2025年の金融市場を最も揺さぶったのは、第2次政権を発足したトランプ米大統領でした。大規模減税や規制緩和、関税政策などにより、ボラティリティが大きくなりました。

中間選挙を控える2026年も、トランプ氏が相場を動かす場面が増えそうです。トランプ政権の政策の進捗を振り返りつつ、2026年相場のキーワードや、投資戦略などを整理します。


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著者の土信田 雅之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 2025年相場を揺るがした、米トランプ大統領の成績表と2026年の展望 」


2025年の市場を最も動かした男、トランプ米大統領

 2025年1月20日、米国でトランプ政権(第2次)が誕生しました。


 その直後からの株式市場は、「減税や規制緩和、歳出削減(DOGE)」を好感する動きと、「関税や移民政策」などを警戒する動きが交錯したほか、トランプ大統領のSNS発信に対して敏感に反応する場面も多く、2025年相場の前半戦は、極めてボラティリティ(価格変動)の大きい展開となりました。「あの時は大変だった」と思い出す方も多いのではないでしょうか。


 もっとも、後半戦の株式市場は、相互関税の税率が落ち着いたことや、AI相場が市場を牽(けん)引していたこともあって、トランプ米大統領の発言や行動によって相場が大きく振り回される場面は減っていきました(米連邦準備制度理事会(FRB)の政策や人事に口出しはしていましたが)。


 それでも、同氏が2025年の市場を最も動かした人物であることは変わりませんし、翌2026年11月には中間選挙が控えていることもあって、再び相場を動かすことが想定されます。


 そこで、2025年の締めくくりのタイミングで、トランプ米大統領の政策を振り返り、来年の中間選挙に向けてのポイントを探っていきます。


2025年トランプ政策の総括:最大の成果と残された課題

 まずは、米トランプ政権の主な政策と現状について整理していきます。


<図1>米トランプ政権の主な政策の進捗(しんちょく)と現状


トランプ政権の成績表と、2026年株式市場三つのキーワード(土信田雅之)
出所:各種報道を基に作成

 上の図1は、米トランプ政権が掲げていた主な政策についてまとめたものです。


 米トランプ政権といえば、関税政策が真っ先に頭に浮かびますが、図1の中で関税以外に最大の焦点となっていたのは、いわゆる「トランプ減税」の延長でした。

このトランプ減税は、前回の米トランプ政権(第1次)期間の2017年に成立した、所得税や法人税の減税措置で、2025年末に期限を迎える予定となっていました。


 もし延長されなければ、2026年1月から米国の全世帯で実質的な増税となってしまい、消費減退による景気後退も懸念されていただけに、トランプ米大統領も最優先課題のひとつに据えていました。


 実際には、「ひとつの大きくて美しい法案(One Big Beautiful Bill Act)」として、トランプ米大統領が選挙戦から掲げていた、減税や規制緩和などの公約をひとつの大きな法案にまとめたパッケージとして可決させる方針で審議や修正が進み、7月に成立しました。


 本筋である所得減税の恒久化はもちろん、飲食業などの従業員が受け取るチップや週40時間を超える労働に対する時間外手当の非課税化、中小企業の特別控除枠の引き上げなど、減税対象が拡大しただけでなく、バイデン政権時のクリーンエネルギー補助金の撤廃と化石燃料増産を促すための規制撤廃、メディケイド(低所得者向け医療保険)の予算削減、海外送金への課税、不法移民対策費や国防費の増額など、幅広い内容が盛り込まれています。


 法案にさまざまな内容を盛り込んで一気に可決・成立させたことで、結果的に多くの公約を実現したことになり、米トランプ政権による政策の実行・達成率はかなり高くなりました。


 また、米トランプ政権の発足直後に話題となっていたのは、政府効率化省(DOGE)です。連邦政府の官僚機構のスリム化や再編、無駄な支出の削減を目指して設立され、著名実業家のイーロン・マスク氏が主導したことで注目を集めました。


 計画段階では2兆ドルの支出削減の目標を掲げていましたが、DOGE設立前後には1兆ドル削減に修正され、4月には2026年度の目標として1,500億ドル削減と、当初の高い目標からのハードルが下げられたほか、マスク氏も5月下旬に退任。


 DOGE自体も2026年7月まで活動する予定でしたが、11月に実質の解体状態となって、その機能は人事管理局(OPM)や予算管理局(OMB)へと引き継がれるなど、だんだんと存在感を失っていった印象です。


 ただ、成果としては、連邦職員の約9%(約27万人)規模の削減や離職、そして、約2,140億ドル(約33兆円)のコスト削減を実現したとされているほか、米トランプ政権は各省庁に対して、さらなる実務的な人員削減と行政システムの効率化を要求しており、期待以上の成果にはつながらなかったものの、必ずしもDOGEが失敗というわけではなさそうです。


 このように、「ひとつの大きくて美しい法案」では、減税効果や投資促進によって、長期的に国内総生産(GDP)を1%強押し上げるという試算がある一方で、関税政策の影響による物価高止まりや、踏み込みが足りない支出削減にとどまった「DOGE」によって、財政赤字の拡大懸念もくすぶるなど、2025年の米トランプ政権の政策評価は一定の成果と同時に宿題も残すことになったといえます。


2026年相場を占う「三つのキーワード」

 こうした米トランプ政権の政策以外にも、2026年に引き継がれる「宿題」として、以下の三つも注目されています。


【連邦最高裁による「関税権限」の歴史的判断】


 米トランプ政権が進める関税政策に対し、米連邦最高裁判所による憲法判断が2026年1月にも下される見通しとなっています。


 この問題の核心は、米国の憲法上、議会に与えられている関税を課す権限を、「トランプ米大統領が国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠に独断で行使することができるか否か?」という点にあります。


「違憲」判決の場合には、大統領の関税権限が制限されることになります。関税の徴収が停止され、これまで課された関税についても還付義務が生じる可能性があります。


 物価の上昇要因が後退することによる安心感がある一方で、関税収入減による財政への影響が意識されるほか、トランプ米大統領が別の法的根拠を用いて関税を掛ける動きを見せることも考えられ、相場にとっては不透明感が強まることになります。


 反対に、「合憲」判決だった場合には、現状が維持されることになりますが、IEEPAを根拠に関税を課すことが正当化されることを意味するため、トランプ米大統領が関税強化をチラつかせつつ、相手国とさらなる「ディール(取引)外交」を行う可能性が残ることや、物価上昇圧力がくすぶることになります。


【インフレ再燃リスクとFRBの独立性:ポスト・パウエル議長の影】


 2026年5月のパウエルFRB議長の任期満了を控え、後任人事が最大の焦点となっています。トランプ米大統領は、議長の任期中であっても次期議長を早期に指名する「影の議長案」を検討しています。


 現時点で最有力候補となっているのは、米金融機関のモルガン・スタンレー出身で、元FRB理事のケビン・ウォーシュ氏と、経済学者でFRBの元スタッフエコノミストのケビン・ハセット氏の「二人のケビン」です。


 両者ともに、金融政策のスタンスは利下げに積極的な「ハト派」とされており、どちらかが指名された段階で、FRBの利下げ期待が高まることになりそうです。


 焦点となるのは、市場が警戒しているFRBの独立性が揺らいでしまうことですが、トランプ米大統領が求めるままに利下げを進めていくのか、それとも、FRBの独立性を堅持するのか、その姿勢によって、市場が影響を受けることになりそうです。


【「フィジカルAI」への投資フェーズの移行】


 フィジカルAIの概要については、過去のレポートでも採り上げましたが、トランプ米大統領は12月11日に、各州で個々に制定されているAI規制を、連邦政府が主導する全米共通の「ワン・ルールブック」を適用することを目的とした大統領令に署名しました。この大統領令は、AI技術におけるイノベーションを阻害しないよう、州ごとに異なる規制を一本化することを目指しています。


2025年12月12日: 「フィジカルAI」はAI相場の新たな柱となるか?(土信田雅之)


 さらに、フィジカルAIそのものに特化した個別の新しい大統領令については、12月4日に「米トランプ政権が将来的にロボティクス分野に関する大統領令を検討している」との報道があり、関連銘柄の株価が上昇する場面がありましたが、現時点では署名されたという確定的な情報は見当たらないものの、報道通りに実現すればAI相場の新たな柱となる可能性があります。


2026年の中間選挙アノマリー:過去の法則は通用するか?

 そして、2026年の米国で最大の政治イベントである中間選挙が11月に予定されています。


 必ずしも「歴史は繰り返される」わけではありませんが、中間選挙に関する「アノマリー(季節的な経験則)」について考えていきたいと思います。


<図2>中間選挙が行われた年におけるS&P500種指数の平均騰落率(1986~2022年)


トランプ政権の成績表と、2026年株式市場三つのキーワード(土信田雅之)
出所:Bloombergデータを基に作成

 歴史的に、中間選挙が実施された年は9月末に株価が底を打つ傾向があります。2026年がこれまでの傾向通りになるのであれば、夏場に相場が軟調となる場面が買いのチャンスとなります。


 しかし、米トランプ政権は共和党の議会支配を維持するため、FRBへの利下げ圧力や、追加の景気刺激策を打ち出すなどの行動を起こすことが考えられます。


 こうした動きが株式市場を動かすことになりそうですが、経済の実態よりも政治の意図が優先して動く展開は相場をつくりやすい半面、政策などが打ち出されるのかは分からないため、実際には投資のタイミングはつかみづらく、注意しておく必要があります。


2026年の投資戦略のポイント

 これまで見てきたことを踏まえると、2026年の初頭は、トランプ関税をめぐる連邦最高裁の判決や、FRB議長人事の動向次第では相場環境が良くも悪くもなり得るため、様子をうかがいながら落ち着きどころの良い株価水準を探る展開がメインシナリオになりそうです。


 ただ、1月下旬から本格化する決算シーズンで好決算が相次いだり、フィジカルAI(ロボティクス)に関する大統領令が発令されるなどの動きが出てくれば、株式市場が上値をトライする場面もありそうです。


 その後は、2025年と同様に米景況感やインフレ動向をにらみつつ、11月の中間選挙に向けた政治的な思惑が高まることになります。


 米トランプ政権から新たな経済政策が打ち出されれば、株式市場は好感することが予想される一方、政権への支持率が落ちたり、中間選挙での与党の苦戦ムードが強まれば、米議会の「ねじれ」状況が警戒されることになって、株式市場が軟調となる場面もありそうです。


 相場は常に「不確実性」を嫌いますが、とりわけ、政治的な動向は「出てくるまで分からない」「出てからの変化が大きくなりやすい傾向」のため、景気や企業業績とは違って、将来を予測して事前に動きにくい材料です。


 そのため、つい慎重になってしまいますが、裏を返せば、「変化」が生じたときは利益の源泉になるといえ、2026年は例年以上に取引を仕掛けるタイミングの見極めが重要になる年になりそうです。


(土信田 雅之)

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