三井E&Sは港湾クレーンで世界2位、舶用エンジンで世界トップクラス(国内1位)の企業です。長期低迷に苦しんだ祖業の造船業から2025年に完全撤退を果たすなどの改革により、当期純利益は直近8年で3倍になりました。

業績改善と日本政府による造船事業拡大戦略を背景に株価は急騰中ですが、同業他社比では依然として割安感がある状況です。


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著者の西 勇太郎が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 三井E&S:株価急騰でも競合比でまだ割安 」


造船業から撤退し、舶用エンジン、港湾クレーン、物流システム企業に

 先週は造船業の名村造船所を取り上げましたが、今回は造船業から撤退し、港湾クレーンや舶用エンジンの大手として業績を伸ばしている三井E&Sを取り上げたいと思います。


2026年1月15日: 名村造船所:株価急伸でも、同業他社比でまだ割安(西 勇太郎)


  三井E&S(7003 東京) (株価6,820円、時価総額6,881億円:1月19日終値)は、1917年に旧三井物産の造船部として岡山県児島郡日比町(現玉野市)で創業。1937年に三井物産から分離し「株式会社玉造船所」として独立し、1942年に社名を「三井造船株式会社」に変更しました。


 戦時中は輸送船、軍需物資船、海軍関連船舶の建造を担当。また、海軍・商船向けのエンジン製造も行いました。


 戦後は造船だけでなく、化工機、産業機械、港湾クレーンなどへと事業を拡大。造船事業自体も、日本が1960~70年代にかけて世界シェア50%以上を占める造船大国に成長する中で、大きく規模を拡大しました。しかし、1973年のオイルショックで海運市況が急落して世界的にタンカー需要が激減して以降、造船業界は深刻な不況に突入しました。


    三井造船もLNG船、フェリー、特殊船などの高付加価値船へシフトすることで生き残りを図りましたが、状況は厳しく、最終的には、艦艇事業を 三菱重工業(7011) へ、商船事業を常石造船へ譲渡して撤退しました。


 現在は舶用エンジン、港湾クレーン、物流システムなどが主力の企業となっています。舶用エンジンについてはドイツのエヴァレンス(非上場)、フィンランドのバルチラ(WRT1V ヘルシンキ)とともに世界トップグループ3社を形成している状況です。


 また港湾クレーンでも中国の上海振華重工(600320 上海)、コネクレーンズ(KCR ヘルシンキ)とともに世界シェア上位の状況で、特に米国市場に強みを持ちます。


当期純利益は8年間で3倍に

 三井E&Sの2017年3月期の当期純利益は122億円でした。しかし、インドネシアの石炭火力発電所拡張工事のやり直しに起因する大幅赤字を複数年にわたって計上後、2025年3月期には391億円と8年間で3.2倍の水準に達しました。2026年3月期の当期純利益計画値は260億円と、高水準の利益が継続する見通しです。


<三井E&Sの当期純利益推移(2017年3月期以降)>
三井E&S:株価急騰でも競合比でまだ割安(西 勇太郎)
※2026年3月期は会社計画値出所:三井E&S資料などより楽天証券経済研究所が作成

 株価については業績改善と日本政府による造船事業拡大戦略を背景に急騰している状況です。


<三井E&Sの株価推移(2017年3月期以降)>
三井E&S:株価急騰でも競合比でまだ割安(西 勇太郎)
※2026年3月期は直近値出所:三井E&S資料などより楽天証券経済研究所が作成

PBRは大きく上昇し1990年代の水準に

 過去8年間の変化で見ると、売上高は造船事業からの撤退影響で0.4倍となった一方、売上総利益は0.9倍にとどまり、営業利益は2.8倍、当期純利益は3.2倍となりました。これは、事業損失が続いていた造船事業やE&P事業から撤退したことによるものです。


    2017年度以降大幅赤字を複数年にわたって計上した影響で株主資本は減少して0.7倍となった一方、時価総額は日本政府による造船事業拡大戦略を背景に4.9倍に増加。株価純資産倍率(PBR)は0.6倍から4.1倍へと大きく上昇し、1990年代の水準に達しています。


<三井E&Sの業績推移(2017年3月期と2025年3月期)> (億円) 2017年3月期 2025年3月期 変化(倍) 売上高 7,315 3,151 0.4 売上総利益 589 516 0.9 営業利益 83 231 2.8 当期純利益 122 391 3.2 株主資本等合計 2,369 1,699 0.7 時価総額 1,390 6,881 4.9 PBR(倍) 0.6 4.1 - PER(倍) 11 18 - ※時価総額は、2017年3月期は期末時点値、2025年3月期は直近値
出所:三井E&Sの資料などより楽天証券経済研究所が作成

 ちなみにセグメント別では、事業損失が続いていた造船事業などから撤退したことが最大の増益要因です。加えて、機械セグメント(現在の成長事業推進セグメント、舶用推進システムセグメント、物流システムセグメントの合算)が売上高、利益ともに1.4倍となる増収増益を達成したことも寄与しました。


<三井E&Sのセグメント別業績推移(2017年3月期と2025年3月期)> (億円) 2017年3月期 2025年3月期 変化(倍) 売上高 7,315 3,151 0.4   機械 1,748 2,383 1.4   周辺サービス 389 752 1.9   その他 5,177 16 0.0 営業利益 83 231 2.8   機械 148 203 1.4   周辺サービス 27 ▲16 -   その他 ▲92 45 - 営業利益率 1% 7% -   機械 8% 9% -   周辺サービス 7% ▲2% -   その他 ▲2% 276% - ※比較のために現在の成長事業推進セグメント、舶用推進システムセグメント、物流システムセグメントを機械セグメントとして合算して表記
※2017年3月期のその他には造船事業が含まれる
出所:三井E&Sの資料などより楽天証券経済研究所が作成。
▲はマイナス

 2026年3月期会社計画、2027年3月期の市場予想ともに増収かつ高水準の利益を維持する見通しとなっており、株価水準がこのまま変わらなければ、PBRは4倍台から3倍台へと徐々に低下していくでしょう。


<三井E&Sの業績予想> (億円) 2025年3月期 2026年3月期 2027年3月期 実績 予想 予想 売上高 3,151 3,400 3,715 営業利益 231 300 - 当期純利益 391 260 291 株主資本等合計 1,699 1,952 2,136 時価総額 6,881 6,881 6,881 PBR(倍) 4.1 3.5 3.2 PER(倍) 18 27 24 ※時価総額は直近値
出所:三井E&S、FactSetの資料などより楽天証券経済研究所が作成

舶用エンジン・機器同業他社比でPBRに割安感があり、解消されれば株価は1万円

 三井E&Sの比較対象に適する舶用エンジン・機器、港湾クレーンの上場同業他社には、フィンランドのバルチラ、米 ブランズウィック・コープ(BC NYSE) 、中国の上海振華重工、フィンランドのコネクレーンズ、ノルウェーのコングスベルグ・グループ(KOG オスロ)、韓国のハンファ・エンジン(082740 韓国)、 古野電気(6814 東京) 、 ダイハツインフィニアース(6023 東京) などがあります。


 これらの企業について、自己資本利益率(ROE)を横軸、PBRを縦軸とした散布図を作成すると、おおむね比例関係にあることが分かります。その中で、三井E&Sについては割安方向にずれており、この点から、株価に割安感があるといえます。この割安感が解消された場合の三井E&SのPBR(下図の青破線に乗る水準)は6.0であり、相当する株価は1万円です。


<主な舶用エンジン・機器、港湾クレーン企業のROEとPBRの関係>
三井E&S:株価急騰でも競合比でまだ割安(西 勇太郎)
※ROEは直近期、今期、来期の3期平均出所:各社資料などより楽天証券経済研究所が作成

<主な舶用エンジン・機器、港湾クレーン企業10社のROEとPBR> 社名 証券
コード 取引所 売上高 ROE PBR 億円 % 倍 China
Shipbuilding 600482 上海 10,921 4 1.4 Wartsila WRT1V ヘルシンキ 10,580 21 7.8 Brunswick
Corp BC NYSE 7,944 7 3.0 Shanghai
Zhenhua
Heavy
Industries 600320 上海 7,279 4 1.7 Konecranes KCR ヘルシンキ 6,927 20 4.2 Kongsberg
Gruppen KOG オスロ 6,895 30 15.7 三井E&S 7003 東京 3,151 25 4.1 Hanwha
Engine 082740 韓国 1,338 26 11.2 古野電気 6814 東京 1,270 17 3.6 ダイハツ
インフィニアース 6023 東京 888 12 1.6 ※ROEは直近年度
出所:各社資料などより楽天証券経済研究所が作成

 また、これらの企業の予想配当利回りを比較すると、三井E&Sは1.0%の利回り(一株当たり配当65円で計算)となっており同業他社の中でおおむね平均的な水準となっています。


<主な舶用エンジン・機器、港湾クレーン企業10社の配当および総還元利回り> 社名 証券
コード 取引所 2024年度 2025年度 実績配当 総還元 予想配当 % % % China
Shipbuilding 600482 上海 0.0 0.0 0.0 Wartsila WRT1V ヘルシンキ 2.6 2.6 1.7 Brunswick
Corp BC NYSE 2.6 7.1 2.3 Shanghai
Zhenhua
Heavy
Industries 600320 上海 0.0 ▲0.2 0.0 Konecranes KCR ヘルシンキ 2.7 2.7 2.0 Kongsberg
Gruppen KOG オスロ 0.8 0.8 1.7 三井E&S 7003 東京 1.2 3.3 1.0 Hanwha
Engine 082740 韓国 0.0 ▲2.4 0.0 古野電気 6814 東京 4.9 4.9 2.0 ダイハツ
インフィニアース 6023 東京 3.6 15.2 2.4 出所:各社資料などより楽天証券経済研究所が作成。▲はマイナス

 ここまで述べさせていただいた通り、三井E&Sは今後も高水準収益継続が見込まれる中で、株価は同業他社比で割安感がある状況となっています。


(西 勇太郎)

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