国などを含む「その他アジア」の増加が目立ち始めました。そして近年、特に排出量が多い国・地域は、「中国」です(全体のおよそ32%)。次いで「その他アジア」(20%)、「北米」(16%)、「欧州・ユーラシア」(13%)が続きます。


 今なお、気温の上昇と二酸化炭素の排出量の増加は、続いています。気候変動がもたらす深刻な被害を食い止める策を講じることは、急務だと言えます。


国際エネルギー機関の三つのシナリオ

 以下は、パリ協定の概要と、同協定と親和性がある国際エネルギー機関(IEA)が11月12日に公表したWorld Energy Outlook(WEO)2025で述べている三つのシナリオです。


図:パリ協定の概要とIEA(国際エネルギー機関)のシナリオ(2025年時点)
COP30で露呈した溝:地球温暖化を食い止める最良の対策は?
出所:IEAなど各種機関の資料より筆者作成

 先述のとおり、パリ協定は、世界の平均気温の上昇幅を産業革命前(1850年から1900年ごろ)に比べ、長期視点でプラス2度に抑えることを世界共通の目標としています。努力目標として、プラス1.5度に抑えることも掲げています。


 IEAは、この世界の平均気温の上昇幅について具体的な数値を示した上で、複数のシナリオを立てています。


 上の図に示した「現行政策シナリオ(Current Policies Scenario:CPS)」「公表政策シナリオ(Stated Policies Scenario:STEPS)」「ネット ゼロ シナリオ(Net Zero Emissions by 2050 Scenario:NZE)」です。


 現行政策シナリオ(CPS)は、現在の法律などに基づいた政策のみを反映し、将来の追加的な政策強化や新しい公約を前提としていない、「今ある施策をそのまま継続したらどうなるか」というシナリオです。2100年の世界の平均気温の上昇幅(産業革命前比)は、プラス2.9度と、2度としたパリ協定の目標を達成できないことが想定されています。


 公表政策シナリオ(STEPS)は、各国がパリ協定に基づき表明している目標(国別貢献目標=NDC)などを反映した、「もしその通りに実施した場合にどうなるか」というシナリオです。2100年の世界の平均気温の上昇幅(産業革命前比)は、プラス2.5度と、このシナリオも同協定の目標を達成できないことが想定されています。


 ネット ゼロ シナリオ(NZE)は、今後、政策、技術、投資などがどう動けば同協定の目標を達成できるか、現状と対策のギャップを明らかにするための基準とも言えます。2100年の世界の平均気温の上昇幅(産業革命前比)は、プラス1.5度と、プラス2度の目標だけでなく、努力目標のプラス1.5度もほぼ、達成しています。


 同シナリオは、化石燃料の燃焼によって排出される二酸化炭素などの温室効果ガスの量を、2050年ごろまでに「実質ゼロ(Net Zero)」に近づけるための道筋です。実質ゼロは、化石燃料の代替の発見、電動化、エネルギー効率アップなどによる同ガスの削減だけでなく、除去や吸収などの高度な技術が広く展開していることを前提にしています。


 技術革新によって実質ゼロ(Net Zero)を成し遂げ、その延長線上でパリ協定の努力目標である産業革命前比プラス1.5度を達成する、技術革新で温暖化を食い止めるシナリオがまさに、ネット ゼロ シナリオ(NZE)です。


 以下の通り、実質ゼロ(Net Zero)を成し遂げた2050年ごろの世界の平均気温は産業革命前比プラス1.65度と、やや1.5度を上回るも、2100年には1.5度に抑えられることが想定されています。


図:IEAシナリオ別の世界平均気温の上昇幅(産業革命前比)(2025年時点) 単位:度


COP30で露呈した溝:地球温暖化を食い止める最良の対策は?
出所:IEAの資料を基に筆者作成

    一方、特に新しい策を講じない現行政策シナリオ(CPS)は、2100年にプラス2.9度になることが想定されています。現在表明している目標を守る公表政策シナリオ(STEPS)でも、2100年にプラス2.5度になってしまいます。


 気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change:IPCC)は、2.9度上昇した世界を「非常に高いリスク(Very High Risk)」に位置付けています。


 想定されるリスクとして、極端気象の常態化、海面温度上昇の加速、食料危機の頻発、水資源の深刻な不足、感染症リスクの増加、大量移住と地政学的リスクの拡大、生態系崩壊が広範で発生、経済的損失などが挙げられます。

人類と地球システムの安定性が強く脅かされる世界だと言えるでしょう。


石油需要・供給は25年後に4分の1に?

 地球温暖化を食い止めようとする人類が目指す目標と言えるネット ゼロ シナリオ(NZE)は、化石燃料の需要・供給を、どのように想定しているのでしょうか。以下は、IEAが示したネット ゼロ シナリオ(NZE)を含む三つのシナリオが想定する世界の石油の需要量です。


図:IEAシナリオにおける世界の石油需要(2025年時点) 単位:エクサジュール
COP30で露呈した溝:地球温暖化を食い止める最良の対策は?
出所:IEAの資料を基に筆者作成

 ネット ゼロ シナリオ(NZE)では、世界の石油需要は、実質ゼロを達成するタイミングである2050年にかけて、およそ75%減少することが想定されています。世界の石油の需要が4分の1になる劇的な変化です。


 公表政策シナリオ(STEPS)は、掲げている目標を達成することを想定していますが、ほとんど石油の需要は減りません(微減程度)。掲げた目標を達成しても、地球環境を改善するための大きな貢献にならないことが想定されています。


 現行政策シナリオ(CPS)は、2050年にかけて約13%増加することを想定しています。新しいことを何もしなければ需要は当然のように増えることが、想定されています。


 以下は、IEAが示したネット ゼロ シナリオ(NZE)を含む三つのシナリオが想定する世界の石油の供給量です。


図:IEAシナリオにおける世界の石油供給(2025年時点) 単位:エクサジュール
COP30で露呈した溝:地球温暖化を食い止める最良の対策は?
出所:IEAの資料を基に筆者作成

 需要とほぼ同様、2050年にかけて、ネット ゼロ シナリオ(NZE)はおよそ75%減少、公表政策シナリオ(STEPS)は微減、現行政策シナリオ(CPS)はおよそ10%増加することが想定されています。


 こうして見てみると、ネット ゼロ シナリオ(NZE)は、それ以外のシナリオと全く異なり、世界の石油市場に甚大な変化が起きることを想定していると言えます。だからこそ、パリ協定を順守できる、とも言えます。


 当然のことながら、パリ協定を順守することを想定するネット ゼロ シナリオ(NZE)は、石油を含む化石燃料だけでなく、再生可能エネルギー、原子力などさまざまなエネルギー源の動向を考慮した上でつくられています。


 石油市場に甚大な変化が起きることが想定されていることは、別のエネルギー源でも甚大な変化が起きることが想定されている、ということです。「技術革新で地球温暖化を食い止める」と述べたことと関連します。ネット ゼロ シナリオ(NZE)では、とてつもない規模の技術革新が想定されているのです。


地球環境が救われてエネルギー価格が暴落

「技術革新で地球温暖化を食い止める」、とてつもないエネルギー需給の変化を想定するネット ゼロ シナリオ(NZE)は、原油価格を、どのように想定しているのでしょうか。以下は、IEAが示したネット ゼロ シナリオ(NZE)を含む三つのシナリオが想定する原油価格イメージです。


図:原油価格の推移とIEAの各シナリオ(2025年時点) 単位:ドル/バレル
COP30で露呈した溝:地球温暖化を食い止める最良の対策は?
出所:世界銀行のデータおよびIEAの資料を基に筆者作成

 需要と供給、双方が2050年に4分の1に減少することをイメージするネット ゼロ シナリオ(NZE)では、2024年時点で1バレル当たり79ドル近辺で推移していた原油価格が2035年にその半値以下の33ドルとなり、温室効果ガス排出量の実質ゼロ達成が見込まれる2050年に2024年時点のおよそ3分の1の25ドルになることを想定しています。


 需要と供給、双方において微減となることをイメージする公表政策シナリオ(STEPS)は、原油価格がやや低下することを想定しています。需要と供給、双方において増加することをイメージする現行政策シナリオ(CPS)は、2035年には90ドル近辺、2050年には100ドルを超えることを想定しています。100ドル超えは「石油の時代」をほうふつとさせます。


 また、以下は、日本の輸入液化天然ガス(LNG)の価格の推移です。2035年に、どのシナリオも一段安になることを想定しています。2050年については、ネット ゼロ シナリオ(NZE)は低迷継続、公表政策シナリオ(STEPS)と現行政策シナリオ(CPS)は、やや反発すること想定しています。


図:日本輸入LNG価格の推移とIEAの各シナリオ(2025年時点) 単位:ドル/バレル
COP30で露呈した溝:地球温暖化を食い止める最良の対策は?
出所:世界銀行のデータおよびIEAの資料を基に筆者作成

 たしかに、技術革新で地球温暖化を食い止めるネット ゼロ シナリオ(NZE)は、パリ協定で掲げた目標を達成に導き、地球環境を改善させる道標だといえます。


 ただ、地球環境は救えても、これによる価格急落・低迷によって、別の問題が生じる可能性に留意する必要があります。


最良の対策は需要を産業革命前に戻すこと

 以下は、原油相場とメジャー(国際石油資本)の一つであるエクソン・モービル社の株価、そしてロシアの国内総生産(GDP)の推移です(1994年を100として指数化)。いずれも、2000年代前半に急上昇しておよそ6倍になり、その後は半値程度になるも、2020年ごろに急反発しました。


図:原油相場、エクソン・モービル株価、ロシアGDPの推移(1994年を100)
COP30で露呈した溝:地球温暖化を食い止める最良の対策は?
出所:世界銀行、Investing.comのデータを基に筆者作成

 エクソン・モービルは石油会社です。原油相場の動向は、同社の収益に大きな影響を与えます。ロシアは世界屈指の産油国です。原油相場の動向は、同国の輸出額を大きく増減させます。エクソン・モービルの株価も、ロシアのGDPも、原油相場の動向に大きな影響を受けていると言えます。


 人類が一念発起し、ネット ゼロ シナリオ(NZE)を完全に履行してパリ協定順守に向けて大きな一歩を踏み出した場合、先に述べたとおり、原油相場は大暴落する可能性があります。


 需要も供給も2024年から2050年にかけて4分の1になり、この頃にはもう、世界中で原油に関わらずに生活している消費者が多くなっているかもしれません。そして原油価格が何ドルであっても、社会の関心事にはならなくなっているかもしれません。


 仮にそうなった場合、エクソン・モービルなどの石油会社の株価もロシアのGDPも、暴落・急減している可能性があります。

もちろん、石油会社もロシアも、他のビジネスや産業を活性化させ、原油依存からの脱却を完遂させればその限りではありません。


 とはいえ、長きにわたり原油に依存してきた企業や国が、あと25年間で、原油と関わらない体質に変貌を遂げることは難しいでしょう。そうなると、ネット ゼロ シナリオ(NZE)は、こうした企業や国にとって、大変に大きな脅威になると考えられます。


 メジャーを中心とした西側諸国に属する石油会社の株価は軒並み急落し、これらを含んだ西側諸国の主要な株価指数もまた、下落する可能性があるでしょう。ロシアのような非西側諸国に属する産油国のGDPは相次いで急減し、政情不安が拡大する懸念も浮上するでしょう。


 ネット ゼロ シナリオ(NZE)は、西側諸国に属する石油会社の株やそれを含んだ株価指数の急落、非西側諸国に属する産油国の政情不安の急激な拡大を「同時進行させる」きっかけになる恐れがあると言えます。


 西側諸国・非西側諸国での混乱の同時進行は、極端気象の常態化、海面温度上昇の加速、食料危機の頻発、水資源の深刻な不足、感染症リスクの増加、大量移住と地政学的リスクの拡大、生態系崩壊が広範で発生などの、「地球温暖化をきっかけとした混乱を回避することの代償」と表現することもできます。


 地球温暖化は地球全体の問題です。本当にそうであるならば、それを解決しようとする試みも、地球全体で行われなければなりません。石油会社や産油国を、置き去りにしない策を講じることもまた、ネット ゼロ シナリオ(NZE)の柱にならなければならないでしょう。


 同シナリオでは、シナリオを推進することによって不利な境遇に陥る懸念を抱える人、会社、国などに対し、余裕がある国や企業が補助(お金や情報や人材など)やさまざまな優遇などで便宜を図ることも想定していると思われますが、本業が潤う直接的な利益にはなりません。


 良かれと思って実施した策が、別の混乱を引き起こさないよう、シナリオの設計と推進には細心の注意が必要です。


 なぜ、パリ協定における気温上昇の幅の目安を決める基準が、「産業革命前」なのでしょうか。行き過ぎた欲望、行き過ぎた好奇心、行き過ぎた嫉妬心などがまん延する現代社会では、エネルギーの消費量が増える一方です(化石燃料の消費は減っても、電力需要は圧倒的な勢いで急増する)。


 現代社会は、産業革命前の社会とは、似ても似つかない状態なのだと思います。そろそろ人類は、化石燃料だけを悪者にせず、電力を含めたエネルギーの消費量を減らすことを考える時期に来ているのだと思います。


 以下のとおり、環境・社会・企業統治(ESG)をきっかけとした産油国に対する「石油悪玉論」は、彼らに自身の石油を武器として利用する「原油の減産」、ひいては原油価格の長期視点の高止まりの遠因になっていると、筆者は考えています。


図:2010年ごろ以降の世界分断と高インフレ(長期視点)の背景
COP30で露呈した溝:地球温暖化を食い止める最良の対策は?
出所:筆者作成

 衝撃的とも言えるネット ゼロ シナリオ(NZE)は、技術に過度に依存せずエネルギーの消費を減らすよう人類に促しているのかもしれません。


[参考]エネルギー関連の投資商品例

国内ETF・ETN(NISA成長投資枠活用可)

NNドバイ原油先物ブル
NF原油インデックス連動型上場
WTI原油価格連動型上場投信
NNドバイ原油先物ベア


外国株式(NISA成長投資枠活用可)

エクソン・モービル
シェブロン
オクシデンタル・ペトロリアム


海外ETF(NISA成長投資枠活用可)

iシェアーズ グローバル・エネルギー ETF
エネルギー・セレクト・セクター SPDR ファンド


投資信託(NISA成長投資枠活用可)

シェール関連株オープン


海外先物

WTI原油(ミニあり)


CFD

WTI原油・ブレント原油・天然ガス


(吉田 哲)

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