株式市場では、先週あたりから「フィジカルAI」をキーワードに関連銘柄が上昇する動きを見せています。これまでの生成AI相場とは異なり、フィジカルAIの台頭はハードウエアや制御技術、部品などに強い日本企業にとって好機となる可能性があります。
※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の土信田 雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 「フィジカルAI」はAI相場の新たな柱となるか? 」
動き始めた「フィジカルAI」銘柄
2025年の締めくくりとなる12月相場ですが、その最初の週である先週(2025年12月1~5日)の株式市場では、「フィジカルAI」というキーワードで、関連する銘柄が上昇する動きを見せています。
米国株市場では エヌビディア(NVDA) や テスラ(TSLA) 、日本株市場では ソフトバンクグループ(9984) や 安川電機(6506) 、 ファナック(6954) 、 ハーモニック・ドライブ・システムズ(6324) などの銘柄が上昇しました。
先週(2025年12月1~5日)に株価が上昇した主な国内フィジカルAI関連銘柄
銘柄名 上昇率 上昇理由・特徴 菊池製作所(3444) +19.2% 板金や成型、機械加工を手掛ける。「量産案件」への思惑で買われる ヒーハイスト(6433) +16.5% 産業機械用直動ベアリング部品が軸。「第2のハーモニック」として連想買い ソフトバンクG (9984) +14.6% 安川電機と「AI-RAN」を活用したフィジカルAIの社会実装に向けた協業を開始 安川電機(6506) +8.4% ソフトバンクGとの協業期待、米国に工場を保有 ファナック(6954) +6.1% 工作機械用制御装置が世界首位、産業用ロボットも。エヌビディアとの協業発表が追い風 ハーモニック・
ドライブ・
システムズ(6324) +5.8% 小型・軽量の精密制御減速機が高いシェア。出遅れ修正の動きも 出所:MARKETSPEED IIデータを基に作成
これまでのAI相場といえば、生成AIをキーワードに、「ハイパースケーラー」と呼ばれるAIを開発する企業や、クラウドサービスを提供する企業、半導体企業やデータセンター関連企業といった銘柄が中心でしたが、「フィジカル(身体)」という言葉が示すように、先週の株価上昇の主役はロボットや機械、部品に関連する「動くモノ」をつくる企業が中心となりました。
では、こうしたフィジカルAI関連銘柄の上昇は、AI相場における新たな「柱」となり得るのでしょうか?
フィジカルAIとは?
では、そもそも「フィジカルAI(Physical AI)」とは何なのでしょうか。一言で表現するなら、「身体を持ったAI」のことです。
これまでの「生成AI(Generative AI)」は、PCやスマホの画面上で、文章や画像、動画などを作成したり、分析や計算処理を行ってくれる「頭脳」や「エージェント」のような存在でした。
今回注目されているフィジカルAIは、ロボットや機械にAIの頭脳を搭載し、実際の現場で状況を把握し、判断を下し、物理的な作業を担ってくれる存在となります。
<図1>「生成AI(Generative AI)」と「フィジカルAI(Physical AI)」
従来のロボット(産業用ロボット)は、事前に設定されたプログラムの指示通りに動き、動作は正確ではあるものの、少しでも位置がずれたり、状況が変わってしまうと、エラーで停止してしまうことが起こり得ますが、これに対し、フィジカルAIはカメラやセンサーで周囲を認識し、状況の変化も柔軟に判断して複雑な作業を行うことが可能になります。
これにより、物流・倉庫をはじめ、建設・土木、サービス・介護など、これまでロボットの導入が難しかった、「変化の激しい現場」での活用が急速に進むことが期待されます。
物流・倉庫:形や大きさがバラバラな商品のピッキングや梱包作業。建設・土木:足場の悪い危険な場所での建機の自律運転や資材運搬。サービス・介護:レストランでの配膳や、家庭内での家事支援、高齢者の見守り_などが例に挙げられます。
また、こうしたフィジカルAIの定義から見れば、カメラやセンサーで道路や周辺状況を認識して、ハンドルやブレーキを操作するという仕組みの自動運転技術も「フィジカルAI」の一つといえます。
なぜこのタイミングでフィジカルAIが注目されたのか?
フィジカルAIという言葉自体は以前から登場していたのですが、では、なぜこのタイミングでこのテーマが動き出したのでしょうか。
実は先週、以下のように、フィジカルAIに関する材料が相次いだことが挙げられます。
【企業の動き】
12月1日に産業用ロボットを手掛けるファナックが、AI半導体の王者エヌビディアとの包括的な協業を発表したほか、先日(10月)にソフトバンクGがスイスABBのロボット事業を買収したことなどと合わせ、フィジカルAIの社会実装に向けた企業の動きか活発化しつつあることが意識されました。
【現場の熱気】
12月3日から東京で開催された「2025国際ロボット展」や、12月1日に米ラスベガスで開催された米アマゾン社のイベント(AWS re:Invent)において、AIで自律的に動くロボットの実機が多く披露され、AIを搭載したロボットや機械が現場で普及する日は「そう遠くない」というムードが高まりました。
【政治の後押し】
そして、市場が最も反応したのが12月4日の米国報道です。「トランプ米大統領が、ロボティクス産業活性化のための大統領令を準備中」と報じられ、フィジカルAIが単なる技術トレンドから、国家戦略における国策テーマへと格上げされることが意識されました。
このように、「企業の動き」「現場の熱気」「政治の後押し」という三つの材料がそろったことが、先週の関連銘柄の株価上昇につながったと思われます。
フィジカルAIと日本企業の優位性
このように、米国からの動きで注目度が高まったフィジカルAIですが、実は米国企業以上に、日本企業にとってチャンスになるかもしれません。
AIのモデル(脳)をつくる競争では、ChatGPTやGeminiといった米国勢や、DeepSeekを擁する中国勢と比べると、日本勢は劣勢となっていましたが、物理的に動くロボットや機械は、何万回動いても壊れない耐久性、ナノメートル単位で停止する制御技術、職人のような力加減など、これら「すり合わせ技術」が必要な領域については、日本企業が圧倒的な技術力と世界シェアを持っています。
下の図2のように、フィジカルAIでは、土台となる部分が重要であり、この部分で強みを持つ日本企業は「影の主役」として、今後注目度を高めていくことが想定されます。
<図2>日本企業の優位性:フィジカルAIの土台を支える「影の主役」になれるか?
さらに、ロボット本体だけでなく、目となる「カメラ・センサー」や、神経となる「ケーブル」など、周辺部材へも物色の裾野が広がりやすい点も日本企業にとって追い風となる可能性があります。
(参考)想定される国内企業の主なフィジカルAI関連銘柄
分野 銘柄名(コード) 注目ポイント 中核・本体 安川電機(6506) 産業用ロボットなどメカトロニクス製品で高シェア。米国に工場 ファナック(6954) 工作機械・産業用ロボットで高シェア。エヌビディアとの協業で期待進む ソフトバンクG (9984) AI×ロボットの覇権を握る「プラットフォーマー」へ変貌中 駆動・部品 ハーモニック・
ドライブ・
システムズ(6324) 人型ロボットの関節に必須の「精密減速機」で世界高シェア ニデック(6594) モーターの総合メーカー。超小型モーターに強み SMC(6273) 自動化設備に必須の空気圧機器で世界首位 感覚・目 ソニーG(6758) ロボットの「目」(イメージセンサー)で高シェア。高度な認識には不可欠 オプテックスG (6914) 各種センサーを手掛ける。需要増に期待 物流・周辺 ダイフク(6383) 物流システム世界首位。米国の倉庫自動化需要を取り込める現地体制 部品 不二越(6474) 産業用ロボット・部品で高シェアの独自製品多い。米国に工場 出所:MARKETSPEED IIデータを基に筆者作成
フィジカルAIはAI相場の新たな「柱」となるか?
これまで見てきたように、フィジカルAIはAI相場の新たな柱となる可能性は「かなり高い」と考えられます。
ただ、その株価上昇については、これまでの生成AIブームとは少し異なるものになるかもしれません。
というのも、生成AIはソフトウエア開発が中心であることと、成果物の性能が見えにくいこともあって、期待が先行する格好で株価が短期間のうちに跳ね上がる展開となりました。
一方のフィジカルAIはハードウエアです。工場を建て、ラインにロボットを設置し、稼働させて初めて売上や利益が立ちます。11月に生成AI相場が揺らぐ場面がありましたが、そのネガティブ要因の一つに、データセンター建設という物理的なハードウエアの問題(用地や電力、(冷却のための)用水の確保など)への懸念が挙げられたのも、こうした背景があります。
現時点では「動き出した」とはいえ、関連企業の業績にフィジカルAIの利益が乗ってくるのはまだ先の話であり、企業の受注残高や売上の伸び(実需)を確認しながら、階段を登るように上昇していくと思われます。
とはいえ、目先は期待先行で株価が上昇する展開も考えられます。具体的には、先ほども紹介した、ロボティクスをめぐるトランプ大統領令の動向です。この大統領令は2026年の年明け早々に正式発令されるという予想もあるようですが、ここで具体的な予算や補助金、優遇策などが決まれば、関連銘柄が動き出す可能性があります。
しかも、この大統領令は米国の移民統制政策による労働力不足や、製造業の国内回帰政策と絡んでくることも考えられ、「すでに米国に工場を持っている企業(安川電機や ダイフク(6383) など)が優遇されるかも」といった視点で銘柄が選好されるかもしれません。
いずれにしても、フィジカルAIは2026年相場における中長期的なテーマの一つになりそうです。
(土信田 雅之)

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