中国の景気が減速する中、一年に一度の重要経済会議「中央経済工作会議」が開催されました。内需拡大、人工知能、科学技術、柔軟な就業形態、不動産市場などのキーワードが示されました。

2026年の中国経済はどこへ向かうのか。三つの見通しを含め解説します。


景気減速の中で迎えた中央経済工作会議、2026年の中国経済は...の画像はこちら >>

11月、「迷走」続く中国経済の現在地

 2025年も残すところ半月を切りました。この一年を振り返り、来たる一年に向けて予測や見通しを語る季節に入ってきているといえるでしょう。


 中国経済については、今年も、上海出張報告、香港出張報告、北京出張報告などを通じて、不動産不況、デフレ、そして習近平氏も警戒する「内巻式競争」(価格などを巡る過当競争が原因で、経済全体が消極的に疲弊していく現象)といった構造的問題を巡る現場を共有してきました。


 統計と実態を統合させながら中国経済を見てきた私の実感として、今年を通じて景気は「迷走」してきたといえます。直近の動向はどうなのか。中国国家統計局が発表した11月(1~11月)の主要統計結果を見てみましょう。以下に整理しました。


  11月 10月 1~9月 工業生産 4.80% 4.90% 6.20% 小売売上 1.30% 2.90% 4.50% 固定資産投資 ▲2.6%
(1~11月) ▲1.7%
(1~10月) ▲0.5% 不動産開発投資 ▲15.9%
(1~11月) ▲14.7%
(1~10月) ▲13.9% 不動産を除いた
固定資産投資 0.8%
(1~11月) 1.7%
(1~10月) 3.00% 貿易
(輸出/輸入) 4.1%
(5.7%/1.7%) 0.1%
(▲0.8%/1.4%) 4.0%
(7.1%/▲0.2%) 失業率
(調査ベース、
農村部除く) 5.10% 5.10% 5.20% 若年層失業率
(16~24歳、
在校生除く)   17.30% 17.60% 消費者物価指数
(CPI) 0.70% 0.20% ▲0.1% 生産者物価指数
(PPI) ▲2.2% ▲2.1% ▲2.8% 出所:中国国家統計局の発表を基に筆者作成。▲はマイナス。数字は前年同期比

 工業生産、小売売上、固定資産投資、不動産開発投資など、主要指標の伸び率が軒並み鈍化している現状が明確に見て取れます。特に、消費の落ち込みは顕著であり、投資も引き続きマイナス成長が続いています。

不動産不況が引き続き景気全体の足かせとなっている構造に変化は見られません。


 貿易に関しては、追加関税やレアアースなどを巡る「米中対立」がいったん緩和していることに加え、米国以外との貿易が伸びていることが功を奏し改善しています。消費者物価指数(CPI)も11月は前年同月比0.7%増となり、2カ月連続でプラスとなっています。ただ、生産者物価指数(PPI)は依然マイナスが続いており、中国経済は引き続き「迷走」の様相を呈しているといえます。


 これらの統計結果を発表した国家統計局も12月15日、「外部環境が不安定、不確実要素が多く、国内の有効な需要も不足している。経済運営は少なくない課題に直面している」と危機感をあらわにしています。


一年に一度の「中央経済工作会議」が北京で開催

 先週のレポートでも扱ったように、師走はその年の経済情勢を検証し、来る年の経済政策を審議する月です。


2025年12月11日: 習近平氏が2026年の経済政策を審議。「日中対立」の影響は?


 そして予告したように、12月10~11日、北京で一年に一度の「中央経済工作会議」が開催され、習近平総書記が重要談話を発表した上で、李強(リー・チャン)首相が会議を総括し、来年の経済政策に向けて指針を示しました。


 以下、私から見て、共産党指導部の経済情勢に対する現状認識と今後の戦略、政策、対応として重要だと思われる内容、および項目を列記したいと思います。


 まずは、党指導部の経済情勢・政策に対する基本的認識を示していると思われる箇所です。


「経済の潜在力を十分に掘り起こす必要がある。政策支援と改革・イノベーションを並行して推進し、規制緩和と効率的管理を両立させ、モノへの投資とヒトへの投資を緊密に結合させること。

内部の基盤強化によって外部からの挑戦に対応しなければならない」


「わが国の経済発展には依然多くの古い問題と新たな課題が存在し、外部環境の変化の影響が深まり、国内では供給過剰と需要不足の矛盾が顕著である…これらは主に発展や転換の過程で直面する問題であり、努力によって解決可能なものである」


 規制緩和と効率的管理の両立、モノへの投資とヒトへの投資を緊密に結合、といった文言は重要で、経済を持続的、健全に成長させていく上で必要だと考えているのでしょう。


 経済を成長させるために、政府はどこまで市場の動きに介入すべきなのか、という命題は、1億人以上の党員を抱え、世界最大の政党である中国共産党にとってもクリティカルに重要だということでしょう。モノとヒトへの投資、これが今後どう展開されていくのかを注視していきたいと思います。


 次に、来年以降の経済政策で党指導部として重視していくという意思表示がなされた項目や記述を見ていきます。


  • これまで以上に積極的な財政政策を引き続き実施し、必要な財政赤字を保持すること
  • 適度に緩和的な金融政策を引き続き実施することで、経済の安定的成長を促進し、物価の合理的回復を金融政策の効果を図る上での重要な指標とすること
  • 利下げなど複数の政策ツールを柔軟かつ効果的に運用すること
  • 金融機関による内需拡大、科学技術イノベーション、中小・零細企業への支援を強化
  • 人民元の為替レートを合理的、均衡的な水準で基本的に安定させること
  • マクロ政策を巡る方向性の一致性と有効性を強化すること
  • 内需主導を堅持し、強大な国内市場を建設
  • サービス消費の潜在力を放出し、投資の低迷を抑え込み、回復させること
  • 教育と科学技術を一体的に推進する案を制定し、北京地域、上海地域、広東・香港・マカオ大湾区(グレーターベイエリア)で国際科学技術イノベーションセンターを設立する
  • 「人工知能+」の拡充を深化させ、人工知能ガバナンスを充実させる
  • 中小金融機構の数を減らし、質を上げる
  • 資本市場における投融資の総合的改革を持続的に深化させる
  • 海南島の自由貿易港建設を着実に推し進める
  • 大学卒業生、農民工といった重点群衆の雇用を安定させ、人民の柔軟な就業を支援する
  • 不動産市場を何とか安定させ、各地域、各状況に合わせた施策を講じる。空き家を減らし、供給を最適化する。秩序だって「良い住宅」の建設を進める

 ご覧の通り、分野は多岐にわたっています。これらを私なりに重点を意識しながら要約すると、次のようになります。


  • 財政、金融を含めたマクロ政策で経済成長を促す。内需拡大と投資回復を重視
  • 科学技術、イノベーションを促す。地域的には、北京、上海、広東・香港、海南島が肝
  • 人工知能は国家戦略の「一丁目一番地」
  • 株式・債券を含めた資本市場の拡充を経済成長につなげたい考え
  • 就業・雇用に関しては、とにかくできることは全てやり、治安の悪化を未然に防止
  • 不動産市場は回復させつつも、依存度を減らし、需給関係を最適化する

2026年中国経済巡る三つの見通し。習近平氏が強調する「内需拡大」戦略

 今回の中央経済工作会議を受けて、2026年の中国経済はどこに向かうのか。

三つの視点から、見通しを述べていきたいと思います。


 一つ目に、2026年の経済政策は引き続き「安全運転」「安定第一」を軸に展開されると思います。物価、雇用、成長率、失業率、人民元為替レート、対米関税交渉…などを含め、とにかく「安定感」を重視することで、国内外の市場関係者に対して、中国経済に問題はあるけれども、安定的に推移しているという「安心感」を持ってもらうべく奔走するでしょう。


 二つ目に、「内需拡大」がキーワードになるという点です。経済会議終了後、『求是』という権威ある党機関紙が、「内需を拡大することが戦略的措置になる」といった内容を含む習近平氏の発言集を掲載しました。それに伴い、国家発展改革委員会など経済、産業、マクロ政策を担う重要機関も内需拡大戦略に関する論考を発表したりしています。


 実際、今回の会議でも、内需主導による経済成長は最初に列記されており、2026年の経済政策においても最優先事項の一つになるのは必至です。裏を返せば、直近の統計結果にも反映されるように、それだけ消費を含めた内需が落ち込んでいるということでもあります。


 三つ目が、地政学情勢が経済情勢に及ぼし得る影響です。今年1月、第2次トランプ政権が発足して以来、「トランプ関税」の発動に翻弄(ほんろう)されつつも、米中は何とか対話を続け、交渉が破綻する局面はその都度防いできたといえます。


 来年4月にトランプ大統領が訪中する可能性が取り沙汰されていますが、米中関係がどう推移していくのか。また、「台湾有事」を巡る情勢がどう展開するのか次第でも、中国経済に切実なインパクト(プラスかマイナスかはさておき)が生じる可能性があるので、注目していく必要があるでしょう。


(加藤 嘉一)

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