高市首相の台湾関連の言動に中国が猛反発し、日中対立が激化しています。然る状況下、大阪に出張する機会があり、現場で何が起きているのかを見てきました。

そこには、日中間で人の流れが制限される現状に対する錯綜感がありました。


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※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の加藤 嘉一が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 大阪出張報告:「日中対立の現場」で何が起きているのか? 」


中国の「高市発言」への批判や制裁は続く

 先週のレポート「中国が『高市発言』に猛反発:日中関係はどこまで悪化するのか?」では、高市早苗首相の台湾関連の言動に中国が猛反発し、自国民の日本への渡航を「回避」するよう警告したり、石破政権で解禁されていた日本の水産物の輸入を再び禁止したりするなど、日中間のヒト、モノ、カネの流れを自ら制限するという措置に打って出てきました。


2025年11月27日: 中国が「高市発言」に猛反発:日中関係はどこまで悪化するのか?


 その上で、高市首相が11月7日の国会答弁で台湾有事に関して言及した「戦艦を使って武力の行使を伴うものであれば、どう考えても存立危機事態になり得る」といった発言を撤回する可能性は限りなくゼロに近いでしょう。


 一方の中国側は、この発言の「完全撤回」を求めて、日本側に圧力や制裁を課し、かつ世論戦の観点から、中国国内、日本、国際社会に対して対日批判を大々的に繰り広げています。


 国際連合のアントニオ・グテーレス事務総長に対しても2度書簡を送りました。12月1日に送った2度目の書簡では、高市首相の発言について「戦後の国際秩序に挑戦するもので、国連憲章に深刻に違反する」と主張しています。


 また、英国やフランスといった西側先進国に対して、台湾問題で中国の立場を支持するよう迫り、「西側諸国の間で台湾問題で中国の核心的利益に真っ向から挑戦してくるのは日本だけだ」とでも言わんばかりに、日本を国際社会で孤立させるべく外交攻勢を仕掛けてきています。


 中国の官民一体によるこれらの攻勢が、実際にどれだけ功を奏するかに関しては、議論が分かれるでしょうし、一筋縄にはいかないでしょう。日本としても、中国や国際社会に対して、主張すべきは主張し、反論すべきは反論すべきです。


 ただ現状、日中双方ともに一歩も引けない状況にある中、この事態が短期的に、簡単に収束するとは思えません。

先週のレポートでは次のように段階的結論を出しました。


 日本の民間や市場関係者が持つべき意識としては、「日中関係の悪化は、短期的には収束しない」というものでしょう。


 1週間が経過した現在も、この基本的判断に変化はありません。2012年9月の尖閣諸島「国有化」事件以来の「日中対立」は中長期化するという前提で情勢を見ていく必要があると思っています。


大阪出張報告:日中間の往来への影響は?

「日中対立」が激化する中、先日、大阪に出張する機会がありました。


 大阪・関西万博が閉幕し、少し「日常」に回帰した光景が見受けられました。


 11月初旬以降、中国政府が自国民に日本へ渡航することを回避するよう警告する中、中国特有の(政治的色彩を帯びた)同調圧力から、日本への渡航をキャンセルする中国人民は少なくないだろう(お上が「日本へ行くな」というスタンスを政治的に出している状況下で、日本へ渡航し、旅行することは、中国という政治の国で生きていく上で都合が悪い)という仮説を先週のレポートでは提起しました。


 実際、私の周りでも、日本への渡航や出張をキャンセルする、イベントを延期する、対面ミーティングをオンラインに切り替えるといった動きは出てきています。中国で高まる反日感情を警戒し、中国への出張を取りやめた日本人側のケースも複数把握しています。


 多かれ少なかれ、昨今の「日中対立」下において、両国の民間レベルにおけるヒトやカネの流れが制限され、一定の経済的悪影響が生じている現実は否定できないと言えます。


 大阪の現場に話を戻します。


 大阪で偶然、過去に中国に8年ほど駐在し、退職後、タクシー運転手に従事しているという方に出会い、タクシー界隈の現状をうかがうことができました。この方の実感は以下の3点です。


(1)中国人観光客が減っているという感覚は多少だが持っている


(2)一方、訪日をキャンセルしている中国人の多くは団体旅行客であり、個人旅行客に関しては、あまり減っているとは感じていない


(3)タクシーが相手にするのはほとんどが個人旅行客であり、日々の売り上げに昨今の日中対立の影響はほとんどない


 その上で、「京都ほどではないが、マナーがあまりよろしくない中国人観光客や、多くのスペースに広がる団体旅行客が減って、以前よりも気分よく仕事ができているのも事実」という感想を共有してこられました。


 私が「中国本土、香港、台湾といくつかありますが、この客は本土からだとかいう類の見分け方はあるのですか?」と伺うと、台湾からの旅行者は比較的中高年が多く、中国本土からだと若者が多く、服装も派手なので見分けはつく、とのことでした。


 若者、という観点からすると、私が普段交流する機会のある中国人の間でも世代間ギャップは存在していて、若い世代であればあるほど、物事や情勢を柔軟に観察し、判断する傾向にあります。


 昨今の情勢に照らし合わせれば、日本と中国の外交関係が悪化し、国同士が国益を巡ってもめていても、「国は国、個人は個人」という基準で自らの行動規範を決め、「日中がもめようが、私には関係ない。せっかく休暇を取って大好きな日本へ行くのだから、キャンセルする理由はない」(筆者の知人コメント)という類の考え方をする方が多いということです。


 このあたりの事情も考慮しながら、インバウンド、観光、不動産、大学といった「中国人関連」の産業は、今後どのように中国の方々を顧客として、収入源として取り込んでいくのか、健全なコミュニケーションや適切な距離感を、「日中対立」を機に整理してみるのもいいかもしれません。


 大阪出張を通じて得た私なりの感想です。


今後の見通し

 最後に、今後の見通しについて述べたいと思います。


 前述したように、今回の「高市発言」に中国側が猛反発して勃発した日中対立は、中長期化するという前提で構えるのが合理的判断だと思います。浜崎あゆみさんの上海での公演が急きょ中止になった実例にも反映されるように、日中間の至る所で、あらゆる関係者が、関連業界が影響を受け、経済的損失を被る場面も多発するでしょう。


 特に、公開イベント系は、経済的損失やレピュテーションリスクにもつながるので、慎重に物事を進めたほうがいいと思います。


 中国側は継続的に、時と場合によって強弱を付けながら、日本に対する圧力や制裁を止めないでしょう。


 一方、自国民の日本への渡航回避に関して2回目の警告を出したように、「制裁がどこまで日本経済・社会に効いているか」を巡り、中国側も判断に苦労している感はあり、「効いていない」という結論を出せば、従来以上に強い措置が取られる可能性も否定できず、日本の官民は警戒しながら、この難関をうまく乗り越えるべく知恵を絞るべきだと思います。


(加藤 嘉一)

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