いよいよ2026年が近づいてきていますが、家計の健康診断はしていますか? 体の健康診断のように、家計の収支や資産について定期的にチェックしていくと、漠然としたお金についての不安が軽減され、見通しが立てられるようになります。今回は、お金の棚卸しと将来見通しを立てるためのライフプランシミュレーションについてご説明します。


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今後のライフイベントをイメージしながらライフプランの作成を

 将来のお金について、なんとなく不安を感じている人も多いのではないかと思います。今後どのくらいお金が必要になるかは人それぞれ。どのくらいのお金が必要になるかを知るためには、今後のライフイベントを想像しながらライフプランを作成することが大切です。


 今回は定年退職を目前に控えた50代の会社員夫婦(夫58歳、妻55歳)のリタイアメントプランニングという前提で、具体的なライフプランシミュレーションを行いながらご説明していきます。


 まずは今後10年程度の比較的近い将来について考えます。どのように過ごしていきたいか、例えば次のような形で書き出してみることから始めてみましょう。


  • 夫は60歳で定年を迎え、その後も再雇用で65歳まで働き続ける
  • 夫は定年退職時に退職一時金1,000万円程度を受け取る見込み
  • 夫の公的年金は65歳から年間180万円、妻の公的年金は65歳から85万円の見込み
  • 子どもはすでに独立しており、結婚する時にはお祝いとして資金支援する可能性あり
  • 住宅ローンは夫63歳時に完済予定
  • マイホームは築20年以上経過しており、定期的な修繕・リフォーム費用が発生する見込み
  • 余裕があれば、定年退職後は夫婦での旅行の回数を増やしていきたい

 働き方、住居、子どもにかかるお金、趣味、その他と、まずは思いつくままにざっくりと次のように書き出して整理してみるとよいでしょう。


50代の会社員夫婦のライフイベント表の例


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50代の会社員夫婦のライフイベント表の例

 とにかく一度ライフイベントを書き出して、整理してみることが大切です。後に変更が生じたらその都度、見直していくようにします。


1.今後の収入と支出の見通しを立てる

 大まかなライフプランができたら、それをお金の面から整理、確認していきます。これは一般的にライフプランシミュレーションもしくはキャッシュフロー表と呼ばれるもので、次のように1年ごとの収入と支出を書き出していきます。数字は全て年額で、万円単位で記入すれば十分です。


 最初から正確に予測することはできないと思いますので、まずは大まかな見通しを記入していきましょう。


ライフプランシミュレーション(キャッシュフロー表)


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ライフプランシミュレーション(キャッシュフロー表)

 以下、実際の作成手順をご説明していきます。


2.家族の年齢と手取り収入の見通し

 最上段は1年ごとの年を記入し、その下に家族構成と家族の年齢を記入していきます。一般的には12月31日時点での年齢を記載していきますが、厳密なルールはありませんので、ご自身が分かるように記入していけばよいでしょう。


家族の年齢と手取り収入


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家族の年齢と手取り収入

 緑色の部分が家族全員の手取り収入です。収入から社会保険料、所得税・住民税を差し引いた手取り収入を記入していきます。今回の例では本人の給与収入、退職金(60歳)、公的年金収入(年額180万円)、個人年金収入(年額60万円)を記入しています。将来的には配偶者の公的年金収入も65歳以降に発生しますが、今回の範囲には含まれません。


3.支出の見通し

 次に支出を記入していきます。支出は大まかに基本生活費、特別生活費、住居費、保険料、教育費、一時支出といった形で分類すると整理しやすいと思います。


今後の支出の推移


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今後の支出の推移

 基本生活費は食費、水道光熱費、日用品、被服費、交際費などですが、家計簿をつけていないと正確な数字は分からないかもしれません。まずは概算金額でいいので記入してみましょう。


 特別生活費は、毎月発生するわけではないものの、毎年どこかで発生する生活費です。実家への帰省、旅行、家族の記念日、家具・家電の買い替えなど、大まかな目安を記入しておけばよいでしょう。


 住居費は賃貸の場合は家賃および更新料、持ち家の場合は住宅ローン返済額と固定資産税・都市計画税、そしてマンションの場合は管理費・修繕積立金の金額を記入していきます。


 保険料は、生命保険料、火災保険料、自動車保険料など支払っている保険料を確認して記入します。


 お子さまの教育費が残っている場合は記入していきますが、今回の例ではすでに独立しているため、教育費はゼロとなっています。


4.収支から今後の金融資産残高の見通しを確認

 収入と支出の見通しが分かれば、収入から支出を引いて年間収支(黒字か、赤字か)を計算します。さらに、現在の金融資産残高に年間収支を足し引きしていくことで、今後の金融資産残高が増えていくのか、減っていくのか、見通しを確認していくことが可能になります(金融資産の運用利回りやマイホーム、住宅ローンの残高なども考慮して家計版バランスシートとして作成するのが理想的ですが、本記事では割愛します)。


年間収支と金融資産残高の推移


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年間収支と金融資産残高の推移

 金融資産が今後増えていく見通しであればひとまず安心できるでしょうし、どんどん減っていくということであれば心穏やかでないかもしれません。もちろん年代やライフプランによって、結果は大きく異なってくると思いますが、まずはこのようにして今後の見通しを確認しておくことが大切です。


将来見通しを確認してファイナンシャル・ウェルビーイングを実現しよう

 このように将来のお金の見通しが確認できると、少し安心できるのではないかと思います。もちろん、今後お金がどんどん減っていくという見通しになってしまった場合は、ご不安に感じられるかもしれません。


 しかし、具体的に見える化することで、収入の見込みが保守的過ぎるのか、支出が多すぎるのか、インフレ(物価上昇)などを保守的に見積もり過ぎているのかなど、具体的に確認していくことが可能になります。具体的になれば、どこを改善していけばよいのか、具体的な行動として改善案を検討していけますので、お金の面での不安が軽減されるのではないでしょうか。


 お金の面で不安が少なく、良好な状態は「ファイナンシャル・ウェルビーイング※」と言われています。


※ファイナンシャル・ウェルビーイング:「当面の支払いを着実に行うことができ、将来のお金について安心しており、人生を楽しむためにお金の面で幅広い選択ができる状態」(米国消費者金融保護局)


 ファイナンシャル・ウェルビーイングを実現していくことは、お金持ちになるということではなく、足るを知り、等身大のライフプランやファイナンシャルプランを作成しながら、お金と上手に付き合っていくことだと考えています。


 ファイナンシャル・ウェルビーイングを実現していくために、「現在」と「将来」、「安心感」と「選択の自由度」という、次のように整理して対応していくという考え方があります。


年に一度は「家計の健康診断」!お金の棚卸しとライフプランシミュレーションを!
出所:横田健一著「増やしながらしっかり使う 60歳からの賢い『お金の回し方』」(KADOKAWA)より、[Financial well-being: The goal of financial education](Consumer Financial Protection Bureau /消費者金融保護局, January 2015)を基に、筆者訳。赤字は筆者追記

 今回のライフプランシミュレーションは、下段の「3.選択肢」「4.将来見通し」の部分に直結すると考えています。

今後の人生を考えながら、どのくらいのペースでお金を使っていくことができるのか確認していく作業になります。


 現在の生活でお金を使い過ぎると将来的にお金が足りなくなってしまう可能性がありますし、一方で、節約しすぎると人生の最期でたくさんのお金を残してしまい、もっと使っておけばよかったと後悔する可能性もあります。


 ライフプランシミュレーションは、今と将来でどのようなバランスでお金を使っていけばよいのか、将来見通しを立てるために非常に有用なツールです。


 まずは本記事でご紹介したように紙と鉛筆で計算してみるところから始め、さらに本格的に作成してみたい場合は、Excelやライフプランシミュレーションツールなどを使ってみるとよいでしょう。また、ご自身では難しい場合は専門家に依頼する選択肢もあります。


 まずは一度やってみていただき、その後は、体の健康診断のように、できれば年に1回など、定期的に家計の健康診断として継続的に行っていくのがおすすめです。ぜひやっていただければと思います。


【関連リンク】
著者・横田健一が監修した「 ファイナンシャル・ウェルビーイング検定 」が始まりました!


2025年4月30日発売「 増やしながらしっかり使う 60歳からの賢い『お金の回し方』 」


10刷!続々重版「 新しいNISA かんたん最強のお金づくり 」


(横田 健一)

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