土曜日の「3分でわかる」は、12月13日(土)と12月16日(火)の2回にわたり、宇宙産業銘柄について解説します。1回目は宇宙産業の基礎知識を解説し、2回目は宇宙産業で活躍が期待される日本企業について解説します。
宇宙開発は国家主導で始まり民間企業に広がってきた
20世紀には、宇宙開発は国家主導で行われました。米ソ冷戦のさなかに、国威発揚をかけて米国やソ連(現ロシア)が宇宙空間の有人飛行や月面探査を競い、達成しました。
今は民間企業が多数参入して宇宙産業が構成されています。それでも中心的役割を果たしているのが国家であることに変わりありません。
特に、軍需(防衛)目的での利用が大きなウエートを占めています。従って、防衛予算・宇宙開発予算の大きい国が、宇宙産業で主導権を握っています。
米国が最大の予算を持っているため、米国企業が宇宙産業で最も先進的な技術を保有し、宇宙ビジネスをリードしています。次いで予算の大きい欧州も、宇宙産業で先進的な地位を築いています。
日本は予算規模が小さいので、残念ながら宇宙開発では米国や欧州と比べて出遅れています。ただし、ロケットの製造や打ち上げ、人工衛星の製造や運営でこれまでに大きな成果を上げています。
ロケット事業・衛星事業で民間企業が大きな役割を果たし始めた
民間企業が重要な役割を果たし始めているのが、ロケットおよび衛星事業です。主な役割は以下の通りです。
[1]ロケット事業:人工衛星を衛星軌道(地上400キロメートル以上)まで運ぶ。
[2]衛星事業:人工衛星を運営。観測・画像撮影、通信・放送、測位など行う。
衛星事業は、さらに細かく分けると、以下三つに分類されます。
[A]静止軌道*(上空3万6,000キロメートル辺り)の大型衛星、あるいはさらに高軌道の大型衛星
[B]中軌道(上空2,000~3万6,000キロメートル)の大型衛星
[C]低軌道(上空2,000キロメートルまで)の小型衛星
*静止軌道とは:静止衛星が通る軌道。静止衛星は、地球の自転と同じ周期で公転するので、地上から見ると常に同じ位置に静止しているように見える。
ビジネスは高軌道・中軌道から始まり、近年は低軌道が中心となってきています。
以下、さらに詳しく説明します。
[A]静止軌道、さらに高軌道の大型衛星
1機で地球上の広範囲を観測できるメリットがあります。日本は気象衛星「ひまわり」(静止軌道を通る)、測位・通信などに使われる衛星「みちびき」(準天頂軌道を通る)を運営しています(注:「ひまわり」「みちびき」とも複数ある衛星の総称)。
ただし、地球からの距離が遠いことによる欠点もあります。通信の遅延が大きい、観測の解像度が低い、測位の精度が低いなどの課題があります。例えば観測分野では、高軌道の大型衛星で解像度数百メートル級に対し、低軌道では解像度30cm級まで向上します。
[B]中軌道の大型衛星
米国政府が運営するGPS用の衛星があります。世界全体をカバーするため、中軌道に24機以上(バックアップまで含めると30機以上)が配置されています。日本でもスマホでGPSが使えます。GPSを使えるおかげで、スマホやカーナビで、位置情報が得られます。
日本は「みちびき」を使って、GPSによる位置情報の精度をさらに向上させる取り組みを行っています。
[C]低軌道の小型衛星
これからの宇宙ビジネスの中核を担うと期待されるのが、低軌道の小型衛星です。米国のスペースX(テスラ創業者のイーロン・マスク氏が創業)が再利用型ロケットを実現させ、ロケット打ち上げコストを大幅に低下させたことにより、低軌道に多数の小型衛星を打ち上げることが可能になりました。低軌道の小型衛星ならば、通信遅延がなく、観測・測位の精度が大幅に向上します。
スペースXは、低軌道に多数の小型衛星を打ち上げて「衛星コンステレーション」(複数の衛星を連携して一体運用する仕組み)を構築し、世界全体で高速のインターネットサービスを提供する計画「スターリンク」を有しています。8,000~9,000の小型衛星があれば、世界全体をカバーできます。
既にサービスを開始している地域もあります。日本でも通信インフラが整備されていない山間部や離島、あるいは災害時のバックアップ回線として注目されています。
IHI(旧:石川島播磨重工業:7013) は、低軌道の衛星コンステレーションを運用する事業で、欧州エアバス社子会社など英国企業2社と提携します。2030年にも、地表の観測データを集めるネットワークをつくり、日英間の安全保障協力に役立てます。IHIは、防衛相へのデータ販売を想定しています。
これから、低軌道を生かした宇宙ビジネスが、日本でも広がっていくと考えられます。小型衛星の分野では、既に複数のスタートアップが急成長していることに加え、IHIなどの大手企業も参入しつつあります。
日本政府も、世界の潮流を踏まえわが国が進めるべき技術開発のロードマップを示した「宇宙技術戦略」を策定しました。スタートアップなどの民間企業の宇宙技術開発を支援する「宇宙戦略基金」を立ち上げるなど、わが国として宇宙開発を支援する枠組みが整ってきました。
宇宙ステーションにも期待
有人の宇宙ステーションを活用したビジネス展開も広がる期待があります。米国(NASA)・ロシア(Roscosmos)・欧州宇宙機関(ESA)による国際宇宙ステーション(ISS)には、2000年11月以降、宇宙飛行士が常駐するようになっています。各国が協力して運用し、無重力空間での科学実験や地球観測を行っています。
ポストISSを見据えた民間主導の宇宙ステーション開発が進んでいます。宇宙ステーションが担うべき役割はたくさんあります。材料科学・生命科学・物理学の研究などが進んでいます。
近い将来、民間の宇宙ステーションが私たちの生活を支える重要基盤となる可能性もあります。
私たちの生活を支える宇宙産業
私たちの生活に、宇宙産業の恩恵は幅広く浸透しています。例を挙げます。
【1】GPS(全地球測位システム)
スマートフォンで地図(グーグルマップなど)を表示して歩く時、GPSをオンにしていれば自分がどこにいるか地図上に示されるので、とても便利です。これは、米国政府が運用しているGPSの恩恵です。
米国政府は地球から2万キロほど上空に「測位衛星(位置測定に使う人工衛星)」をたくさん打ち上げていて、世界中を監視できるようにしています。宇宙空間に多数あるGPS測位衛星のうち少なくとも四つを使えば、地球上の人間がどこにいるか2~3メートルの誤差で特定できます。
GPSは、インターネットがつながらない場所でも使えます。ただし、宇宙から計測するので、上空に障害物がないことが条件です。
インターネットがつながらない山岳部でも、電子地図をダウンロードして持っていればGPSによって、自分が地図上のどこにいるか特定できます。「ヤマップ」の登山地図アプリがあってGPSが使えれば便利です。
【2】天気予報
スマホで手軽に ウェザーニューズ(4825) が提供する天気予報を利用できるようになりました。気象衛星「ひまわり」が撮影する画像データに加えて、地球上のさまざまな場所から得られる気象データを合わせて判断しているので、予報の精度が近年高まっています。
【3】テレビ放送(BS・CS放送など)
BS放送の電波は、放送衛星を経由して私たちに届きます。
低軌道の小衛星ネットワークが完成すれば、今以上に重要な役割を果たしていくと考えられます。
安全保障ニーズを背景に観測衛星の開発が先行するが、測位や通信の分野も、今後の成長が期待されます。大規模農業や災害防止、ドローンの目視外飛行や自動運転の推進など、今後のわれわれの経済・社会活動において、通信・観測・測位などの宇宙システムは欠かせない重要なインフラになると期待されます。
以上、今回は宇宙産業の基礎知識について解説しました。この続編として、12月16日(火)の「3分でわかる」にて、宇宙産業で活躍が期待される日本企業についてレポートを執筆します。
(窪田 真之)

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