この10年近くでがん治療は劇的な進化を遂げ、治療可能ながんの範囲が大幅に広がりました。特に免疫チェックポイント阻害薬の登場はがん治療のパラダイムを大きく変えました。

本レポートでは「バイオ医薬品によるがん治療最前線」を解説し、第一三共、アステラス、武田薬品への分散投資を推奨する理由を解説します。


第一三共、アステラス、武田…がん治療最前線!バイオセクター分...の画像はこちら >>

医薬品3社への分散投資を推奨

 医薬品業界で、近年成長が著しいのは「バイオ医薬品」です。中でも特に「がん治療」で大型薬が多数出ています。がんは近年治療法が革新され、治療可能な範囲が大幅に拡大しました(詳しくは後述)。


 日本の医薬品大手は、バイオ医薬品の開発で当初出遅れていましたが、近年著しい成果を挙げています。日本の医薬品株では、以下3社にセットで投資することを推奨します。3社とも成長が期待されるバイオ医薬品を有しますが、それぞれ既存薬の特許切れや競合激化などのリスクを抱えています。


 どれか1社に投資を絞るのはそれぞれ固有のリスクがあるので、3社まとめて楽天証券「かぶミニ®」を使って1株単位で投資することを推奨します。


<投資の参考銘柄:医薬品大手3社:2026年1月28日時点>


第一三共、アステラス、武田…がん治療最前線!バイオセクター分散投資の魅力(窪田真之)
出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成、配当利回りは2026年3月期DPS会社予想を1月28日株価で割って算出。DPS会社予想は、第一三共78円、アステラス78円、武田薬品200円

<楽天証券「かぶミニ®」を使った3社への分散投資ポートフォリオ:2026年1月28日>


第一三共、アステラス、武田…がん治療最前線!バイオセクター分散投資の魅力(窪田真之)
出所:楽天証券経済研究所が作成

「かぶミニ®」を使えば、3社まとめて約1万5,000円で予想配当利回り3.3%のポートフォリオに投資できます。


 このようなリストをお見せすると、予想配当利回りが一番高い銘柄だけに投資する方が多いのですが、そういう投資の仕方が良いとは思いません。予想配当利回りが低い銘柄ほど、今後の成長期待は高いと思うからです。上記3銘柄にまとめて投資するのが良いと思います。以下3銘柄を簡単にコメントします。


【1】 第一三共(4568)
 第一三共は、幅広いがんに適用される「エンハーツ」という大型薬を有します。英国のアストラゼネカと共同開発したもので、グローバルに売上拡大が続いています。今後とも成長が期待されます。一方、競合が高まってくること、これに続く新しいバイオ医薬品の開発がうまく進むかなど、さまざまなリスクもあります。


【2】 アステラス製薬(4503)
 アステラス製薬にはパテントクリフ(特許のガケ:特許切れによる収益落ち込み)のリスクがあります。ただし、それを補っていくと期待されるバイオ新薬の候補が複数出てきているので、投資していく価値はあると思います。同社のパテントクリフを以下説明します。


 アステラス製薬には世界的に高い評価を受けた前立腺がんの治療薬「イクスタンジ」という大型薬がありますが、その物質特許が米国、欧州などで2027年ごろに切れる見込みです。


 イクスタンジはバイオ医薬品ではないので特許切れ後に後発医薬品メーカーから後発品が多数発売されることが予想されます【注】。そうなると、イクスタンジの売上収益が大幅に低下すると予想されます。


【注】バイオ医薬品(高分子薬)は特許構造が複雑で一発で特許切れになるリスクが低い。バイオ医薬品は製造コストが高いことも後発医薬品メーカーの参入を難しくしている。

これに対し、従来の医薬品(低分子薬)は物質特許が切れるとすぐに後発医薬品が参入できることがある。ただし、低分子薬であってもそれぞれ特許構造は異なるので、一概には言えない。


【3】 武田薬品工業(4502)
 武田薬品は、希少疾患に強いアイルランドのシャイアー社を約6.2兆円で買収しました。それによって、希少疾患で有力薬を多数保有し、かつ今後期待される新薬のパイプラインも充実しています。


 一方、買収によって無形資産がふくらみ、その償却負担が重いことから連結収益力が低いことが懸念されます。結果として、連結配当性向が100%を超えることに不安があります。ただし、無形資産償却は非キャッシュ費用で、連結キャッシュフローから見た「稼ぐ力」は高く評価できます。


 以上まとめると、3社それぞれの魅力とリスクがあるので、3社まとめて投資することを推奨します。


バイオ医薬品株はグローバルに不振が続いている

 バイオ医薬品株全般に、グローバルに株価がさえない展開が続いています。バイオ医薬品株が活況で大きく上昇したのは、2020年コロナショックが起こった時です。


 この時、コロナ(COVID-19)予防のためのワクチンを開発する米国のモデルナ、ファイザーが注目されて大きく上昇しました。コロナ関連だけにとどまらず、バイオ医薬品株全般に株価上昇が目立ちました。コロナショックによる世界不況下、業績不振で買えない銘柄が多い中、バイオ医薬品株やネット関連株に物色が集中した面もありました。


 ところが、2021年以降、コロナ禍からのリオープンが進むにつれて、バイオ医薬品関連株のパフォーマンスは悪化しました。近年は、米国も日本も、薬価引き下げや医療費削減の議論が強まる中、バイオ医薬品株のパフォーマンス低迷が続いています。


 短期的に、バイオ医薬品株が見直される見通しは立ちません。ただし、私のファンドマネージャー時代の経験では、こういう時にバイオ医薬品関連株を少しずつ組み入れ始めるのが、後から振り返って良い結果につながることもあると思っています。


 そこで、今日は日本の医薬品株について、投資の参考銘柄を紹介しました。今、成長期待が高い「がん関連」のバイオ医薬品を開発して成果を挙げている企業を選びました。


 3銘柄を推奨する理由の解説は以上です。以下、がん治療の最前線について解説します。


がん治療の進化:分子標的薬から免疫療法へ

 21世紀に入り、がん治療技術に革新的進歩があり、治療可能ながんの範囲がかなり広がりました。人間ドックの普及で早期発見が増えたことも含めて、がんによる死亡リスクを低下させました。がん治療の主流は以下の通り、変化してきました。


【1】20世紀:手術・放射線治療・化学療法の三本柱
 副作用が大きくなることがあり、かなり早期の発見でない限り、完全治癒は困難でした。


【2】21世紀:バイオ医薬品によるターゲット治療が登場
 がん細胞だけを標的にして抗がん剤を投与することが可能になりました。

がん細胞が持つ特定の分子を標的とする抗体医薬品(バイオ医薬品の一種)が登場した成果です。抗体医薬品に抗がん剤を結合させた抗体薬物複合体(ADC)を投与することで、がんの治療成績は大きく向上しました。


 日本は当初出遅れていましたが、近年は大きな成果を挙げています。例えば、第一三共(4568)は英国アストラゼネカと、ADC「エンハーツ」を共同開発しました。2019~2021年にかけて米国、日本、欧州で上市し、乳がん治療薬として世界的に高い評価を得ています。


 エンハーツは、乳がん、胃がん、肺がんなど複数の種類のがんで有効性を示しており、グローバルに市場拡大が続いています。第一三共への貢献収益でも5,000億円を超えており、同社の成長をけん引しています。


 アステラス製薬(4503)も、ADCとして「パドセブ」を開発、上市しています。尿路上皮がんの治療薬として高い評価を受けていますが、まだ適用範囲が狭く、エンハーツのような大型薬にはなっていません。


  中外製薬(4519) も自社開発で優れた抗体医薬品「ヘムライブラ」を創薬しました。がんではなく、血友病の治療薬です。特定のたんぱく質をターゲットとする抗体医薬品で、血液の凝固を促進し、出血頻度を低下させ、関節出血などの症状を抑えます。


 中外製薬は、スイスのエフ・ホフマン・ラ・ロシュの子会社となっていますが、ヘムライブラは日本発の抗体医薬としてロシュ・グループの成長に寄与しています。中外製薬にも投資して良いと思っていますが、現時点で予想配当利回りが低いので、本日のレポートで紹介した3銘柄ポートフォリオには入れていません。


【3】2010年代半ば以降:免疫チェック阻害剤が登場
 2010年代以降、これまでのがん治療とはまったく異なる革新的治療方法が開発されました。それが、「免疫チェック阻害剤」による治療です。人間の体には、あらゆる疾患から自身を守る「免疫細胞(T細胞など)」が存在します。その免疫細胞を活性化することによって、がんを治療する方法です。


 がん細胞は、免疫細胞によって攻撃されることを防ぐために、免疫チェックポイント分子(PD-1など)を発現させて免疫細胞の働きにブレーキをかけていることが明らかになりました。


 免疫チェックポイント阻害薬は、このブレーキを外すことで、患者自身の免疫細胞ががんを攻撃する力を回復させる画期的なメカニズムを持っています。これにより、これまで治療困難であった進行がんに対しても、劇的な効果や長期生存が期待できるようになりました。


 この治療薬のパイオニアは、日本の 小野薬品工業(4528) です。より正確に言うと、京都大学教授の本庶祐(ほんじょ たすく)氏が発見した「免疫チェックポイント分子PD-1の機能に関する知見」を利用して、世界で初めて免疫チェック阻害剤「オプジーボ」を創薬したのが小野薬品です。


 同社は2011年に米国のブリストルマイヤーズスクイブとオプジーボ共同開発で提携しました。

オプジーボは2014年に日本で続いて米国で上市されました。本庶教授は、免疫チェック阻害療法の発見者として2018年にノーベル医学賞・生理学賞を受賞しました。


 ただし、その後、米国メルクが同じPD-1分子をターゲットとする「キイトルーダ」を独自に開発しました。キイトルーダは、オプジーボよりも早く治験を広げ、幅広いがんに適用拡大し、グローバル展開で先行しました。


 今、免疫チェックポイント阻害剤の世界市場はメルクの「キイトルーダ」が主導しています。オプジーボも適用拡大が進みましたが、キイトルーダに出遅れる形となっています。


 免疫チェック阻害剤には異なる分子をターゲットにする薬剤も現れ、競合するようになりました。圧倒的に強みを発揮しているのはメルクのキイトルーダで、小野薬品のオプジーボは、グローバルに高成長する機会を十分に得られませんでした。


免疫チェック阻害剤の療法に残された課題

 オプジーボをはじめとする免疫チェックポイント阻害薬は、がん治療に大きな希望をもたらしましたが、いくつかの課題も存在します。


【1】奏功割合
 自身の免疫を活性化する治療法であるため、全ての患者に効果があるわけではありません。高価な治療薬であるため、効果が見込まれる患者に絞って投与することが求められます。治療効果を予測するためのバイオマーカー(PD-L1の発現量など)の探索と活用が進められています。


【2】免疫関連有害事象
 免疫のブレーキを外すことで、正常な組織も攻撃する重篤な副作用(自己免疫疾患)が発症することもあります。アレルギー体質の場合など、投与を避けるべき場合があります。


 これらの課題に対し、治療法はさらに進化しています。免疫チェックポイント阻害薬同士の併用療法や、化学療法、分子標的薬、放射線療法との併用療法により、治療効果の向上と適応患者の拡大が図られています。


 バイオマーカーの活用や新しい治療法の進化において、メルクのキイトルーダが先行しています。オプジーボは開発で先行したものの、その後の展開で遅れを取った形です。


(窪田 真之)

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