米国株は好調を維持している印象ですが、静かに「変化」が生じている可能性があります。AI相場の選別フェーズへの移行、トランプ大統領の不確実な言動、財政不安などを背景に投資資金が米国から分散する兆候も見え始め、ドル安の進行や円キャリートレードの巻き戻しを警戒する声も。

それでも米国株市場は好調なのか? ポイントを整理します。


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最高値圏だが、微妙な立ち位置の米国株市場

 2026年相場が幕を開けてから間もなく1ヶ月が経とうとしています。


 1月最終週となる今週の米国株市場の動きをチェックすると、28日(水)の取引では、取引開始直後にS&P500とナスダック総合が最高値を更新する場面を見せるなど、単純な株価水準で捉えれば、これまでのところ好調さを維持しています。


<図1>国内外主要株価指数のパフォーマンス比較(2025年末を100)(2026年1月28日時点)
それでも米国株市場は好調?相場環境の微妙な変化に注意(土信田雅之)
出所:MARKETSPEEDIIおよびBloombergデータを元に作成

 ただし、上の図1で、昨年末からの国内外主要株価指数のパフォーマンスを比較したグラフを見ると、足元の米国株指数(NYダウ・S&P500・ナスダック総合)の相対的な立ち位置は、他の株価指数と比べてそこまで強くないことが確認できます。


 さらに、米国株市場を取り巻く環境についても、「微妙な変化」を見せ始め、注意したいシグナルが出現しており、これまでとは少し異なる視点で相場に向き合う必要が出てきているかもしれません。


最高値更新のウラで進む「AI相場の選別」

 まず、最初に注目するシグナルは、AI・半導体相場の質的な変化です。


 以前のレポートでも紹介したように、昨年11月までのAI・半導体相場は、AIの将来性や期待感が先行し、好材料が出てくると、関連銘柄が全体的に上昇する展開が目立っていましたが、足元の相場では明確な「選別」が進んでいる様子がうかがえます。


 例えば、オランダの半導体製造装置大手の ASMLホールディングス(ASML) や、日本の アドバンテスト(6857) などが今週に決算を発表しましたが、いずれも市場予想を上回る良好な内容となり、株価も上昇で反応しました。


 メモリーやHDD(ハードディスク駆動装置)といった、AIデータセンターの稼働に不可欠なハードウェアおよび部品分野での実需の強さが確認されたことを好感したわけですが、直近で決算を発表した日本のディスコや米サンディスクの株価も同様の反応を見せています。


 その一方で、28日(水)の取引終了後に決算を発表した マイクロソフト(MSFT) や メタ・プラットフォームズ(META) については、売上高やEPS(1株あたり利益)が市場予想を上回り、両社ともに好決算と言える内容だったにもかかわらず、時間外取引(アフターマーケット)では、株価が下落する場面がありました(メタ・プラットフォームズはその後プラスに転じています)。


 マイクロソフトとメタ・プラットフォームズは、昨年のAI・半導体相場を牽引してきた、巨大IT(ハイパースケーラー)の中心企業ですが、昨年の11月あたりから、巨額のAI投資に対する財務リスクやリターン(収益性)、競争優位性などの視点が加わったことで、以前のように株価が素直に上がりにくくなっている様子がうかがえます。


 期待先行から具体的な実利やリスクを選別する状況になったことや、物色される銘柄も移っていることなど、同じAI・半導体相場でも、これまでとはその中身が変化している点には注意が必要となるほか、相場が継続していくには、物色の広がりが出てくることや、新たな銘柄の台頭がカギになってきます。


予測不能なトランプ氏と「米国離れ」の兆候

 続いてのシグナルは、政治リスクの高まりと、それに伴う資金の流れの変化です。


 11月の中間選挙を控え、2026年に入ってからのトランプ米大統領の動きが活発化しています。


 対外的にはベネズエラへの軍事作戦やグリーンランド領有を巡る動き、イラン近海への艦隊派遣、さらには韓国やカナダへの関税引き上げ発言などの強硬姿勢が見られるほか、国内向けについても、クレジットカード金利の上限設定や不動産担保債権の買い取りを金融機関に要求するなど、国民へのアピールをかなり意識していると思われます。


 こうしたトランプ米大統領の「いつ、何をしでかすかわからない」不確実性と、米国に対する信頼感・安心感の低下は、相場に以下の影響を与えています。


【相場の時間軸の短期化】


 いつ「トランプ砲」が飛び出すかわからないため、中長期でポジションを保有しづらく、短期売買で利益を確定しようとする動きが強まっています。


【「米国離れ」の進行】


 米国に対する信頼感・安心感の低下によって、投資資金の一部を米国株以外の資産、例えば新興国株やコモディティ(商品)へ分散させる動きが出ています。


 とりわけ足元で金(ゴールド)価格が上昇傾向にあります。こうした先行きの不透明感や、世界的なインフレ傾向を受けた通貨価値の低下(特に米ドルの信認低下)に対するリスクヘッジの表れと捉えることができます。


無難に通過したFOMCと財政リスク

 こうした市場環境の中、今週27日(火)から28日(水)かけて、米FOMC(連邦公開市場委員会)が開催されました。


 その結果は市場の予想通り、政策金利が据え置かれ、その後に行われたパウエルFRB(連邦準備制度理事会)議長の記者会見も波乱なく通過し、市場への影響は限定的となりましたが、次期FRB議長の指名観測や、先ほども見てきたように、中間選挙をにらんだ米トランプ政権のバラマキ政策によってインフレが加速する恐れもあるため、米金融政策をめぐる思惑が市場のムードを左右する場面は引き続き多くなりそうです。


 さらに、足元では、米国の財政リスクもくすぶっています。きっかけは米ミネソタ州で発生した、移民取り締まりに関わる連邦捜査官による抗議活動中の男性射殺事件です。この事件を発端に政治的対立が激化し、複数の民主党上院議員が国土安全保障省(移民取り締まりを管轄)向けの予算を含む歳出法案への反対を表明しました。


 これにより、2月以降の予算執行を可能にするつなぎ予算が、週内に上院で可決できない可能性があり、再び「政府機関の一部閉鎖」のリスクが浮上しています。


<図2>米10年債利回り(日足)の推移(2026年1月28日時点)
それでも米国株市場は好調?相場環境の微妙な変化に注意(土信田雅之)
出所:Bloombergデータを元に作成

 上の図2にもあるように、米10年債利回り(長期金利)が4.2%台で推移し、高止まりしていますが、その背景には、インフレ懸念だけでなく、こうした政治的混乱による米国債への信認低下(リスクプレミアムの上乗せ)も影響していると考えられます。


 とはいえ、仮に「米国離れ」が進んで米国債が売られても、「では、売った資金をどこに振り向けるのか?」という問題があります。

ユーロ圏や日本国債の市場規模と流動性を考えると、巨大な米国債市場の受け皿となる資産は限られるため、余程の事が無い限り、一方的な米国債売り(利回りの急騰)にはなりにくい面もあります。


米ドル安と円キャリートレードの行方

 そして最後に、為替市場における米ドル安と円高の影響についても考えて行きます。


<図3>米ドル指数(日足)の動き(2026年1月28日時点)
それでも米国株市場は好調?相場環境の微妙な変化に注意(土信田雅之)
出所:Bloombergデータを元に作成

 上の図3は対日本円に限らず、主要通貨に対する米ドルの相対的な強さを示す、米ドル指数の動きを示したものですが、足元の米ドル指数が低下傾向にあります。


 トランプ米大統領の米ドル安容認発言や、先ほども触れたように、米国離れの動きなどがその理由として考えられますが、こうした動きを踏まえ、市場の一部で警戒されているのが、いわゆる「円キャリートレード」の巻き戻しです。


 円キャリートレードとは、金利が低い「円」を借りて、それを売り、金利が高い「米ドル」などの資産で運用して金利差益(スワップポイント)や値上がり益を狙う取引手法のことです。


 市場が安定し、円安傾向が続いている間は利益が出やすい取引ですが、ひとたび「円高」に振れると、為替差損が発生するため、投資家は慌てて持っているドル資産を売って円を買い戻そうとします。この動きが一気に広がると、株価の急落や急激な円高を招く(巻き戻し)リスクが生じます。


 では、現在は危険な水準なのでしょうか? これを判断する一つの指標が、シカゴ通貨先物市場(IMM)における日本円先物の投機筋(非商業部門)のポジション動向です(図4)。


<図4>シカゴ通貨先物市場(IMM)における日本円投機筋ポジションの状況(2026年1月20日時点)
それでも米国株市場は好調?相場環境の微妙な変化に注意(土信田雅之)
出所:Bloombergデータを元に作成

 図4では、棒グラフが0よりも上に伸びるほど円買い(ドル売り)ポジションが積み上がり、下に伸びるほど円売り(ドル買い)ポジションが積み上がっている状況を意味しています。


 最新のデータを確認すると、投機筋による「円売り・ドル買い」のポジションは確かに積み上がっていますが、過去のピーク時と比較すると、極端に過熱しているレベルではありません。また、現在のドル安・円高の動きは、あくまでトランプ発言や政治リスクによる「ドル安」主導であり、日銀の政策変更などによる突発的な「円高」ショックとは性質が異なります。


 結論として、現時点では円キャリートレードの巻き戻しについて過度に恐れる必要はありませんが、ドル円相場が心理的な節目(例えば1ドル=150円など)を割り込むようなことになれば、機械的な損切り(ロスカット)を誘発する可能性があるため、為替市場のボラティリティ(変動率)が高まり、株式市場などにも影響を及ぼす展開には引き続き注意が必要です。


 このように、最近の米国市場については、これまでの米国一強による「買っておけば安心」という状況から、米トランプ政権の動きを注視したり、銘柄の中身を精査するなど、幅広くアンテナを張る必要がある「神経質な相場」へと変化しています。


 もっとも、1950年以降のデータに拠れば、「1月のS&P500が月間で上昇すれば、89%の確率で年間でも上昇する」という経験則があります。


 図1でも確認できますが、28日(水)のS&P500の騰落率は昨年末比でプラス1.94%ですので、このまま1月の月間騰落率をプラスで終えることができれば、今後は下値で買いが入りやすくなるなど、相場ムードが改善されると思われ、期待したいところです。


(土信田 雅之)

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