日本や米国は通貨価値を犠牲にするインフレ政策を継続。円安や株高、ゴールド高が進み実質賃金と通貨の購買力は低下。

破綻を先送りにする中央銀行による救済は、損失を社会全体に転嫁する構造を固定化、資本主義は政治的に管理された金融体制へと変質した。ポピュリズムと金融インフレは、経済と社会の空洞化を進め、結果的に大崩壊を招く。


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債務の増大と貨幣供給の拡大によって引き起こされたインフレ

 戦後、米国が主導し支配・管理してきた既存の社会秩序は、債務の肥大化、社会的混乱、そして世界規模の紛争という大きな波にのみ込まれつつある。その様相は、まるでローマ帝国末期を想起させる。


 帝国のサイクルの終盤を生きることは決して心地よい経験ではない。しかし歴史を振り返れば、内戦、革命、世界的紛争という「最終局面」が、形を変えながら繰り返されてきただけである。


 現在の日本では、債務の増大と貨幣供給の拡大によって引き起こされた「インフレ」がマーケットの主要テーマとなっている。しかし、この種の危機に対して採られる解決策が、さらなる債務拡大と貨幣印刷であることは、もはや自明と言ってよい。


 日本の金融当局は、いわゆるプリンティングマネー(紙幣増刷)によって資産インフレ(バブル)を誘発し、見かけ上の好景気を演出すると同時に、通貨下落を通じて債務の実質価値を引き下げる――いわばインフレという「ステルス増税」政策を継続してきた。高市政権の政策方針も、この流れと軌を一にしている。


 その帰結が、現在の円安とゴールド高である。日本株は円安、すなわちインフレによって押し上げられている。一方、ゴールド価格の上昇は、通貨の購買力が大きく毀損(きそん)していることを示唆している。


 米国も日本も、資産価格を維持する一方で、通貨を下落させ、借金の実質価値を下げるという選択をしている。故に、株式市場以上に危険にさらされているのは「通貨」そのものだ。


ドル/円(月足)
円安は損失を社会全体に転嫁するインフレ政策
(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

日経平均CFD(月足)
円安は損失を社会全体に転嫁するインフレ政策
(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

ゴールドCFD(月足) 
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(赤:買いトレンド・黄:売りトレンド)出所:トレーディングビュー・石原順インディケーター

 中央銀行は、金融システムにおけるカルテルの管理者として機能し、本来なら競争環境下で存続不可能な結果を調整している。金利抑制、流動性供給、最終貸し手としての役割を通じて、特権的機関を破綻から守りつつ、市場秩序を維持する。


 しかし破綻は消滅するのではなく、先送りされるだけだ。そして先送りされるが故に、歪みは蓄積し、やがて巨大化し、より破壊的な形で噴出する。


 中央銀行制度の下では、信用拡大局面における利益は私的に帰属する一方、収縮局面で生じる損失は「システム的」と宣言され、救済措置やインフレ、通貨価値の低下を通じて公的負担へと転嫁される。リスクテイクが報われるのは、それが事実上保証されているからであり、慎重さは実質金利のマイナス化や競争上の不利という形で罰せられる。


 レバレッジを抑制する主体は、より過剰にそれを利用する主体に置き換えられていく。そこに残るのは、資本主義でも経済的持続可能性でもなく、政治的必要性によって支えられた国家保護金融である。


「介入主義の社会哲学の本質的なポイントは、永遠に絞られる無尽蔵の資金の存在だ。この噴水が枯渇すると、介入主義のシステム全体が崩壊する」


― ルートヴィヒ・フォン・ミーゼス


 米国の金融資本主義は、2008年のリーマンショックによって実質的に終焉(しゅうえん)を迎えた。

格差拡大と富の偏在が極限に達し、その後米連邦準備制度理事会(FRB)が行った一連の救済策は、いわば「バブルの先送り」に過ぎなかった。金融当局の自作自演とも言える相場操作の中で、金融資本主義が延命しているかのように見えるが、実態はすでに終わっている。


 ポピュリズムによって生み出された、近視眼的かつ自己中心的な政策の代償を、われわれはこれから何年にもわたって背負わされることになる。国家管理による相場操作で見かけ上の好景気を演出することはできても、その裏側では経済と社会の中身が空洞化していく。


「金融インフレの時代には、資産価格はシステム全体が破綻するまで際限なく上昇する。しかし、金融インフレに積極的に関与するシステムは、最終的に必ず破綻する。インフレ期には実質賃金が低下し、大衆の生活水準が確実に切り下げられるからだ」


― ルートヴィヒ・フォン・ミーゼス


 ポピュリズムもバブルも、もたらすものは悲劇だけである。西部邁が指摘したように、大衆とは「分かりやすい単純模型」に容易に飛びつく存在だ。そして大量の人間が群がる対象に、価値あるものが含まれていた例はほとんどない。


 われわれに残されているのは、カジノ化した市場にけん引された「仮想的な富の効果」だけである。今後、米国には利下げと量的緩和(QE)というカードがなお残されており、株式市場にはまだ上昇余地があるかもしれない。


 しかし、資産と負債を無限に膨張させる両建て経済の恐ろしさは明白だ。

相場が急落すれば、資産は瞬時に消える一方で、負債だけは決して減らない――その非対称性こそが、最大のリスクなのである。


1月21日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」

 1月21日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」は、原田雄一朗さん(楽天証券 FX・CFD事業本部長)をゲストにお招きして、「ドル安・円安の構造と実態」「日本の金利上昇は危機的状況なのか?」「日銀の国債市場への介入は円安要因」「円買い介入の効果は一時的?」というテーマで、原田さんと話をしてみました。ぜひ、ご覧ください。


円安は損失を社会全体に転嫁するインフレ政策
出所: YouTube

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