NYダウが5万ドルの大台に乗せ、米国株市場はアンソロピック・ショックから立ち直ったように見えます。一方、物色の変化が現れ、週足チャートでは調整局面入りを示唆するサインも出始めています。

昨年末からの株価指数の動きをひも解き、半導体相場のもろさや個人消費の危うさなどを軸に、下落局面の転換に備えるポイントを整理します。


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先週末からの戻り基調が続く米国株市場

 今週の米国株市場は、先週の動揺を乗り越え、今のところは戻りを試す展開となっています。


<図1>米主要株価指数のパフォーマンス比較(2025年末を100)(2026年2月11日時点)
米国株:下落局面への転換に備えるには(土信田雅之)
出所:MARKETSPEEDIIおよびBloombergデータを元に作成

 図1は、昨年末(2025年12月末)を100とした米主要株価指数のパフォーマンス比較です。最も際立った動きを見せているのが、半導体関連銘柄で構成されているSOX指数(フィラデルフィア半導体株指数)です。


 以前のレポートで指摘したように、先週は市場を震撼させた「アンソロピック・ショック(AIによるソフトウエア代替懸念)」によって、半導体やソフトウエア関連銘柄が大きく下落しました。2月6日(金)でその流れが一服して、 オラクル(ORCL) や セールスフォース(CRM) といった銘柄に押し目買いが入り、今週に入ってからも買い戻し基調が続いています。


▼過去のレポート

2026年2月6日: 米国株:アンソロピック・ショックは押し目買いの好機となるか?(土信田雅之)


 また、今週は注目の米経済指標の公表が相次ぎました。10日(火)に米2025年12月小売売上高が公表されました。結果は前月比で横ばいとなり、市場予想(0.4%増)を下回りました。さらに、翌11日(水)に公表された米1月雇用統計は、非農業部門就業者数が前月比13万人増と、市場予想(5万~7万人増)を大幅に上回りました。


 小売売上高の結果は「景気減速」を意識させ、債券市場では利下げ期待から金利が低下する場面もあった一方で、雇用統計については、強い内容となったことで、今度は「早期利下げ観測の後退」が意識されるという、強弱入り混じる材料を消化する展開となりました。


 全体としては堅調さを維持しているものの、上値の重さも意識される状況です。


週足チャートでは、NYダウ以外は注意が必要になってきた

 先ほどの図1でも確認できるように、足元の日々の値動きは堅調そうに見えるものの、時間軸を「週足」に伸ばしてみると、少し異なる景色が見えてきます。


<図2>米NYダウ(週足)のボリンジャーバンドとMACD(2026年1月11日時点)
米国株:下落局面への転換に備えるには(土信田雅之)
出所:MARKETSPEEDII

<図3>米S&P500(週足)のボリンジャーバンドとMACD(2026年1月11日時点)
米国株:下落局面への転換に備えるには(土信田雅之)
出所:MARKETSPEEDII

<図4>米ナスダック総合(週足)のボリンジャーバンドとMACD(2026年1月11日時点)
米国株:下落局面への転換に備えるには(土信田雅之)
出所:MARKETSPEEDII

 図2から図4は、米主要3指数(NYダウ、S&P500、ナスダック総合)の週足チャートにボリンジャーバンドとMACD(移動平均の収束と拡散)を描いたものですが、ここで注目すべきなのは、各指数の「温度差」です。


 図2のNYダウは、史上初の5万ドルの大台に乗せ、ローソク足もボリンジャーバンドの+2σ(シグマ)に沿って上昇する「バンドウォーク」を維持し、下段のMACDも上方向を向いているなど、強い形状を保っています。


 反対に、S&P500は高値圏で推移してはいるものの、NYダウほどの勢いはありません。昨年末比での伸びは鈍化しています。ナスダック総合も、昨年末比でマイナス圏に沈む場面が目立っているほか、両者ともにMACDが下向きの線を描いています。


 このように、足元の米国株市場は指数ごとに明暗が分かれているほか、株価自体はまだ高値圏にあるものの、勢い(モメンタム)は徐々に弱まっている様子がうかがえます。S&P500とナスダックが調整局面入りする意識が高まっている可能性に注意を払う必要がありそうです。


NYダウ銘柄から見える物色の変化

 では、強い動きを見せているNYダウの上昇は続くのでしょうか?もう少し詳しく見て行きます。


<図5>米NYダウ構成銘柄の騰落率の状況(2025年末から2026年2月11日)
米国株:下落局面への転換に備えるには(土信田雅之)
出所:MARKETSPEEDIIデータを元に作成

 図5はNYダウ構成銘柄における、昨年末からの騰落率を一覧にしたものですが、上昇銘柄に名を連ねるのは、 キャタピラー(CAT) や ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ) 、 ウォルマート(WMT) といったディフェンシブ銘柄や景気敏感株の一部となっているのとは対照的に、これまで相場をリードしてきた マイクロソフト(MSFT) や アマゾン・ドット・コム(AMZN) といった「テック系」、 JPモルガン・チェース(JPM) のような「金融系」、そしてSaaS関連のセールスフォースなどが軒並み軟調となっていることがわかります。


 この傾向は、S&P500の業種別パフォーマンス比較を見ても明らかです。


<図6>米S&P500業種別指数のパフォーマンス比較(2025年末を100)(2026年2月11日時点)
米国株:下落局面への転換に備えるには(土信田雅之)
出所:Bloombergデータを元に作成

 エネルギー、素材、生活必需品、資本財といったセクターが強さを見せる一方で、情報技術や金融、一般消費財が水準を切り下げています。


 投資家の資金が、割高感の強まったハイテク株から、相対的に割安なバリュー株や、景気後退に強いディフェンシブ株へとシフトする動きが相場を支えています。


SOX指数上昇の脆さに注意

 ここで、足元でリバウンドを見せているSOX指数(半導体株)についても詳しく見ておきます。


 先週の「アンソロピック・ショック」以降、オラクルなどのソフトウエア株や、 マイクロン・テクノロジー(MU) のような半導体メモリー株が買い戻されているのと同時に、最近の特徴として、「AIインフラ」関連銘柄への物色が挙げられます。


 例えば、データセンターの建設・運営に不可欠な電力設備、冷却装置、あるいは建機大手のキャタピラーのような銘柄に資金が殺到しています。

実は、キャタピラーはデータセンター向けの非常用発電機で高いシェアを持っており、今や「隠れAI銘柄」としての側面が評価され、図5にもあるように、NYダウ構成銘柄の上昇率トップとなっています。


 昨年までのAI・半導体相場を牽引してきたハイパースケーラーの株価が伸び悩んでいる状況を、これらの銘柄がカバーしている格好と言えます。


 確かに、物色が広がっていること自体は好ましい状況ですが、しかし、これらはあくまで「ハイパースケーラー(マイクロソフトやアルファベットなど)」による巨額のAI設備投資が続くことを前提としている点には注意が必要です。


 もし、これらハイパースケーラーが投資の手を緩めれば、現在のインフラ銘柄の上昇根拠が乏しくなります。そのため、ハイパースケーラーのAI投資意欲の変化がカギになってきます。


 SOX指数の上昇は「意外と脆い面」があることを意識する必要がありそうですが、「フィジカルAI」や「エッジAI」をはじめ、新たな切り口の出現など、物色がさらに拡大していけるかどうかが、相場上昇継続のカギになりそうです。


景況感の悪化に注意が必要になってきた。

 最後に、「米景気」の現状についても整理します。


 というのも、今週の小売売上高と雇用統計を消化した市場は、一見落ち着きを取り戻したように見えますが、水面下では深刻な変化が進行しています。


 そのひとつが、12月の小売売上高が前月比で「横ばい」だったという点です。12月は米国で最も消費が盛り上がるクリスマス商戦の時期であり、そこで伸び悩んだという事実は、個人消費の勢いが削がれている可能性を連想させます。


 また、現在の米国消費については、所得の上位層が牽引し、下位層が落ち込んでいる、いわゆる「K字型」の構造が指摘されています。


 上位層は保有する株式の価格が上昇することで「資産効果」が生じ、消費意欲が保たれている一方、所得下位層は貯蓄が乏しい中、物価高と高金利の直撃を受けて消費を抑制しているという見方です。


<図7>米商業銀行におけるクレジットカードローンの延滞率
米国株:下落局面への転換に備えるには(土信田雅之)
出所:FRED(セントルイス連銀の経済データベース)を元に作成

 図7は米商業銀行における、クレジットカードローンの延滞率の推移を示したグラフです。


 審査の厳しい「上位100行」を利用する層の延滞率は安定しているのに対し、中低所得層が多く利用する「101位以下の銀行」では、延滞率が急激に上昇しています。株価の上昇によって一時期よりは改善傾向にありますが、依然として歴史的な高水準です。


 こうした動きからも「K字型」の消費構造が読み取れますが、今後の株式市場が調整局面入りし、上位層の「資産効果」が剥落すれば、消費が落ち込み、景気が悪化してさらに株価が下落する「負のスパイラル」に陥るリスクも考えられます。


 もちろん、景気悪化懸念が高まれば、FRB(連邦準備理事会)による利下げ期待が相場を支えるほか、中間選挙を控えたトランプ大統領による景気刺激策への期待もあり、現時点では過度に懸念する段階ではありませんが、景気後退懸念はシナリオのひとつとして認識しておく必要はありそうです。


 また、目先の相場については、日本時間2月26日(木)の朝に予定されている米エヌビディア決算で盛り返す展開もありそうですが、これまで見てきたように、現在の米国株市場は積極的に上値を追いづらくなりつつあります。まずは、上値を追う買い方から下値を丁寧に拾う買い方へ、そして、景況感の変化に応じて、レンジ相場や下落トレンドを意識した取引へと、投資戦略を臨機応変に見直す場面が増えることになりそうです。


(土信田 雅之)

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