老親の暮らしやお金がどうなっているのか、きちんと把握している子供世代って多くないはず。聞くに聞けないブラックボックス、このまま放っておくといざというときに何が起こるのか…。
福村雄一先生プロフィール
はじめに…なぜ家族間のお金の擦り合わせが必要なのか?
老親の資産状況を知る必要性について、「2両編成」だと私は考えています。2両目は当然「親御さんが亡くなった後」なのですが、意外に盲点となっているのが1両目。つまりお亡くなりになる前の段階で、「認知症が進むなど、親御さんの健康状態が悪化してきたら…」というタイミングです。
どちら側も、知っておかなければならないこと、擦り合わせておきたいことがありますが、まずは1両目の「親の認知度が低下してきた場合」で適切に対処ができていると、2両目(お亡くなりになった後)は案外スムーズに事が収まることも少なくありません。まずは、親御さんの健康状態が悪化する前に、ぜひ知っておいてほしいことを、お話ししていきましょう。
1両目:親の健康状態が悪化した場合
知っておくべきコト【1】親御さんの収入額と収入受け取り口座
年金やiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)、投資の配当金など、親御さんの収入がどれくらいあるのか、収入受け取り口座がどこなのかを知っておかなければ、万一、親御さんが通院や入院、施設入所となった場合、それらに関する費用をどこから引き出していいのかが分かりません。親御さんの「毎月の収入金額」と家計の「入口」をぜひ共有してもらっておいてください。
▼本当にあった怖い話【1】
知っておくべきコト【2】親御さんの支出状況
【1】とも連動することなのですが、親御さんの毎月の支出状況を知っておきたいですね。支出が収入内で収まっているのかどうか、はたまた、収入だけでは足りずに、投資や預金を一部取り崩して生活している状況なのか、収入と支出状況を見て、暮らしが成り立っているかどうかを把握していてほしいです。
知っておくべきコト【3】親御さんの保険について
1両目では特に、医療保険に関して、共有してもらっておいてください。どんな内容のどこの保険に入っているのかが分かっていれば、手術や入院、その後の費用などをそこから補填(ほてん)することができます。
比較的聞きやすい内容ではあるので、親御さんが加入している保険会社名と保険商品を知っておけば、当座に必要な費用だけでも保険会社から給付してもらうことができます。指定代理請求制度を契約に付帯し、お子さんを代理人に指定してもらっておくと、お子さんから請求できます。兄弟姉妹が複数いる場合、誰を代理人指定するのかも親御さんと相談しておくといいでしょう。
知っておくべきコト【4】誰がリーダーになるか
ご両親のうち、例えばお父さま側が健康状況を損なった場合に多く発生するケースですが、お母さまの気力が落ちてしまい、判断や実務ができず、長男などお子さんに決断権をゆだねる場合が出てきます。
配偶者が元気で、家族を仕切れるのがいちばんいいのですが、そうではない場合、誰が時間・体力・金銭的なサポートをするのか、家族間でのリーダーを軽くでも話し合っておいたほうがベターです。
▼本当にあった怖い話【2】
ATTENTION!
【1】~【4】に深く関わることですが、万一、支出が収入を上回り家計が破綻していたり、新たに通院や入院や施設代が追加になり支出が収入をはみ出したりする場合、家族の「誰か」が一時的にでも「立て替える」「援助する」ということになります。兄弟姉妹がいる場合、誰がどんな配分で立て替えるのか、を親御さん以外の家族で話し合っておくべきです。
一人っ子でなく兄弟姉妹がいる場合、近くに住んでいるので様子を見にたびたび行ける人と行けない人、金銭的な援助ができる余裕がある人とない人が出てきます。お互いの負担の分担を話し合い、双方納得していないと、「気持ちの上での階段差」がついてしまい、2両目の「親御さんが亡くなった場合」に泥沼の争いが始まる可能性があります。
2両目:親御さんが亡くなってしまった後
知っておくべきコト【5】死亡保険に入っているかどうか
医療保険ではなく、死亡時に遺された家族(受取人)が保険金を受け取ることができる保険です。人は亡くなった後も、葬儀費用や遺品整理、遺族の当座の生活費など、見送る側にお金がかかります。いったん誰かが立て替えるにしても少額で済むとは限りません。
ご本人が死亡保険に入っていた場合、数日間で保険金が受け取れます。貯蓄型、掛け捨て型、外貨建てなど、さまざまな保険の種類がありますが「死亡保険」に入っているかどうかを確認しておきましょう。
知っておくべきコト【6】遺言書があるかどうか
親御さんが亡くなってしまった際、遺言書があるかどうかを事前に知っておくと、その後の対応がスムーズに進みます。とはいえ、現金だけでなく、金融資産だったり、不動産だったり、資産価値のあるアートだったりと、「分けづらい」ものが残される場合も多々あります。
そういう場合、それぞれの取り分を相続する際にどれくらいの割合で分けるか、という問題が残されます。一戸建てか、マンションか。
不動産をお持ちの親御さんがいらっしゃるお子さんは、ぜひ事前に、親御さんがどんな物件をお持ちなのか、それがどんな状況なのかを把握しておくことをお勧めします。
ATTENTION!
最も「分けづらい」のは不動産ですが、金融商品もなかなか分けづらい遺産の一つです。特に相場が上下している昨今では「株のまま受け取るのか、売却して現金を分けるのか」などの問題が発生します。資産価値が上下するわけですから、いったん遺産分けが終わった後に相続した銘柄の資産価値がぐんぐん上がる…などの状況変化により、受け取らなかった側に「不平等感」が芽生えてしまい、遺恨の種になることにもなりかねません。
とはいえ、相場が悪い状況で無理やり売却しても損益が出る可能性があります。どんな遺産があり、自分ならどれを相続したいのか、家族間でざっくりとでも擦り合わせできている状況がベストです。
▼本当にあった怖い話【3】
知っておくべきコト【7】エンディングノートがあるかどうか
遺言書とは違い、法的権限はありませんが、連絡してほしい方や希望するお葬式スタイルなどの、ご本人の希望を記したエンディングノートを書かれている場合があります。
エンディングノートの多くには、銀行や証券会社、保険会社などに関するページがあるため、それが残っていると最も早く状況が整理できる場合があります。いきなり遺言書になると、現在元気な親御さんにも抵抗があると思われるため、お子さん側としては親御さんにぜひ、エンディングノートを書いてもらうよう勧めてみましょう。
どう話を切り出せば素直に聞いてもらえる?
これらの「知っておくべきこと」は、やはり親御さんが元気で認知力や理解力がまだある状況で話し合っておくのがベストです。とはいえ、元気な状態の親御さんにいきなり「資産の話なんだけど」と切り出しても、素直に話を聞いてもらえない、という声もよく聞きます。
実は私の父は70歳なのですが、先日、ようやく「エンディングノートを書きたいから持ってきて」と言ってくれました。車の中やテレビを見ながらなど、さまざまなタイミングで小出しに話を持ち掛けて、ここまで来るのになんと3年かかりました(笑)。
誰しも、自分が死ぬことを考えるというのは気鬱な作業です。お正月やお盆など家族が集まるタイミング、敬老の日や親御さんの誕生日、芸能人が亡くなった、75歳で後期高齢者になった、新しい病院に通い始めた…など、話を持ち出す小さなきっかけを丁寧に拾い、時間をかけてご自覚を促してあげてください。
FPさん、生命保険の営業の方、われわれのような司法書士など、第三者の交通整理役が入ると、家族間の話が格段にまとまりやすくなります。必要であればケアマネージャーさんを窓口にして同席者の一人にすれば、親御さんが安心できる空気づくりができるかと思います。
いつか自分も歩む道…自分のコトに置き換えて考えよう!
また、必ず知っておきたい最優先事項は、「自分だって明日死ぬかもしれない」という意識です。老親よりも何よりも、今日この帰り道にあなたご自身が事故などに遭う可能性もあります。体が動き、意思を伝えられる段階で、さまざまな情報を共有しておく必要があるのは、今、子供世代であるあなた自身にも必要なコトなのです。
親御さんの説得を考えると同時に、近隣で開催されているセミナーに一緒に行く、オンラインセミナーを一緒に見る、エンディングノートを自分の分も一緒に書き始めるなど、「縁起でもない話」「万が一の話」を一緒に考え始めるというのが、最も近道かもしれません。
老親の終活が気になり始めたタイミング=ご自身の終活をそろそろ始めたほうがいい、というきっかけにして、「ともに歩む」感覚で、このお正月、さまざまな話をしてみてください。
親の資産、子供が知っておくべきコト、チェックリスト
□年金、iDeCoなど、収入の振り込み口座
□収入総額と支出額
□加入している医療保険、死亡保険の保険会社と商品名
□エンディングノート、遺言書などの有無
□兄弟姉妹、親しい親戚など親以外の親族の「温度感」
□親と同時に、自分の「万一」を考え始めておく
企画/取材/編集/執筆 金井雪子
(トウシル編集チーム)

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