中国が高市首相の台湾有事を巡る「存立危機事態」発言に猛反発し、官民一体で日本に対する圧力と制裁措置を加えています。ヒトの往来やビジネスへの影響も顕在化する中、日中関係はどこまで悪化するのでしょうか。

本稿で今後の展望を考察します。


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著者の加藤 嘉一が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 中国が「高市発言」に猛反発:日中関係はどこまで悪化するのか? 」


高市首相の台湾関連発言に中国側が猛反発

 日本と中国との関係が難しい局面に差し掛かっているように見受けられます。


 高市早苗首相が11月7日の衆院予算委員会で、台湾有事に関して「戦艦を使って武力の行使を伴うものであれば、どう考えても存立危機事態になり得る」などと発言したのを受けて、中国側は猛反発しています。


 薛剣(シュエ・ジエン)駐大阪総領事が「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬のちゅうちょもなく斬ってやるしかない」とXに投稿したのは記憶に新しく、この発言は日本国民の中国に対する感情を著しく傷つけ、日本政府が発言に抗議する事態となりました。


 中国側は外交部、国防部、文化観光部、商務部、そして人民解放軍などの各機関が、記者会見やSNSなどを通じて、さみだれ式に「高市発言」を批判してきました。「台湾問題で火遊びをするな。火遊びをすれば必ず身を滅ぼす」といったトーンです。


 それも、中国語だけでなく、英語、そして日本語まで駆使して、自国民に、日本に、そして国際社会に対して情報発信しているのです。


 私は、自民党総裁選前の9月上旬に配信したレポートにて、次のように指摘しました。


2025年9月11日: 中国は「ポスト石破」をどう見る?日中ビジネスに与える三つの影響


「『ポスト石破』政権下において、(1)日中関係悪化→(2)日本企業への圧力強化→(3)邦人拘束リスク上昇、というリスクを、『現実的に起こり得るシナリオ』として、今のうちから頭の片隅に入れておく必要があると思います」


 残念ながら、当初私が予想していたよりも早く、かつ深い次元で日中関係は悪化しているように見受けられます。


停滞する日中間の往来。ビジネスにも影響

 懸念されるのは、中国側は政府当局が口頭や声明で日本を批判しているだけでなく、実際の行動に出ている点です。自国民の日本への渡航「回避」を警告し、日本への留学を控えさせています。


 また、日本産水産物の輸入を再び禁止したほか、日本とのビジネス、文化、民間、地方、学術といった分野での交流や往来を制限するなど、制裁・報復とも言える一連の措置を発動しているのです。


 中国の官製メディアは最近、中国と日本を結ぶ12の航空路線で全便が相次いで欠航になった、日本行き航空券のキャンセルが54万件超に上った、などと報じています。私の周りでも、旅行やビジネスで日本を訪れる予定だった知人の多くが、フライトをキャンセルし、訪日を取り止めています。


 彼らと話していて感じるのは、日本ではおなじみのいわゆる同調圧力が相当程度かかっているという点です。


 中国政府は自国民が日本へ赴くこと、日本のカウンターパートとイベントや会議を行うことを、公権力や法律に依拠して、強制的に「禁止」しているわけではありません。しかし、それは日本人が思うところの「自粛」よりは強く、「回避」、すなわち「いまこのタイミングで日本へ赴くことは止めておきなさい」という一種の警告に近いものがあるというのが私の理解です。


 もちろん、法的拘束力を持つわけではありませんから、日本へ赴き、日本企業と会議をするなどしても、制度に基づいた処罰がなされるわけではありません。


 ただ、中国はやはり政治の国であり、お上である中国共産党が日本を官民一体で批判し、圧力をかけるよう攻勢に出ている状況下で、企業や一般市民がそれと真っ向から逆の言動を取るというのはなかなか考えにくいでしょう。


 もちろん、例外はあります。


 このレポートを読んでいる方で、日頃中国側と付き合いのある方の中には、「いや、この前中国の知人は普通に日本に来ていた」「日中関係がどうだろうが私には関係ないって言っていた」「中国でのビジネスには何の影響も出ていない」といった感触をお持ちの場合もあるでしょう。


 一方で、私の経験値からすると、中国を理解する上で、中国と付き合う上で、「全体感」「流れ」「動向」といった要素はやはり重要で、政治に裏打ちされた中国独自の同調圧力の影響により、日本と中国の間のヒト、モノ、カネ、情報の往来は有形無形の制限、規制を受けるのが必至だと私はみています。


「中国側が会議をドタキャンしてきた」
「北京で行われるはずだった共同イベントが前日にいきなり中止になった」
「中国当局から下りるはずだったライセンスが取り消された」
「中国の現地事務所にいきなり公安関係者が入ってきた」
「中国側の合弁パートナーが電話に出ない」


 これらは氷山の一角に過ぎませんが、容易に想像できる事象であり、私が把握する限りすでに起きています。


 仮に日中関係の悪化を背景に、中国からの観光客、留学生、企業家、富裕層などが日本に来なくなる、あるいは集団的に帰国した場合、日本社会の現場で(良い影響か悪い影響かはさておき)影響を受けるのは、インバウンド業、不動産、観光、地方、大学といったところでしょうか。


日中関係の悪化はどのくらいで収束するのか

 中国側が日本への批判や制裁を安易に緩めるとは考えにくいでしょう。中国側は、高市首相に発言撤回を求めていますが、政府は11月25日の閣議で「存立危機事態」に関する高市首相の国会答弁について「従来の政府の見解を変更しているものではない」との答弁書を決め、かつ「見直しや再検討が必要とは考えていない」とも記しています。


 高市首相が発言を撤回するとは思えないため、中国側からの批判や制裁も止まらないということになります。


 中国側は日本の経済や民間交流に影響を与えることで、財界の政権への不満を助長し、高市政権の支持率を下げるべく仕掛けてきているのでしょうが、11月中旬から下旬にかけての主要新聞社の世論調査を見ても、高市政権の支持率はおおむね70%前後、不支持率は20%以下となっています。


 しかる状況下、日本の民間や市場関係者が持つべき意識としては、「日中関係の悪化は、短期的には収束しない」というものでしょう。


 前述した関連業界、中国で、あるいは中国と事業を展開する企業に関しては、何らかの影響や被害を受ける可能性が高いという前提で準備や対策を進めるべきです。中国ビジネスの比重が高い銘柄に関しては、株価に下落圧力がかかるかもしれません。


 リスク管理という観点からすれば、常にワースト(最悪の事態)を想定すべきです。


 具体的には、日本人の従業員が中国で「反スパイ法」容疑で拘束される、日本人が中国で襲撃事件に遭う、日本の商品が中国市場でボイコットされる、中国企業との合弁や契約が一方的に破棄される、レアアース(磁石)の対日輸出がストップするといった事態が生じる可能性を念頭に置いた上で、準備と対策を急ぐ必要があります。


(加藤 嘉一)

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