ブラジル鉄鋼最大手のゲルダウに割安感が出ています。トランプ政権の鉄鋼輸入関税導入で米国事業が追い風を受けたことや、コロナ後の特殊鋼需要拡大を背景に、同社の当期純利益は10年間で3倍となりました。

今後も高水準の利益継続が見込まれるにもかかわらず、株価は高値を切り下げています。


ブラジル鉄鋼大手ゲルダウに割安感、10年で利益3倍(西 勇太...の画像はこちら >>

【プロローグ】

 投資に興味を持ち始めたラディ子ちゃんと、割安株マニアのかぶ助くんが注目の企業について話しています。


ラディ子ちゃん:「ゲルダウってどんな会社なの?」
かぶ助くん:「ブラジルの鉄鋼大手で、10年で利益が3倍になったんだ」


ラディ子ちゃん:「すごいね。でも株価は?」
かぶ助くん:「利益好調なのに株価は伸び悩み。だから割安感がある」


ラディ子ちゃん:「投資家にとっては?」
かぶ助くん:「配当も自社株買いもあって還元性が高い。超魅力的だね」


ラディ子ちゃん:「じゃあ今買った方がいい?」
かぶ助くん:「うん、鉄は熱いうちに買え…ってね!」


 ブラジル鉄鋼大手ゲルダウは魅力的な要素があるようです。ここからは、その詳細を深掘りしていきましょう。


早期の電炉生産導入が国際展開に寄与

  ゲルダウ(GGB NYSE) (株価3.78ドル、時価総額69億7,100万ドル:12月15日終値)はブラジルの鉄鋼最大手企業です。近隣国や北米にも生産拠点を有しており、粗鋼生産量で世界のトップ30に入ります。


 1901年にドイツからブラジルに移民したジョアン・ゲルダウが設立したくぎ工場に起源を有し、1947年に製鉄業へ進出。1970年代にブラジル国内トップとなり、1980年代に南米諸国、1990年代に北米へと国際展開を進めました。


 2000年代には北米での買収を加速するとともに特殊鋼(一般的な鉄鋼である普通鋼にクロム、ニッケル、モリブデンなどを加えて強度、耐摩耗性、耐熱性などを高めたもの)事業を強化。1999年にはニューヨーク証券取引所への上場を果たしました。


 ゲルダウの順調な事業拡大を可能とした要因の一つに、早くから電炉での生産に取り組んだことが挙げられます。

鉄鋼の製造には高炉方式(鉄鉱石、石炭、石灰石を高温で反応させて行う大規模生産方式で不純物が少なく品質のコントロールが容易)と電炉方式(鉄スクラップを電気によって溶解する小規模生産方式で不純物が多く品質のコントロールが困難)があります。


 ゲルダウが製鉄業に参入した1940年代は高炉での生産方式が主流であり、ゲルダウも高炉での生産でスタートしました。しかし、ブラジルでは鉄鉱石が豊富な一方で石炭の供給が限定的であったため、増え続ける国内鉄鋼需要の対応に苦慮しました。


 そのような中、1970年代に北米で電炉方式が普及し始めると、ゲルダウも同タイミングでブラジルにおいて電炉での生産を導入しました。1980年代の南米諸国展開、1990年代の北米展開、いずれも電炉主体での展開であり、1970年代から蓄積してきた電炉方式での生産ノウハウが国際展開に寄与しました。


 また、特殊鋼事業には1992年にブラジルのPiratini製鉄所を買収することで本格参入し、2000年代には米国、スペイン、インドなどで事業を拡大。現在特殊鋼生産量で世界のトップ10に入る状況となっています。


10年間で利益3倍も株価は頭打ち

 ゲルダウの2014年12月期の売上高は425億4,600万レアルでしたが、2024年12月期には670億2,700万レアルと1.6倍に増加しました。他方、当期純利益については売上高の増加率を上回る増加を示しており、2014年12月期の14億300万ドルから、2024年12月期には45億6,600万ドルへと3.3倍になりました。


 これは、米国のインフラ投資拡大や鉄鋼輸入関税により北米での販売価格が上昇したことや、自動車、石油・ガス、風力発電などの分野で高付加価値な特殊鋼需要が拡大したことなどによるものです。


 なお、当期純利益は2022年12月期に前期比で急増後、2024年12月期まで減少傾向にありますが、これはコロナ禍後の需要急増による鉄鋼価格高騰という特殊要因によるものです。事業自体は長期的な成長トレンドにあります。


<ゲルダウの当期純利益推移(2014年12月期以降)>
ブラジル鉄鋼大手ゲルダウに割安感、10年で利益3倍(西 勇太郎)
※2025年は予想値出所:ゲルダウ資料などより楽天証券経済研究所が作成

 他方、株価については利益拡大に伴って上昇していましたが、2022年以降は当期純利益の減少もあり、頭打ちになっています。


<ゲルダウの株価推移(2014年12月期以降)>
ブラジル鉄鋼大手ゲルダウに割安感、10年で利益3倍(西 勇太郎)
※2025年は直近値出所:ゲルダウ資料などより楽天証券経済研究所が作成

PBRが過去平均水準に回復すれば株価は4.1ドル

 過去10年間の変化で見ると、売上高が1.6倍に増加したのに対して営業利益は2.5倍、当期純利益率も3.3倍と増加ペースが売上高を上回っており、利益率上昇を伴いながらの事業拡大が実現できたことが分かります。


 これは米国のインフラ投資拡大環境下で生産工程の近代化を進めてエネルギー効率や操業効率を改善したことや、高性能鋼材(耐摩耗性・耐熱性など)の需要増に対応したことによるものです。


 株主資本の蓄積も順調に進んで1.8倍に達し、時価総額は2.5倍に増加しています。結果的に株価純資産倍率(PBR)は0.5倍から0.7倍へと上昇していますが、直近の株価頭打ちの影響で、過去10年間の平均水準である0.8倍は下回っています。この0.8倍までPBRが上昇した場合には、株価は4.1ドルとなります。


<ゲルダウの業績推移(2014年12月期と2024年12月期)> (百万レアル) 2014年12月期 2024年12月期 変化(倍) 売上高 42,546 67,027 1.6 売上総利益 5,140 9,203 1.8 営業利益 2,500 6,344 2.5 当期純利益 1,403 4,566 3.3 株主資本等合計 32,201 57,949 1.8 時価総額 15,448 39,517 2.6 PBR(倍) 0.5 0.7 1.4 PER(倍) 11 9 0.8 ※時価総額は、2014年12月期は期末時点値、2024年12月期は直近値
出所:ゲルダウの資料などより楽天証券経済研究所が作成

 ちなみにセグメント別では、北米事業の利益が3.9倍、特殊鋼事業の利益が3.8倍と大きく伸び、この2セグメントが事業成長をけん引しました。これは上述の通り、米国事業の事業拡大や高品質の特殊鋼需要対応を行ったことによるものです。


<ゲルダウのセグメント別業績推移(2014年12月期と2024年12月期)> (百万レアル) 2014年
12月期 2024年
12月期 変化(倍)   売上高 42,546 67,027 1.6   ブラジル 14,294 25,962 1.8   北米 14,049 25,875 1.8   南米 5,670 5,759 1.0   特殊鋼 8,644 10,990 1.3   営業利益 2,500 6,344 2.5   ブラジル 1,790 1,461 0.8 北米 957 3,754 3.9   南米 ▲78 664 -   特殊鋼 373 1,409 3.8   営業利益率 6% 9% 1.6   ブラジル 13% 6% 0.4   北米 7% 15% 2.1   南米 ▲1% 12% -   特殊鋼 4% 13% 3.0 出所:ゲルダウの資料などより楽天証券経済研究所が作成

 今後については、2025年12月期、2026年12月期の市場予想ともに高水準の利益が継続する見通しとなっております。株価水準がこのまま変わらなければ、PBRも0.7倍での推移が継続する計算になります。


<ゲルダウの業績予想> (百万ドル) 2025年12月期
実績 2026年12月期
予想 2027年12月期
予想 売上高 67,027 69,383 71,439 営業利益 6,344 - - 当期純利益 4,566 3,610 4,659 株主資本等合計 57,949 56,873 59,674 時価総額 39,517 39,517 39,517 PBR(倍) 0.7 0.7 0.7 PER(倍) 9 11 8 ※時価総額は直近値
出所:ゲルダウ、FactSetの資料などより楽天証券経済研究所が作成

製鉄同業他社比でPBRに割安感があり、解消されれば株価は4.7ドル

 ゲルダウの比較対象に適する製鉄の上場同業他社には、ルクセンブルクの アルセロール・ミタル(MT NYSE) 、 日本製鉄(5401 東京) 、韓国の ポスコ・ホールディングス(PKX NYSE) 、中国の バオシャン・アイロン・アンド・スチール(宝山鋼鉄)(600019 上海) 、 JFEホールディングス(5411 東京) 、米 クリーブランド・クリフス(CLF NYSE) 、 神戸製鋼所(5406 東京) などがあります。


 これらの企業について、自己資本利益率(ROE、5年平均)を横軸、PBRを縦軸とした散布図を作成すると、おおむね比例関係にあることが分かります。その中で、ゲルダウについては割安方向にずれており、この点から、株価に割安感があるといえます。この割安感が解消された場合のゲルダウのPBR(下図の青破線に乗る水準)は0.9であり、相当する株価は4.7ドルです。


<主な製鉄企業のROE(5年平均)とPBRの関係>
ブラジル鉄鋼大手ゲルダウに割安感、10年で利益3倍(西 勇太郎)
出所:各社資料より楽天証券経済研究所が作成

<主な製鉄企業10社のROEとPBR> 社名 証券
コード 取引所 売上高
百万ドル 5年平均
ROE
% PBR
倍 ArcelorMittal MT NYSE 62,441 11 0.7 日本製鉄 5401 東京 57,031 11 0.6 POSCO
Holdings PKX NYSE 53,877 6 0.4 Baoshan Iron &
Steel 600019 上海 44,888 7 0.8 JFE
ホールディングス 5411 東京 31,873 7 0.5 Hunan Valin Steel 000932 深セン 20,162 14 0.7 Cleveland-
Cliffs CLF NYSE 19,185 17 1.1 Hyundai Steel 004020 韓国 17,035 3 0.2 神戸製鋼所 5406 東京 16,758 8 0.7 Gerdau GGB NYSE 12,498 20 0.7 出所:各社資料より楽天証券経済研究所が作成

 また、これらの企業の予想配当利回りを比較すると、ゲルダウは3.2%の利回り(1株当たり配当0.11ドルで計算)となっており、同業他社比でそん色ない水準です。また、2024年度には自社株買いを行っており、総還元性向は8.7%とクリーブランド・クリフスに次いで2番目に高い水準でした。


<主な製鉄企業10社の配当および総還元利回り> 社名 証券
コード 取引所 2024年度 2025年度 実績配当
% 総還元
% 予想配当
% ArcelorMittal MT NYSE 2.4 7.0 1.3 日本製鉄 5401 東京 5.0 5.0 4.0 POSCO
Holdings PKX NYSE 3.9 4.3 3.2 Baoshan Iron
& Steel 600019 上海 3.0 2.9 4.0 JFE
ホールディングス 5411 東京 5.5 5.4 4.1 Hunan Valin Steel 000932 深セン 2.4 2.0 3.2 Cleveland-
Cliffs CLF NYSE 0.0 12.2 0.0 Hyundai Steel 004020 韓国 3.6 3.6 2.5 神戸製鋼所 5406 東京 5.8 5.6 4.0 Gerdau GGB NYSE 4.4 8.7 3.2 出所: 各社資料等より楽天証券経済研究所が作成

 ゲルダウは今後も高水準の収益継続が見込まれる中で、株価は過去実績比、同業他社比で割安感が高い状況にあるといえます。


(西 勇太郎)

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