「円安が深刻で海外旅行に行けない…」そう考えている人は多いでしょう。特に欧米への旅行のハードルは非常に高くなっています。
欧州から消えた日本人観光客
ここ数年、欧州では、かつてどこにでもいた日本人旅行者の集団をまったくといっていいほど見かけなくなった。
一番の原因は弱くなった円だろう。ほんの10数年前、1ドル=70円台だったのが、4年ほど前から坂道を転げ落ちるように下落し、今や1ドル=156円と、価値が半減してしまった。
黒木亮(くろき・りょう)
そのため新型コロナ禍前の10年間(2010~2019年)、年平均で約1,767万人いた日本人の海外旅行者数は、2024年には1,301万人、2025年1~10月は1,210万人(年換算1,452万人)まで減った。
しかも行き先(2024年)が、(1)韓国(約320万人)、(2)アメリカ(約252万人)、(3)台湾(110万人)、(4)タイ(約105万人)、(5)ベトナム(約71万人)と、上位5カ国中4カ国をアジアが占める。
「円が安いので欧州は諦めて韓国にした」「今年はマレーシアにした」という人が多い昨今だが、「えっ、なんでそんなことするの!?」というのが筆者の偽らざる感想だ。
確かにスイスや英国は物価がばか高いが、スペイン、イタリア、ポルトガル、ギリシャといった南欧諸国は、人気過熱のバルセロナやミコノス島などを除けば、物価はだいたい日本と同じだし、移動手段、食事、ホテルなどをちょっと工夫すれば、日本より安くあげられる。
筆者は年に数回欧州に出かけるが、昨年秋、物価が日本の半分程度で、氷河に覆われた4,000~5,000m級の山々の絶景を堪能でき、独特な歴史や文化を伝える世界遺産があり、食事やワインもおいしいという「穴場」の欧州の国に遭遇した。どこだと思われるだろうか?
――答えは、ジョージア(グルジア)である。
「血の復讐の村」という恐ろしい名前
筆者は、たまたま同国のことを調べていて、「血の復讐(ふくしゅう)の村」というフレーズに出くわし、その恐ろしげな表現に驚くとともに興味をかき立てられた。
「血の復讐の村」があるのは、同国北西部のスヴァネティ地方だ。コーカサス山脈の4,000~5,000m級の山々に囲まれた山岳地帯で、他民族から侵略を受けることがまれで、今なお独特の文化や景観を保っている。
スヴァネティ地方にある「血の復讐の村」
そこでは、誰かが殺されたり、侮辱されたりした場合、「血」のつながりのある一族の者は必ず相手を殺して復讐をしなくてはならないという「血の復讐(blood revenge)」のおきてがあるという。仇として狙われた一族は「血の復讐の塔」という高さ20~25mの堅牢な石の要塞をつくり、立てこもって防戦したという。
写真を見ると、スイスそっくりの緑あふれる高原地帯のあちらこちらに何十もの「血の復讐の塔」が建っていて、美しいが、異様な風景である。ジョージアに四つある世界遺産の一つでもある。
早速昨年の9月上旬に訪れてみた。筆者が住むロンドンからはブリティッシュ・エアウェイズ(BA)の直行便がジョージアの首都トビリシまで飛んでいる。料金は往復で一人266ポンド(約5万3,200円)と手ごろだった。午後9時52分にヒースロー空港を離陸し、翌朝5時20分にトビリシ空港に到着。
ジョージアの首都トビリシの街
時差が3時間あるので、フライト時間は4時間28分。日本人の場合ビザは不要で、入国審査は簡単に終了。あらかじめ予約しておいたタクシーで、約20km離れたトビリシ市内に向かった。料金は約3,200円で日本の約4割程度。
宿は、市の中心部、リバティ広場から徒歩数分の1LDKのアパートで、広さは50~60m²。建物自体は相当古いが、最上階の5階にあり、天井が高く、モダンに改装されていた。
トビリシ中心部のアパート
床は艶やかなフローリングで、ベランダの窓一面にスズカケノキのグリーンビューが広がっている。バスルーム、キッチン、洗濯機付きで1泊137.7ラリ(約7,987円)。
日中の最高気温は30℃ちょっとあったが、風もあり、意外と過ごしやすい。
旧ソ連と近代的なものが入り交じった街と人々
ソ連から独立して34年のジョージアは、どこに行っても旧ソ連的なものと現代的なものが入り交じっている。
トビリシでは、広い道路を横断するための古びた地下通路に小さな店が並び、地上の出入口のそばで本、メダル類、切手などを商っている人たちがおり、古い石畳の道が多く、町は緑豊かで潤いがあり、地下鉄は核シェルターのように深く、ホームの空気はかび臭く、下水っぽい臭いもする。このあたりは旧ソ連そのものだ。
建物の多くが旧ソ連時代のものだが、それを改装して、カフェ、レストラン、携帯電話ショップ、ファストフード店、ホテルなど、いろいろな新しい店ができている。「ガレリア・トビリシ」のようなぴかぴかの大型ショッピングセンターもある。このあたりは現代の欧州という感じである。
ジョージア人は、トルコや東欧風の特徴を持つ人たちもいるが、白人だ。服装は質素で、生活苦で疲弊した感じの人たちも少なくない。
筆者の証券会社時代の同僚だった英国人男性は、旧ソ連に出張すると、ホテルや商店の従業員を見て「Service without smile…(愛想のないサービス)」とよく嘆息していた。
ただメトロ(地下鉄)の乗車カード売り場のおばさんは愛想がよく、家内の分も合わせてカードを2枚買いたいと言ったら、「2人だったら1枚のカードで足りるよ」と教えてくれた。
カードは1枚2ラリ(約116円)で、乗車は一回1ラリの均一料金。「ガレリア・トビリシ」内に店舗を構える地元系の大型スーパー「Goodwill」のワイン売り場の若い男性店員もにこやかにワインの試飲を勧めていた。
ワインの値段は期待外れ
ジョージアはワインの生産国として有名で、空港には世界最大級のワインショップがある。ジョージア出身のソ連の独裁者スターリンは「キンズマラウリ」や「フヴァンチカラ」といった地元産のセミスイート(中甘口)ワインを好んだという。
白では「ツィナンダリ」という辛口が有名だ。物価が日本の半分程度なので、てっきり安いだろうと期待していたが、1本15~60ラリ(870~3,480円)もするので、ちょっと驚いた。
これは3ユーロ(約549円)も出せば、そこそこおいしいワインが買える南欧諸国に比べても高い。外貨獲得のために、高めに設定しているのだろうか? ただ味はもちろん悪くなく、筆者は滞在中、ジョージア原産のサペラヴィという品種のブドウでつくった色濃く、タンニンが豊富な赤ワインなどを楽しんだ。
大人気のスターリン博物館
到着した翌日、トビリシから約86km圏内にあるウプリスツィヘ(古代の洞窟都市)、ゴリ、ムツヘタ、ジュワリ山(山頂に修道院がある)という四つの観光地を巡る一日のバスツアーに参加した。
料金は、一人25.35ポンド(約5,070円)。
一番面白かったのはゴリで、ソ連の独裁者スターリンの出身地である。靴屋の息子として生まれ、ソ連の最高指導者に上り詰めたスターリンは、世界史上まれに見る大量虐殺を行った。
110万~120万人を粛清し、600万人を強制移住させ、300万~500万人を餓死ないしは農業集団化や強制移住に反対しているとして処刑した。
ゴリにあるスターリン博物館は、ベージュ色の石造りで、外壁に列柱がアーチをつくる回廊がある瀟洒なデザインで、スペインの修道院のよう。入場料は一人15ラリ(870円)。
立派な階段を2階まで上ると、広々とした空間に、スターリンの若い頃の写真、手紙、文書、実家の模型、執務室などが展示されていて、「こんな子どもが、世界史上のモンスターになったのか」と慄然(りつぜん)とする。
スターリン博物館の内部
ジョージア人の男性ガイドによると「スターリンのような問題のある人物の博物館をなぜ運営しているかというと、一つは、歴史的事実として非常に重いので、資料を保存して検証する必要があること、もう一つは、観光客に人気があって、お金が落ちるから」と説明していた。
スターリン博物館はジョージアで一番人気がある博物館だそうだ。
展示物はわざわざ集めたのではなく、1953年にスターリンが死去し、1956年にソ連共産党が「スターリン批判」を行った後、「こんなものはもう要らない」とばかりに、スターリンに関係する物がソ連各地からジョージアに送り返されてきたのだという。
ガイドの男性は、「スターリンはジョージアのためには何もしてくれず、心はロシア、ロシアだった」と残念そうに話した。
博物館の外には、スターリン専用客車の現物が展示されていて、中に入って見学できる。
郷土料理は赤ワインに合うこってり系
昼食は、ゴリの町にある「Cafe 22」というカフェ・レストランで、ヒンカリとハチャプリを食べた。ヒンカリは、小籠包に似た形の肉餃子。ラムなどの合いびき肉を厚めの餃子のような皮で包んで蒸したもの。
子どもの拳くらいあるものが五つ皿の上に載って出てきたので、大きさに驚く。切ってみると肉汁たっぷりである。
ハチャプリもジョージアの国民食で、ハチャはチーズ、プリはパンを意味する。パン生地を幅広の笹舟形にこんがりと焼き上げ、中央のくぼみにチーズを溶かし、卵黄をのせてあり、パンはざくっと歯ごたえがある。勘定は、コーラとミネラルウォーターを入れて41ラリ(2,378円)。
郷土料理の「ハチャプリ」
ジョージアの郷土料理としてはこのほか、日本の松屋でも売っているシュクメルリがある。焦げ目をつけた鶏肉をニンニクたっぷりのクリームスープで煮込んだものだ。
午後に行ったムツヘタは、三つのキリスト教会が、ジョージア初のユネスコの世界遺産として登録された場所である。
ジョージアでは2番目に大きな教会で、4世紀に創建され、現在の建物は11世紀初頭に再建されたもの。褐色の砂岩づくりという力強い外観で、中央に円すい形のドームが聳えている。内部は原始的な力を感じさせる荘厳な雰囲気。
韓国から来たキリスト教徒のグループが、エルサレムから持ち帰られたキリストの聖衣が埋められているという場所の上に建てられた四角い塔状の柱に手で触れ、熱心にお祈りをしていた。触って祈ると願いがかなうと言われているらしい。
ここに限らず、ジョージアはキリスト教国であるせいか、キリスト教徒が全人口の約27~30%を占める韓国からの旅行者を多く見かける。彼らは安くて面白い旅行先をよく知っている。
<後編に続く>
(呉 太淳)

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