小規模ながらも世界シェアが高い製品・サービスを持つ企業に注目した「グローバルニッチトップ企業100選」。選定企業から成長性の検証を行い、投資対象企業を選択する際に注目すべきポイントを考察します。


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グローバルニッチトップ企業100選とは何か

 経済産業省製造産業局は、2014年と2020年に「グローバルニッチトップ企業100選」を実施しました。これは、個々の市場規模は小さいながらも、世界シェアが高い製品・サービスを持つ企業に注目したものです。


 第1回目となる「グローバルニッチトップ企業100選」は、2014年3月に実施されました。


 最初に、選定要件は企業規模別に以下のように設定されています。


  • 大企業:世界市場の規模が100億~1,000億円程度あって、20%以上の世界シェアを保有
  • 中堅企業(売上高1,000億円以下):10%以上の世界シェアを保有
  • 中小企業:10%以上の世界シェアを保有

 公募による281社から、公募→定量評価によるスクリーニング(収益性、戦略性、占有力、国際性)→審査委員による二次審査→選定というプロセスを経て、100社(大企業の事業部門を六つ、中堅企業25社、中小企業69社)が選定されました。


 選定された企業の内、上場会社(その後に上場廃止も含む)は以下の26社になります。


投資先を決めるポイントは?「グローバルニッチトップ企業100選」に関する考察
2014年3月のGNT100企業(上場企業26社を抜粋)

 この2014年時点での経済産業省の試みは、以下の要素が強くあったように見受けられます。


  • 新たな輸出の担い手としてのグローバルニッチトップ(以下、GNT)企業の特徴
  • GNT企業に至る経路分析、経営者、経営哲学
  • 海外展開における地域、市場開拓への重視項目、製造拠点、調達、人材の在り方
  • 規制対応等々を抽出・分析することで、経済産業省の政策支援・補助の進め方を検討

 その結果、大企業(6社)よりも中小企業(69社)に重きが置かれているように見えます。


 2020年6月には、第2回目(2020年版)の「グローバルニッチトップ企業100選」が公表されました。


 2020年では、冒頭に趣旨として次のように掲げられています。


【個々の市場規模は小さいものの、世界のシェアが極めて高い製品が多数あり、それを製造する企業は世界のサプライチェーンにおいて「なくてはならない」存在。これらの企業群の努力経営を称え、広く世に示すべく、「グローバルニッチトップ企業100選」として表彰】


参照: 2020年版グローバルニッチトップ企業100選について


 2020年の趣旨を見ると、分析に重きが置かれていた2014年版とやや趣が異なり、表彰に重きが置かれているように見受けられます。


 ちなみに、経済産業省に問い合わせたところ、「2014年は第一回目という理由からGNT企業についての調査・分析を充実させたが、全体の趣旨は大きくは変わっていない」との説明がありました。


投資先を決めるポイントは?「グローバルニッチトップ企業100選」に関する考察
出所:経済産業省

 2014年版と2020年版とでは選定要件は大きくは変わらないものの、2014年版18項目であったのが2020年版は25項目と、審査評価項目が増加しています。


 評価項目増加の影響によるのかもしれませんが、選定された113社の内、大企業37社、中堅企業21社、中小企業55社と大企業のウエートが大きく高まりました。上場企業数も、2014年版の26社から2020年版は43社(大企業グループの子会社除く)へと拡大しました。


 選定各企業の紹介は「2020年版経済産業省グローバルニッチトップ企業100選 選定企業集」として個々の企業ごとに1ページずつ、GNT製品・サービスの内容、GNT企業としての戦略・ビジネスモデルについて説明が記載されています。


参照: 2020年版経済産業省グローバルニッチトップ企業100選 選定企業集


投資先を決めるポイントは?「グローバルニッチトップ企業100選」に関する考察
グローバルニッチトップ100(2020年)上場企業43社抜粋

グローバルニッチトップ企業100選の成長性の検証

 2020年GNT企業の審査・選出に当たっては、評価項目として次の内容を特に重視したとされています。


  • 収益性:従業員当たり売上高、営業利益率
  • 戦略性:技術の独自性・唯一性・展開可能性、納入先企業数(国内・海外)、従業員増加人数
  • 競争優位性:サプライチェーン上の優位性、世界市場シェアとその将来予測、市場規模とその将来予測
  • 国際性:海外売上高比率、販売国数・海外との取引実績

 その結果として、選定企業は、世界シェア(平均)43.4%、営業利益率(平均)12.7%という、企業群となっています。また、5~10年後に予想されるGNT市場規模は、2.21倍(ヒアリングに基づく)の成長率となりました。


 こうしたGNT企業の利益成長は実際どのように推移したのでしょうか。検証していきたいと思います。


営業利益増加率

 GNT上場企業43社(赤字決算の1社は除外)について、2020年版の直前決算期(2020年6月期を含む2019年度)と5期後(2024年度)の営業利益の増減率を比較しました。


GNT上場企業の単純平均増加率:+95.5%
と、おおよそ2倍になっています。


 では、ほぼ同じ期間の上場企業全体の増加率はどうだったのでしょうか。日本取引所グループが公表しているデータに基づくと、以下のようになります。


全上場企業(内製造業)の営業利益:


  • 2019年度:21兆8,269億500万円
  • 2024年度:38兆1,661億400万円(増加率+74.9%)

 ただ、上場会社数の減少を考慮し、それぞれの上場企業数(製造業:2019年度1,421社、2024年度1,390社)で1社あたりを求めて増加率を計算すると+78.8%となります。


 すると一見、GNT上場企業の方が高いように見えます。しかし、全上場企業と同じように営業利益の合計値(2019年度:5,046億800万円、2024年度:8,527億円)で計算すると+69%となり、全上場企業(製造業)を下回ります。


株価上昇率

 次に、GNT上場43社の株価について、2020年6月30日と2025年10月31日を比較してみました。


 結果は+113.0%と、2倍以上の上昇率となっています。


 しかし、同期間の東証株価指数(TOPIX)の上昇率は+113.7%と、わずかながら上回っています。


株価上昇率上位企業と株価下落企業

 株価上昇率がTOPIXを上回った上昇率上位14社と、株価が絶対値で下落した9社を比較してみると、営業利益の増減率に明確な違いが見られました。


 株価上昇率上位14社においては


  • 単純平均の営業利益増加率:+255.3%
  • 営業利益の合計値:+160.9%

と、全上場企業(製造業)を大きく上回っています。


 一方で、株価下落企業においては


  • 単純平均の営業利益増加率:+11.9%

と増益にはなっていますが、以下の表を見ても分かる通り9社中5社において営業利益が減益となっています。


投資先を決めるポイントは?「グローバルニッチトップ企業100選」に関する考察
株価上昇 上位14社

投資先を決めるポイントは?「グローバルニッチトップ企業100選」に関する考察
株価下落 9社

 ここで次のような悩みが生じてくるでしょう。


「株価上昇率の高い企業群は、営業利益の増加率が高いことは分かった。でも、それは当たり前と言えば当たり前だ。そうした企業を結果論としてではなく、事前にピックアップすることは可能なのか。ピックアップをかなえるにはどうすればよいのか」


「高シェア」ではなく「企業規模」が重要

 試行錯誤を繰り返した結果として、以下の一つの突破口を提示します。


GNTにも規模が重要


 下表は43社を2019年度の営業利益額が大きい方から並べたものです。

一目では分かりにくいですが、上半分20社と下半分20社に分けると明確な違いがあります。


 それは、株価パフォーマンスにおいて、営業利益額の大きい方から20社の単純平均が+171.2%、小さい方から20社の単純平均は65.5%という明確な差です。


 ではなぜ、規模による優位性が生じるのでしょうか。


投資先を決めるポイントは?「グローバルニッチトップ企業100選」に関する考察
営業利益額から見た株価パフォーマンス

 一つは、冒頭に述べたGNT企業の選定要件にあると考えます。


 上表の右側に大企業・中堅企業・中小企業の区分を表示しました(2020年時点の経済産業省の基準によるもの)。


 大企業には市場規模(100億~1,000億円)と、世界シェア20%以上という高い条件が課せられているのに対し、中堅・中小企業には世界シェア10%以上という条件にとどまっています。


 参考までに、株価パフォーマンスはそれぞれ大企業+157.4%、中堅企業+52.7%、中小企業+36.6%となっています。


 大企業は選定条件が厳しい分、GNTとして選定された事業内容に成長性・堅牢性が高いとみることもできそうです。


 もう一つは、規模が小さいGNT企業においては、市場規模が小さいことによって競合者が積極的に参入していない可能性が考えられます。(あくまでも仮説です)


 市場拡大に伴って競争が激化し、その結果としてシェアを失うか、シェアは維持できても利益を損なうことも考えられます。また、GNTが維持されていても対象市場の成長が限定的であり、利益成長があまり見込めないという可能性も考えられます。


 私たちは投資対象企業を選ぶ際、「高いシェアをもつ企業」という切り口に強い魅力を感じることが多いです。

しかし、安易に「高シェア」をうのみにせず、その事業内容や技術分野はもちろん、業界構造やサプライチェーン、社内体制まで広範に検討することが必要であると考えます。


 その際に規模(企業および対象市場)を強く意識する必要がある、というのが今回の発見でした。


 蛇足ですが、営業利益額の単純平均増加率では、大企業+107.1%、中堅企業+86.2%と株価パフォーマンスほどの大きな差は出ていません。これは近年、東証プライム指数がスタンダード指数やグロース指数を大きく上回っているように、株式市場の状況が反映されている可能性もあると考えます。


 いずれにしても、2020年度版GNT企業の分析からは、「企業発掘においては企業規模を重視すべきである」ということが見て取れました。


(藤根 靖晃)

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