プラチナ相場にとって、2025年は大きな転換点となりました。同じ貴金属の金(ゴールド)相場が歴史的高値を更新し、急減するといわれた自動車向けのプラチナ需要の回復期待が高まったことで、安値水準から急反発しました。

2026年もこの傾向が続くと、筆者は予測します。


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2026年のプラチナ相場も強気継続か

 筆者は、2026年のプラチナ相場は上昇すると考えています。全般的には、2025年のような強い状況を基調とし、しばしば反落・調整をこなしながら上値を切り上げ、歴史的高値を更新する展開になるでしょう。


図:ドル建てプラチナ、金(ゴールド)価格推移(月間平均) 単位:ドル/トロイオンス
【予測】2026年のプラチナ相場は歴史的高値を更新する
出所:世界銀行のデータより筆者作成

 足元のプラチナ価格は、同じ貴金属のグループのリーダー的存在である金(ゴールド)のおよそ半値です。2025年は、歴史的高値を更新し続けた金(ゴールド)に対する割安感も相成り、プラチナ相場も大きく上昇しました。


 以下の図は、ドル建てプラチナ相場に関わる七つのテーマです。時間軸は、短中期、中長期、超長期、そして時間の長さを問わない通期の四つです。


 同じ貴金属のグループのリーダー的存在である金(ゴールド)の価格が上昇すると、プラチナの価格もつられて上昇することがあります(1)。また、全需要の6割超を産業用(自動車向けを含む)の用途が占めることもあり、主要国の景気回復局面や景気回復要因になり得る米国の利下げ観測が大きくなった場合に、短中期視点での上昇を演じることがあります(2)(3)。


 また、全需要のおよそ4割を占める自動車排ガス浄化装置向け需要の動向を左右する事象に大きな変化がありました。フォルクスワーゲン問題発覚(2015年発覚、ディーゼル車否定→プラチナ需要減退→プラチナ相場低迷、というシナリオを強めるきっかけとなった出来事)後の需要回復が見通しやすくなったことが複数の統計で確認されました(4)。


 さらには、環境配慮を強く推進しているEU(欧州連合)が、2035年までに新車販売におけるエンジン車(ディーゼル車、ガソリン車)の台数をゼロにするという方針の撤回・修正案を提出しました。これにより、減少していた欧州地域における自動車向けプラチナ需要が増加する可能性が浮上しています(4)。


図:ドル建てプラチナに関わる七つのテーマ(2026年)
【予測】2026年のプラチナ相場は歴史的高値を更新する
出所:筆者作成

 供給面に目を向ければ、2010年ごろから、主要な鉱山生産国である南アフリカ共和国の生産量が減少していること(5)、主要な鉱山生産国の自由度・民主度の低下が目立ち、「資源の武器利用(この場合はプラチナの出し渋り)」が起きる可能性が高まっていること(6)も、長期視点で価格上昇を支える一因になっているといえます。


米国利下げとEU方針撤回の流れは追い風

 2026年に、先ほど述べた(1)金(ゴールド)相場の動向、(2)主要国の景気動向、(3)主要国の金融政策が、プラチナ相場にどのような影響を与えるかを考えます。


 米国の中央銀行に当たる米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策における議論の方向性が「利下げ」の状態が続けば、2025年と同様、(実際に利下げをしてもしなくても)以下の図式が目立つと考えられます。


図:FRB利下げ実施時に想定されるプラチナ市場を取り巻く環境
【予測】2026年のプラチナ相場は歴史的高値を更新する
出所:筆者作成

 かつて日本がそうだったように、金利水準が低いことは、お金の融通がしやすくなるという意味で、景気回復を促進する要因になり得ます。このため、人為的な金利の引き下げである「利下げ」は、景気回復のきっかけになり、ひいては当該国の株価指数を上昇させる要因になり得ます。


 米国利下げ(思惑含む)→米国株高という流れの延長線上に、全需要の6割超を産業用(自動車向けを含む)の用途が占めるプラチナの需要増加観測の高まり→プラチナ価格上昇、という流れが想定されます(2)(3)。


 同時に、米国利下げ(思惑含む)は、ドル安観測増幅→ドルと金(ゴールド)の対比で金(ゴールド)が優位になる思惑増幅→金(ゴールド)価格高という流れを強め、その延長線上に、貴金属という同じグループに属し、そのリーダー的存在の金(ゴールド)価格の上昇→同じグループのプラチナもつられて上昇、という図式が見えやすくなります(1)(3)。


 また、EU(欧州連合)の2035年までに新車販売におけるエンジン車(ディーゼル車、ガソリン車)の台数をゼロにするという方針の撤回・修正の動きは、減少していた欧州地域における自動車向けプラチナ需要が増加する可能性を大きくしています(4)。


図:EUの新方針案
【予測】2026年のプラチナ相場は歴史的高値を更新する
出所:各種資料を基に筆者作成

 EUは、今のところ「引き続き、ゼロエミッション(二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を実質ゼロにする)への移行は進めるが、現状では柔軟性が必要」と述べています。この柔軟性が今回の方針撤回・修正の動きの原動力になっています。


 修正案では、自動車メーカー(全体)としてEVなどを普及させ、二酸化炭素の排出量を90%削減し(もともとは100%だった)、残りの10%の枠内でエンジン車(ガソリン車・ディーゼル車)の販売が可能になるとしています。そして、その10%分の二酸化炭素を削減するため、低炭素鋼を用いたり、バイオ燃料や合成燃料を導入したりする方針です。


 こうした方針の撤回・修正の動きの背景には、ドイツやイタリアなどのEU域内の自動車産業の規模が大きい国からの要望があったこと(既存産業の再興)、EVの普及において中国が域内で台頭することに懸念が高まっていること(セキュリティリスク)、EVが寒冷地で不利であること、電池・部品などの供給に問題を抱えていることなどへの対応に時間とお金がかかることなどが挙げられます。


 想定される影響として、EUにおけるプラチナやパラジウムの自動車排ガス浄化装置向け需要が増加することが想定されます。この方針の撤回・修正は現時点で案であり、決定したわけではありませんが、決定と需要増加を先取りするかのように、案が公表された12月16日前後から、プラチナ相場は特に騰勢が強い状態が続いています。


自動車向け需要は長期視点で増加するか

 以下の図は、プラチナの自動車排ガス浄化装置向け需要の推移です。2015年9月にフォルクスワーゲン問題が発覚し、市場関係者の間で同需要が急減するとささやかれました。しかし実際、急減は起きず、2020年に新型コロナショックが発生するまで、緩やかな減少にとどまりました。


 欧州で同需要が緩やかに減少しました。問題発覚の舞台となった欧州で、問題発覚を機にディーゼル車向けのプラチナ需要が減少した可能性があること、そして2010年ごろからESG(環境、社会、企業統治)のE(環境)への配慮が進み、EVの普及が加速したことが挙げられます。


図:プラチナの自動車排ガス浄化装置向け需要の推移 単位:千オンス
【予測】2026年のプラチナ相場は歴史的高値を更新する
出所:Johnson Mattheyのデータを基に筆者作成

 全体としては、2020年以降、北米、中国、インドなどで需要が増加し、2024年は問題発覚時の水準を上回りました。これにより、フォルクスワーゲン問題がきっかけで「プラチナはダメだ」というシナリオが成り立たなくなったといえます。


 また、欧州においても、先述のとおり、エンジン車を容認する動きが見え始め、減少した欧州の同需要が増加に転じる可能性が出てきました。欧州で同需要が増加すれば、全体としてプラチナの需要が増加する可能性があります。


 さらには、EUの修正案で、自動車メーカー(全体)としてEVなどを普及させ、二酸化炭素の排出量を90%削減し、残りの10%の枠内でエンジン車(ガソリン車・ディーゼル車)の販売が可能になるとしていますが、販売されるエンジン車の排ガス浄化装置はできるだけ有害なガスを出さないように配慮される必要があります。


 以下のグラフのとおり、内燃機関を有する自動車1台当たりの排ガス浄化装置向け貴金属需要(筆者推計 世界合計)は、近年増加しています。

欧州で販売されるエンジン車は、こうした貴金属が多く使われる排ガス浄化装置を搭載する可能性があります。


図:内燃機関を有する自動車1台当たりの排ガス浄化装置向け貴金属需要(筆者推計 世界合計) 単位:グラム/台
【予測】2026年のプラチナ相場は歴史的高値を更新する
出所:Johnson Matthey、OICAのデータを基に筆者推計

 EUの方針撤回・修正は、内燃機関を有する自動車1台当たりの排ガス浄化装置向け貴金属需要を増加させる可能性もあります。量(台数)、質(1台当たり)の両面で、自動車排ガス浄化装置需要(4)は、大きく増加する見通しが立ちつつあります。


プラチナ鉱山生産量の減少傾向は継続へ

 プラチナの供給面に目を移します。中長期に分類した鉱山生産(5)と、超長期に分類した「資源武器利用」懸念(6)について確認します。


 以下は、プラチナの国別鉱山生産量(5年間の平均)の推移です。2010年ごろから、減少しています。最主要国である南アフリカ共和国の生産量が減少している影響が大きいです。


 同国の生産量減少の背景には、地下数千メートルまで掘り下げなければ良質な鉱石を獲得できなくなったことや、労働者の安全性を確保するための法整備が進んだり、鉱山の操業に必要な電力供給に支障が生じたりしていることが、挙げられます。


 この傾向が変わらなければ、鉱山生産(5)をきっかけとした、中長期視点のプラチナ相場への上昇圧力は継続すると考えられます。


図:プラチナの国別鉱山生産量(5年間の平均) 単位:千オンス
【予測】2026年のプラチナ相場は歴史的高値を更新する
出所:Johnson Mattheyのデータを基に筆者作成

 超長期に分類した「資源武器利用」懸念(6)について確認します。以下は、プラチナの主要鉱山生産国の自由民主主義指数の推移です。


図:プラチナの主要鉱山生産国の自由民主主義指数
【予測】2026年のプラチナ相場は歴史的高値を更新する
出所:V-Dem研究所およびJohnson Mattheyのデータを基に筆者作成

 以前のレポート「【必見】2026年のコモディティ相場を見通すための大前提」で述べたとおり、2010年ごろから、世界の民主主義は後退しています。


▼以前のレポート

【必見】2026年のコモディティ相場を見通すための大前提


 そしてそれにより、世界の分断が深化し、資源を持つ非西側諸国において、自国の資源供給の安定、西側諸国への影響力の安定、国際価格の安定(≒高止まり)の三つを一度に獲得するべく「資源の武器利用」を行う動機が強くなってきています。


 非西側の産油国の集団であるOPECプラス※の原油の減産も、中国のレアアースの輸出制限検討も、武器利用の側面があります。また、ウクライナ戦争の勃発後、西側諸国の多くがESGのS(社会)の観点から、戦争を勃発させたロシアからエネルギーや農産物、金属などの購入を控えるようになりました。この点もまた、資源の武器利用の意味が含まれています。


※OPECプラスとは、石油輸出国機構(OPEC)に加盟する12カ国、そしてロシアやカザフスタンなどの非加盟の11カ国、合計23カ国の産油国のグループの俗称です。原油の生産シェアはおよそ59%です(2025年10月時点)


 上のグラフが示すとおり、プラチナの主要な鉱山生産国の自由民主主義指数は、世界全体の流れに乗じるように、2010年ごろ以降、低下傾向にあります。このことは、プラチナも「武器利用」の対象になり得ることを示唆しています。


 今後、プラチナの主要な鉱山生産国の自由民主主義指数の低下が目立てば、「資源武器利用」懸念(6)をきっかけとした、超長期視点のプラチナ相場への上昇圧力は継続すると考えられます。


 2026年も、プラチナ相場には、短中期、中長期、超長期、それぞれのテーマをきっかけとした上昇圧力が提供される可能性があります。そして通期で、同じ貴金属のグループのリーダー格である金(ゴールド)の相場が、プラチナ相場をけん引する可能性があります。


 しばしば反落・調整をこなしながら、上値を切り上げ、歴史的高値を更新する展開になると、考えています。2026年も、プラチナ相場の動向に注目していきたいです。


[参考] 貴金属関連の具体的な投資商品例

長期:


純金積立(当社ではクレジットカード決済で購入可能)

純金積立・スポット購入


投資信託(当社ではクレジットカード決済、楽天ポイントで購入可能。以下はNISA成長投資枠対応)

三菱UFJ 純金ファンド
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ゴールド・ファンド(為替ヘッジあり)


中期:


関連ETF(NISA対応)

SPDRゴールド・シェア(1326)
NF金価格連動型上場投資信託(1328)
純金上場信託(金の果実)(1540)
NN金先物ダブルブルETN(2036)
NN金先物ベアETN(2037)
GXゴールド(425A)
SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)
ヴァンエック・金鉱株ETF(GDX)


短期:


商品先物

国内商品先物
海外商品先物


CFD

金(ゴールド)、プラチナ、銀、パラジウム


(吉田 哲)

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