トランプ関税の有効性に疑義が生じています。IEEPAに基づいて発動された相互関税に、米国最高裁が「違憲」の判決を下したからです。
相互関税は無効に、トランプ大統領はすぐに代替関税発動
米国の最高裁判所は、トランプ米大統領が昨年4月9日、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づいて発動した相互関税【注】に「違憲」の判決を出しました。これで、相互関税は2月24日から徴収されなくなりました。
ただし、トランプ大統領は2月24日に別の法律(1974年通商法122条)に基づいて、代替関税10%を発動しました。通商法122条は、国際収支の深刻な赤字への対応を目的に、大統領の権限で最大15%の関税を150日まで課すことを認めているため、それを根拠にした課税です。また、トランプ大統領は、近く代替関税の税率を15%に引き上げる方針を表明しています。
【注】相互関税
トランプ大統領が2025年4月9日にIEEPAを根拠として全世界ほぼ全ての国に対して発動した関税。全ての国に一律で10%の基本税率を4月から発動しています。その上で、国別に異なる追加税率を決めて8月から発動しています。日本に対しては基本税率と追加税率を合わせて15%の相互関税が課せられていました。トランプ大統領は、国別に異なる追加税率を設定しています。世界中の国々に高い税率を提示した上でさまざまな要求を突きつけ、米国の要求を飲めば追加税率を引き下げる仕組みです。日本に対しては、当初基本税率と追加税率を合わせて25%が提示されていました。
トランプ大統領が発動した代替関税は「最大150日」と定められています。トランプ大統領は150日の間に、他の法律に基づく関税をさらに強化して対応していく方針と考えられます。
米国最高裁が今回違憲と判断したのは、大統領が「IEEPAに基づいて関税を発動したこと」だけです。IEEPAに基づいて世界中の国々に対して発動された「相互関税」および中国、メキシコ、カナダに対して発動された「フェンタニル関税」【注】などが無効とされました。
【注】フェンタニル関税
合成麻薬フェンタニルの米国への流入に対して十分な対策を取っていないことを根拠に中国、メキシコ、カナダに対して発動した追加関税。
米国最高裁は、他の法律に基づいて発動されている「鉄鋼アルミニウム関税」「自動車関税」などについては判断していません。米国には、「1962年通商拡大法232条」「1974年通商法301条」「1974年通商法122条」など、緊急時に大統領に関税発動の権限を付与している法律があります。トランプ大統領は、今回取りあえず「1974年通商法122条」に基づいて、相互関税に代わる「代替関税」10%を世界中の国々に対して発動しました。
トランプ大統領が関税発動の根拠として使った法律
「関税」はそもそも米国の「連邦議会」で決めることとされています。議会の最も大切な権限でもあります。米国憲法では、関税も含む税金をかける権限は、国民の代表が集まる「連邦議会」だけが持つと定めています。これは、国民の負担になる税金を、国民の意見を反映する議会が責任を持って決めるべきだ、という、民主主義の最も大切な考え方の一つです。
とはいいつつ、米国には緊急事態において大統領が議会の承認なしに関税を発動することを認める法律もあります。
トランプ大統領が、関税発動に使った法律を説明します。IEEPAに基づく関税発動は既に違憲とされていますが、IEEPAを含めて解説します。
【1】1977年国際緊急経済権限法(IEEPA)
1977年に制定された米国の連邦法。米国に「特別な緊急事態(非常事態)」が起こったときに、大統領が外国に対して、素早く経済的な対応をするための法律。
例えば、外国が米国に対して、(1)テロ行為を仕掛けてきたとき、(2)安全保障を脅かすような行動をしたとき、(3)米国経済を混乱させようとしたときなど、緊急で国の安全や経済に大きな影響が出るような状況で、大統領が特別な権限を使って行動できるようにするための法律。
IEEPAには、大統領が取れる措置として、(1)外国の資産を凍結する、(2)特定の国との貿易を制限する、といったことが書かれています。迅速な対応が必要な緊急時に、議会の承認を待たずに大統領が動けるようにしています。ただし、ここには大統領が関税を発動できるとは、書かれていません。
2022年2月にロシアによるウクライナ侵攻が起こると、米国をはじめとする西側諸国はロシアに対し、大規模かつ多岐にわたる経済制裁を課しました。これらの制裁は、ロシアの金融機関の資産凍結、特定の個人・企業に対する取引制限、輸出規制など、非常に広範な内容を含んでいます。
当時、米国大統領であったジョー・バイデン氏はIEEPAに基づいて、これらの制裁を発動しました。
【2】1962年通商拡大法232条
米国の安全保障を脅かす可能性のある輸入に対して、関税を発動したり輸入を制限したりすることを、大統領に認めています。この法律に基づき、トランプ大統領は、「鉄鋼アルミニウム関税」「自動車関税」などの品目別関税を発動しています。
鉄鋼アルミニウム関税の発動について、以下の理由づけがされています。米国が戦争や災害の時に必要な重要な材料である鉄鋼やアルミニウムを輸入に依存するのは安全保障上の脅威となるので、国内で生産できるようにするために関税を発動するとしています。
【3】1974年通商法301条
外国が不公正な貿易慣行をしている場合、その国に対して関税を発動したり、その他の貿易上の制裁(ペナルティー)を課したりする権限を、大統領に与えています。
トランプ大統領は、過去に中国に対して関税を発動する時に、この法律を根拠としました。中国が、米国企業の技術を不当に手に入れている、補助金を使った安い価格で輸出して市場を支配しようとしているなどの「不公正な貿易慣行」をしていると主張しています。
【4】1974年通商法122条
前段で説明した通り、トランプ大統領が今回、代替関税を発動する根拠とした法律。米国が国際収支において深刻な赤字に陥っている場合に、最大15%の関税を最長で150日発動できるとしています。
分野別関税は無効とされていない
トランプ大統領は、IEEPAに基づく「相互関税」が無効となったことを受けて、代わりとなる関税を発動していく方針です。取りあえず通商法122条に基づく代替関税を発動しましたが、これは150日しか適用できません。
その間に、通商拡大法232条に基づく品目別関税や、通商法301条などを根拠とした国別の関税などを強化していく方針と考えられます。
今後、さまざまな角度から評価して「不公正な慣行をしている国」を一方的に決めて、301条に基づく関税発動を材料に強硬姿勢を続ける可能性があります。
また、さまざまな理由をつけて「安全保障上の脅威」を根拠に、品目別関税を強化する可能性もあります。
関税をめぐる訴訟多発の可能性も
トランプ関税による世界中を巻き込んだ混乱が、続くと考えられます。
IEEPAを根拠に既に徴収済みの関税について、返還されるかどうか、何も決まっていません。既に、返還を求める訴訟も多数起こっています。解決までに長い年月を要する可能性があります。
非常事に大統領に強い権限が与えられる背景
米国は法治国家で、三権分立によって大統領・議会・裁判所に権限を分散させる仕組みをつくっています。にもかかわらず、非常時には、大統領に強い権限を与える法律もあります。それは、南北戦争にさかのぼる、米国の歴史の中で生まれた仕組みといえます。
南北戦争(1861~1865年)は最終的に60万~70万人の戦死者を出した米国史上最大の危機と考えられています。南部の州が北部から独立しようとした戦争で、北部の勝利によって米国の分裂は避けられましたが、もし北部が勝利していなければ、米国は二つの国に分裂していたかもしれません。
当時のリンカーン大統領は、米国存亡を賭けた状況下で、通常では考えられない強力な大統領権限を行使しました。特に、戦争が長期化し、北部の戦費負担や兵役への不満が高まり、議会の承認を得にくい状況下でリンカーン大統領は「非常事態宣言」を発動し、戦争を続行させました。
リンカーン大統領が南北戦争中に憲法を逸脱して強い権限を行使したことは、当時の最高裁判所によって違憲と判断されるなど、司法や一部の世論からは強い批判を受けました。
しかし、リンカーンのこれらの行動は、あくまで「国家の存亡」という極限状況下での「必要悪」として、後に正当化される側面が強くなりました。戦争の勝利と連邦の維持という結果が、彼の行動を歴史的に評価する上で重要な要素となりました。
こうした経緯もあり、戦争などの非常事態においては、大統領に強い権限が与えられることがあります。
トランプ大統領は、次々と非常事態宣言をして、議会の承認なしに関税を発動して外国と交渉してきましたが、ついに最高裁判所が違憲判決を下したことで、今後は権限が制限されると思われます。
今後、トランプ関税を巡る混乱がどのように推移していくか、慎重に見極める必要があります。
(窪田 真之)

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