1月下旬、金(ゴールド)関連の調査機関が、統計を公表しました。これは、2025年が金(ゴールド)市場にとってどんな年だったかを考察したり、今後の長期視点の金(ゴールド)相場の動向を展望したりする際の大きなヒントになり得ます。


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下がった株価指数を見つけることは困難

 グラフは、米国の主要株価指数の一つである、S&P500種指数の動向を示しています。2010年ごろから騰勢を強めたことが分かります。


図:S&P500、原油、銅の価格推移(年間平均 1986年を100 2025年まで)
S&P500、「上がっている理由がわからないこと」が怖い
出所:ブルームバーグのデータより筆者作成

 2010年の同指数(年間平均)はおよそ1,100ポイントでした。2025年は6,200ポイントでした。この間、同指数は5倍以上になりました。最近の2年間(2023年から2025年まで)では、約1.5倍(+50%)です。


 図が示すとおり、世界各地のさまざまな株価指数も、大きく上昇していることが分かります。S&P500が約1.5倍になった最近の2年間の騰落状況を確認すると、参照した47の株価指数のうち、およそ93%に当たる44の株価指数が上昇しました。全体として、騰落率(平均)は+26.5%でした。


図:株価指数(現地通貨建て)の地域別騰落率(2023年と2025年の年平均を比較)
S&P500、「上がっている理由がわからないこと」が怖い
出所:Investing.comのデータより筆者作成

 S&P500の推移や、世界各地のさまざまな株価指数の騰落状況より、近年は特に、世界全体で株高だったことが分かります。下がった株価指数を見つけることが困難だったとも言えます(下落した株価指数は、SET(タイ)、PSEi Composite(フィリピン)、OMXC25(デンマーク)の三つです)。


 世界同時株高の中、ほとんど横ばい、あるいはやや下落した銘柄があります。先ほどのグラフで示した、銅と原油です。

銅は「ドクター・カッパー」、原油は「経済の血液」と呼ばれ、これらの価格動向が、世界全体の経済情勢の活況度を示すバロメーターになり得るといわれることがあります。


 こうしたバロメーターが、ほぼ横ばい、あるいはやや下落する中で、世界同時株高が起きていた事実を、どのように受け止めればよいでしょうか。銅と原油の価格がバロメーターとは言いにくくなった、という指摘はあるかもしれません。


 とはいえ、世界同時株高は、米国でトランプ政権の2期目がはじまり、世界中に関税に関わる不安が広がったり、世界のさまざまな地域で地政学的リスクが噴出したりした時期に起きました。


 世界中で困難なことが多発する中でなぜ、世界中の株価指数は上昇することができたのでしょうか。この問いの答えを探す思考は、金(ゴールド)相場の長期視点の行方を展望する際の大きな助けになります。


「上がっている理由が分からない」怖さ

 グラフは、上場投資信託(ETF)および中央銀行をきっかけとした金(ゴールド)需要と金(ゴールド)価格の推移を示しています。1月29日に世界的な金(ゴールド)の調査機関であるワールド・ゴールド・カウンシルが公表した需給に関する統計を参照しています。


図:ETFおよび中央銀行をきっかけとした金(ゴールド)需要と金(ゴールド)価格の推移
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出所:ワールド・ゴールド・カウンシルのデータを基に筆者作成

 ETF(類似商品を含む)をきっかけとした金(ゴールド)の需要が、2025年に大きく増えたことが分かります。+801トンは中央銀行をきっかけとした同需要に迫る水準で、同年の金(ゴールド)需要全体のおよそ16%を占めました。


 ETFは「上場投資信託」と呼ばれ、「上場」という言葉のとおり、株のように取引をすることができる金融商品です。日本や米国だけでなく、世界のさまざまな証券取引所で取引をすることができます。


 個人投資家はもとより、法人として運用益を大きくすることを目指す機関投資家も、多くがETFで金(ゴールド)の取引をしています。

こうした投資家によるETFの購入が増えたことで、2023年から2025年までの2年間で1,000トンを超える金(ゴールド)の需要が生まれました。


 こうした、ETFをきっかけとした金(ゴールド)の目覚ましい増加がみられた時期は、グラフの上部に記載した金(ゴールド)価格の推移が示すとおり、金(ゴールド)価格が歴史的な高値を更新し続けた時期でした。そして先述の「世界同時株高」の時期でもあります。


 株高・金(ゴールド)高の中で、ETFをきっかけとした金(ゴールド)需要が増加する背景を、図のようにまとめました。(1)の短期的な有事拡大をきっかけとした株安に備えるためは、多くの投資家が伝統的に認識してきたことと一致しています。


 ただし、(2)と(3)については、「2010年ごろ」から目立ち始めた世界的な変化によって生じている背景です。(2)については、中央銀行が多くの市場に大きな影響を及ぼしていること、(3)については、SNSなどで世の中の思惑(期待・懸念)が膨張しやすくなったこと、を考慮しています。


(3)については、筆者がじかに、少なくない個人投資家の皆さまから聞いた体験も、参考にしています。


図:株高・金(ゴールド)高の中、ETF経由の金(ゴールド)需要が増加する背景
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出所:筆者作成

 近年、筆者はイベントなどで個人投資家の皆さまから、「株価指数が上昇している理由が分からない」「今、景気が良いとは全く思えない。しかし、株価指数は上昇している」「理由が分からないから怖い」「だから金(ゴールド)に興味を持った」という趣旨の言葉を何度もうかがいました。


 上昇していることが分からないことへの不安・恐怖は、金(ゴールド)を保有するれっきとした動機になり得るのです。このことは、個人投資家だけでなく、機関投資家も同じだと思われます。


 2020年にETFをきっかけとした需要は減少しました。これは、金(ゴールド)価格が高くなったことや、株価指数が上昇した影響が大きかったと言えます。


 しかし、足元は、株価指数が上昇しても、金(ゴールド)価格が高値を更新しても、ETFをきっかけとした金(ゴールド)の買いは増えています。このことは、株価指数の高騰がかえって不安を大きくし、金(ゴールド)を買う動機を強めていることの証しであると言えます。


 さらには、2010年ごろから目立ち始めた世界的な変化が株価指数の(実態を感じにくい)上昇を後押ししていることが、個人投資家だけでなく、機関投資家の間で浸透し始めたことを示唆していると言えます。


ポピュリズムとハイテクが同時高を増強

 2010年ごろから目立ち始めた世界的な変化が株価指数の(実態を感じにくい)上昇を後押ししていることについて、述べます(ここで示す二つの図は、少なくない個人投資家やメディア関連を含む市場関係者の方々より、「雑談の場」で、肯定的な意見をいただいているものです。随時、ブラッシュアップしています)。


 筆者の身近にいる株の専門家は「株価は半年から1年先の思惑を織り込んで動いている」と述べています。このことから、株価が動く動機に「思惑」が含まれていることが分かります。


 プラスの性質を持つ思惑は「期待」、マイナスの性質を持つ思惑は「懸念」です。思惑の影響を受ける株価指数が急上昇していることは、世の中で「期待」が膨張していることを示しています。


図:SNS・AIのマイナス面が株価指数の動向に与える影響
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出所:筆者作成

 自動車、電子機器、気候変動対策、AIなど、世の中に、絶えず何らかの「期待を振りまく」テーマが存在し(資本家や権力者による創造)、それが世の中の期待を膨らませ、その期待が株価指数を押し上げる、全体的でかつ大きな原動力になっていると考えられます。


 そして、その期待を際限なく膨張させ、株価指数をさらなる高みに導いているのが、SNSやAIです。

2010年ごろ以降、SNSやAIが、情報の受け手と発信者の関係に大きな変化をもたらしました。


 その結果、流通する情報において「過程や本質を軽視する情報」や「人気取りを目的とした情報」が増え、世の中で、実態よりも思惑(期待・懸念)が優先される場面が急速に増えていました。


 SNSとAIだけでなくドローンを含んだハイテク、そして思惑を操作して世の中に影響を及ぼすポピュリズム(大衆迎合)が、株価指数と金(ゴールド)相場に及ぼした影響は図の通りであると、筆者は考えています。


図:ポピュリズムとハイテク(2010年ごろ拡大開始)のマイナス面による相乗効果
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出所:筆者作成

 ハイテクのマイナス面とポピュリズムの相乗効果により、世界中の株価指数が示し合わせたように急騰すること、そして株価指数が急騰しても金(ゴールド)相場が上昇することは、必然だったのかもしれません。


M2増加は「クレクレ&バラマキ」の象徴

 先ほどの図、「ポピュリズムとハイテク(2010年ごろ拡大開始)のマイナス面による相乗効果」の下部に、クレクレ民主主義・バラマキ政治拡大→通貨ストック増→株高、と書きました。この流れは、図の米ドルのマネーストックの推移と関連しています。


図:米ドルのマネーストック(M2) 単位:10億ドル
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出所:セントルイス連邦準備銀行のデータを基に筆者作成

 1971年のニクソンショックによって、米国の中央銀行に当たる米連邦準備制度理事会(FRB)は、保有する金(ゴールド)の量に関わらず、米ドルを供給することができるようになりました。2000年代前半の新興国の台頭が目立つようになるまでは、経済発展のための通貨供給という側面がありました。


 しかし、リーマンショック(2008年)直後、断続的に大規模な金融緩和が行われた時から、「通貨の供給が増えれば経済回復が実現する」という認識が、市場関係者の間で急速に広がりました。


 一時は、「金融緩和の催促相場」という言葉も見られました。それだけ、中央銀行が通貨を一般社会に供給する行為は、市場を活性化させる大きな景気刺激策だと言えます。そして、この「催促」は、今で言う「クレクレ」に当たると言えます。


 大衆や市場が、通貨供給をはじめ、減税や補助金付与、規制緩和など「緩めること」を、絶えず欲し続けることは「クレクレ」であり、そのクレクレこそが民意であるとする考え方が「クレクレ民主主義」と言えます(締めることはNG)。

SNSはクレクレ民主主義を増幅させる装置、という側面を持っていると言えます。


 そして、そのクレクレ民主主義に正面から対応しようとする政治が、「バラマキ政治」です。クレクレとバラマキの相乗効果が続くことによって、株高が起きやすくなり、そして通貨の流通量が増えて通貨の不確実性が増し、金(ゴールド)高が起きやすくなるという構図が、2010年ごろ以降続いていると言えます。


図:ドル建て金(ゴールド)価格の変動イメージ
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出所:筆者作成

 冒頭で述べた2023年と2025年の世界各国の株価指数の比較において、ほとんどの株価指数が上昇したことは、こうした構図の延長上にあると言えます。こうした構図が崩れることは、考えにくいと筆者はみています。大衆や市場は「締めること」を嫌がるからです。


 先ほどの図「ポピュリズムとハイテク(2010年ごろ拡大開始)のマイナス面による相乗効果」で述べたとおり、SNSとAIの登場によって情報の受け手の受容力は大きく低下したと言わざるを得ません(人類は、壊滅的なダメージを負ってしまった可能性もあります)。


 受容力が回復しなければ、大衆や市場が「締めること」の真意を理解し、受け入れることは、難しいかもしれません。今後も「ハイテクとポピュリズム」「クレクレとバラマキ」によって、期待が膨張したり、通貨ストックが増加したりする可能性があります。


 期待の膨張は株高への不安を増幅し、通貨ストックの増加は通貨の不確実性を高める要因になり得ます。いずれも、金(ゴールド)相場の超長期のテーマ「非伝統的な有事」を強める要因になり得ます。


[参考]貴金属関連の具体的な投資商品例

純金積立

純金積立・スポット購入


投資信託

三菱UFJ 純金ファンド
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
楽天・ゴールド・ファンド(為替ヘッジなし/あり)
楽天・プラチナ・ファンド(為替ヘッジなし)


中期:


関連ETF

SPDRゴールド・シェア(1326)
NF金価格連動型上場投資信託(1328)
純金上場信託(金の果実)(1540)
NN金先物ダブルブルETN(2036)
NN金先物ベアETN(2037)
GXゴールド(425A)
SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)
ヴァンエック・金鉱株ETF(GDX)


短期:


商品先物

国内商品先物
海外商品先物


CFD

金(ゴールド)、プラチナ、銀、パラジウム


(吉田 哲)

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